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第一部 現実になった異世界生活

17. 異世界41日目 港町に移動する手立てができた

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 今日も狩りに行こうと朝食を食べてから準備をしているときにふとリュックの底にお金をしまい込んでいたことを思い出した。なんでこんな重要なことを今まで忘れていたんだか・・・。

 魔獣石の合成ができるようになったときに盗難対策として1,000ドール10枚をまとめて1枚にしてからしまい込んでいたんだった。まあ思い出したからいいけど、すぐに気がついていたら全財産は18,000ドールとなるのですぐに移動できていたよ。
 今考えると、流通している1,000ドール硬貨は合成できないらしいので、最初に渡されたものは合成不可の魔法がかけられていなかったんだろう。

 とりあえず旅の資金としてはなんとかなりそうだが、それでも結構ぎりぎりの金額だ。あっちについたときに文無しというのもつらいからなあ・・・。すぐに彼女が見つかるとも思えないので向こうでの滞在費も考えておかないといけない。



 異世界小説設定だが、魔法は常に使い続けた方が上達が早いことが多いので、常に魔素をまとって体の中を循環させている。MPの上限とかないので無意識にできる様になっていた方が何かの時にいいだろう。魔素の取り扱いにも慣れてくるだろうしね。

 魔法についても常に風魔法で空気を体の周りに循環させている。このせいかやはり風魔法の成長は早いように思う。他の魔法はなかなか日常的に使うのは難しいからね。なので移動中は魔法の空打ちをしてできる限り使うようにしている。MPという概念がないのでその点はありがたい。

 狩りに行くときにはやはり荷物を結構持っていかないといけないんだが、土魔法を使うことで荷物の重さを軽減できることに気がついてから大分楽になった。もちろん荷物が重いほど精神的に疲れが出てきてしまうんだが、それでも肉体的な負担が軽減される方が楽になる。
 大体持ち運んでいる荷物は5kgで帰りには倍くらいになってしまうんだが、重量軽減の魔法で半分以下くらいまで軽くすることができるようになった。このおかげでかなり狩りの効率も上がってきているのである。


 魔法についてはイメージでいろいろなことができるんだが、逆にイメージできないと魔法がうまく発動しない。この荷物を軽くする魔法だが、重力という力を理解しないとうまく発動してくれないみたいだ。
 このため重量軽減の魔法は知られているんだが、うまく扱えないために魔素の使用量が半端なくて実用性があまりないように理解されている。ただし有用性は大きいので魔法道具と併用して利用するのが一般的なんだが、もちろんその魔道具は高いし、消費魔素も多い。
 おそらくだが、土魔法で重力を軽減するのではなく、漠然と荷物を軽くするイメージみたいで作っているようだ。魔道具の文字は読めていないが、おそらく軽くするとか言う感じのものだろう。



 朝食をとった後、いつものように町の外へと移動して索敵で魔獣を探しながら狩りをしていく。今日は狼を2匹狩れたので結構おいしい収入だった。
 狼は集団で行動するため集団の場合はとてもではないが相手はできないので群れからはぐれたのか、出現したばかりの狼はいい獲物だ。遠くから風魔法で攻撃を仕掛け、近づいてくるまでにできるだけ攻撃をする。そしてある程度近くに来たところで目の前に土の壁を出現させると驚いて止まるか、引っかかってこけてくれるのでそれでとどめを刺す感じだ。
 まだこのあたりは剣が通らないという感じではないのでうまくやれば一発で首を切り落とすことができるので助かる。攻撃されると防御は難しいからね。


 町に戻ってからいつものように素材を売り払うと今日の収入は950ドールと最高記録となった。毛皮の状態が良かったのが効いたかな。
 合成していた魔獣石は今では千ドールの大きさとなっているんだが、おそらく1500~2000ドールくらいの価値だろう。面倒だけど地道に調整しておかないといけないかなあ。これをあわせて残金を考えると18000ドールくらいになるかな。



 少しお金に余裕も出てきたので久しぶりに少しいいものでも食べようと以前泊まっていた宿カイランの食堂へとやってきた。前にも食べたシチューを食べていると、「ジュンイチさん!?」と後ろから声をかけられた。
 後ろを振り返ると以前夕食の時に話をした商人で、なぜかいろいろとおごってくれた人だった。たしか名前はコーランさんだったかな?

「お久しぶりです。コーランさんでしたっけ?」

「そうです、そうです。最近宿で見かけませんでしたねえ。相席してもよろしいですか?」

「いいですよ。」というと、隣の席に座ってきた。

「ちょっと贅沢しすぎたせいでお金がきつくなったので安い宿に移ったんですよ。別の町に行こうと思って旅費を貯めているんですが、なかなか旅費が貯まらないので・・・。」

「どちらの町まで行くつもりなのですか?」

「南の方にある港町オカニウムに行こうかと思っているんですよ。」

「なにか面白いことでもあるのですか?」

「いえ、ちょっと知り合いがそこにいるという話を聞いたので行ってみようかと思っているんです。」

「バス代だけでも結構な金額かかりますからねえ。バスだと10日以上かかるでしょ?」

「そうなんですよ。15日くらいかかるみたいなので宿泊費にバス代まで考えると結構な額になってしまうので・・・。」

 しばらく食事をしながら話をしていたんだが、思いついたように言ってきた。

「もし良かったら私たちの車で一緒に行きませんか?途中にかかる経費は払ってもらうことになりますし、車の席も狭いところになりますが、車代は取りませんよ。」

「え?」

 自分にとってはとてもありがたい話だけどなんで?なにか裏でもあるのか?

「あ~、不審に思われているかと思いますが、こちらも利益がないわけではないのですよ。以前夕食を一緒にした際にいろいろと話をしたじゃないですか。正直なところ、かなり商売の役に立つ話も多くてもっと話を聞けないかと思っていたのです。席もあるので追加で一人車に乗せるだけなら十分に対価を得られると思っての話です。
 あとは、あなたは信用できると思ったことと、話をいろいろ聞いておくべきだと商人としての私の勘が訴えているのです。」

 そんなに役に立つ話をしたのかねえ?まあ、そこそこ大きな商家みたいだし、何か含みがあったとしてもあまりに向こうのメリットがなさ過ぎるよなあ。ヒッチハイクのような感じでのせてもらうのもありかな?人の悪意とか感じる能力も経験もないので表情を見ても分からないからねえ。

「わかりました。せっかくなので便乗させてもらいます。事前に準備とかしておく必要なものはありますか?」

「基本的に宿泊はすべて町に泊まる予定ですので宿代と朝食・夕食代は準備してください。我々と同じ宿でもいいですし、他の宿に泊まっていただいてもかまいません。移動は10日くらいと考えてもらえれば良いかと思います。
 ただいろいろ話を聞きたいので少なくとも食事は同じところでしていただきたいと思います。もし野営するようなことになった場合の食事や宿泊道具はこちらで準備しますので大丈夫です。」

「いいんですか?とてもありがたいですけど、そんなに役に立つ話はできないと思いますよ。」

「大丈夫ですよ。特に役に立つと言うことは意識してもらわなくて、普通に雑談でかまいません。出発は3日後となりますがよろしいですか?」

「はい。」

「それでは3日後の朝1時にこの宿の前に来ていただけますか?あと何かあった場合は連絡しますので冒険者カードの番号を教えていただけますか?」

「分かりました。この番号にお願いします。おそらく日中は狩りに出ていると思いますので対応は夕方になるかもしれません。」

「承知しました。ちなみに移動するメンバーはおそらく運転手の他、私を含めた店員が3名、護衛には”風の翼”というパーティーに依頼しています。」

 風の翼か。たしか男性3人のパーティーで結構面倒見の良い人たちだったな。何度か助言をもらったことがある人たちだ。今は良階位だったはず。


 食事を終えてからお礼を言ってお店を後にする。宿に戻ってから洗濯のあとでシャワーを浴びてベッドに入る。


 なんか知らないけど、ただで移動できることになったのでありがたい。とりあえず宿代と考えると10日間でそこそこの宿に泊まっても8千ドールあればよさそうなので今のお金でも十分足りると考えていいだろう。夕食を奮発して良かったなあ。

 移動中は護衛がつくのでおそらく自分が戦うことはないだろう。特に移動がメインとなるので訓練もあまりできる時間がないと思う。移動中もさすがに寝ているわけにもいかないのでいろいろと話をする感じになるのかな?
 オカニウムの町までは大きな町はないので途中の町は小さなところだろう。この移動中の空いた時間は学識系のスキルをあげることに時間をつぎ込むのがいいかな。勉強はガイド本でできるから十分だな。


 もとの世界に帰れなくなったのが分かった後、今後の対応を考えていたときにガイド本というスキルにレベルがあったことに気がついた。
 ガイド本スキルのレベルアップってなにかと思ってガイド本をくまなく読んでいるとwebのリンクみたいにいくつかの内容については詳細が表示されていた。前まではこのようなものはなかったのでレベルアップしたのかもしれない。

 追加情報はあくまで自分が知っている内容なんだが、そのあと本を読んだところ、理解しなくても一度大雑把にでも読んだ内容は図を含めてきちんと追記されることが分かった。このためできるかぎり図書館で本を読みまくったのである。
 現在はネットの某百科事典のような感じに結構いろいろなことが載っている本になってかなり助かっている。


 自然科学などについてはやはりこの世界は遅れているため、こちらの本ではあまり役に立たない。基本的に元素の概念が分かっていないためなんだけど、もちろん周期律表もないからね。
 化学的な現象が魔素で説明できることも多いので元素などについての研究がそこまで進まなかったのだろう。接着剤とかも化学反応ではなく、魔法で固定できるくらいだからねえ。
 このせいで自然科学のスキルレベルの取得やレベルアップができないのではないだろうか?鑑定スキルが一般化していない理由もこれにつきるだろう。

 学識スキルのレベルアップのためにはガイド本に入れてくれていた高校の教科書がかなり役になっている。どうやら自分の学校で使う教科書や図書館の内容すべてを入れてくれていたようで、化学、物理などはどう考えても教科書がなければレベルアップが無理だったと思う。今の感じでは少なくとも教科書の内容を理解できたらレベル4には上がれそうな気もするので頑張ろう。


~魔獣紹介~
狼:
並階位中位の魔獣で、草原に多く生息する魔獣。集団行動をすることが多く、多いときは20匹を超える群れになることがある。群れの数に比例して脅威度は変わり、1~2匹だと並階位下位であるが、10匹を超えると並階位上位から上階位下位となる。
牙や爪が鋭いため攻撃には注意が必要。集団で襲ってくる場合は連携してくるため、リーダーと思われる個体を優先して倒した方がよい。遠距離攻撃の手段があれば遠くから攻撃して群れを分散させることが有効となる。
素材としての買い取り対象は上顎の牙と毛皮となる。肉は固く、臭いもきついため食用にはされていないが、食べることは可能。
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