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【番外編】新しい風、変わらぬ絆
番外編:新しい風、変わらぬ絆
12月。離婚から約1年半が経過した冬の午後。
山科徹(46)は、自宅のダイニングで落ち着かない面持ちで時計を眺めていた。今日は、交際を続けてきた智子(41)を初めて息子たちに紹介する日だ。
「父さん、そんなにソワソワしなくていいよ。智子さんが緊張しちゃうだろ」
19歳になった大輔が、苦笑しながらリビングに入ってきた。
「ああ……。だが、お前たちにどう思われるかと思うとな」
「俺たちは父さんが元気になったのが一番だって、もう言ったじゃないか」
大輔の言葉に少しだけ救われる思いがしたが、それでも徹の胸には、美香がいた頃の「家族」を壊してしまったという、消えない微かな傷跡があった。
インターホンが鳴り、智子が姿を現した。
「お招きいただき、ありがとうございます。山科さん」
彼女は、美香が好んでいた派手な香水の香りではなく、冬の冷たい空気の中にほんのりと清潔な石鹸の香りをまとっていた。
食卓を囲む四人。智子が持参した菓子を囲み、最初はぎこちない会話が続いた。16歳の真司は、黙々と茶を飲み、どこか智子の様子を伺っている。
「真司くん、サッカー部なんですってね。徹さんから、一生懸命練習しているって聞きました」
智子が、無理に母親ぶることもなく、一人の大人として真司に語りかけた。
「……まあ。来年、選手権あるし」
「そう。目標があるって素敵ね。……実は、私も学生時代にスポーツをしていたんですけど、挫けそうになった時、父が黙って練習に付き合ってくれたのが一番の支えだったんです」
智子は、自分自身の話を静かにした。そして、徹の方を優しく見つめた。
「徹さんは、お二人のことを本当に大切に思っています。仕事中も、ふとした時にお二人の自慢話をされるんですよ。そんな徹さんを、私はとても素敵だと思っているんです」
その言葉には、媚びや嘘がなかった。
真司はしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。
「……父さん、最近よく笑うようになったから。智子さんといる時の方が、いい顔してると思う」
真司のその一言が、徹の心を震わせた。
大輔も深く頷き、智子に向かって言った。
「智子さん。父は真面目すぎて、時々無理をしちゃうところがあるんです。母のことがあってから、特に……。だから、父をよろしくお願いします」
「大輔くん……」
徹が声を詰まらせると、智子は徹の手の上に、そっと自分の手を重ねた。
「ええ。私にできることがあれば、全力で。でも、まずは四人で美味しいものを食べるところから始めましょうか」
その夜、智子が帰った後のリビングで、真司がポツリと言った。
「あの人なら、信じられる気がする」
かつてこの家を支配していた「裏切り」という冷たい霧が、智子という新しい風によって、跡形もなく吹き飛ばされた瞬間だった。徹は、もう二度と過去を振り返る必要はないのだと、息子たちの横顔を見て確信した。
【幕間:智子の独白】
「徹さんの過去を知った時、私は悲しみよりも、憤りを感じました。こんなに誠実で、家族を愛している人を裏切るなんて。でも、今日お二人に会って分かりました。徹さんが守ってきたものは、決して壊れていなかったのだと。息子さんたちの瞳の中に、徹さんの誠実さがしっかりと受け継がれているのを見て、私は決心したんです。この人たちが二度と哀しい思いをしないように、私はこの家族の『温かな余白』になりたい。誰にも邪魔されない、穏やかな場所を、一緒に作っていきたいと」
12月。離婚から約1年半が経過した冬の午後。
山科徹(46)は、自宅のダイニングで落ち着かない面持ちで時計を眺めていた。今日は、交際を続けてきた智子(41)を初めて息子たちに紹介する日だ。
「父さん、そんなにソワソワしなくていいよ。智子さんが緊張しちゃうだろ」
19歳になった大輔が、苦笑しながらリビングに入ってきた。
「ああ……。だが、お前たちにどう思われるかと思うとな」
「俺たちは父さんが元気になったのが一番だって、もう言ったじゃないか」
大輔の言葉に少しだけ救われる思いがしたが、それでも徹の胸には、美香がいた頃の「家族」を壊してしまったという、消えない微かな傷跡があった。
インターホンが鳴り、智子が姿を現した。
「お招きいただき、ありがとうございます。山科さん」
彼女は、美香が好んでいた派手な香水の香りではなく、冬の冷たい空気の中にほんのりと清潔な石鹸の香りをまとっていた。
食卓を囲む四人。智子が持参した菓子を囲み、最初はぎこちない会話が続いた。16歳の真司は、黙々と茶を飲み、どこか智子の様子を伺っている。
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智子が、無理に母親ぶることもなく、一人の大人として真司に語りかけた。
「……まあ。来年、選手権あるし」
「そう。目標があるって素敵ね。……実は、私も学生時代にスポーツをしていたんですけど、挫けそうになった時、父が黙って練習に付き合ってくれたのが一番の支えだったんです」
智子は、自分自身の話を静かにした。そして、徹の方を優しく見つめた。
「徹さんは、お二人のことを本当に大切に思っています。仕事中も、ふとした時にお二人の自慢話をされるんですよ。そんな徹さんを、私はとても素敵だと思っているんです」
その言葉には、媚びや嘘がなかった。
真司はしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。
「……父さん、最近よく笑うようになったから。智子さんといる時の方が、いい顔してると思う」
真司のその一言が、徹の心を震わせた。
大輔も深く頷き、智子に向かって言った。
「智子さん。父は真面目すぎて、時々無理をしちゃうところがあるんです。母のことがあってから、特に……。だから、父をよろしくお願いします」
「大輔くん……」
徹が声を詰まらせると、智子は徹の手の上に、そっと自分の手を重ねた。
「ええ。私にできることがあれば、全力で。でも、まずは四人で美味しいものを食べるところから始めましょうか」
その夜、智子が帰った後のリビングで、真司がポツリと言った。
「あの人なら、信じられる気がする」
かつてこの家を支配していた「裏切り」という冷たい霧が、智子という新しい風によって、跡形もなく吹き飛ばされた瞬間だった。徹は、もう二度と過去を振り返る必要はないのだと、息子たちの横顔を見て確信した。
【幕間:智子の独白】
「徹さんの過去を知った時、私は悲しみよりも、憤りを感じました。こんなに誠実で、家族を愛している人を裏切るなんて。でも、今日お二人に会って分かりました。徹さんが守ってきたものは、決して壊れていなかったのだと。息子さんたちの瞳の中に、徹さんの誠実さがしっかりと受け継がれているのを見て、私は決心したんです。この人たちが二度と哀しい思いをしないように、私はこの家族の『温かな余白』になりたい。誰にも邪魔されない、穏やかな場所を、一緒に作っていきたいと」
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