【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

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69. 異世界778日目 王家の婚姻の試練

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69. 異世界778日目 王家の婚姻の試練
 翌朝、宿で朝食をとってから役場に向かうと、ちょうど連絡しようと思っていましたと言われて部屋に案内される。

「人捜しの緊急依頼なんですが、かなり重要な案件らしくて指名依頼となります。」

「自分たちですか?」

「詳細についてはこちらも確認できていませんが、王宮からの依頼ですので変な案件ではないはずです。このあと王宮に向かってもらえますか?身分証明証を見せれば中に案内してくれる手はずになっています。」

「わ、わかりました。」

 王宮と言うことはクリスさんに係わることとかだろうか?


 大急ぎで王宮に向かって受付に話すとすぐに通してくれた。えらく簡単に通してくれたな?兵士に案内されて部屋に入ると、兵士だけでなく、国王陛下が座っていて驚いた。なにごと?席に着くとすぐに話が始まった。

「突然の話で驚いたと思うが、少し話を聞いてくれるか?非公式の場なので普通に話してもらってかまわない。」

「は、はい。」

 二日前にクリスさんたちは王族が結婚する場合に行う試練に向かったようだ。試練と行ってもこの町から少し離れたところにある古代遺跡に王家の印を奉納する儀式らしく、国王陛下だけでなく、王家の男性とその相手は全員行く行事らしい。
 今回も今までと同じように簡単に終わる儀式のはずだった。事前に遺跡内の魔獣はすべて退治されており、危険は無いはずだった。奉納の場に5人が入って行ったんだけど、規定の時間を過ぎても出てこなかったらしい。しばらくして儀式の見届け人が中を確認したところ5人の姿がなかったようだ。
 誘拐の可能性については周りに兵士がいたことから考えにくく、索敵で確認を行っていた兵士の話だと突然気配が消えてしまったと言っていた。
 すぐに調査が開始され、さらに遺跡などに詳しい冒険者や学者にも調査を依頼したが全く進展がなかったようだ。

「なぜ自分たちに話が来たのでしょうか?」

「クリスから二人のことは聞いていたが、海賊の宝の依頼達成、アルモニアでの遺跡の調査結果とその実績、他にもいろいろと実績を聞いたのでな。冒険者としての実績は少ないが、遺跡に関する調査能力については優れているという判断だ。
 解決できなくてもなにか手がかりだけでも見つけてくれないかと思っているのだ。依頼を受けてくれるのであればできる限りの情報は提供しよう。」

 うーん、どうするか?とりあえず詳細を聞かないとわからないし、クリスさんたちのことも気になる。ジェンの方を見てもうなずいている。

「わかりました。どこまでできるかわかりませんが、友人のクリストフ殿下たちのことでもありますので精一杯やらせてもらいたいと思います。」

 内容については口外しないことを条件に話を聞くことになった。

 王家の試練の儀式で使う物の一つは道しるべの玉のことだった。対外的にはただの案内の道具と言うことになっているが、古代文明の遺物ということはわかっているようだ。
 儀式というのはこの道しるべの玉に示される王家の遺跡にある祭壇に赴き、そこに書かれている王家の誓いを宣誓して王家の印をそこに奉納してくるというもののようだ。

 王家の遺跡は車で30分くらい走ったところみたいなので後で行くことにして、まずはその道しるべの玉を見せてもらう。


 ここからマイスターという係の人に変わり、前に見せてもらった宝物庫に案内される。いくつかある道しるべの玉は白色で、鑑定してみると転送の機能はすでに使用された後だった。

名称:道しるべの玉(並)
詳細:登録した場所までの残りの距離を示す。転移魔法を使うときの道しるべとなる。必要魔素がある場合に限り、1回のみ登録地点に転移することができる。
品質:並
耐久性:並
効果:並
効力:現在地表示-1、地点登録-1、転移-1(使用不可)

 魔素を流してみると、数字が表示されたが、どの玉も同じ場所を示しているようだ。

「行く場所はここに表示される場所が0になる地点と言うことですか?」

「よくわかりましたね?ああ、前に見たことがあるという話でしたね。示される数字の前の文字については意味がわかっていませんが、その後にある二つの数字が0となるところにある祭壇が目的地となります。」

「全部が0の場所というわけではないんですね?」

「そうですね、最後の数値は0にはなりません。」

「ちょっと相談させてください。」

『まだ遺跡の場所には行ってないけど、おそらく道しるべの玉で転移してしまったと思った方がいいよね?三つ目のうらの位置が0になっていないと言うことはおそらく地下か上空ってことになるんじゃないかな?』

『そう考えるのが妥当だと思うわ。一度遺跡の場所を確認させてもらった方がいいと思う。』

 しばらくジェンと意見交換をしてからマイスターさんに言って遺跡に移動することにした。車に乗せてもらい30分ほど走ったところで小高い丘にある遺跡に到着する。
 この遺跡は王家が管理しているようで、遺跡全体が塀に囲まれていた。結構広そうなエリアになっている。王家の神聖な土地と言うことで、洗礼を受けてから中に入ることになった。

「通常は王家のものしか中には入れないことになっている場所です。王家の方が結婚する際にここで儀式を行います。王家を出られた方も1代限りはその儀式を行うことになっています。事前に魔獣を退治するときと、護衛の数名のみがここに入れます。」

 説明を受けながら遺跡の中に入り、奉納の場所へとやってきた。

「ここが目的の場所です。」

 建物の中に祭壇が造られており、岩に何かの型が作られていた。

「ここで王家の印をはめ込むということですか?」

「そうですね。道しるべの玉に祈った後、印をはめ込んでから血をそのプレートに垂らすというのが一連の儀式です。儀式の後、プレートが光っていることを見届け人が確認して終了となります。」

 血を垂らすということは王家の人間か確認するということかな?過去に光らなかった人とかもしかしたらいたかもね。

「今回、いなくなった後に印もなかったということで間違い無いですか?」

「はい。ですので最初の祈りの時に何かあったのではないかと思われます。」


 そこに古代ホクサイ語で文字が書かれていた。

「王家の方は古代ホクサイ語を読むことができるのですか?」

「ええ、古代ホクサイ語は王家の方の必修科目となっています。もちろんすべての文字が解明されているわけではありませんが、ここに書かれている文字などは十分に読むことができるはずです。」

 位置を確認すると、やはり転送先はここの地下になるようだ。空飛ぶ島だったらもっとテンションも上がっていたかもね。「ラピュタはやっぱりあったんだ!!」とか「空島はあるんだ!!」とか新しい冒険譚になりそう。
 文章の中に道しるべの玉に魔素を入れて念じることで道を開けると書かれているのでもしかしたら転送の発動条件になってしまった可能性があるな。

 転移先はここから下に50mくらい行ったところだろうか?探索してみるが、岩盤のような物に当たって全く探索できない。もしかして島で見たようなものなのか?これだと下に何かがあるとはわからないけど、地下に空洞がある可能性があるな。

『ねえ、前に禁書を読んだときにここのことが書かれていたように思うの。もともとは遺跡の内部だったけど、事情により封鎖して今の位置になったというようなことが書いてあったと思うわ。ただそのあたりの詳細については記載が無かったのでわからないけど。』

『たしかにあったね。封印のために入口を閉ざすという感じだったよね。』

『もし島と同じような感じだったら岩盤を破るのは無理だよね。きっと壁を維持する魔法が施されているはずだわ。』

『ただ元々出入りしていたと考えるとどこかに入口があるはずだと思うんだ。でも・・・遺跡の広さを考えると、隠されてしまっていたら簡単には分からないか。前と同じように探索で通路を探してみるか?』

『でももし通路が延びていなかったら出入口はわからないわよね。島の探索でも数日かかったから、時間的にちょっと厳しいように思うわ。』

『時間との勝負になるな。他に方法がなかったらその手も考えよう。とりあえず国王陛下に話を振ってみて、入口がわからないようだったら転移を考えないといけないかもしれない。』

『転移っていっても未使用のものはなかったでしょ?』

『もしかしたらどこかにあるかもしれないのでそれも含めて確認しよう。クリスさんが転移したと言うことを考えると未使用のものが見つかったと言うことも考えられるしね。』

 確認しなければならないことがあるのでいったん王宮に戻ることを伝えて車で引き返すことになった。


 王宮に戻り、宝物庫で同じ物がないかを確認することにした。あと国王陛下にも確認したいことがあるので時間がとれたところで呼んでもらうことにする。


 宝物庫にあった道しるべの玉は全部で3個だけど、すべて使用済みだった。一つだけ使用されていない物が残っていたのか?でも今まで何回も儀式が行われていたと考えるとそれが使われていなかったというのは考えにくいよな?

「すみません。今回クリストフ殿下が使ったこの玉は従来あったものから選んだと言うことで間違いないですか?」

「ちょっと待ってください。」

 そう言って何人かに話を聞きに行ってくれた。

「申し訳ありません、確認をしていませんでした。なんでも今回は宝物庫の中で新たに見つかった物だったらしく、他の物よりも輝いて見えたためそれを使うことにしたらしいです。」

「新たに見つかったというのは一つだけだったのでしょうか?」

 転移できるものがあるか無いかで今後の対応が大きく違ってくるな。

「確認したところ、二つ見つかっていたようです。王家の試練には1つしか持って行かないため、別の場所に保管されておりました。これになります。」

 今あるものよりも若干明るい輝きをしている道しるべの玉があった。鑑定してみると確かに未使用となっていた。よし、最悪これでなんとかなるかな?



 しばらくしたところで国王陛下の時間ができたというので部屋を移動する。

「今回調査したところ、もしかしたらクリストフ殿下たちは別の場所に転移したのではないかと思われます。」

「転移だと?転移魔法でも使ったというのか?」

「実はあの道しるべの玉ですが、指定された場所に転移する機能がついている物があるのです。自分たちも一度それを使用して命が助かったことがあります。」

「まさか伝説のような話が実際にあったとは・・・。」

「そこで確認なのですが、この王家の儀式ですが、もともとは別の場所で行っていたという話はないでしょうか?道しるべの玉が示す位置が今回行った場所ではないように思うのです。お気づきかと思いますが、通常であればすべての値が0になるところに行くものだと思うのです。
 おそらく今回転移したのはその場所ではないかと思います。王家にそのような遺跡の場所についてなにか心当たりはありませんか?」

 こう言うとしばらく考えていた国王陛下は口を開く。そして周りにいる人たちに下がるように指示すると部屋の外に出て行った。

「ここからの話は先に話した内容よりも機密事項が高い。決して口外してはならないと約束してくれるか?君たちを信用して話そうと思う。」

「はい、それはもちろんです。」

「たしかにそのような話はある。城の禁書にもそのような話が書かれているが、詳細はあくまで口頭にて伝えられていた話なのだ。ただし詳細については私も正式には聞いていない。というのも私の4代前の王がそのことを正式に伝える前に亡くなってしまい、一部の話が伝わらなかったのだ。
 今わかっているのは、古代遺跡を封印したこと、その遺跡への道はわからないように王家の血によって封印されたこと、またその通路も秘匿されたことだけなのだ。」

「何か危険なものを封印したと言うことではないのですか?」

「話は3代前の王が8歳の時に聞いた話らしく、断片的にしか伝わっていないのだが、何かを守るために遺跡を封印したと言うことらしい。」

「内部からだったらその通路の場所もわかるかもしれませんね。」

「外から入るのを防ぐために偽装したようなので、内部はおそらく通路の痕跡が残っているだろう。」

 転移については転移先に何かがあれば転移はできないと言うことだった。転移してしまったと言うことはちゃんと転移されている状態なんだろう。「石の中にいる」というのはないはずだ。
 転移先がどんな状態なのかわからないが、たとえ無事だったとしても出口がどこにあるのかわからないと言うことではないかと思う。場合によっては光がないことも考えられるし、場所がわからなければ出口の見当もつかないだろう。

 転移してみるか?でもそこに魔獣がいたらどうする?おそらく100年以上は経っているから魔獣がいたら階位が高いものが生き残っている可能性もある。魔道具で隠密を使えばなんとかなるか?でもそこから抜け出せるという保証はない。でも出口のある可能性は高いはずだ。

 危険はあるかもしれないけど、クリスさんたちを見殺しにはできない。行った先が大体どこなのかわかっている人間と、全くわからない人間では考えることが違うはずだ。ここで助けに行かなければずっと後悔することになるだろう。

「国王陛下、申し訳ありませんが、道しるべの玉を使用させていただくことはできるでしょうか?確実とはいえませんが、自分たちもその場所へ飛んでみようと思います。」

「大丈夫なのか?」

「行けるかどうかもまだわかりませんし、行けたとしても確実に助けられるということではありませんが、このままだとおそらくクリスさんたちは戻ってこられないように思うんです。可能性があるなら行ってみたいと思います。
 ただ、高階位の魔獣がいたときのために志願兵を同行させていただくことはできますか?自分たちだけだと高階位の魔獣がいた時点ですぐにやられてしまいます。ただおそらく転移できるのは人数制限があると思います。クリスさんたちのことを考えると少なくとも5人は転移できると思いますのでどのくらい志願してくれる人がいるかわかりませんが、4人以上お願いしたいと思います。」

「行ってくれるのか?」

「ええ、友人と呼んでくれたクリスさんのためにも頑張ってみます。」

 後悔するよりはやって後悔した方がいい。確実に死ぬと決まったわけではないし、戻ってこられる可能性もそこまで低くないはずだ。

「イチ、一人で行く気じゃないわよね?」

「いや、ジェンは残ってよ。二人一緒に危険を冒す必要は無いよ。」

「なに言ってるのよ。何のためのパーティーなの?こんな時に一緒に行かないようだったら意味が無いでしょ。」

 ジェンの目を見ると、どう考えても引いてくれそうにないな。

「国王陛下、申し訳ありませんが、自分たち二人と少人数でも対応できるメンバーをお願いします。」

「わかった。手配しよう。」

 今からすぐに準備をしても夜になってしまうため、出発は明日の朝一に行うことにした。皆のことを考えると早めに行った方がいいのかもしれないけど、無理して助けられなければ意味が無いからね。行くときは万全の体勢で行かないといけない。


 明日の0時に王宮で待ち合わせることにしてからいったん宿に戻ることにした。いくつか準備をお願いしてから王宮を出てからカサス商会に向かい、必要な道具を色々と買っていく。後は食料関係を追加で買い足してなんとか準備は完了する。

 宿に戻ってから早々に眠りについて明日に備えることにした。さすがに興奮はしているが、ちゃんと休まないと明日からが困るので仕方なく魔法を使って眠ることにする。こういうときに役に立つのが闇魔法?だ。実は眠りを誘う魔法を使うことができたのだ。もちろん魔獣を眠らせるなんてことはできないけどね。


 朝起きてから準備を整えて王宮へと向かう。時間前に到着したんだけど、すでに準備はできていたようだ。選抜メンバーはクリスさんと一緒にパーティーを組んでいた人が中心のようだ。男性が二人と女性が二人の4人が有力候補となっており、他に行くことができるようであれば追加で加わるという形のようだ。

「今回はよろしくお願いします。」

「ああ、こちらこそよろしく。殿下のことを考えると自分たちが行かないとだめだろうと立候補させてもらった。王家の剣というパーティーを組んでいる。基本は私たち4人だが、これ以上の人数が行ける場合も考えて私たちと連携をとりやすいメンバーを選んでいる。」

「王家の剣はクリスさんが所属していた優階位のパーティーですね。自分たちはまだ上階位なのでできるだけ足手まといにならないように頑張ります。」

 出発まではパーティーの4人と簡単に打ち合わせを行う。自分たちの実力を話してから簡単に模擬訓練を行ってもらった。さすがに優階位と言うだけあって半端なく強い。
 前衛は男性のランドリアさんと女性のミスカルトさんでそれぞれ盾と剣で戦うスタイルと二刀流で戦うスタイルのようだ。
 ローブを着た女性のマルニキアさんは魔法使いで簡単な治癒魔法も使えるようだ。治癒魔法のレベルについて確認したところ、中級治癒魔法まで使えるらしく、何かの時は言ってくださいと言われる。
 男性のデルミストさんは短剣と弓使いという感じのようだ。罠探知や解除についてのスキルもあるようだ。

「上階位と聞いてちょっと心配したが、優階位はもちろん無理だが、良階位でも中位くらいであれば防御に徹すればなんとか耐えられるくらいの実力はありそうだな。優階位の魔獣がいた場合はできるだけ離れておいてくれ。
 魔法も全属性使えると言うことはそれなりの実力と考えておくよ。索敵は大丈夫と考えていいんだよな?」

「ええ、よほど気配を消す能力が高くない限りは優階位の魔獣も感知できますので大丈夫だと思います。」

「わかった、細かいところは現地で話していこう。」

 装備について国からもっといいものを貸し出す話も出たんだけど、慣れない装備だと逆に危ないので今のままで行くことにした。ただもしもの時のために装備の予備は色々と持ってきてくれているようだ。

 準備ができたところで車に乗り込んでから出発する。自分たちは自分の車でついて行った。ここからでも転移できるかもしれないけど、失敗したらまずいのでとりあえず現地に行く方がいいという判断だ。もしかしたら距離によって転移の人数が変わると言うこともあるからね。

 30分ほどで遺跡に到着し、祭壇のところまで移動する。まずは志願してきた10人とお互いに手をつないでから魔力を込めて転移を行うように願ってみる。

「転移魔力の許容量を超えています。転移する魔力量を減らして下さい。」

 頭の中に言葉が流れる。やっぱり人数制限があったか・・・。やはり大勢での転送は無理っぽい。人数を少しずつ減らしていくがなかなか転移されない。どこまで減らさないといけないのかと思いながら試していると、自分たちの他に王家の剣の4名になったところで転移した。



 視界が変わったところですぐに隠密関係の魔道具を発動する。この魔道具に関しては流石に秘密にしている。隠密のスキルについてはかなり高いことは説明しているので問題は無いだろう。視覚阻害はさすがに使ってないけどね。

 あたりの景色を確認すると、周りは木々に覆われており、森の中にいるようだった。真っ暗ではないけどかなり薄暗くてなんとか視界があるという感じ。
 転移でやってきた場所は大きな岩の上のようだ。岩の上には特に何も無いんだけど、そこから少し離れたところから森のようになっていた。少し離れたところに大きな木が一本立っており、それは天井まで伸びている感じだ。天井は薄ぼんやりと光っているおかげで暗いけどなんとか見ることが出来るようだ。

「森の中?」

 すぐに索敵を行うと、すぐ近くでクリスさんたちの気配を感じる。戦っているのは上階位の魔獣みたいで、優階位や良階位の魔獣は近くにはいないようだ。

「クリスさんたちの応援に向かいましょう!!」

 転移がどんなものか分からなくて少し固まっていた王家の剣のメンバーもクリスさんたちに気がついたみたいであたりに注意しながらクリスさんたちのいる方へと向かう。流石に立ち直りは早い。

 さすがに辺りの様子が見えないので光魔法で辺りを少し明るくしてから走っていく。あたりは湿地のようにうっすらと水がたまっており、木々が生い茂っている。湿度が高いのか、なんとなくもやがかかっていてさらに視界が悪い。ところどころ建物の跡のようなところもあるけど、植物が侵食していて元の姿はわからない。
 少し離れたところにあった転移して最初に目についた大きな木の根本付近でクリスさんたちの姿を発見する。


 戦っているのはクリスさんとイントさんだけで他の3人の姿が見えない。ただ光魔法で辺りを照らしているのでここを拠点にしているのかな?
 戦っている魔獣は大山猫が数匹だけなんだけど、クリスさんたちの動きが悪くて苦戦しているように見える。他の3人は大丈夫なのか?
 王家の剣のメンバーが一気に魔獣達を倒すが、なんか魔獣の動きがかなりいい。大山猫が集団で戦闘していることも結構珍しいのでちょっと驚いた。

 こっちに気付いたクリスさんとイントさんは、ほっとした表情になったんだが、そのまま倒れ込んでしまった。

「クリスさん!イントさん!」

 二人の状態を確認するととりあえず息はしているようだ。マルニキアさんがすぐに治癒魔法をかけると呼吸も少し落ち着いた。
 二人が戦っていたすぐ後ろのうろで3人が休んでいたのを見つけてほっとする。ただ全員満身創痍という感じであちこち怪我をしているみたいだ。簡単な治療はしているようだけど、完全には治っていない。よく見てみると、アルドさんは左手の指を切断していた。

「今日で3日目になると思いますが、ほとんど寝ずに戦っていたという感じでしょうかね?」

「おそらくそうだろう。殿下の動きがあまりにも悪かったからな。」

「テントを出して休ませた方がいいな。」

 マルミストさんが収納バッグから大型テントを出したんだけど、言ってみれば普通のテントだった。少しは防御力とかあると思うけど、自分の持っている方がいいかな。

「あの、もしよかったら自分の持っている拠点を出しますので、そこで休ませてはどうでしょう。おそらくそっちの方がゆっくり休めると思いますので。」

「拠点?」

「ええ、自分が作ったものなんですが、かなり快適だと思います。とりあえず出してみますね。」

 地面に砂利を敷き詰めて平らにしてから拠点を出すとかなり驚いていたけど、テントなどよりはこっちの方が休むことができると思う。飛翔魔法だとちょっと面倒なので、壁の一部を改造して入口を作っておく。出入口は木のうろのところに出るようにしているので入りにくいが安全性は高いだろう。

 この後ランドリアさんに中を確認してもらうとかなり驚いていたが、他のメンバーにも説明して中で休ませることになった。


「ここにいる魔獣の強さが外にいる魔獣より強いような印象ですが、通常は上階位の魔獣までは近寄ってこないはずです。」

「それだったら私たちが持ってきた魔物よけと効力は変わらないみたいだな。」

「あと、全員を休ませますので申し訳ありませんが、しばらくは周りの護衛をお願いしていいですか?
 詳細はまたあとで話しますが、とりあえず5人の治療や装備の整備などを行いますのでその間の魔獣の対処をお願いします。」

「治療だったら私が・・・。」

「えっと、アルドさんの指が切断されていますが、治療は可能でしょうか?」

「それは・・・切断先があればなんとかなったかもしれないけど、おそらく再生しなければならないので私にはちょっと難しいわね。サクラに戻って上級治癒魔法を使わないと難しいと思うわ。」

「自分たちならなんとかなると思いますので、任せてもらえますか?」

 マルニキアさんはかなり驚いていたが、自分たちが上級治癒魔法を使えるとわかったのか、任せてくれるようだ。


 一人ずつ浄化魔法をかけながら建物の中に連れて行ってベッドに寝かせる。軽々とみんなを運ぶ自分たちを見て驚いているけど、実際は重量軽減魔法を使っているからね。
 運ぶときにさすがに少し目を覚ましたけど、声をかけると夢と思ったのか寝ぼけながら再び眠りについたようだ。ここまで意識がなくなるってかなり危なかったのかもしれないな。流石にスレインさんたちの装備関係はジェンに外してもらう。

 アルドさんの指は親指が第二関節から人差し指が第一関節からが無くなっていた。ジェンの方が慣れていると思うのでアルドさんは任せて、自分は他の人の治療をする。
 この後自分は全員の装備をできる範囲で修理と調整をしてみる。鍛冶道具を持ってきていてよかったよ。本格的に装備がだめになっていたらさすがに無理だったけど、まだこのくらいだったのでなんとかなるので助かった。しかし鍛冶のレベルを上げておいてよかったなあ。
 途中でジェンもやってきて整備を手伝ってくれた。アルドさんは起きて確認しないとわからないけど治療は無事に終わったらしい。なんとか違和感なく再生できたようだ。

 2時間ほどかかってなんとか治療と装備の調整まで済ませたんだけど、クリスさんたちはまったく目を覚まさなかった。



 拠点から外に出てからリーダーのランドリアさんと話をする。

「どうですか?」

「今のところ魔物よけの効果かわからないが、そこまで魔獣が現れていない。1回だけ良階位の魔獣が襲ってきたが、討伐はしておいた。言われていたように上階位の魔獣は魔獣よけがうまく作動しているようだ。」

「クリスさんたちはおそらく3日間ほとんど眠れていなかったのではないかと思います。運んでいるときも半分眠ったような感じでしたから。今はベッドで寝かせて治癒魔法をかけましたのでこのまま寝かせてあげればいいかと思います。とりあえずは5人の回復を待ってから行動を開始した方がいいでしょうね。」

「そうだな。下手すれば明日の朝まで寝るかもしれないな。」

「この拠点についてや君たちの能力についていろいろと聞きたいことはあるんだが、事前に話したとおり詳細は聞かないし、他に話すことも無い。そこは信用してほしい。ただある程度能力だけは話してもらえると今後の対応として助かる。」

「わかりました。自分たちの剣術は先に確認してもらったレベルで間違いありません。魔法については先にお話しした通り基本全部使えますが、主に使っているのは雷、風、水、土という感じになりますが、威力で言えば火魔法が最も高くなります。他の属性も良階位くらいの威力はあるかもしれません。ただまだうまく当てられなかったりするので動きを止めてもらえないとダメージを与えるのは厳しいかもしれないです。
 治癒と回復魔法については上級まで使えます。あと鍛冶スキルがありますので、みんなの装備について簡単にですが修理しておきました。他に関係しそうなものは罠解除くらいでしょうか?」

「多才だな。」

「いろいろと興味があるのでやってみたという感じですよ。」

「とりあえず交代で休憩を取ったほうがいいと思いますが、どういう風に割り振りますか?」

「ああ、さっき俺たちの中でも話していたんだが、とりあえず今回は俺たちのいつもの形でやっていこうと思っている。俺とマルニキア、ミスカルトとデルミストという組み合わせだ。ジュンイチ達は俺と一緒に組んでもらえばいい。殿下達が復帰できたら各パーティーで交代する形でいいだろう。」

「わかりました。」

 遅めのお昼ご飯をとった後、拠点の話をする。

「この拠点にはいろいろと認識を阻害する魔道具を使っていますのですぐには見つかりにくいと思います。もちろんこんなところなので見張りは必要だと思いますが、中では十分に休息をとることができると思います。」

「すごいな・・・。これは自分で作ったのか?」

「ええ、最初はただの土を固めた建物だったんですが、ちょっとずつ改良していってこんな形になりました。」

「まあ家を持ち歩く冒険者もいることはいるが、自分でここまでこった物を造る人は初めて見たぞ。」

 女性陣はシャワーやトイレまであることにかなり喜んでいた。

 拠点の周りを少し整備して戦闘しやすいようにしておく。今日は早めの夕食となったが、せっかくなので少し時間をとって温かいスープなども作った。食事の後はミスカルトさんとデルミストさんに先に休んでもらうことにして先に見張りをすることにした。
 二人には申し訳ないけどリビングに簡易ベッドを出して寝てもらう。奥の部屋ではクリスさんたちに寝てもらっているからね。


 このまま夜まで見張りをしていたけど、魔物よけの効果かあまり魔獣はやってこなくて助かった。そうはいっても2回ほど襲撃を受けたけどね。

 2回とも良階位の巨猪だったんだけど、結構怖かった。風魔法を使うみたいで突撃とともに魔法で攻撃してくるってしゃれにならない。それをちゃんと受け止めるランドリアさんもすごいけどね。受け止めている間にマルニキアさんが弓で攻撃し、自分たちも雷撃、風斬、氷弾で攻撃しながら切りつけることでなんとか倒すことができた。やっぱり盾役がいると大分楽だね。
 2回目の時には実験的に収納魔法の盾を使わせてもらった。最初の突進を止めることができたのである程度効果はありそうだ。ただその後は押さえ込めず、ランドリアさんに加勢してもらったけどね。
 この途中で上空から襲撃を受けて危なかった。襲ってきたのは前と同じく魔鷹で、上空にも索敵範囲を広げていたので気がついたけど、この視界の悪さの中襲われたらちょっと危なかったかもしれない。
 二人とも上空からの攻撃には対処していなかったみたいでよく気がついたなと褒められた。引継ぎの時に上空にも気をつけるように言っておかないといけないね。

 途中で交代すると、かなり快適だったみたいで十分休憩できたと言ってもらえてちょっとうれしかった。簡易ベッドを追加で出してから自分たちも休むことにした。鎧を完全に脱げないのがつらいけどしょうが無いよね。


 翌朝、朝食を作っていると、クリスさんが起きてきたようだ。

「おはようございます。」

「あ・・・ああ、おはよう。」

「温かい飲み物を用意しますね。」

 声をかけるとクリスさんはかなり驚いた顔で返事をしてきた。簡単に今の状況を説明したんだけど、二度手間になるので他のみんなが起きてきたところで詳細は話すことにして、まずはクリスさんの話を聞くことにした。


~クリスSide~
 今日は王族の試練を行う日だ。試練と言っても危険はほとんどなく、もし魔獣に襲われたとしても上階位がいいところだろう。形骸化しているが、しきたりには従うことにしよう。

 今回使う道しるべの玉は宝物庫を見ていたときに見つけたものだ。他のものよりも輝きが強いのでせっかくだからとこれを使うことにしたんだ。


 遺跡に移動してから5人で祭壇の中に入り、王家の理を読む。王家の系譜についてだけでなく、「個人ではなく、国民のために尽くすべき」というような家訓のようなものが書かれている。古代ホクサイ語で書かれているので、私にしか読めないが、それを復唱することで確認して行く。
 全員で手をつないで祈りを捧げてから王家の印をセットし、血の契約をすれば終わりだと思ったんだが、目を開けるとなぜか違う景色になっていた。

「どういうことだ?」

 みんなも驚いているが、それより先に周りの索敵を行う。

「魔獣?しかも上階位だけでなく良階位の魔獣までいるぞ!」

 装備は身につけていたので剣を取り出してすぐに戦闘体制を整える。ただ岩の上では安定性も悪く、全方向から攻められたら分が悪い。すぐ近くに大きな木があったのでそちらに移動して木を背にして戦うことにした。

 魔獣は見慣れたものなんだが、戦闘の経験値が違うのかなかなか倒せない。良階位の魔獣でも結構手こずっているのに優階位の魔獣がでてきたら倒せるのだろうか?

 辺りにいた魔獣を倒して一息ついたんだが、しばらくするとまた魔獣がやってきて休む暇がない。魔獣の死体は邪魔になるので収納魔法に入れて行くがきりがないくらいだ。
 食べ物は収納バッグにある程度入れていたので合間を見て食べていくが、トイレなどは近くでするしかない。幸い木のうろのようなところがいくつかあったのでトイレと仮眠の場所に決めて交代で休みを取ることにした。
 まさかこんなことになるとは思っていなかったので野営道具をほとんど持ってきていなかったのが悔やまれる。魔獣よけもないし、テント関係も置いてきてしまったからな。

 場所を変えるか悩んだんだが、そもそもここがどこなのかもわからない。索敵してみても周りに魔獣がいるので森の中なのかもしれない。空はもやがかかっていて見通せないために余計に場所がわかりにくい。
 もし救援が来るとしたら同じ場所に来る可能性もあるので、あまり動かない方がいいのではないかという気持ちもあり、ここから動けない状態だった。きっと助けに来てくれるはずと言う希望を持って・・・。


 辺りの明るさは変わらないが、時計では夜を2回迎えている。なんとかここまで生き抜いてきたが、さすがに疲労がたまってきている。やはりちゃんと休憩を取れていないのが問題なんだろう。ここに来る前も結構睡眠不足だったからな。
 さすがに疲れがたまってくると、上階位の魔獣でも少し苦労してしまう。そう思っていたところで上空から魔鷹に襲われ、アルドが手をやられてしまった。なんとか指の切断ですんだが、止血をするのがやっとだった。このため剣を持つことができなくなってしまった。

 体がボロボロになりながらも諦めずに戦っているが、徐々に傷が増えていくのが分かる。俺はもうここまでか?そう思った頃に懐かしい声が聞こえてきた。幻聴か?そう思ったが、ジュンイチの顔を見てほっとしたせいか、意識が薄れていった。


 目を覚ますとベッドに寝かされていた。防具もすべて取り外されて、体もお風呂に入ったようにさっぱりしている。ここはどこだ?と思ってドアを出るとリビングのようなところでジュンイチ達が休息をとっていた。他にもランドリア達がいる。

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 クリスさんの話が終わる頃になって隣の部屋から声が聞こえてきた。ジェンが見に行くと、なにやら色々と声がしてから4人が出てきた。

「ジュンイチ!!助けに来てくれたのか?それはともかく、ここはどこなんだ?もう救出されたと言うことでいいのか?」

 スレインさんが代表して聞いているようだった。

「とりあえず朝食を食べながら話を聞いて下さい。状況を説明しますので。」

「先に一つだけ聞いていいか?」

 アルドさんが聞いてきた。

「私の指が治っているようなんだが、誰か治療をしてくれたのか?」

「ええ、切断されていましたのでジェンが治療しました。もし感覚がおかしいようであれば言ってください。」

「そうか、ジェンが・・・」

 かなり驚いているようだが、とりあえずは話を聞くことにしたようだ。


 皆の朝食を準備してから現在の状況を説明した。道しるべの玉で転移してきたこと、今やってきているメンバーのこと、おそらく今は祭壇のあった遺跡の地下にいること、地下空間は封印されて外からの助けは来ないと思われること、ただし出口はあると思われることを話した。
 クリスさんたちはかなり戸惑っていたが、無事に戻れるという希望が出たせいかちょっとほっとしていた。それ以前にゆっくり休めたのが大きいのだろう。

「とりあえず状況は理解できた。あまりゆっくりしていられないかもしれないが、いくつか聞きたいことがあるんだが聞いてもいいか?」

「はい、わかる範囲のことでしたら。」

「なぜ転移したことがわかったんだ?あとなぜこんな危険なことをしようと思ったんだ?」

「前に自分たちも道しるべの玉で転移して助かったことがあったからです。それで儀式に使うものを見せてもらったことで、転移したと考えました。
 あと友人が危険な目に遭っていて、解決できる可能性を持つものが自分たちしかいないと思ったら助けに行きませんか?ランドリアさんたちも同じだと思いますよ。」

 なぜかみんなが驚いた顔をしていた。

「「「「「ありがとう。」」」」」

「その言葉は無事にここを脱出するまで取っておいてくださいよ。一緒にここを出ますよ!」


 クリスさんたちもやっと落ち着いてきたみたいで色々と聞いてきた。

「拠点を持ち運ぶのは確かにあるんだが、一から自分で作ったというのがすごいな。」

「せっかく土魔法を覚えたので色々と。」

「あとは洗浄魔法や治癒魔法については驚いたな。洗浄魔法については落ち着いたら少し聞いてみたいものだ。」

「時間ができたときにある程度はお教えできますよ。ただどこまでイメージできるかはわかりませんけどね。」

 このあと修理と調整した装備を見てまた驚いていた。

「鍛冶スキルまで身につけていたのか・・・。」

 一通りの説明と準備が終わったところでランドリアさん達は交代して拠点に残ってもらうことにして自分たちはクリスさん達と調査に行くことにした。


 いったん祭壇のところに戻り、改めて祭壇の調査から開始する。祭壇から北側に先ほどの大きな木が立っているんだけど、他も結構高い木が茂っており、完全にジャングルのようになっていた。水源は転移してきた付近にある噴水があふれて広がっているようだ。地面は水平に作られているのか、全方向に広がっている。おかげで地面はかなりぬかるんでいる。ただたまっていないと言うことはどこかで排水はされているのだろう。

 祭壇には古代ホクサイ語で文字が書かれているけど、上にあったものと同じ感じがする。他には祭壇の横に古代ライハン語で文字が書かれていた。どうやら転送に関することみたいなのであまり意味は無い感じだ。

 辺りをしばらく探索してみたが、他に手がかりとなるものはないみたいなので、とりあえずどこかに向かって移動するしかないだろう。ランドリアさんと合流してから今後の行動について話をする。

「ここは地下空間と考えられるのでとりあえず壁の方に行くのが良いと思いますが、どうでしょうか?」

「たしかに出口を探すことを考えると、床に通路があるよりも壁にある方が可能性が高いな。遺跡の調査については二人の意見を優先するように言われているのでその方針で問題ない。」

 どっちの方向と言っても分からないのでとりあえず北の方から進むことになった。

「どのタイミングで移動を開始しますか?」

「夜勤をしてもらった二人がまだ仮眠を取っているからな。とりあえずお昼までは寝かせておいてあげたいところだ。何があるか分からないので今日くらいはある程度睡眠を取ってもらっておきたい。
 そのあとは昼の間に移動して夜は2.5時間ずつ仮眠を取るという形で調査を進めるのがいいと思うがどうだろうか?状況を考えて睡眠は少し長めに取るつもりだ。」

「わかりました。その内容でいきましょう。」

 折角なので初日くらいは温かめの食事を用意してから交代で昼食を取ってから出発する。


 先頭に王家の剣、次に自分たち、しんがりに蠍の尾のメンバーが進む感じだ。ところどころ建物の跡のようなところもあるけど、植物が侵食していて元の姿はわからない。

 途中魔獣が襲ってくるけど、基本的に王家の剣のメンバーが問題なく退治していく。優階位の魔獣も出てきたけど、さすがは王家の剣、少してこずっていたけど無事に倒すことができた。
 戦闘中に他の魔物も襲ってくるので自分たちももちろん戦っている。どうも魔獣たちも連携をとっているみたいな感じなんだよね。
 出てくる魔獣は狼や熊や鹿など地上にいる魔獣と大きな差は無いんだけど、同じ魔獣でもやはり強いので、おそらく淘汰されながら魔獣が育っているのではないかという話だ。


 森を切り開きながら進むため、進むペースがかなり遅いけど、焦ってもしょうが無いと安全優先で進んでいく。結局2時間ほどかかってやっと壁が見えてきた。途中通れなくなって迂回しなければならなかったり、魔獣との戦闘があったりしたのでしょうが無い。

「大体歩いてきた距離はどのくらいか分かりますか?自分的には2000キリルくらいだと思うのですが・・・。」

「移動速度とかから考えて1500キリルくらいかな?」

「ということは・・・・ここが円だったとしたら1周10000キリルくらい?普通だったら1周回るのに1時間はかからないだろうけど、このペースだとちょっと時間がかかりすぎますね。しかも壁付近には木が生い茂っているから、壁に沿って歩くのは厳しそうだ。」

「今日はこのあとのことをもう少し話した方がいいと思うので、ここで宿泊することにしよう。すまないが拠点を出してもらえるか?」

「わかりました。」

 ランドリアさんからの提案にみんながうなずいたので今日はここまでとなった。ランドリアさん達は近くの魔獣の退治と調査、スレインさん達が夕食の準備をやってくれるようなので自分たちはクリスさんと一緒に壁の調査に向かう。


 壁に穴が開くか試してみたんだけど、傷も入らないくらい堅くてどうしようもない。やはりこの壁を壊すのは諦めた方が良さそうだ。

「どっちにしても地下なので壁に穴が空いたとしても地上に出るのは厳しいかな。」

「そう考えると出入り口を見付けないと厳しいか・・・。」

 壁際に排水溝のような穴が開いているんだけど、かなり小さいのでここを抜けていくこともできそうにない。少し近くを調べてみると壁になにか地図のようなものが描かれていた。説明は古代ライハン語のようだ。

『とりあえず南側に出入口のようなことが書かれているね。』

『みたいね。あとその途中にあるこれは何かしら?』

『兵器?武器?なんか物騒な単語のように思うんだけど。』

『やっぱり、そう読めるわよね?国王陛下が言っていた封印したというのはこれ?』

『とりあえず兵器のことは黙っていた方がいいだろうね。でも一応寄っていく?』

「おい、ジュンイチ。何を話してるんだ?」

「えっと、壁に案内のようなものが書かれていたので見ていたんです。おそらく先ほどの遺跡の南の方向に出口があるようです。」

「この文字が読めるのか?」

「完全に読めるわけではありませんが、アルモニアの遺跡を調査した際に古代ライハン語の解読について少し勉強したので・・・。」


 周辺の調査をしてから拠点に戻ると夕食の準備が出来ていた。今回のメニューはシチューとステーキだ。交代で夕食を取りながら情報交換を行う。近くにいた魔獣や先ほどの案内について話をして明日は南側を目指して行くことになった。
 見張りについては前半を自分たちと蠍の尾メンバーが、後半を王家の剣のメンバーが見張りをすることになったけど、危ないと思ったらすぐに起こすと言うことにしておいた。優階位の魔獣は近くにはいないようなので大丈夫だろうと言うことだ。

 ランドリアさん達が休憩に入っあと、2.5時間で交代となったけど、今日は何も襲ってこなかった。最初に近くの魔獣を討伐していてくれたせいだろう。まあそもそも広さを考えると優階位の魔獣がそんなに一杯いるとも思えないんだよね。
 王家の剣のメンバーと入れ替わってからクリスさん達に浄化魔法をかけてあげるとかなりさっぱりしたみたいで喜んでいた。さすがにシャワーをする余裕まではないからね。
 気を使わないように部屋はクリスさん達と別れて寝ることにする。「変なことはするなよ。」とお互いに言って笑っていた。冗談も言えるようになったみたいなので大分落ち着いたのだろう。


 予定通りの時間に起きてから簡単に朝食を取ったあと、昨日来た道を引き返す。元の場所まで戻ってきたところで昼食を取り、さらに南に歩いて行くと、木々に覆われているけど結構大きな建物があった。壁には古代ホクサイ語で文字が書かれている。

『古代の遺物をヤーマンの王家の名の下に封印する。この封印を解くものはその対価を考えるべきである。』

 その下には古代ライハン語で文字が書かれていたけど、所々読めなくなっている。

『古代文明を滅ぼすこととなった』

『壊すことができず封印する』

 なにやら恐ろしい感じの言葉が書かれている。古代ホクサイ語のわかるクリスさんは少し驚いているようだ。

「詳細は分かりませんが、たぶんこれがこの遺跡を封印した理由だと思います。」

「そうみたいだな。どっちにしても今はどうすればいいのか判断は出来ないな。」


 ここからさらに南下していくが、森が深くて歩くペースが上がらない。結局壁についたときには夕方になっていた。壁には扉のようなものがあり、そこには古代ホクサイ語で文字が刻まれていた。

『古代の遺跡をヤーマンの王家の血の下に封印する。』

「やっぱりここが出入り口で間違いなさそうですね。」

「とりあえずなんとか脱出は出来そうかな?でも時間も遅くなっているし、調査は明日にしてここで宿泊にしたほうがいいだろうな。」

 時間も時間なのでいったんここで宿泊をすることになったので拠点を出してから夕食の準備に取りかかる。昨日と同じようにランドリアさん達には近くの魔獣の退治に行ってもらってから夕食を取って休んでもらう。
 交代まで見張りをしていたんだけど、今日は途中で魔物が2回ほど襲ってきた。良階位の魔獣も混ざっていたんだけど、クリスさんたちもいるので特に問題なく倒すことができた。


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