56歳の母を「陽子」と呼んだ夜 ―血の檻、蜜の鎖 ―

MisakiNonagase

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第5話:境界線のスリル

「お母さん、ゴミ出しついでに買い物行ってくるね」

玄関先でわざと大きな声を出す。近所の目が、僕たちを「仲の良い母子」として規定していることを確認するための儀式だ。

だが、エレベーターの扉が閉まった瞬間、空気は一変する。密室になった箱の中で、僕は陽子を壁に押しつけた。彼女は驚いたふりをして、けれど慣れた手つきで僕の首に腕を回す。

「……んっ、満男……誰か来ちゃうわ」

「いいよ。そのスリルが、お母さんは好きなんだろ?」

唇を重ねる。外での「母親」の仮面が剥がれ、女の顔が覗くこの瞬間がたまらない。
近所のスーパーでは、僕たちは適切な距離を保って歩く。けれど、陳列棚の陰で一瞬だけ指先が触れ合う。その僅かな接触に、陽子の肩が微かに震えるのを僕は見逃さない。

そんな息の詰まるような日常から逃れるため、週末、僕たちは遠く離れた海辺の街へと車を走らせた。

「……ここでは、いいのよね?」

車を降りた陽子の装いは、自宅での「妻」の姿に近いものだった。タイトなニットに、艶やかな黒のロングブーツ。風に吹かれる彼女の横顔は、56歳という年齢を感じさせないほどに輝いている。

僕は迷わず、彼女の細い指を絡め、恋人繋ぎをした。

「……恥ずかしいわ。年の差カップルに見えるかしら」

「見えるよ。綺麗な年上の彼女だって、みんな見てる」

陽子は僕の腕にしがみつき、幸せそうに微笑んだ。旅先の開放感は、僕たちの理性をさらに狂わせる。

旅館の部屋に入れば、そこはもう「息子」と「母」の居場所ではない。窓の外に広がる海、遮るもののない自由。

僕たちは、社会から切り離されたこの場所で、ただの男と女として、むさぼるように互いを求め合った。

【幕間:独白 陽子】
外で満男と手を繋ぐとき、心臓が壊れそうなほど脈打つ。

「お母さん」と呼ばれながら、隠れてキスをする背徳。
「彼女」として扱われながら、腕を組んで歩く悦び。

あの大学生の隣にいた時よりも、ずっと……ずっと自分が女であることを実感している。満男の隣にいる私は、かつての「地味な主婦」ではない。

彼が選んだ服を着て、彼が望むように振る舞う。それが、こんなにも心地よいなんて。

世間が私たちをどう見ようと、この繋いだ手の熱さだけは本物だ。たとえ、帰る場所が血の繋がった「家」であったとしても。
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