良妻賢母の裏の顔

MisakiNonagase

文字の大きさ
6 / 13

第6章:喫茶店での対話

しおりを挟む
近くの落ち着いた喫茶店の奥の席。コーヒーの湯気がゆらゆらと立ち上る。

母はコーヒーカップに手を添えたまま、ほとんど動かない。

顔は蒼白で、視線はテーブルの木目を必死に追っている。

これまでアプリで軽妙にやり取りしてきた「ケイコ」の面影はない。

そこにいるのは、重大な過ちを犯し、息子に現場を押さえられた、ただの母親だった。

長い沈黙の後、僕が口を開いた。

「びっくりしたよ。まさか、マッチングしたのが母さんだなんて…偶然って、あるんだね。」

母はゆっくりと顔を上げた。目には涙が光っていた。

「…なんで、そんなアプリを?」声はかすれていた。

「彼女がいるのに、ふとした拍子に登録しちゃってさ。でも、母さんとメッセージ交換するうちに、これって本当にやばいことだって、すごく反省してるんだ。」

僕はわざとらしくないように、そっと息をついた。

「このアプリで出会う人って、みんなそうらしいよ。複数の人とやり取りして、その中から気が合う人を選んで…。客観的に見れば、母さんだって、他に気になる人がいてもおかしくないよね。」

母の目が大きく見開かれた。否定したいが、否定できない真実を突きつけられたようだった。

「でも」僕はまっすぐに母の目を見た。

「もし、ほかに誰かがいたとしても、やめてほしい。僕も、今日をきっかけにこのアプリはやめる。母さんも、一緒にやめよう。父さんも、妹も、何も知らない。このまま、秘密にしよう。」

「良妻賢母」という仮面の下で、寂しさや承認欲求に苛まれ、危険なゲームに手を出してしまった女性。そして、その母親を、手段を選ばずに止めようとする息子。

「…ごめんなさい」

母の声は崩れ、大粒の涙がテーブルを伝った。

「ただ…ただ、褒められたいだけだったの。誰かに、女として見られたいだけだった…」

彼女は嗚咽を漏らした。

その姿は、もはや「ケイコ」ではなく、ただ弱く、傷ついた「君枝」そのものだった。


(続く)

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

母娘の影 (母娘丼) 二重の螺旋

MisakiNonagase
恋愛
「愛した女は、恋人の母親だった」 大学4年生の山本哲兵(22歳)。 どこか冷めた日常を送っていた彼が出会ったのは、太陽のように眩しい同級生・天草汐里。 そして、バイト先で出会った、慎ましくも色香を纏う49歳の主婦・天草美樹。 光のような純愛を注いでくれる娘、汐里。 闇の中で少女のように甘え、背徳の悦びに溺れる母、美樹。 「天草」という同じ名字を持つ二人の女。別々の場所で始まった二つの恋は、哲兵の家賃5万のワンルームで、そして娘の「お下がり」のブーツを通じて、音もなく混ざり合っていく。 それが最悪の結末へのカウントダウンだとも知らずに。 ついに訪れた「聖域」への招待状。汐里に連れられ、初めて訪れた彼女の自宅。そこでエプロン姿で出迎えたのは、昨夜まで哲兵の腕の中でその名を呼ばれていた、あの美樹だった。 逃げ場のないリビングで、母と娘、そして一人の男を巡る、美しくも残酷な地獄が幕を上げる。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

処理中です...