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67. 異世界760日目 アーマトの町にて
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67. 異世界760日目 アーマトの町にて
久しぶりにアーマトの町に戻ってきた。さっそく宿屋カイランに行ってみると、前に来たときよりも大きくなったカインが受付をしていた。
「お久しぶり!!部屋は開いてる?」
「ジュンイチさんじゃないですか!お久しぶりです。部屋は大丈夫ですよ。シングル二つですか?」
「いや、今回はツインの部屋でお願いするよ。」
「わかりました。1泊900ドールになります。」
「それじゃあとりあえず2泊お願いね。」
カイドルンとランミル夫妻にも少し挨拶をしてから役場へと向かう。
「カイルさんこんにちは。お久しぶりです。」
前いたときにお世話になったカイルさんに声をかける。
「あら~、ジュンイチさん、お久しぶりです。なんか立派になったわね~。かなりがんばったみたいね。こっちに戻ってきたの?しばらくここを拠点とするつもりなのかしら?」
「あちこち行きながら魔獣を狩ったりしているんですけど、今はサクラに行く途中です。なので数日したら出発する予定ですよ。申し訳ありません。」
「そうなんですね~。一応登録だけしておきましょうか?」
「お願いします。」
このあと他の冒険者のことについて少し話をする。ユータとカナのことも知っているみたいで、トルイサの町で頑張っていることを伝えると喜んでいた。
風の翼やクラーエルのことを聞いたんだが、クラーエルの二人は最近大けがを負って引退するかもしれないという話を聞いて驚いた。今は宿ではなく知り合いの家で療養しているらしいので近くにいた冒険者に場所を聞いていってみることにした。
住んでいるのはアパートの一室で、部屋を訪ねると中から女性が出てきた。クラーエルの二人に世話になった冒険者と説明すると中に通してくれた。部屋にはもう一人女性がいたんだけど、この二人が彼女って言っていた人なのかな?二人はベッドで休んでいた。
「お久しぶりです。」
「おお、ジュンイチとジェニファーか。久しぶりだな。」
「大丈夫?ではないですよね。」
「まあな。話を聞いてきたんだろ?さすがにいい年にもなってきたのでそろそろ引退を考えていたんだがな。最後に一踏ん張りと無理をしたのがまずかったよ。良階位の魔獣が出てきてな、なんとか倒すことができたんだが、このざまだ。」
「まあ、あきらめがついてよかったんだけどな。ただこれだとエルザ達には愛想を尽かされたかもしれないな。」
「なにいってるのよ!!」
「こんなことで見捨てるとでも思っていたの!私達を甘く見ないでよ!!」
椅子に座っていた女性二人が大声で怒りだした。彼女がアマニエルさんの彼女のエルザさんなんだろう。
話を聞くと、やられたのは一昨日だったみたいで、クーラストさんは右手の親指から中指までが手のひらの半分ごとなくなっており、アマニエルさんは右足の足首から先がなくなっていた。とりあえず初期治療で出血は止まっているんだけど、まだ治療はちゃんと行われていないようだ。
「怪我は治せるんですか?」
「アマニエルの足の食いちぎられた先は回収できたんで今は役場で保管してもらっている。1週間は保管してくれているので、その間に治療をすれば治る可能性はある。俺の手の方も一応治療で治る可能性はあるらしい。
ただ上級の治癒魔法でしか無理なのでさすがにお金がな。最低でも50万ドールくらいかかるし、それで治るという保証もないのにそんなお金を出せるわけがない。不便だがこれでも生きていけないわけじゃないからな。」
良階位の冒険者ならなんとかなる金額なんだけど、上階位の冒険者だとこの金額は難しいだろうな。しかも怪我してから時間が経過すればするほど治る可能性は低くなっていくからなあ。
「もし治ったとしたら冒険者としてまた復帰するつもりなんですか?」
「いや、俺たちはもうやりきったと思っている。今回のことがなくてもあいつらの仕事を手伝っていこうと思っていたんだ。それなのにそんな金額をかけてまで治療をする訳にもいかないからな。」
少し考えたんだけど、やっぱりやってみようかとジェンの方を見ると、うなずいてくれた。
「クーラストさん、自分の知り合いに無償で治療をしてくれる人がいます。なんとか連絡してみようと思っていますので治療を受けてみませんか?」
「もしかしてさすらいの治癒士のことか?ほんとにいるのか?」
「こう見えてもいろいろと伝があるんですよ。こっちの方に向かっているという話を聞いていたのでなんとか連絡してみようと思います。もし連絡が取れるようであれば役場で足と指を回収してきてくれませんか?ただ、このことは絶対に秘密にしてください。もしこのことが広まったらもう連絡がとれなくなってしまいますので。」
二人はうなずき合って女性達にお願いしていた。
「それではもしやってきたら中に入れてやってください。あまり治療の現場を見られたくないと言うことなので自分たちも同席できませんので・・・。」
いったん家の外に出て、しばらくしてから変装して家を再び訪ねる。
「ジュンイチとジェニファーから依頼された。クーラストとアマニエルという二人の治療をお願いしたいと言われてきたが、ここでいいのか?」
「ほんとに治療にやって来てくださったんですね。間違いありません、よろしくお願いします。」
「私たちは治療の修行中なので絶対に治るという保証はない。ただお金も取るつもりはないのでそれに同意してくれるのなら治療を行おう。」
「ああ、どっちにしろ治療をするお金もないから失敗したとしても文句は言わねえよ。」
彼女たちに欠損した部位を回収してきてもらい、早速治療に取りかかる。ジェンにはクーラストさんをお願いして、自分はアマニエルさんの治療を行うことにした。ジェンと二人で治療のイメージを確認してから取りかかる。
左足をみて右足のイメージを造り、足の切り落とされたところから遺伝子レベルで細胞を復元させる。骨、血管、筋肉、神経など事前に確認した人体の模型図を思い浮かべながら魔力を注ぎ込んでいく。
しばらくすると足の切り落とされた断面と切り取られた足の断面の間を埋めるように細胞が伸びていき、足の形ができてきた。思ったよりも神経を使う上、時間もかかる。すべての形ができあがるのに30分以上はかかったかもしれない。
ジェンの方も無事に治療ができたみたいでクーラストさんの手も元通りになったようだ。ただ二人とも復元した部分はかなり綺麗な状態になってしまっているけど、そこはしょうがないと諦めてもらおう。
クーラストさんは指が復元されたところだけ肌の色がちょっと違和感があるけど、動かす分には問題が無いようだ。ある程度反対の手をベースにしているんだけど、やっぱりその部分の筋力は少し落ちているみたいなのでしばらくはリハビリしないといけないだろうけどね。
治療といっても時間を遡るわけではなく、細胞の持っている遺伝子情報をもとに体の組織を作り直すわけだからね。筋肉などについては鍛えた状態までもとに戻すのは結構イメージが大変だ。いくらイメージしても限度がある。ある意味自分の体の治療とかの方がうまくイメージできるのかもしれない。
「どうだろうか?」
「すごい・・・。ほんとに治った。治ってるぞ!」
そう言いながら二人は怪我をしていた足や指を動かしている。よかった、ちゃんと再生できたみたいだ。かなり精神的に疲れるけど、無事にできてよかったよ。
「ありがとう、ありがとう!!ジュンイチ!」
「いえ、自分がここに来たときにいろいろと助言をしていただいたことがあるからこそ、自分もここまでこれたんで・・・あっ・・・・。」
「バカ・・・。」
「・・・やっぱり、ジュンイチだったか。ってことは、そっちはジェニファーか。」
油断してつい返事してしまったよ・・・。
「おおかた予想は付いていたかもしれませんが、いろいろあって治療ができることは隠しておきたいんです。このことは絶対に内密にしてください。」
「ああ、わかってるさ。冒険者が治癒魔法のレベルを隠すのは普通にあることだ。まあ上級治癒魔法まで使えるやつはそうそういないけどな。そもそも、いくら伝があると言ってもここまで都合良く治療にやって来られるというのは普通はあり得ないしな。」
「まあ一応建前と言うこともありますので・・・。面倒をかけて申し訳ありません。」
「いや、ここまでしてくれて文句はねえよ。成功率を上げるために少しでも早く治療をしたかったんだろう?本気で隠すつもりだったらもっと時間をかけていただろうしな。
俺たちは運良くさすらいの治癒士に助けてもらっただけだ。ジュンイチもジェニファーもお見舞いに来てくれただけだからな。」
アマニエルさんもクーラストさんも彼女の二人も満面の笑顔で答えてくれた。
「しかし、見た目は全く別人だな。声も全く違うし、今回のようなことがなければおまえ達とはわからなかったと思うぞ。」
「さすがにこの件に関してはかなり慎重にしないといけないので・・・。そもそも治療の訓練のために始めただけなので崇高な目的があるわけではないんですよ。それなのになぜか話が大きくなってしまって・・・。」
しばらく話をした後、いろいろと今後の話をしてから部屋を出る。宿に戻ってから夕食にいつものビーフシチューをお願いする。もう少し遅かったら二人の治療はできなかったかもしれな。このタイミングで帰ってこれて良かったよなあ・・・。
翌日はいつもの時間に起きたあと、朝食をとってからいったん役場に向かう。夕べの内にクラーエルの二人が来ていたらしく、運良くさすらいの治癒士に治療してもらえたと報告していたようだ。
ただ冒険者は正式に引退することにしたらしく、世話になった冒険者達はかなり残念がっていた。でも引退すると言いながら近くで魔獣狩りをしていそうだなといっていたけどね。まあ冒険者としてわざわざ登録を破棄する人はそうそういないしね。
いろいろと冒険者達と話をしていると、風の翼のメンバーがやってきて声をかけてきた。
「「「ジェニファーさん!!ありがとう!!おかげで彼女ができたよ!」」」
なぜか自分より先にジェンの方に挨拶に行かれてしまった。どうしたんだ?
「いえ?あの?私なにかしました?」
「前に話したとき、女性と話すときには自分の好きな話、できる話をして格好をつける必要は無いって言ってくれただろ?その言葉を聞いて無理しないで話をしたんだ。そうしたら興味ない女性も多かったが、話を熱心に聞いてくれる女性もいたんだ。」
「そうそう、それでうまく付き合いができるようになってな、こいつはもうすぐ結婚する予定なんだよ。」
「ありがとう。」
どうやら彼女ができないことについてジェンから聞いたことを実践して彼女ができたらしい。まあもともとちょっと強面だったりするけど、見た目がそんなに悪いわけでもなかったし、女性とはうまく話せなかったらしいけど、面倒見もよかった人達だからね。
「それじゃあパーティーのメンバーが替わったりするんですか?」
「いや、付き合っている相手は全員冒険者じゃないんだ。だからパーティーはこのまま活動する予定だよ。まあ町から離れることもあるが、戻ってきたときに家と家族があると言うのもいいもんだからな。」
「まあおまえ達みたいに夫婦での冒険者というのもいつも一緒にいられていいものだろうがな。」
「いえ、別に夫婦というわけでは・・・。」
なぜか三人が顔を見合わせている。
「ジェニファーさん、ちょっとジュンイチをお借りするね。」
外に連れて行かれて3人に詰め寄られる。
「・・・おい、もしかしてまだ付き合っていないとか言うんじゃないだろうな?」
「あの・・・その・・・付き合っているわけではないです。」
「どういうことだよ!一緒の部屋に寝ている状態で1年近くだろ。それでなんで付き合っていないなんていえるんだ?もしかして関係を持っていないのか?」
「いや、その、正直ジェンとは付き合いたいとは思いますし、ジェンも好意は持ってくれているとは思うんですけど、ジェンには故郷に大切な人がいると言われているのでその間に手を出すわけにはいかないでしょう?
そもそもジェンが相手だと俺なんかじゃ釣り合わないですし・・・。」
なぜか3人ともあきれた顔をしていた。
「おまえまだそんなことを言っているのか?」
「あまりに自分を卑下しすぎだろう?おまえは十分魅力があるぞ。なんでそんなに自分が魅力無いような言動をするんだ?」
「いくらなんでも鈍感すぎるぞ。俺たちも人のことはいえなかったかもしれないが、おまえはひどすぎだ。」
どう考えてもジェンは自分に対してかなり好意を持っているはずだし、自分も十分釣り合っていると言われる。故郷に大切な人がいると言われていたとしても本気で好きなのならちゃんと話をしてみろと言われてしまった。
「・・・わかりました。ジェンとはどこか一度話てみようと思います。この後行くサクラに話せそうな人達がいるので相談してみます。」
「よし、絶対だぞ。そして結婚することになったら連絡をくれよな!お祝いに行くからな。」
「いや、いきなりそれは無いですよ。」
3人に解放されてからジェンと一緒にカサス商会へ。ジェンには何があったかはごまかしておいたけど、何を言われたのかある程度わかっていそうだな。でも腕に絡みついてくるのは恥ずかしいからやめてくれ。
支店長のユニスさんに会ってから新しい魔道具の話をする。スキルも上がってきて、重量軽減の魔道具で70%近く軽減できるものまで作れるようになったことを伝えていくつかのサンプルを渡しておいた。ただこちらについては造るのに時間がかかるため、納品は時間がかかることは言っておく。
今までのは10kgの感覚で20kg運べるものが30kgまでになるのはいいんだけど、容量の問題もあるのでどこまで需要があるのかがわからないんだよね。
自分たちも重さ的に運べても容量が大きくて結構つらかった記憶があるからなあ。まあ金属系など重い素材を運ぶときにはかなり便利にはなるんだけどね。
このあとアルマエラさんのいる教会に行くと、自分のことを覚えてくれていたようだ。治癒士としてはどうなのか聞いてきたので結構頑張っていますとだけ言っておいた。
さすらいの治癒士という方が出てきて治療をしていることは教会でも少し噂になっているらしい。ただほんとにそんな人がいるのかは眉唾だからわからないけど、少しでも助かる人が増えるといいわと言っていた。とりあえずまだ本格的にばれているわけではなさそうなので大丈夫かな?
このあと変装してから孤児院にもよって治療をしていく。さすがにこの町に来ていることがわかっているのにここに来ないというのはちょっと不自然すぎるからね。ただしアーマトはまだ孤児院の環境はいいみたいでそこまでひどい症状の人はいなかった。それでも治療をしたことはかなり喜ばれた。せっかくなので今回も肉などの差し入れをしていく。
この日の夜はクラーエルの2人と一緒に食事をすることにした。せっかくだからと彼女たちもやってきたんだけど、幸せそうで何よりだ。
翌日は一日買い物したりしてのんびりと過ごし、夜には風の翼のメンバーと彼女たちと一緒に食事をした。なれそめなどかなりのろけていたけど幸せそうだ。結婚式の案内を送るので都合がつけばやってきてほしいと言われる。
さすがに移動に時間もかかるけど、せっかくなら参加してみたいなあ。まあそれ以前にクリスさん達の結婚式が先にあるんだけどね。
さらに翌日の朝一で出発することにしたんだけど、クラーエルや風の翼の人たちは朝早いにもかかわらず見送りに来てくれたのは嬉しかった。最後にまたハッパをかけられたけどね。
アーマトの町を出発してサクラへ向かったけど、山越えのルートはまだ雪があってやめた方がいいと言われたので山の北側の方を抜けていくしかない。遠回りになるけど仕方が無いだろう。
かなり速いペースで走ったんだけど、思ったよりも時間がかかって到着したのは15日後だった。まあ山越えでも普通はそのくらいかかるし、こっちのルートだと20日以上はかかるのが普通だからね。
途中はいつも通りに拠点での宿泊だったんだけど、拠点が快適すぎて宿に泊まるのももったいなくなってるんだよね。温泉とかあればいいけどこの辺りはないみたいだしね。
サクラの入場口にはすでに行列ができており入場にはかなり時間がかかるがしょうがない。1時間ほどかかってなんとか町に入り、まずは宿の予約に向かう。今回もシルバーフローという前に泊まったところにする。ここは大浴場があるのがうれしい。
結婚式の日程は4月20日と聞いていたのでそれまで20日分の宿の予約をしようと思ったんだけど、5日前からは満室で予約が取れなかったよ。失敗したなあ。
「たぶんどこの宿も同じだと思いますよ。」と言われて宿泊は断念した。まあかなり安い宿だったら空いているかもしれないけど、それなら拠点の方がいいな。町に入るのが面倒になるけどそこは仕方が無いだろう。とりあえず15日分の予約だけは済ませておく。
結婚式の詳細を聞こうと思ってスレインさんの家に行ってみたけど、残念ながら出かけているみたいで不在だった。管理人のジャニーさんとルリアンさんに話を聞くと、王家での用事があるから数日出かけてくると言って出て行ったらしい。残念ながら詳細については教えてくれなかったようだ。
結婚式は昼すぎからサクラの町の神殿で行われるようだ。王族から離れてしまっているので大々的なパレードはないみたいだけど、やはりお披露目は必要だろうと言うことで神殿の周りを回ることになったらしい。大変だねえ・・・。
その後にパーティーもあるようなんだけど、自分たちがどこからどこまで招待されているかはわからないので戻ってきたらすぐに連絡をくれるようにお願いした。まあどうせその日は一日時間を空けているからいいんだけどね。
「一応ハクセンで作ってもらった服があるけど、出席の場合はそれでもいいんだよね?」
「そのつもりだったけど、やっぱり誰かに確認した方がいいかしら。完全に衣装のことを考えてなかったわね。もしダメだった場合、今からお願いして間に合うかしら?」
「とりあえず確認も含めてカサス商会で聞いてみよう。作らないといけない場合はコーランさんに言えばどこか間に合うところも紹介してくれると思うし。」
カサス商会に行くと、カルニアさんがすぐにやってきてコーランさんを含めてすぐに魔道具の話になった。アーマトで渡しておいた試作品を追加で納めてほしいと言うことだった。重量が3倍まで大丈夫というのはそれはそれでかなり需要を見込めるみたい。
今までのものも需要はあるので、そっちも定期的に納めることにしてほしいようだ。今回のは値段は高くなるけど、特に商人に需要は出てくるだろうという見込みらしい。
試作品で造っておいた10個だけを渡して、あとはでき次第渡していくことにした。作業時間を考えて、1個あたり4500ドールで買い取ってくれるようだ。そのほか商売についての話をしていると思ったよりも時間がかかってしまったよ。
今回のクリスさんの結婚式に招待されている話をすると、コーランさんもかなり驚いていたようだ。コーランさんも神殿で行われる結婚式には招待されるらしい。すでに招待状はもらっているみたいなんだけど、自分たちはどうなるんだろう?
「実は正式な結婚式じゃなくてその後で身内でのお祝いに招待ってことなのかしら?」
「でも4月に行われる結婚式に出てほしいと書かれていたからなあ・・・。まあ、特に準備があるわけでもないから後で聞いても十分間に合うと思うけどね。そうだ、もし式に出る場合はちゃんとした服じゃないとまずいですよね?」
「そうですね、神殿での式だけでもできれば正装をした方がよいと思いますよ。もし必要であればうちでも取り扱っていますので準備しましょうか?」
「一応持ってはいるんですが、ハクセンで作ってもらったものなので使えるかどうかが分からないんですよ。これなんですけど。」
収納バッグにしまっていた服を取り出してコーランさんに見せる。
「確かに正装なのでこれでも大丈夫ですが、これは主に式典などに使うものなので結婚式の場合は別の方がいいかもしれませんね。」
「そうなんですね。それじゃあお願いしたいのですが、まだ間に合いますかね?」
「ええ、フルオーダーだとさすがに無理ですが、既製品からの調整であれば十分に間に合いますよ。それじゃあこの後お店に案内します。」
急遽服を準備することとなり、体の採寸からデザイン決めまで行うこととなった。伝統的な衣装もあるようなんだけど、無難な形の物にしてもらった。それなりにお金はかかるが、フルオーダーよりはましだ。
男性の正装はちょっと派手な感じのスーツみたいなものだったのでそこまで違和感はなかった。シャツを着てからその上に上着を着るという感じで、首には蝶ネクタイのような物をつけるみたいだ。
女性はよくあるドレスというわけではなく、男性よりはきらびやかだけど、同じくスーツのような感じだ。正式な場ではスカートではなくズボンとなるらしい。ただ上着の裾が少し長くてスカートのようにはなっているんだけどね。
たしかに町の中でもスカートをはいている人はあまりいなかったように思う。スカートをはいていても下のズボンのような物を履いているパターンが多かったからね。
ハクセンで作ったものは基本的な形は似ているけど、もっとシンプルな感じだったので、あっちを着ていたらちょっとずれていたかもしれないね。
あと女性はネックレスとかをつけるみたいだだけど、今の魔道具でもいいらしい。でも流石にネックレスくらいを見繕ってやったほうがいいよなあ。まだ時間もあるので専門店にでも見に行こうかな。
思ったよりも時間がかかったけど、これで結婚式に呼ばれたとしても服装は大丈夫っぽいな。コーランさんが手配した店なので間に合わないと言うことはないだろう。
宿に戻ってから今日は宿の食堂で夕食を食べる。眺めもいいしいいところだ。まあ高いけどこれはしょうがない。
部屋に戻ってから大浴場でゆっくりお風呂に使って部屋に戻る。やはり車での移動は疲れるみたいで速攻で眠りに落ちた。
~魔獣紹介~
蹴兎
良階位中位の魔獣。森や草原、山岳地帯などあらゆる場所に穴を掘って生活している。牙兎が進化した魔獣で、後ろ足がかなり大きくなっている。耳が大きく、音に敏感なため、先に見つけるのは難しい。
獲物を見つけると一気に突進してきて、大きな後ろ足で攻撃してくる。後ろ足には鋭い爪もあり、打撃だけでなく、裂傷にも注意が必要。動きが素早く、攻撃を当てることが難しいが、動きが直線的なので軌道を読んで攻撃することが有効となる。魔法は効きにくく、風魔法も使ってくるので注意が必要。
素材としての買い取り対象は肉と毛皮となるが、毛皮の需要は高く、特に傷の少ないものは珍重される。
久しぶりにアーマトの町に戻ってきた。さっそく宿屋カイランに行ってみると、前に来たときよりも大きくなったカインが受付をしていた。
「お久しぶり!!部屋は開いてる?」
「ジュンイチさんじゃないですか!お久しぶりです。部屋は大丈夫ですよ。シングル二つですか?」
「いや、今回はツインの部屋でお願いするよ。」
「わかりました。1泊900ドールになります。」
「それじゃあとりあえず2泊お願いね。」
カイドルンとランミル夫妻にも少し挨拶をしてから役場へと向かう。
「カイルさんこんにちは。お久しぶりです。」
前いたときにお世話になったカイルさんに声をかける。
「あら~、ジュンイチさん、お久しぶりです。なんか立派になったわね~。かなりがんばったみたいね。こっちに戻ってきたの?しばらくここを拠点とするつもりなのかしら?」
「あちこち行きながら魔獣を狩ったりしているんですけど、今はサクラに行く途中です。なので数日したら出発する予定ですよ。申し訳ありません。」
「そうなんですね~。一応登録だけしておきましょうか?」
「お願いします。」
このあと他の冒険者のことについて少し話をする。ユータとカナのことも知っているみたいで、トルイサの町で頑張っていることを伝えると喜んでいた。
風の翼やクラーエルのことを聞いたんだが、クラーエルの二人は最近大けがを負って引退するかもしれないという話を聞いて驚いた。今は宿ではなく知り合いの家で療養しているらしいので近くにいた冒険者に場所を聞いていってみることにした。
住んでいるのはアパートの一室で、部屋を訪ねると中から女性が出てきた。クラーエルの二人に世話になった冒険者と説明すると中に通してくれた。部屋にはもう一人女性がいたんだけど、この二人が彼女って言っていた人なのかな?二人はベッドで休んでいた。
「お久しぶりです。」
「おお、ジュンイチとジェニファーか。久しぶりだな。」
「大丈夫?ではないですよね。」
「まあな。話を聞いてきたんだろ?さすがにいい年にもなってきたのでそろそろ引退を考えていたんだがな。最後に一踏ん張りと無理をしたのがまずかったよ。良階位の魔獣が出てきてな、なんとか倒すことができたんだが、このざまだ。」
「まあ、あきらめがついてよかったんだけどな。ただこれだとエルザ達には愛想を尽かされたかもしれないな。」
「なにいってるのよ!!」
「こんなことで見捨てるとでも思っていたの!私達を甘く見ないでよ!!」
椅子に座っていた女性二人が大声で怒りだした。彼女がアマニエルさんの彼女のエルザさんなんだろう。
話を聞くと、やられたのは一昨日だったみたいで、クーラストさんは右手の親指から中指までが手のひらの半分ごとなくなっており、アマニエルさんは右足の足首から先がなくなっていた。とりあえず初期治療で出血は止まっているんだけど、まだ治療はちゃんと行われていないようだ。
「怪我は治せるんですか?」
「アマニエルの足の食いちぎられた先は回収できたんで今は役場で保管してもらっている。1週間は保管してくれているので、その間に治療をすれば治る可能性はある。俺の手の方も一応治療で治る可能性はあるらしい。
ただ上級の治癒魔法でしか無理なのでさすがにお金がな。最低でも50万ドールくらいかかるし、それで治るという保証もないのにそんなお金を出せるわけがない。不便だがこれでも生きていけないわけじゃないからな。」
良階位の冒険者ならなんとかなる金額なんだけど、上階位の冒険者だとこの金額は難しいだろうな。しかも怪我してから時間が経過すればするほど治る可能性は低くなっていくからなあ。
「もし治ったとしたら冒険者としてまた復帰するつもりなんですか?」
「いや、俺たちはもうやりきったと思っている。今回のことがなくてもあいつらの仕事を手伝っていこうと思っていたんだ。それなのにそんな金額をかけてまで治療をする訳にもいかないからな。」
少し考えたんだけど、やっぱりやってみようかとジェンの方を見ると、うなずいてくれた。
「クーラストさん、自分の知り合いに無償で治療をしてくれる人がいます。なんとか連絡してみようと思っていますので治療を受けてみませんか?」
「もしかしてさすらいの治癒士のことか?ほんとにいるのか?」
「こう見えてもいろいろと伝があるんですよ。こっちの方に向かっているという話を聞いていたのでなんとか連絡してみようと思います。もし連絡が取れるようであれば役場で足と指を回収してきてくれませんか?ただ、このことは絶対に秘密にしてください。もしこのことが広まったらもう連絡がとれなくなってしまいますので。」
二人はうなずき合って女性達にお願いしていた。
「それではもしやってきたら中に入れてやってください。あまり治療の現場を見られたくないと言うことなので自分たちも同席できませんので・・・。」
いったん家の外に出て、しばらくしてから変装して家を再び訪ねる。
「ジュンイチとジェニファーから依頼された。クーラストとアマニエルという二人の治療をお願いしたいと言われてきたが、ここでいいのか?」
「ほんとに治療にやって来てくださったんですね。間違いありません、よろしくお願いします。」
「私たちは治療の修行中なので絶対に治るという保証はない。ただお金も取るつもりはないのでそれに同意してくれるのなら治療を行おう。」
「ああ、どっちにしろ治療をするお金もないから失敗したとしても文句は言わねえよ。」
彼女たちに欠損した部位を回収してきてもらい、早速治療に取りかかる。ジェンにはクーラストさんをお願いして、自分はアマニエルさんの治療を行うことにした。ジェンと二人で治療のイメージを確認してから取りかかる。
左足をみて右足のイメージを造り、足の切り落とされたところから遺伝子レベルで細胞を復元させる。骨、血管、筋肉、神経など事前に確認した人体の模型図を思い浮かべながら魔力を注ぎ込んでいく。
しばらくすると足の切り落とされた断面と切り取られた足の断面の間を埋めるように細胞が伸びていき、足の形ができてきた。思ったよりも神経を使う上、時間もかかる。すべての形ができあがるのに30分以上はかかったかもしれない。
ジェンの方も無事に治療ができたみたいでクーラストさんの手も元通りになったようだ。ただ二人とも復元した部分はかなり綺麗な状態になってしまっているけど、そこはしょうがないと諦めてもらおう。
クーラストさんは指が復元されたところだけ肌の色がちょっと違和感があるけど、動かす分には問題が無いようだ。ある程度反対の手をベースにしているんだけど、やっぱりその部分の筋力は少し落ちているみたいなのでしばらくはリハビリしないといけないだろうけどね。
治療といっても時間を遡るわけではなく、細胞の持っている遺伝子情報をもとに体の組織を作り直すわけだからね。筋肉などについては鍛えた状態までもとに戻すのは結構イメージが大変だ。いくらイメージしても限度がある。ある意味自分の体の治療とかの方がうまくイメージできるのかもしれない。
「どうだろうか?」
「すごい・・・。ほんとに治った。治ってるぞ!」
そう言いながら二人は怪我をしていた足や指を動かしている。よかった、ちゃんと再生できたみたいだ。かなり精神的に疲れるけど、無事にできてよかったよ。
「ありがとう、ありがとう!!ジュンイチ!」
「いえ、自分がここに来たときにいろいろと助言をしていただいたことがあるからこそ、自分もここまでこれたんで・・・あっ・・・・。」
「バカ・・・。」
「・・・やっぱり、ジュンイチだったか。ってことは、そっちはジェニファーか。」
油断してつい返事してしまったよ・・・。
「おおかた予想は付いていたかもしれませんが、いろいろあって治療ができることは隠しておきたいんです。このことは絶対に内密にしてください。」
「ああ、わかってるさ。冒険者が治癒魔法のレベルを隠すのは普通にあることだ。まあ上級治癒魔法まで使えるやつはそうそういないけどな。そもそも、いくら伝があると言ってもここまで都合良く治療にやって来られるというのは普通はあり得ないしな。」
「まあ一応建前と言うこともありますので・・・。面倒をかけて申し訳ありません。」
「いや、ここまでしてくれて文句はねえよ。成功率を上げるために少しでも早く治療をしたかったんだろう?本気で隠すつもりだったらもっと時間をかけていただろうしな。
俺たちは運良くさすらいの治癒士に助けてもらっただけだ。ジュンイチもジェニファーもお見舞いに来てくれただけだからな。」
アマニエルさんもクーラストさんも彼女の二人も満面の笑顔で答えてくれた。
「しかし、見た目は全く別人だな。声も全く違うし、今回のようなことがなければおまえ達とはわからなかったと思うぞ。」
「さすがにこの件に関してはかなり慎重にしないといけないので・・・。そもそも治療の訓練のために始めただけなので崇高な目的があるわけではないんですよ。それなのになぜか話が大きくなってしまって・・・。」
しばらく話をした後、いろいろと今後の話をしてから部屋を出る。宿に戻ってから夕食にいつものビーフシチューをお願いする。もう少し遅かったら二人の治療はできなかったかもしれな。このタイミングで帰ってこれて良かったよなあ・・・。
翌日はいつもの時間に起きたあと、朝食をとってからいったん役場に向かう。夕べの内にクラーエルの二人が来ていたらしく、運良くさすらいの治癒士に治療してもらえたと報告していたようだ。
ただ冒険者は正式に引退することにしたらしく、世話になった冒険者達はかなり残念がっていた。でも引退すると言いながら近くで魔獣狩りをしていそうだなといっていたけどね。まあ冒険者としてわざわざ登録を破棄する人はそうそういないしね。
いろいろと冒険者達と話をしていると、風の翼のメンバーがやってきて声をかけてきた。
「「「ジェニファーさん!!ありがとう!!おかげで彼女ができたよ!」」」
なぜか自分より先にジェンの方に挨拶に行かれてしまった。どうしたんだ?
「いえ?あの?私なにかしました?」
「前に話したとき、女性と話すときには自分の好きな話、できる話をして格好をつける必要は無いって言ってくれただろ?その言葉を聞いて無理しないで話をしたんだ。そうしたら興味ない女性も多かったが、話を熱心に聞いてくれる女性もいたんだ。」
「そうそう、それでうまく付き合いができるようになってな、こいつはもうすぐ結婚する予定なんだよ。」
「ありがとう。」
どうやら彼女ができないことについてジェンから聞いたことを実践して彼女ができたらしい。まあもともとちょっと強面だったりするけど、見た目がそんなに悪いわけでもなかったし、女性とはうまく話せなかったらしいけど、面倒見もよかった人達だからね。
「それじゃあパーティーのメンバーが替わったりするんですか?」
「いや、付き合っている相手は全員冒険者じゃないんだ。だからパーティーはこのまま活動する予定だよ。まあ町から離れることもあるが、戻ってきたときに家と家族があると言うのもいいもんだからな。」
「まあおまえ達みたいに夫婦での冒険者というのもいつも一緒にいられていいものだろうがな。」
「いえ、別に夫婦というわけでは・・・。」
なぜか三人が顔を見合わせている。
「ジェニファーさん、ちょっとジュンイチをお借りするね。」
外に連れて行かれて3人に詰め寄られる。
「・・・おい、もしかしてまだ付き合っていないとか言うんじゃないだろうな?」
「あの・・・その・・・付き合っているわけではないです。」
「どういうことだよ!一緒の部屋に寝ている状態で1年近くだろ。それでなんで付き合っていないなんていえるんだ?もしかして関係を持っていないのか?」
「いや、その、正直ジェンとは付き合いたいとは思いますし、ジェンも好意は持ってくれているとは思うんですけど、ジェンには故郷に大切な人がいると言われているのでその間に手を出すわけにはいかないでしょう?
そもそもジェンが相手だと俺なんかじゃ釣り合わないですし・・・。」
なぜか3人ともあきれた顔をしていた。
「おまえまだそんなことを言っているのか?」
「あまりに自分を卑下しすぎだろう?おまえは十分魅力があるぞ。なんでそんなに自分が魅力無いような言動をするんだ?」
「いくらなんでも鈍感すぎるぞ。俺たちも人のことはいえなかったかもしれないが、おまえはひどすぎだ。」
どう考えてもジェンは自分に対してかなり好意を持っているはずだし、自分も十分釣り合っていると言われる。故郷に大切な人がいると言われていたとしても本気で好きなのならちゃんと話をしてみろと言われてしまった。
「・・・わかりました。ジェンとはどこか一度話てみようと思います。この後行くサクラに話せそうな人達がいるので相談してみます。」
「よし、絶対だぞ。そして結婚することになったら連絡をくれよな!お祝いに行くからな。」
「いや、いきなりそれは無いですよ。」
3人に解放されてからジェンと一緒にカサス商会へ。ジェンには何があったかはごまかしておいたけど、何を言われたのかある程度わかっていそうだな。でも腕に絡みついてくるのは恥ずかしいからやめてくれ。
支店長のユニスさんに会ってから新しい魔道具の話をする。スキルも上がってきて、重量軽減の魔道具で70%近く軽減できるものまで作れるようになったことを伝えていくつかのサンプルを渡しておいた。ただこちらについては造るのに時間がかかるため、納品は時間がかかることは言っておく。
今までのは10kgの感覚で20kg運べるものが30kgまでになるのはいいんだけど、容量の問題もあるのでどこまで需要があるのかがわからないんだよね。
自分たちも重さ的に運べても容量が大きくて結構つらかった記憶があるからなあ。まあ金属系など重い素材を運ぶときにはかなり便利にはなるんだけどね。
このあとアルマエラさんのいる教会に行くと、自分のことを覚えてくれていたようだ。治癒士としてはどうなのか聞いてきたので結構頑張っていますとだけ言っておいた。
さすらいの治癒士という方が出てきて治療をしていることは教会でも少し噂になっているらしい。ただほんとにそんな人がいるのかは眉唾だからわからないけど、少しでも助かる人が増えるといいわと言っていた。とりあえずまだ本格的にばれているわけではなさそうなので大丈夫かな?
このあと変装してから孤児院にもよって治療をしていく。さすがにこの町に来ていることがわかっているのにここに来ないというのはちょっと不自然すぎるからね。ただしアーマトはまだ孤児院の環境はいいみたいでそこまでひどい症状の人はいなかった。それでも治療をしたことはかなり喜ばれた。せっかくなので今回も肉などの差し入れをしていく。
この日の夜はクラーエルの2人と一緒に食事をすることにした。せっかくだからと彼女たちもやってきたんだけど、幸せそうで何よりだ。
翌日は一日買い物したりしてのんびりと過ごし、夜には風の翼のメンバーと彼女たちと一緒に食事をした。なれそめなどかなりのろけていたけど幸せそうだ。結婚式の案内を送るので都合がつけばやってきてほしいと言われる。
さすがに移動に時間もかかるけど、せっかくなら参加してみたいなあ。まあそれ以前にクリスさん達の結婚式が先にあるんだけどね。
さらに翌日の朝一で出発することにしたんだけど、クラーエルや風の翼の人たちは朝早いにもかかわらず見送りに来てくれたのは嬉しかった。最後にまたハッパをかけられたけどね。
アーマトの町を出発してサクラへ向かったけど、山越えのルートはまだ雪があってやめた方がいいと言われたので山の北側の方を抜けていくしかない。遠回りになるけど仕方が無いだろう。
かなり速いペースで走ったんだけど、思ったよりも時間がかかって到着したのは15日後だった。まあ山越えでも普通はそのくらいかかるし、こっちのルートだと20日以上はかかるのが普通だからね。
途中はいつも通りに拠点での宿泊だったんだけど、拠点が快適すぎて宿に泊まるのももったいなくなってるんだよね。温泉とかあればいいけどこの辺りはないみたいだしね。
サクラの入場口にはすでに行列ができており入場にはかなり時間がかかるがしょうがない。1時間ほどかかってなんとか町に入り、まずは宿の予約に向かう。今回もシルバーフローという前に泊まったところにする。ここは大浴場があるのがうれしい。
結婚式の日程は4月20日と聞いていたのでそれまで20日分の宿の予約をしようと思ったんだけど、5日前からは満室で予約が取れなかったよ。失敗したなあ。
「たぶんどこの宿も同じだと思いますよ。」と言われて宿泊は断念した。まあかなり安い宿だったら空いているかもしれないけど、それなら拠点の方がいいな。町に入るのが面倒になるけどそこは仕方が無いだろう。とりあえず15日分の予約だけは済ませておく。
結婚式の詳細を聞こうと思ってスレインさんの家に行ってみたけど、残念ながら出かけているみたいで不在だった。管理人のジャニーさんとルリアンさんに話を聞くと、王家での用事があるから数日出かけてくると言って出て行ったらしい。残念ながら詳細については教えてくれなかったようだ。
結婚式は昼すぎからサクラの町の神殿で行われるようだ。王族から離れてしまっているので大々的なパレードはないみたいだけど、やはりお披露目は必要だろうと言うことで神殿の周りを回ることになったらしい。大変だねえ・・・。
その後にパーティーもあるようなんだけど、自分たちがどこからどこまで招待されているかはわからないので戻ってきたらすぐに連絡をくれるようにお願いした。まあどうせその日は一日時間を空けているからいいんだけどね。
「一応ハクセンで作ってもらった服があるけど、出席の場合はそれでもいいんだよね?」
「そのつもりだったけど、やっぱり誰かに確認した方がいいかしら。完全に衣装のことを考えてなかったわね。もしダメだった場合、今からお願いして間に合うかしら?」
「とりあえず確認も含めてカサス商会で聞いてみよう。作らないといけない場合はコーランさんに言えばどこか間に合うところも紹介してくれると思うし。」
カサス商会に行くと、カルニアさんがすぐにやってきてコーランさんを含めてすぐに魔道具の話になった。アーマトで渡しておいた試作品を追加で納めてほしいと言うことだった。重量が3倍まで大丈夫というのはそれはそれでかなり需要を見込めるみたい。
今までのものも需要はあるので、そっちも定期的に納めることにしてほしいようだ。今回のは値段は高くなるけど、特に商人に需要は出てくるだろうという見込みらしい。
試作品で造っておいた10個だけを渡して、あとはでき次第渡していくことにした。作業時間を考えて、1個あたり4500ドールで買い取ってくれるようだ。そのほか商売についての話をしていると思ったよりも時間がかかってしまったよ。
今回のクリスさんの結婚式に招待されている話をすると、コーランさんもかなり驚いていたようだ。コーランさんも神殿で行われる結婚式には招待されるらしい。すでに招待状はもらっているみたいなんだけど、自分たちはどうなるんだろう?
「実は正式な結婚式じゃなくてその後で身内でのお祝いに招待ってことなのかしら?」
「でも4月に行われる結婚式に出てほしいと書かれていたからなあ・・・。まあ、特に準備があるわけでもないから後で聞いても十分間に合うと思うけどね。そうだ、もし式に出る場合はちゃんとした服じゃないとまずいですよね?」
「そうですね、神殿での式だけでもできれば正装をした方がよいと思いますよ。もし必要であればうちでも取り扱っていますので準備しましょうか?」
「一応持ってはいるんですが、ハクセンで作ってもらったものなので使えるかどうかが分からないんですよ。これなんですけど。」
収納バッグにしまっていた服を取り出してコーランさんに見せる。
「確かに正装なのでこれでも大丈夫ですが、これは主に式典などに使うものなので結婚式の場合は別の方がいいかもしれませんね。」
「そうなんですね。それじゃあお願いしたいのですが、まだ間に合いますかね?」
「ええ、フルオーダーだとさすがに無理ですが、既製品からの調整であれば十分に間に合いますよ。それじゃあこの後お店に案内します。」
急遽服を準備することとなり、体の採寸からデザイン決めまで行うこととなった。伝統的な衣装もあるようなんだけど、無難な形の物にしてもらった。それなりにお金はかかるが、フルオーダーよりはましだ。
男性の正装はちょっと派手な感じのスーツみたいなものだったのでそこまで違和感はなかった。シャツを着てからその上に上着を着るという感じで、首には蝶ネクタイのような物をつけるみたいだ。
女性はよくあるドレスというわけではなく、男性よりはきらびやかだけど、同じくスーツのような感じだ。正式な場ではスカートではなくズボンとなるらしい。ただ上着の裾が少し長くてスカートのようにはなっているんだけどね。
たしかに町の中でもスカートをはいている人はあまりいなかったように思う。スカートをはいていても下のズボンのような物を履いているパターンが多かったからね。
ハクセンで作ったものは基本的な形は似ているけど、もっとシンプルな感じだったので、あっちを着ていたらちょっとずれていたかもしれないね。
あと女性はネックレスとかをつけるみたいだだけど、今の魔道具でもいいらしい。でも流石にネックレスくらいを見繕ってやったほうがいいよなあ。まだ時間もあるので専門店にでも見に行こうかな。
思ったよりも時間がかかったけど、これで結婚式に呼ばれたとしても服装は大丈夫っぽいな。コーランさんが手配した店なので間に合わないと言うことはないだろう。
宿に戻ってから今日は宿の食堂で夕食を食べる。眺めもいいしいいところだ。まあ高いけどこれはしょうがない。
部屋に戻ってから大浴場でゆっくりお風呂に使って部屋に戻る。やはり車での移動は疲れるみたいで速攻で眠りに落ちた。
~魔獣紹介~
蹴兎
良階位中位の魔獣。森や草原、山岳地帯などあらゆる場所に穴を掘って生活している。牙兎が進化した魔獣で、後ろ足がかなり大きくなっている。耳が大きく、音に敏感なため、先に見つけるのは難しい。
獲物を見つけると一気に突進してきて、大きな後ろ足で攻撃してくる。後ろ足には鋭い爪もあり、打撃だけでなく、裂傷にも注意が必要。動きが素早く、攻撃を当てることが難しいが、動きが直線的なので軌道を読んで攻撃することが有効となる。魔法は効きにくく、風魔法も使ってくるので注意が必要。
素材としての買い取り対象は肉と毛皮となるが、毛皮の需要は高く、特に傷の少ないものは珍重される。
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