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兵庫県予選大会 1日目
第101走 余韻と予感
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【続いて男子4×100mリレー、第2組のスタートです。出場は9組……】
緑山記念競技場では、次のレースを伝えるアナウンスが響き渡っている。
だがスタンドの観客たちは、まだ先ほどの第1組で目撃したヤマジツ木村の圧巻の走りの余韻に浸っていた。
「いやヤバかったな、木村」
「あんなの誰が勝てるの?」
「1人だけ格が違うわ」
木村という兵庫トップスプリンターが与えた衝撃は、あまりに大きかったようだ。
そしてもちろん、結城もその衝撃を受けている1人である。
(木村さん、前見た時よりもっと速く感じた!いくら山口先輩でも、一騎討ちになったら厳しいなアレは……)
結城は自分が走る訳でもないのに、なぜか謎の絶望感に襲われていた。
◇
だがそんなスタンドの空気などお構いなしに、レースは続いていく。
次の第2組には強豪のタケニ、そしてキタ高が登場するのだ!
————————
【武川第二高校】4レーン
準決勝 リレーオーダー
第1走 黒木雨(2年)
第2走 虎島勇気(1年)
第3走 西村俊樹(3年)
第4走 竹安元彌(3年)
【北城高校】5レーン
準決勝 リレーオーダー
第1走 黒崎慎吾(2年)
第2走 佐々木隼人(3年)
第3走 郡山翔(1年)
第4走 山口渚(3年)
————————
「きたぜ結城!進めるかな、決勝?」
結城の隣でずっと興奮気味の康太は、キラキラとした目で結城に問いかける。
「そりゃまぁ、予選1位のタイムだし?普通にバトンをミスらなければいけるでしょ。でもタケニには勝って欲しいよな」
「でも予選で走ったエースの早馬結城は、この準決勝では走らないからなー?」
「なんかウザい」
「えぇ!?別に悪く言ってないじゃん!?」
「皮肉にしか聞こえないだろ!」
「いやいや、未来のエースって事でいいじゃん!てかさ、黒崎先輩大丈夫かな?さっきテントでめっちゃ腰冷やしてたじゃん」
「まあ無理なら無理って言ってるだろ。幅跳び専門だし、腰痛めやすいんだろ」
「そうか?俺も幅跳びやってるけど、痛めた事ないぜ?」
「痛める程のジャンプしてないんだろ」
「でた、ナチュラル悪口。もう結城とは話さないわ」
「…………」
「…………」
「…………」
「……いやウソウソ!ごめん!な?話そ?な?結城くーん!?」
「……フッ」
「いや、”フッ”じゃなくてさぁ!?」
生産性のないやり取りをする結城と康太。
だが結城もこのような会話が出来るほどには康太と仲良くなっていた。
中学で早々に部活をやめて以降は、あまり味わえなかった楽しさである。
【第5レーン、北城。6レーン……】
するとそのタイミングで、聞きなれた自校の名前が場内に流れた。
いよいよレースの開始を予感させる瞬間だ。
【チラッ】
すると結城は、アンカーの渚の方に視線をやっていた。
先ほど”木村には勝てない”と思ってしまった影響なのか、自然と渚の方に注目がいってしまったのだ。
なんなら角度的にも距離的にも、渚の表情は結城には1番見えやすい。
だがその表情を見た結城の身体に、突然”ある変化”が起こった。
【ゾクゥ……!】
結城の全身に、間違いなく”寒気”が走ったのだ。
だがそれもそのはず、結城の目に映った渚の眼は”最前線で戦う兵士”のようだった。
その鋭すぎる視線は、今にも周りの人間を殺してしまうのではないかと錯覚するほどである。
だが結城が震えた理由は、その力強い眼光だけではない。
そう、渚の口角はレース直前とは思えぬほどに上がっていたのだ……!
【————On Your Marks】
————————
緑山記念競技場では、次のレースを伝えるアナウンスが響き渡っている。
だがスタンドの観客たちは、まだ先ほどの第1組で目撃したヤマジツ木村の圧巻の走りの余韻に浸っていた。
「いやヤバかったな、木村」
「あんなの誰が勝てるの?」
「1人だけ格が違うわ」
木村という兵庫トップスプリンターが与えた衝撃は、あまりに大きかったようだ。
そしてもちろん、結城もその衝撃を受けている1人である。
(木村さん、前見た時よりもっと速く感じた!いくら山口先輩でも、一騎討ちになったら厳しいなアレは……)
結城は自分が走る訳でもないのに、なぜか謎の絶望感に襲われていた。
◇
だがそんなスタンドの空気などお構いなしに、レースは続いていく。
次の第2組には強豪のタケニ、そしてキタ高が登場するのだ!
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【武川第二高校】4レーン
準決勝 リレーオーダー
第1走 黒木雨(2年)
第2走 虎島勇気(1年)
第3走 西村俊樹(3年)
第4走 竹安元彌(3年)
【北城高校】5レーン
準決勝 リレーオーダー
第1走 黒崎慎吾(2年)
第2走 佐々木隼人(3年)
第3走 郡山翔(1年)
第4走 山口渚(3年)
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「きたぜ結城!進めるかな、決勝?」
結城の隣でずっと興奮気味の康太は、キラキラとした目で結城に問いかける。
「そりゃまぁ、予選1位のタイムだし?普通にバトンをミスらなければいけるでしょ。でもタケニには勝って欲しいよな」
「でも予選で走ったエースの早馬結城は、この準決勝では走らないからなー?」
「なんかウザい」
「えぇ!?別に悪く言ってないじゃん!?」
「皮肉にしか聞こえないだろ!」
「いやいや、未来のエースって事でいいじゃん!てかさ、黒崎先輩大丈夫かな?さっきテントでめっちゃ腰冷やしてたじゃん」
「まあ無理なら無理って言ってるだろ。幅跳び専門だし、腰痛めやすいんだろ」
「そうか?俺も幅跳びやってるけど、痛めた事ないぜ?」
「痛める程のジャンプしてないんだろ」
「でた、ナチュラル悪口。もう結城とは話さないわ」
「…………」
「…………」
「…………」
「……いやウソウソ!ごめん!な?話そ?な?結城くーん!?」
「……フッ」
「いや、”フッ”じゃなくてさぁ!?」
生産性のないやり取りをする結城と康太。
だが結城もこのような会話が出来るほどには康太と仲良くなっていた。
中学で早々に部活をやめて以降は、あまり味わえなかった楽しさである。
【第5レーン、北城。6レーン……】
するとそのタイミングで、聞きなれた自校の名前が場内に流れた。
いよいよレースの開始を予感させる瞬間だ。
【チラッ】
すると結城は、アンカーの渚の方に視線をやっていた。
先ほど”木村には勝てない”と思ってしまった影響なのか、自然と渚の方に注目がいってしまったのだ。
なんなら角度的にも距離的にも、渚の表情は結城には1番見えやすい。
だがその表情を見た結城の身体に、突然”ある変化”が起こった。
【ゾクゥ……!】
結城の全身に、間違いなく”寒気”が走ったのだ。
だがそれもそのはず、結城の目に映った渚の眼は”最前線で戦う兵士”のようだった。
その鋭すぎる視線は、今にも周りの人間を殺してしまうのではないかと錯覚するほどである。
だが結城が震えた理由は、その力強い眼光だけではない。
そう、渚の口角はレース直前とは思えぬほどに上がっていたのだ……!
【————On Your Marks】
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