幼なじみのダブルス。挫折した彼と私で挑む

MisakiNonagase

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エピローグ:同じ場所、違う景色

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2031年、春。
東慶大学を卒業してから数年。かつての「低い生け垣」があった場所には、今、一軒の新しい家が建っている。
​二人の両親たちが相談し、古くなった2軒を建て替えて、2世帯が自然に行き来できる共有の庭を持つ設計にしたのだ。そこにはもう、二人を隔てる境界線は存在しない。
​石井翔太は、国家資格を取得後、国内トップクラスのスポーツ整形クリニックで主任トレーナーとして働いている。かつての自分と同じように怪我に苦しむ若手選手たちにとって、180cmの長身で、誰よりも痛みに寄り添う彼の存在は、希望そのものだった。
​一方、早川未玖は、大手IT企業でスポーツ解析部門のリードエンジニアを務めていた。彼女が開発した「怪我予防アプリ」は、今や多くのプロチームで導入されている。
​ある日曜日の午後。
翔太は庭で、中学生になったばかりの近所の少年を相手に、バドミントンのラケットを握っていた。
​「翔太さん、今のスマッシュ、どうでした!?」
「いい角度だ。でも、右足の踏み込みが少し甘いな。もう1回、フォームを意識して」
​その姿を、リビングの窓から未玖が眺めていた。
彼女の手元には、タブレット端末。翔太の動きと少年のフォームをリアルタイムで解析し、最適なアドバイスを翔太の耳元のデバイスに送っている。
​「……翔太、今の動きで腰に3%負荷がかかりすぎてる。修正して」
「了解、ミク。聞こえたよ」
​二人は今も、最高のダブルスだった。
​夕暮れ時。指導を終えた少年が帰り、庭には静寂が訪れた。
翔太はベンチに座る未玖の隣に腰を下ろし、彼女の手を握った。
​「……時々、思い出すんだ。あの3月の雨の日、ミクが俺の手を握ってくれた時のこと」
「あの日、翔太が立ち上がってくれなかったら、今のこの景色はないもんね」
​未玖は翔太の肩に頭を預け、オレンジ色に染まる庭を見つめた。
挫折、絶望、そして血の滲むような受験勉強の日々。それらすべてが、今の幸せを形作るための大切なピースだった。
​「ねえ、翔太。明日から、また新しいプロジェクトが始まるよ」
「ああ。今度は、もっと多くの子供たちを救えるシステムだな」
​二人の視線の先には、どこまでも続く青い空が広がっていた。
幼なじみとして育ち、恋人として歩み、そして今、人生のパートナーとして同じ未来を見つめている。
​生け垣を飛び越えて笑い合っていた子供たちは、もういない。
けれど、あの日交わした「一緒に未来を作ろう」という約束は、今も、そしてこれからも、二人の歩みを力強く支え続けていく。
​桜の花びらが、ふわりと二人の肩に舞い降りた。
それは、新しい季節と、止まることのない二人の物語への祝福のように見えた。
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