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【読者コメント】「気づかなかった」という名の、母の優しい嘘
物語の中の颯真くんが感じた「母の沈黙の救済」。それを読みながら、私は数年前、実家のリビングで母と向き合ったあの夜のことを思い出していました。
私にとっても、あの経験は一生消えない心の棘でした。中学から高校にかけて、母の下着に触れ、自分の部屋へ持ち込むことを繰り返していた日々。自分を軽蔑しながらも止められず、戻すときはそれこそ呼吸を止めるような思いで、タンスの引き出しの隙間一つ、シワ一つないように「完璧」に元通りにしていたつもりでした。
二人の子供の父親になり、実家で母と話していた時、ふとその記憶が溢れ出したんです。「今なら聞ける」と思ったのかもしれません。
「……母さん。俺が高校の頃、母さんのタンス勝手に開けてたの、気づいてた?」
心臓が早鐘を打つのを感じながら問いかけた私に、母は一瞬、お酒のグラスを止めて私を見ました。そして、少しだけ目尻を下げ、穏やかに笑ってこう言ったんです。
「あら、そうなの? 全然、気づかなかったわよ。あんた、そんなことしてたの?」
その言い回しは、あまりにも自然で、あまりにも「お母さん」らしいものでした。でも、その直後、独り言のようにこう付け加えたんです。
「でも、あんたが一生懸命、自分の部屋で机に向かって何かと戦ってる姿は、ずっと見てたわよ。あの子はあの子なりに、ちゃんと立派に大人になろうとしてるんだなって、信じてたから」
その瞬間、悟りました。母は、間違いなく「気づいていた」のだと。
本当に気づいていないのなら、息子がそんな告白をした時、もっと驚いたり、嫌悪感を見せたりしそうですが、母は、驚くふりをしながら、私があの時どれほど必死に「隠し通そうとしていたか」を、そして「自力で抜け出そうとしていたか」を、すべて分かった上で受け止めてくれていた。
「気づかなかった」という言葉は、事実ではなく、母が何十年もかけて守り抜いてくれた最後の優しさだったのです。
私が認めない限り、それは「無かったこと」にしてあげる。私に恥をかかせず、一生「お母さんの前では誇り高い息子」でいさせてあげる……。その徹底した「沈黙」こそが、私を歪みから救い、今こうして健やかに家族を愛せる自分を形作ってくれたのだと、その時確信しました。
物語の颯真くんが心の中で呟いた「ありがとう」という言葉。
私はあの夜、母の「気づかなかったわよ」という嘘に甘えながら、心の中で何度も、何度も繰り返しました。親が子を信じて待つということは、これほどまでに強くて、孤独で、尊いものなのか。
私も父親として、いつか子供たちが道に迷ったとき、母のように「気づかないふり」をして、彼らが自力で立ち上がるのを待ってあげられる、そんな強く温かい存在でありたいと願わずにはいられません。
痛いほどの沈黙を守り抜いてくれたすべての母に、心からの敬意を込めて。
私にとっても、あの経験は一生消えない心の棘でした。中学から高校にかけて、母の下着に触れ、自分の部屋へ持ち込むことを繰り返していた日々。自分を軽蔑しながらも止められず、戻すときはそれこそ呼吸を止めるような思いで、タンスの引き出しの隙間一つ、シワ一つないように「完璧」に元通りにしていたつもりでした。
二人の子供の父親になり、実家で母と話していた時、ふとその記憶が溢れ出したんです。「今なら聞ける」と思ったのかもしれません。
「……母さん。俺が高校の頃、母さんのタンス勝手に開けてたの、気づいてた?」
心臓が早鐘を打つのを感じながら問いかけた私に、母は一瞬、お酒のグラスを止めて私を見ました。そして、少しだけ目尻を下げ、穏やかに笑ってこう言ったんです。
「あら、そうなの? 全然、気づかなかったわよ。あんた、そんなことしてたの?」
その言い回しは、あまりにも自然で、あまりにも「お母さん」らしいものでした。でも、その直後、独り言のようにこう付け加えたんです。
「でも、あんたが一生懸命、自分の部屋で机に向かって何かと戦ってる姿は、ずっと見てたわよ。あの子はあの子なりに、ちゃんと立派に大人になろうとしてるんだなって、信じてたから」
その瞬間、悟りました。母は、間違いなく「気づいていた」のだと。
本当に気づいていないのなら、息子がそんな告白をした時、もっと驚いたり、嫌悪感を見せたりしそうですが、母は、驚くふりをしながら、私があの時どれほど必死に「隠し通そうとしていたか」を、そして「自力で抜け出そうとしていたか」を、すべて分かった上で受け止めてくれていた。
「気づかなかった」という言葉は、事実ではなく、母が何十年もかけて守り抜いてくれた最後の優しさだったのです。
私が認めない限り、それは「無かったこと」にしてあげる。私に恥をかかせず、一生「お母さんの前では誇り高い息子」でいさせてあげる……。その徹底した「沈黙」こそが、私を歪みから救い、今こうして健やかに家族を愛せる自分を形作ってくれたのだと、その時確信しました。
物語の颯真くんが心の中で呟いた「ありがとう」という言葉。
私はあの夜、母の「気づかなかったわよ」という嘘に甘えながら、心の中で何度も、何度も繰り返しました。親が子を信じて待つということは、これほどまでに強くて、孤独で、尊いものなのか。
私も父親として、いつか子供たちが道に迷ったとき、母のように「気づかないふり」をして、彼らが自力で立ち上がるのを待ってあげられる、そんな強く温かい存在でありたいと願わずにはいられません。
痛いほどの沈黙を守り抜いてくれたすべての母に、心からの敬意を込めて。
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