幼なじみのダブルス。挫折した彼と私で挑む

MisakiNonagase

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​第5章:壊れそうな冬と、奇跡の桜

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2025年12月。カレンダーが最後の一枚になると、部屋の空気は目に見えて張り詰めた。
通信制高校の卒業を控え、翔太は連日15時間の猛勉強を続けていた。しかし、模試の結果は「D判定」から動かない。
​「……ミク、もう間に合わないかもしれない」
​深夜2時。ペンを握る翔太の指は、震えていた。
かつてコートで足首を砕いたあの瞬間の恐怖が、今の焦燥感と重なる。失敗すれば、また居場所を失う。また誰かに「お前のせいだ」と言われるのではないか。
​そんな翔太の背中に、未玖がそっと寄り添った。
「翔太、バドミントンの試合で一番強いのは誰だった?」
「……最後までシャトルを諦めない奴だ」
「そうでしょ。知識が繋がって、一気に花開く時が必ず来る。私が保証するから。あなたは、私を信じるだけでいい」
​未玖自身も、東慶大学理工学部のプレッシャーと戦っていた。それでも彼女は、自分の不安を一切見せず、翔太の「お守り」であり続けた。
​2026年1月、共通テスト。
2月、東慶大学の個別試験。
試験会場の入り口で、二人は短く拳を合わせた。
「また後で、ここで」
「ああ、絶対にな」
​試験が終わった瞬間、翔太は空を仰いだ。
数学の難問が、未玖と解いたあの日の記憶と重なり、スラスラと解けた感覚があった。
​2026年3月。合格発表の日。
二人はそれぞれ、自分の家のパソコンの前に座っていた。
「一緒に見よう」と約束したものの、怖くて足がすくんだのだ。
​13時ちょうど。
翔太の手が震えながら、キーボードを叩く。
教育学部スポーツ科学科。
そこには、自分の受験番号があった。
​「…………受かった」
​声にならなかった。
すぐさま窓を開け、生け垣の向こうに向かって叫ぼうとした時、隣の家から未玖が飛び出してきた。
​「翔太! 翔太、私……!」
「ミク、俺もだ! 俺も受かったぞ!」
​翔太は生け垣を飛び越えた。かつてのように軽やかに。
怪我をした足は、もう彼を縛り付けてはいなかった。
二人はどちらからともなく抱きしめ合った。未玖のコートから、微かに使い古した参考書の香りがした。
​4月。
桜吹雪が舞う東慶大学の正門前。
新しいスーツに身を包んだ翔太は、隣を歩く未玖を見つめた。
大学生になった彼女は、少し大人びて見えた。
​「ねえ、翔太」
「ん?」
「大学生になったんだから……そろそろ、『付き合ってる』って言っても、バチは当たらないよね?」
​未玖が少し照れくさそうに、彼のジャケットの袖を引く。
翔太は一瞬目を丸くしたが、すぐに優しく笑って、彼女の手を力強く握り返した。
​「……ああ。ずっと前から、俺の心の中では付き合ってたよ」
​新しい風が、二人の間を通り抜けていく。
右足の傷跡は消えない。挫折の記憶もなくならない。
けれど、それを共に乗り越えた二人の前には、あの日見たコートよりもずっと広く、輝かしい未来が広がっていた。
​石井翔太と早川未玖。
二人の物語は、ここからまた新しい一章を刻み始める。
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