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第34章:帰還、そして「納品」の儀
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康助が発ったあの日から、ちょうど半年。 大輝のマンションの空気は、人間の住処とは思えないほどに淀んでいた。換気もままならない部屋には、染み付いた体液の匂いと、安物の芳香剤、そして「死」を待つ者のような虚無が漂っている。
ベッドの端に腰掛け、虚空を見つめる女がいた。 かつて武田加代子と呼ばれたその女は、半年間の「手入れ」によって、恐ろしいほどの肉感と引き換えに、人間らしい輝きをすべて失っていた。肌は男たちの指先に馴染むよう柔らかく垂れ、その瞳には焦点すら合っていない。
「カチャリ」という鍵の音が響く。
入ってきたのは、見違えるほど精悍になった、しかし瞳に凍てつくような冷酷さを宿した青年だった。
「……康助さん。お待ちしておりました」
大輝が膝をつくようにして彼を迎える。その傍らには、和文もいた。二人は半年間、競うようにしてこの「名器」を使い潰してきたが、本物の「所有者」を前にした途端、去勢された飼い犬のように縮こまった。
「……随分と、無残にしたな」
康助は加代子の元へ歩み寄り、その顎を乱暴に持ち上げた。 加代子の瞳に、微かな、しかし決定的な震えが走る。半年間、どんなに蹂躙されても戻らなかった「意識」が、実の息子の匂いと声にだけ、本能的に反応したのだ。
「あ……あ、……あ……康、助……」
言葉にならない声が、加代子の乾いた喉から漏れる。彼女は震える手で康助の裾を掴もうとしたが、康助はその手を冷たく払い除けた。
「母さん、言っただろう? 言葉を忘れるくらいが丁度いいって。……大輝、和文さん。ご苦労様。半年間、よく使い込んでくれた。おかげで、最高の『残骸』が出来上がったよ」
康助は満足げに、加代子の腰に手を回し、力尽くで立たせた。自分の足で立つことすらままならず、加代子は膝から崩れ落ちそうになるが、康助はそれを強引に引きずるようにして部屋を出ようとする。
「康助さん、これから……どこへ?」 和文が怯えるように尋ねる。康助は振り返り、悪魔のような微笑みを浮かべた。
「父さんのところだよ。……あんなに可愛がっていた『お母さん』が、今どんな姿になっているか、見せてあげないとかわいそうだろ?」
康助は、もはや抵抗する気力すら失い、ただあうあうと幼児のように声を漏らす加代子を車へと放り込んだ。 彼女がかつて命懸けで守ろうとした家族、守ろうとした倫理、守ろうとした「自分」。それらすべてが粉々に砕け、ただ「息子に使い潰されるだけの器」として、最後の舞台へと運ばれていく。
車窓に映る加代子の横顔は、名器ゆえの呪いを受け入れた、この世で最も美しく、そして最も醜い、ただの「肉」だった。
ベッドの端に腰掛け、虚空を見つめる女がいた。 かつて武田加代子と呼ばれたその女は、半年間の「手入れ」によって、恐ろしいほどの肉感と引き換えに、人間らしい輝きをすべて失っていた。肌は男たちの指先に馴染むよう柔らかく垂れ、その瞳には焦点すら合っていない。
「カチャリ」という鍵の音が響く。
入ってきたのは、見違えるほど精悍になった、しかし瞳に凍てつくような冷酷さを宿した青年だった。
「……康助さん。お待ちしておりました」
大輝が膝をつくようにして彼を迎える。その傍らには、和文もいた。二人は半年間、競うようにしてこの「名器」を使い潰してきたが、本物の「所有者」を前にした途端、去勢された飼い犬のように縮こまった。
「……随分と、無残にしたな」
康助は加代子の元へ歩み寄り、その顎を乱暴に持ち上げた。 加代子の瞳に、微かな、しかし決定的な震えが走る。半年間、どんなに蹂躙されても戻らなかった「意識」が、実の息子の匂いと声にだけ、本能的に反応したのだ。
「あ……あ、……あ……康、助……」
言葉にならない声が、加代子の乾いた喉から漏れる。彼女は震える手で康助の裾を掴もうとしたが、康助はその手を冷たく払い除けた。
「母さん、言っただろう? 言葉を忘れるくらいが丁度いいって。……大輝、和文さん。ご苦労様。半年間、よく使い込んでくれた。おかげで、最高の『残骸』が出来上がったよ」
康助は満足げに、加代子の腰に手を回し、力尽くで立たせた。自分の足で立つことすらままならず、加代子は膝から崩れ落ちそうになるが、康助はそれを強引に引きずるようにして部屋を出ようとする。
「康助さん、これから……どこへ?」 和文が怯えるように尋ねる。康助は振り返り、悪魔のような微笑みを浮かべた。
「父さんのところだよ。……あんなに可愛がっていた『お母さん』が、今どんな姿になっているか、見せてあげないとかわいそうだろ?」
康助は、もはや抵抗する気力すら失い、ただあうあうと幼児のように声を漏らす加代子を車へと放り込んだ。 彼女がかつて命懸けで守ろうとした家族、守ろうとした倫理、守ろうとした「自分」。それらすべてが粉々に砕け、ただ「息子に使い潰されるだけの器」として、最後の舞台へと運ばれていく。
車窓に映る加代子の横顔は、名器ゆえの呪いを受け入れた、この世で最も美しく、そして最も醜い、ただの「肉」だった。
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