1 / 1
都合のよい女だと気づいているが主導権はあくまでも私のつもり
しおりを挟む
朝の光がリビングの床を照らす。子供たちを送り出した後、家の中は静かになった。好美はコーヒーカップを手に、窓辺に立つ。44歳。中学生の娘と高校生の息子の母親。単身赴任の夫からは昨夜も「お疲れ様」のLINEが届いただけだ。
彼女は鏡の前で少し長く立ち止まった。決して美人とは言えない顔。でも、数年前からインスタグラムにコーディネートを投稿し始めてから、何かが変わった。女性からの「素敵!」も嬉しかったが、男性からの「綺麗ですね」「お若いですね」というコメントやDMが、次第に日常の彩りになった。
最初は戸惑った。下心が見え透いているメッセージも多かった。でも、嫌悪感は湧かなかった。むしろ、44歳の主婦にそんな関心を寄せる男がいること自体が、不思議な喜びだった。承認欲求は麻薬のように繰り返された。
最初の不倫相手は、インスタで絡んできた10歳年下の男性だった。会って、食事して、ホテルに行った。その時、彼女は驚くほど冷静だった。罪悪感の欠片もなかった。
「だって、ママ友だってやってるし」
幼稚園時代からのママ友グループ。今では不倫談議が集まりの中心になることも多かった。誰がどんな相手を作っているか、どうやってバレないようにしているか。好美はそこで「ガチなコイバナ」を楽しんでいた。
彼女の魅力は、顔ではない。振る舞い方。派手になりすぎないけれど、少し遊び心のある服の着こなし。男受けする、とよく言われた。でも好美はわかっていた。寄ってくる男のほとんどは、単純に「隙がある人妻」と思っているだけだ。
飲食店の若い店員。息子の少年野球時代のコーチ。SNSやマッチングアプリで知り合った様々な男。好美は自分からアプローチすることはない。いつも、相手が寄ってくるのを待つ。好みだったら会う。ただそれだけ。
彼女は決して相手に執着しない。むしろ、薄々感じていた。自分が都合のいい相手として使われていることを。でも、そう思うのは嫌だった。あくまで「自分が主導で遊んでいる」という構図を心に描く。
今日の相手は大学生。22歳。マッチングアプリで知り合い、先週初めて会った。優しくて、少し照れ屋なところが気に入った。今日は2度目のデート。彼の部屋で「おうちデート」だ。
好美はクローゼットの前で考えた。若すぎないように、でも頑張りすぎていないように。結局、シンプルなニットとほどよい丈のスカートにロングブーツを選び、化粧はナチュラルメイクに仕上げた。
「行ってきます」
空っぽの家に向かって呟く。誰も聞いていない。
電車に揺られながら、彼女はふと思った。この生活、いつまで続くのだろう。子供が大きくなればバレるリスクは増す。夫が単身赴任から戻れば、自由な時間は激減する。
でも、考えすぎないことにした。成り行き任せでいい。今、楽しいのだから。
大学生の彼の部屋は、想像以上にきれいだった。彼が淹れてくれた紅茶の香りが漂う。会話は弾み、笑い声が絶えなかった。自然に距離は縮まり、やがて彼のベッドへと流れていった。
肉体関係に発展することに、好美は、もはや疑問を抱かなかった。むしろ、これがデートの当然の帰結だと思っていた。彼の若い肌に触れながら、彼女は一瞬、自分が何をしているのか考えた。
でも、すぐにその思考は消えた。
「楽しいから、それでいい」
帰りの電車で、インスタを開く。今日のコーディネート写真を投稿しようか迷ったが、やめた。代わりに、夕焼けの窓から撮った写真をアップした。
すぐに「いいね」がいくつかついた。コメントも来た。
「素敵な夕焼けですね」
送り主は見知らぬ男性のアカウント。好美は軽く微笑み、返信を考え始めた。
家に着くと、娘からLINEが来ていた。
「今日、塾遅くなるからご飯いらない」
好美は「わかった。気をつけてね」と返信し、冷蔵庫を開けた。一人分の夕食を作る気力はなかった。そういえば、夫からも連絡が来ていない。たぶん、また接待だろう。
リビングのソファに座り、今日のデートを振り返った。大学生の彼はまた会いたいと言ってくれた。好美は「また連絡するね」と曖昧に返事をしておいた。
窓に映る自分の顔を見つめる。44歳の主婦。二児の母。夫がいる。
でも、今この瞬間、彼女は「もてている」と錯覚できる場所にいた。それで十分だ。明日も、明後日も、この錯覚が続く限り。
スマホが振動した。新しいマッチングアプリの通知だ。好美は少し考えてから、アプリを開いた。
成り行き任せで、もう少しだけ。
彼女は鏡の前で少し長く立ち止まった。決して美人とは言えない顔。でも、数年前からインスタグラムにコーディネートを投稿し始めてから、何かが変わった。女性からの「素敵!」も嬉しかったが、男性からの「綺麗ですね」「お若いですね」というコメントやDMが、次第に日常の彩りになった。
最初は戸惑った。下心が見え透いているメッセージも多かった。でも、嫌悪感は湧かなかった。むしろ、44歳の主婦にそんな関心を寄せる男がいること自体が、不思議な喜びだった。承認欲求は麻薬のように繰り返された。
最初の不倫相手は、インスタで絡んできた10歳年下の男性だった。会って、食事して、ホテルに行った。その時、彼女は驚くほど冷静だった。罪悪感の欠片もなかった。
「だって、ママ友だってやってるし」
幼稚園時代からのママ友グループ。今では不倫談議が集まりの中心になることも多かった。誰がどんな相手を作っているか、どうやってバレないようにしているか。好美はそこで「ガチなコイバナ」を楽しんでいた。
彼女の魅力は、顔ではない。振る舞い方。派手になりすぎないけれど、少し遊び心のある服の着こなし。男受けする、とよく言われた。でも好美はわかっていた。寄ってくる男のほとんどは、単純に「隙がある人妻」と思っているだけだ。
飲食店の若い店員。息子の少年野球時代のコーチ。SNSやマッチングアプリで知り合った様々な男。好美は自分からアプローチすることはない。いつも、相手が寄ってくるのを待つ。好みだったら会う。ただそれだけ。
彼女は決して相手に執着しない。むしろ、薄々感じていた。自分が都合のいい相手として使われていることを。でも、そう思うのは嫌だった。あくまで「自分が主導で遊んでいる」という構図を心に描く。
今日の相手は大学生。22歳。マッチングアプリで知り合い、先週初めて会った。優しくて、少し照れ屋なところが気に入った。今日は2度目のデート。彼の部屋で「おうちデート」だ。
好美はクローゼットの前で考えた。若すぎないように、でも頑張りすぎていないように。結局、シンプルなニットとほどよい丈のスカートにロングブーツを選び、化粧はナチュラルメイクに仕上げた。
「行ってきます」
空っぽの家に向かって呟く。誰も聞いていない。
電車に揺られながら、彼女はふと思った。この生活、いつまで続くのだろう。子供が大きくなればバレるリスクは増す。夫が単身赴任から戻れば、自由な時間は激減する。
でも、考えすぎないことにした。成り行き任せでいい。今、楽しいのだから。
大学生の彼の部屋は、想像以上にきれいだった。彼が淹れてくれた紅茶の香りが漂う。会話は弾み、笑い声が絶えなかった。自然に距離は縮まり、やがて彼のベッドへと流れていった。
肉体関係に発展することに、好美は、もはや疑問を抱かなかった。むしろ、これがデートの当然の帰結だと思っていた。彼の若い肌に触れながら、彼女は一瞬、自分が何をしているのか考えた。
でも、すぐにその思考は消えた。
「楽しいから、それでいい」
帰りの電車で、インスタを開く。今日のコーディネート写真を投稿しようか迷ったが、やめた。代わりに、夕焼けの窓から撮った写真をアップした。
すぐに「いいね」がいくつかついた。コメントも来た。
「素敵な夕焼けですね」
送り主は見知らぬ男性のアカウント。好美は軽く微笑み、返信を考え始めた。
家に着くと、娘からLINEが来ていた。
「今日、塾遅くなるからご飯いらない」
好美は「わかった。気をつけてね」と返信し、冷蔵庫を開けた。一人分の夕食を作る気力はなかった。そういえば、夫からも連絡が来ていない。たぶん、また接待だろう。
リビングのソファに座り、今日のデートを振り返った。大学生の彼はまた会いたいと言ってくれた。好美は「また連絡するね」と曖昧に返事をしておいた。
窓に映る自分の顔を見つめる。44歳の主婦。二児の母。夫がいる。
でも、今この瞬間、彼女は「もてている」と錯覚できる場所にいた。それで十分だ。明日も、明後日も、この錯覚が続く限り。
スマホが振動した。新しいマッチングアプリの通知だ。好美は少し考えてから、アプリを開いた。
成り行き任せで、もう少しだけ。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様を書いたストーリーです。
会社員の青年と清掃員の老婆の超越した愛
MisakiNonagase
恋愛
二十六歳のレンが働くオフィスビルには、清掃員として七十歳のカズコも従事している。カズコは愛嬌のある笑顔と真面目な仕事ぶりで誰からも好かれていた。ある日の仕事帰りにレンがよく行く立ち飲み屋に入ると、カズコもいた。清掃員の青い作業服姿しか見たことのなかったレンは、ごく普通の装いだったがカズコの姿が輝いて見えた。それから少しづつ話すようになり、二人は年の差を越えて恋を育んでいくストーリーです。不倫は情事かもしれないが、この二人には情状という言葉がふさわしい。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる



