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第43章:空洞の再生
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子供たちが二階へ上がり、家中が寝静まった深夜。キッチンで向き合う健太と優子の間には、冷え切った沈黙が横たわっていた。
健太はダイニングテーブルに視線を落とし、動かない。鑑定書の結果を知ってからの彼は、陽菜に対して不自然なほど「普通」を演じていた。だがその過剰な優しさが、かえって家庭内に「血の不一致」という事実を色濃く浮かび上がらせていた。
優子は、そんな夫の横顔をじっと見つめ、意を決したように静かに口を開いた。その声は、かつての罵り合いとは違う、驚くほど穏やかで優しいものだった。
「……健太さん。もう、自分を責めるのはやめて」
健太の肩が微かに震える。
「あなたがどれだけ頑張っても、陽菜の顔を見るたびに、私の裏切りを思い出すでしょう? 私と一緒にいれば、あなたは一生、あの日届いた鑑定書に縛られ続ける。……そんなの、あんまりだわ」
優子は健太の手に自分の手を重ねようとして、躊躇い、引っ込めた。
「私が……私と陽菜が、この家を出るわ。由衣はあなたの娘よ。彩花もそう。だから、由衣と彩花はここで育てて。私が陽菜を連れていけば、あなたは、元の『新塚健太』に戻れるかもしれない。……陽菜を憎まずに済むかもしれない」
「……何を、言ってるんだ」
健太がようやく声を絞り出す。しかし、その声に否定の力はなかった。優子の言葉が、彼の心の奥底にある「逃げ出したい」という本音を、優しく、残酷に言い当てていたからだ。
二人の話し合いは、その後も延々と続いた。解決策の見えない、平行線の対話。
その頃、二階の踊り場の陰で、陽菜は膝を抱えて座り込んでいた。
一階から漏れ聞こえてくる「家を出る」「連れていく」という言葉。自分がいることで、大好きだったパパがパパでなくなっていく。自分がこの家にいることが、誰かの苦しみになっている。
「……っ、……ふ、……」
声を押し殺し、肩を震わせて泣く陽菜。涙がパジャマの膝を濡らしていく。彼女にとっての絶望は、父と血が繋がっていないことではなく、自分の存在が、愛する人たちの重荷になっているという事実だった。
その背中に、温かい手が触れた。
「……陽菜」
いつからそこにいたのか、彩花が背後に立っていた。彩花は、自分もまた傷ついた瞳をしていながら、妹の震える肩を力強く抱き寄せた。
「全部、聞かなくていい。あんなの、大人の勝手な言い訳なんだから」
彩花は陽菜の耳を塞ぐように、その頭を自分の胸に引き寄せた。階下ではまだ、愛と憎悪が混ざり合った両親の対話が続いている。
彩花は、妹を抱きしめる腕に力を込めた。
(お父さんもお母さんも、陽菜を捨てようとしている)
ならば、自分がこの子を連れて行く。血なんていう曖昧なものではなく、自分の意志で、妹の人生を繋ぎ止めてみせる。
暗い踊り場で、二人の少女は寄り添いながら、終わりゆく「家族」の足音を聞いていた。
健太はダイニングテーブルに視線を落とし、動かない。鑑定書の結果を知ってからの彼は、陽菜に対して不自然なほど「普通」を演じていた。だがその過剰な優しさが、かえって家庭内に「血の不一致」という事実を色濃く浮かび上がらせていた。
優子は、そんな夫の横顔をじっと見つめ、意を決したように静かに口を開いた。その声は、かつての罵り合いとは違う、驚くほど穏やかで優しいものだった。
「……健太さん。もう、自分を責めるのはやめて」
健太の肩が微かに震える。
「あなたがどれだけ頑張っても、陽菜の顔を見るたびに、私の裏切りを思い出すでしょう? 私と一緒にいれば、あなたは一生、あの日届いた鑑定書に縛られ続ける。……そんなの、あんまりだわ」
優子は健太の手に自分の手を重ねようとして、躊躇い、引っ込めた。
「私が……私と陽菜が、この家を出るわ。由衣はあなたの娘よ。彩花もそう。だから、由衣と彩花はここで育てて。私が陽菜を連れていけば、あなたは、元の『新塚健太』に戻れるかもしれない。……陽菜を憎まずに済むかもしれない」
「……何を、言ってるんだ」
健太がようやく声を絞り出す。しかし、その声に否定の力はなかった。優子の言葉が、彼の心の奥底にある「逃げ出したい」という本音を、優しく、残酷に言い当てていたからだ。
二人の話し合いは、その後も延々と続いた。解決策の見えない、平行線の対話。
その頃、二階の踊り場の陰で、陽菜は膝を抱えて座り込んでいた。
一階から漏れ聞こえてくる「家を出る」「連れていく」という言葉。自分がいることで、大好きだったパパがパパでなくなっていく。自分がこの家にいることが、誰かの苦しみになっている。
「……っ、……ふ、……」
声を押し殺し、肩を震わせて泣く陽菜。涙がパジャマの膝を濡らしていく。彼女にとっての絶望は、父と血が繋がっていないことではなく、自分の存在が、愛する人たちの重荷になっているという事実だった。
その背中に、温かい手が触れた。
「……陽菜」
いつからそこにいたのか、彩花が背後に立っていた。彩花は、自分もまた傷ついた瞳をしていながら、妹の震える肩を力強く抱き寄せた。
「全部、聞かなくていい。あんなの、大人の勝手な言い訳なんだから」
彩花は陽菜の耳を塞ぐように、その頭を自分の胸に引き寄せた。階下ではまだ、愛と憎悪が混ざり合った両親の対話が続いている。
彩花は、妹を抱きしめる腕に力を込めた。
(お父さんもお母さんも、陽菜を捨てようとしている)
ならば、自分がこの子を連れて行く。血なんていう曖昧なものではなく、自分の意志で、妹の人生を繋ぎ止めてみせる。
暗い踊り場で、二人の少女は寄り添いながら、終わりゆく「家族」の足音を聞いていた。
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