【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

ばいむ

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第二部 異世界の貴族達2

196. 異世界1251日目 だめな貴族

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 翌朝、朝食をとり、早々に出発する。夕べここから北の地域について色々と聞いておいたんだが、あまりよい領地ではないみたいなのですぐに通り抜けた方がいいと言われている。
 ただ気になったのはそのうち一人の領主の名前がチカと言うことなんだよね。これってスレインさんたちの実家じゃないかな?辺鄙なところの貴族と言っていたからなあ。


 朝一で町を出発してから北上し、2日目にチカ家の領地に入る。町の近くに行ってみるが、なんか畑の手入れがかなりおざなりになっているのが気になるところだ。昼間なのに働いている人の姿も少ないし・・・。
 車を降りて働いている人に挨拶してみるが、あまりにも覇気が無い。お昼前だったので、近くの木陰で食事の準備をしていると、かなりこっちが気になっているようでこちらをちらちら見ていた。
 働いている人の子供と思われる6歳くらいの子供が2人こっちをずっと見ているのでサンドイッチを出して呼んでみると、目を輝かせながら近くにやってきた。サンドイッチを渡すと、むさぼるように食べ始めた。どう見ても食事がまともにできていない印象だ。

 しばらくすると休憩時間になったのか、食事を始めたんだが、乾燥したようなパンを少し食べているだけのようだ。一応休憩時間のようなので声をかけてみることにした。

「すみません、少しお話してかまいませんか?」

「ああ、かまわんよ。すまないね、子供達に食べ物を恵んでくれたんだろ。かなり喜んでいたよ。」

「もしよろしければあなたたちの分もありますけど、いかがですか?」

 かなり驚いた表情をしている。

「いや、子供達に恵んでくれただけでもありがたいよ。わしたちには恵んでもらっても何もお返しするものがないからな。」

「いえ、いろいろと話を聞かせてくれるだけで十分ですので一緒に食事をしましょう。」

 人数分のサンドイッチを出すとむさぼるようにして食べ始めた。

「久しぶりに食べる柔らかいパンじゃ。」

 久しぶりというのがちょっと気になる。こっちの世界では結構普通に食べられているはずなんだけど、そんなに生活が厳しいのか?


 話を聞いてみると、どうやらここ数年の間不作が続き、それなりに多くの人が亡くなってしまっているらしい。特に天候が悪かったというわけではないんだが、いろいろとあって管理が行き届いていないのが問題らしい。
 親が亡くなったせいで孤児も増えてしまっているようだが、救済策は特になく、多くの子供達も亡くなっているようだ。なんとかしてやりたい気持ちはあっても自分たちが生活するだけで精一杯のようだ。
 それでも税金の緩和もなく、取り立てられているため夜逃げする人達も出てきているが、他の町にいっても町には入れないのでどうなっているのかわからないという状況らしい。もちろん奴隷として売られた人も多いようだ。
 奴隷といってもこの地域では買い手もないので他の地域に行くことになるんだが、正直奴隷の方がいいのかもしれないと嘆いているのがちょっと・・・。

「前の領主様の時はまだ良かったんじゃがなあ。まあ不作が続いたこともあるが、今の領主様になってから生活が厳しくなったのは確かじゃな。」

 領主は数年前に長男に代替わりしたようだ。スレインさんたちの兄になるのかな?

「前は領主の子供たちが町に来ることもあったりしてな。特に仲の良かった娘さん4人は気さくに声をかけてくれていて町でも結構人気があったもんじゃ。そのあとその4姉妹が亡くなったと聞かされたときはかなり悲しんだもんじゃ。
 今の領主様の子供達は正直手に負えない状況じゃ。暴力を振るったり、女性を襲ったりやりたい放題じゃ。あなたたちも気をつけた方がええぞ。」

 いろいろ聞いていると、やはりここがスレインさんたちの故郷で間違いが無いようだ。ただスレインさんたちは亡くなったことになっているみたい。たしかに逃亡したとなったら体面が悪いだろう。

 話をしていると、えらく豪華な車が通りかかり、中から人が降りてきた。

「おい、休んでいる暇があったら働かないか!!」

 40歳くらいと思われるちょっと上等そうな服を着た男がいきなり大声で威嚇してきた。休んでいた人達はすぐに仕事に取りかかるようだ。自分たちもそろそろ移動しようかと思っていると、こっちに向かって声をかけてきた。

「ここらでは見ない風貌だな。おや?お前は女か?ちょっと顔を見せてみろ!!」

 認識阻害の魔道具があるとはいえ、こう正面から来られると効果は無い。マントのようなものを羽織っているので装備もどのようなものを着ているのかはわかりにくくなっている。
 しかしなんなんだこいつは?相手のことをちゃんと確認もしないでいきなりこんな態度?えらく威張っているなあ。それほど強くもなさそうだし、護衛と思われる人間も上階位レベルか?実力を隠しているという風にも見えないよな。
 ジェンに手を伸ばそうとしている男の前に立ちはだかって声をかける。

「どういうことでしょうか?いきなり自分の妻に対して失礼ではありませんか?あなたになんの権限があってそのようなことを言っているのでしょうか?」

 護衛を含めて全員に威圧をかけて声を出すとその場にへたり込んでしまった。

「お、おまえ!!貴族に逆らうのか?」

「あんたが貴族なのか?そうは見えないけどな。」

 いくらなんでもこんなのが貴族とは思えないんだが、実はこれで領主なんだろうか?威厳も何もないよなあ。

「そこまでだ!!」

 車から降りてきた男が声を上げる。自分たちより下の年齢という感じなんだが、先ほどの男よりも整った服装をしている。これは年齢的に考えて領主の息子か何かかな?

「そのものは私の代理だ。平民冒険者風情が生意気な口を利くな。

 ほぉ、ここでは見ないくらい上等そうな女だな。人妻でもかまわん、連れて行け。」

 ひるんでいた護衛達がなんとか立ち上がり、ジェンに手を伸ばそうとするが、その前に立ちはだかる。

「き、きさまぁ!!貴族に逆らうのか!?」

 なんでこんなテンプレみたいなくず貴族がいるんだろう。小説の中くらいしかいないと思っていたのに本当にいることにびっくりだよ。

「相手の実力や身分の確認もしないし、よくこれで貴族をやっているな。貴族に逆らう?相手が貴族と言うことは考えなかったのか?」

 自分たちが胸元からペンダントを取り出すとあっけにとられていた。

「あ・・・あ・・・まさか・・・。」

「もう一度言ってくれるかな?どうするつもりだって?貴族と言っていたが、お前は当主なのか?当主でないのなら正式には貴族ではないだろう?」

「いえ、その・・・も、申し訳ありません。」

 ひたすら頭を下げてきた。おそらく貴族の息子だと思うので、立場は準位爵で貴族ではないだろう。さすがに貴族に対する不敬は死刑ということは無いが、状況によってはかなり厳しい処分となるはずだ。
 やれやれ、ただ話を聞きたかっただけなのにこんなことに巻き込まれるとはね。

「あまり無茶をしていると、いつか大きなしっぺ返しを受けることになると思うよ。あと貴族なら慎重に行動しないとね。別に罰するとかここの領主に報告するとかするつもりはないけど、どこに監視の目があるかは考えた方がいいと思うよ。変なことをしていたら自分も何を言うかわからないからね。」

 こっちの身分をちゃんと教えてあげる必要も無いので、この国の中位爵と言うことにしておこう。
 さすがにこんな貴族のいる町にわざわざ行くこともないので車を出してからすぐに出発する。こっちが立ち去るまではずっと頭を下げたままだったよ。あとはどうなるかわからないけど、自分たちに何かできるわけではないので釘を刺すのが精一杯だろう。まあしばらくはおとなしくなるかなあ?

 自分の実家がこんなことになっているってスレインさんたちはどう思うのかなあ?クリスさんはもしかしたら現状を把握しているかもしれないけどね。


~だめ貴族Side~
 くっそ~~。なんであんなところに中位爵の貴族がいるんだ。しかも平民なんかと一緒にいるとか考えられないぞ。久しぶりにいい女を見かけたと思っていたのに、腹立つなあ。
 ただなんでこんなところにやってきていたんだ?もしかして査察でもやっているのか?だとしたらまずいな。特に報告はしないと言っていたが、今回のことをチクられたら俺の立場がまずいことになるかもしれない。

 やはりちゃんとお詫びをした方がいいかもしれないな。そうだ、そうしよう。家に招待して歓迎すれば機嫌も治ってくれるだろう。さっそく父に相談しておこう。

 もちろんジュンイチ達二人はこの町に寄るつもりはなかったのでいくら探しても見つかるわけはなかったんだが・・・。
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