33 / 41
第33話 永遠に2人は寄り添って
しおりを挟む
俺が郷に来てもう二週間が経つ。
帝宅を改装して休憩所にする案はみんなが賛成してくれたようで、すでに大工仕事を得意とする男性達が集まって、図面の作製を始めているという。
帝宅に詳しい雪江さんが休憩所の責任者になる。
俺の中に引っかかっていた帝が最期を迎えたあの広間は、麒麟が降りた神聖な場所という認識の方が強くて、内装を少し変えるだけでそのまま活かすことになりそうだと朱雀が言っていた。
ルナからの注文は廃材などを最大限再利用して新たに伐採する木をできる限り少なくなるようにして欲しいということだけだった。
「深海、行こう?」
昼ご飯の後は散歩に出る。
森の中を歩いて、木や水に何か異変がないかを確認しながら、たまに俺が見つけた珍しい果物を教えてもらう。
「ルナ、あれは何?」
赤紫の小さな茄子のような形の果物を指差すとアケビだと教えてもらった。
「食べたことない?」
「ない。食べられるの?」
「うん。甘くて美味しいよ! ちょっと待ってて」
そう言うとルナはアケビの木に駆け寄って話しかけ始めた。
「こんにちは。あのね、俺の伴侶殿がアケビの実を食べたことがないんだって。もし良かったら一つ分けてくれないかなぁ? ……うん、種は遠くに蒔くよ。ホント? ありがと」
風もないのに枝が揺れて、ぽとりとルナの掌に立派なアケビの実が落ちる。
ルナは木の幹を撫でて
「一番食べ頃のだ! ありがと。いただきます!」
と言って俺を呼ぶ。
俺も木の幹に掌を当ててありがとうといただきますを伝えると、幹の奥から微かな振動と共に声が聞こえた。
「伴侶殿に召し上がっていただけて光栄です」
麒麟が去った後、ルナには負けるけど、俺も念の強い動植物の声を聞く能力を手にした。
長い時間一つ場所に留まり続け、多くのことを見てきた大木から話を聞くのは、知らないお伽話を聞くようでとても楽しい。
食べ方を教わって、手を繋いで森を歩く。
初めて食べたアケビはぷにぷにのゼリーのようでとろりと甘い。ルナと半分コにして美味しくいただいた。
ただ、種の多さには困った。
「あ! あの陽が射してるトコに種を蒔こ!」
「この辺?」
満遍なく広がるように種を蒔いてから、森を抜けて花畑の中を進む。
花畑の手入れをしている郷の人が
「和子様、伴侶様ー、お散歩ですかー?」
と手を振りながら朗らかに声をかけてくる。
ルナも手を振り返して、そうだよー! と答える。
「喉は渇いてないですか? お茶は? お腹は減ってませんか? 今日は多めに団子を持って来たんです」
「ありがと。でもね、さっき森でアケビを食べたばかりだよ。だから大丈夫。ところで何か変わったことはない? 土が痩せたとか」
「ないですよ、和子様。ほら、見てください。そろそろこの蕾も咲くでしょう」
「良かった。綺麗に咲くと良いね」
「咲いたらまた見に来てくださいな」
「是非!」
郷の人は皆知っている。
ルナの散歩がただの散歩じゃないってことを。
ルナは昔から郷をあちこち歩いて、そこで出会う人と世間話をしながら郷を見ているそうだ。
「口頭や書面じゃ解らないよ……」
というルナの信念。
それをルナは郷の代表になってからも全く変えずにいる。
ただ一つ変わったのは、隣に俺がいるということ。
片時も離れず、常に手を繋いで歩く俺達を郷の人達は温かく見守ってくれている。
「次はどこへ行こうか?」
「んー……深海はどこへ行きたい?」
陽を受けてより輝きを増した黄金の瞳が愛おしい。
スッと距離を詰めて目尻に唇を落とすと、その目が照れ臭そうに揺れる。
「和子様ぁ伴侶様ぁ!」
「なーあーにー!?」
遠くで手を振る郷の人に手を振り返して、行ってみよ! とルナが手を引いて歩き出す。
柔らかな風が吹き抜けて、郷の外れにまで微かに瑠璃の桜の匂いが漂う。
「早いよ、ルナ」
「深海は遅いよ! 早く歩いて?」
振り返って笑うルナの笑顔につられて俺も笑って、絡めた指をくいっと引いた。
「深海?」
何? と足を止めたルナは何も言わない俺を小首を傾げて見つめている。
仕草も表情も可愛くてたまらない。つい頬が緩むのが止められない。
「行こ! ルナ」
「あわわっ待ってよ!」
急に歩き出した俺に真っ直ぐ向けられるキラッキラの金眼。
俺はこの眼に囚われて、郷に来た。
後悔は微塵もない。
その金眼に映る美しい景色を俺も見ていたい。
「和子様ー! 伴侶様ー!」
「今、行きまーす!」
今日も明日も明後日も。
俺達は繋いだこの手を離すことはない。
二人の御魂が離れることは決してない。
帝宅を改装して休憩所にする案はみんなが賛成してくれたようで、すでに大工仕事を得意とする男性達が集まって、図面の作製を始めているという。
帝宅に詳しい雪江さんが休憩所の責任者になる。
俺の中に引っかかっていた帝が最期を迎えたあの広間は、麒麟が降りた神聖な場所という認識の方が強くて、内装を少し変えるだけでそのまま活かすことになりそうだと朱雀が言っていた。
ルナからの注文は廃材などを最大限再利用して新たに伐採する木をできる限り少なくなるようにして欲しいということだけだった。
「深海、行こう?」
昼ご飯の後は散歩に出る。
森の中を歩いて、木や水に何か異変がないかを確認しながら、たまに俺が見つけた珍しい果物を教えてもらう。
「ルナ、あれは何?」
赤紫の小さな茄子のような形の果物を指差すとアケビだと教えてもらった。
「食べたことない?」
「ない。食べられるの?」
「うん。甘くて美味しいよ! ちょっと待ってて」
そう言うとルナはアケビの木に駆け寄って話しかけ始めた。
「こんにちは。あのね、俺の伴侶殿がアケビの実を食べたことがないんだって。もし良かったら一つ分けてくれないかなぁ? ……うん、種は遠くに蒔くよ。ホント? ありがと」
風もないのに枝が揺れて、ぽとりとルナの掌に立派なアケビの実が落ちる。
ルナは木の幹を撫でて
「一番食べ頃のだ! ありがと。いただきます!」
と言って俺を呼ぶ。
俺も木の幹に掌を当ててありがとうといただきますを伝えると、幹の奥から微かな振動と共に声が聞こえた。
「伴侶殿に召し上がっていただけて光栄です」
麒麟が去った後、ルナには負けるけど、俺も念の強い動植物の声を聞く能力を手にした。
長い時間一つ場所に留まり続け、多くのことを見てきた大木から話を聞くのは、知らないお伽話を聞くようでとても楽しい。
食べ方を教わって、手を繋いで森を歩く。
初めて食べたアケビはぷにぷにのゼリーのようでとろりと甘い。ルナと半分コにして美味しくいただいた。
ただ、種の多さには困った。
「あ! あの陽が射してるトコに種を蒔こ!」
「この辺?」
満遍なく広がるように種を蒔いてから、森を抜けて花畑の中を進む。
花畑の手入れをしている郷の人が
「和子様、伴侶様ー、お散歩ですかー?」
と手を振りながら朗らかに声をかけてくる。
ルナも手を振り返して、そうだよー! と答える。
「喉は渇いてないですか? お茶は? お腹は減ってませんか? 今日は多めに団子を持って来たんです」
「ありがと。でもね、さっき森でアケビを食べたばかりだよ。だから大丈夫。ところで何か変わったことはない? 土が痩せたとか」
「ないですよ、和子様。ほら、見てください。そろそろこの蕾も咲くでしょう」
「良かった。綺麗に咲くと良いね」
「咲いたらまた見に来てくださいな」
「是非!」
郷の人は皆知っている。
ルナの散歩がただの散歩じゃないってことを。
ルナは昔から郷をあちこち歩いて、そこで出会う人と世間話をしながら郷を見ているそうだ。
「口頭や書面じゃ解らないよ……」
というルナの信念。
それをルナは郷の代表になってからも全く変えずにいる。
ただ一つ変わったのは、隣に俺がいるということ。
片時も離れず、常に手を繋いで歩く俺達を郷の人達は温かく見守ってくれている。
「次はどこへ行こうか?」
「んー……深海はどこへ行きたい?」
陽を受けてより輝きを増した黄金の瞳が愛おしい。
スッと距離を詰めて目尻に唇を落とすと、その目が照れ臭そうに揺れる。
「和子様ぁ伴侶様ぁ!」
「なーあーにー!?」
遠くで手を振る郷の人に手を振り返して、行ってみよ! とルナが手を引いて歩き出す。
柔らかな風が吹き抜けて、郷の外れにまで微かに瑠璃の桜の匂いが漂う。
「早いよ、ルナ」
「深海は遅いよ! 早く歩いて?」
振り返って笑うルナの笑顔につられて俺も笑って、絡めた指をくいっと引いた。
「深海?」
何? と足を止めたルナは何も言わない俺を小首を傾げて見つめている。
仕草も表情も可愛くてたまらない。つい頬が緩むのが止められない。
「行こ! ルナ」
「あわわっ待ってよ!」
急に歩き出した俺に真っ直ぐ向けられるキラッキラの金眼。
俺はこの眼に囚われて、郷に来た。
後悔は微塵もない。
その金眼に映る美しい景色を俺も見ていたい。
「和子様ー! 伴侶様ー!」
「今、行きまーす!」
今日も明日も明後日も。
俺達は繋いだこの手を離すことはない。
二人の御魂が離れることは決してない。
0
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
冷酷無慈悲なラスボス王子はモブの従者を逃がさない
北川晶
BL
冷徹王子に殺されるモブ従者の子供時代に転生したので、死亡回避に奔走するけど、なんでか婚約者になって執着溺愛王子から逃げられない話。
ノワールは四歳のときに乙女ゲーム『花びらを恋の数だけ抱きしめて』の世界に転生したと気づいた。自分の役どころは冷酷無慈悲なラスボス王子ネロディアスの従者。従者になってしまうと十八歳でラスボス王子に殺される運命だ。
四歳である今はまだ従者ではない。
死亡回避のためネロディアスにみつからぬようにしていたが、なぜかうまくいかないし、その上婚約することにもなってしまった??
十八歳で死にたくないので、婚約も従者もごめんです。だけど家の事情で断れない。
こうなったら婚約も従者契約も撤回するよう王子を説得しよう!
そう思ったノワールはなんとか策を練るのだが、ネロディアスは撤回どころかもっと執着してきてーー!?
クールで理論派、ラスボスからなんとか逃げたいモブ従者のノワールと、そんな従者を絶対逃がさない冷酷無慈悲?なラスボス王子ネロディアスの恋愛頭脳戦。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
記憶を失くしたはずの元夫が、どうか自分と結婚してくれと求婚してくるのですが。
鷲井戸リミカ
BL
メルヴィンは夫レスターと結婚し幸せの絶頂にいた。しかしレスターが勇者に選ばれ、魔王討伐の旅に出る。やがて勇者レスターが魔王を討ち取ったものの、メルヴィンは夫が自分と離婚し、聖女との再婚を望んでいると知らされる。
死を望まれたメルヴィンだったが、不思議な魔石の力により脱出に成功する。国境を越え、小さな町で暮らし始めたメルヴィン。ある日、ならず者に絡まれたメルヴィンを助けてくれたのは、元夫だった。なんと彼は記憶を失くしているらしい。
君を幸せにしたいと求婚され、メルヴィンの心は揺れる。しかし、メルヴィンは元夫がとある目的のために自分に近づいたのだと知り、慌てて逃げ出そうとするが……。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる