二人をつなぐもの

深緋莉楓

文字の大きさ
上 下
4 / 9

第4話 いつもの光景

しおりを挟む
 ホームルームが終わると、部活動へと向かおうとする雪島先生を数名の生徒が行かせまいと取り囲む。

「せんせ! 今日のノート上手くまとめられた自信ないから見て!?」
「や。先生、先に私の質問聞いて!」
「はーい、お前ら勉強熱心なのは大歓迎。順番守ってくれたらもっと良いな。あ、すまん、バレー部! ちょっとだけ遅れるから、基礎やっといてくれ!」

 体育会系らしい

「ういーっす!」

 という返事を特に咎めもせず、先生は円を描くように散らばっていた生徒をきちんと一列に並ばせて質疑応答を始めていた。

「色、使いすぎじゃないか? これじゃどこが重要か解らなくないか?」
「えぇー、可愛くない?」

 ははっと短く笑った先生は手に持ったペンでノートに何か書き込むと

「可愛さで頭に入れば問題ないぞ」

 と学習意欲とは別の感情も振りまく彼女にノートを返し、次の生徒を呼んだ。

「あー、お前、落書き消した跡があるな」
「休み時間に描いたんですぅ! でね、このセリフの意味が解んなくって! なくて良くない?」
「はぁ。確かに今日の授業じゃあ触れなかったけどな? お前、伏線って知ってるか? いや、まあいいや。この質問は近々授業中に解決するから。ちゃんと授業聞いとけよ。ほい、次!」

 不満顔の質問者を押し退けて、次の女の子が教科書とノートを広げる。 

 僕はその光景を、なるほどそうさばけばいいのか……夢が叶い、先生のように慕われる教師になれた暁にはぜひ参考にしようと感心しながら眺めていた。
 そしてふと、先輩は嫉妬したりしないのだろうかと疑問に思った。
 三年生の授業も担当しているはずだ。授業が終わる度、こうして女子に囲まれる先生を見るのは嫌じゃないんだろうか? 受験前だから、と納得しているのだろうか?

 突如胸にわいた要らぬ世話に自分でも呆れつつ、僕は図書室へと向かった。

 二人の間にどんな感情が交錯しようと、僕の憧れである事に変わりはないのだ。

しおりを挟む

処理中です...