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5巻
5-2
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頷いて歩き出す亮の隣に恵梨花も並ぶ。
ふと、亮の言葉から前回のデートの記憶がよみがえり、恵梨花は茶目っ気たっぷりに聞いてみた。
「……ねえ、亮くん、前にも似たようなことありませんでしたっけ?」
「あー……」
亮も思い出したのだろう、苦笑している。
前のデートの時、会うなりお互いを褒め合って、変な空気になったことがあった。今日も似たようなことをしている。
「そういえば、そんなこともありましたな」
恵梨花の茶目っ気に乗って、無駄に厳しい顔を作って頷く亮。
「やっぱり、亮くんもそう思われましたか」
恵梨花も似たような顔つきをして、亮を見上げた。
そして目が合うと、少しの間を置いて、だしぬけに崩れる二人の表情。
「くっく……」
「ふふっ……」
そして堪えきれずに、二人はその場で大笑いしたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇
「穴があったら入りたいとはこのことか……」
正気に戻った亮の、浮かれていた己の所行を悔いた言葉である。
思い出したくもないが、つい先ほどのことなので、自分がどれだけ興奮状態にあって、どれだけ恥ずかしいことをしていたか、鮮明に記憶していた。
それだけでもキツいところだが、問題はその原因たる隣を歩く恵梨花だ。
横目で見ると、恵梨花は亮とは反対方向へと顔を背け、肩を小刻みに震わせている。
普段は見えない、真っ白なうなじが目に飛び込み、つい目がそこへ行きそうになるのを、意思の力を振り絞って元に戻す。
(やばい)
この一言に尽きる。
ポニーテールで武装した恵梨花は、尋常ではない破壊力を有している(特に亮に対して)。
有り得ないぐらい可愛く、目が合うと最近はあまりなかった緊張がどっと押し寄せてきそうになり、それを抑えるので精一杯なのである。
亮は臨戦態勢を整えるように、深呼吸をした。
「オッホン」
ワザと大きめの咳払いをして、恵梨花の注意をこちらに向ける。
「……っふ、ふふっ……」
亮の意図することが伝わったようで、恵梨花は笑みを零しながら正面を向いた。
「えーっとだな、恵梨花」
「ふふっ……おほん! 何?」
ここでの恵梨花の咳払いは、笑いを無理矢理抑えるために違いない。しかし、口元に手を当てているあたり、抑えきれてはいなかった。
亮はやりきれない気持ちになりながら頭を掻く。
「さっきのことなんだがな……」
「うん」
「まあ、なんだ、記憶から消去してくれたら助かるんだが……」
「ええー」
恵梨花が殊の外、残念そうな声を出した。しかし、瞳は悪戯っぽい光を放っている。
「あんなに亮くんが褒めてくれたことを忘れろって言うの?」
そんなことを言いながら、からかい混じりの笑みで見上げてくる。
「……ぐ……」
そんな恵梨花が可愛いやら恥ずかしいやらで、亮は顔を赤くし、更には上手く口が回らず変な呻き声を漏らした。
「ぜ、全部、忘れろとは言わんが、その、俺がちょっと……舞い上がってたことなんかは忘れてもらいたい」
そんな情けないことを言うと、恵梨花は噴き出すのを堪えきれなかったようで、口を手で抑えながら顔を背けてしまった。
再び静かに震える恵梨花の肩。
「……オッホン!」
再度の亮の咳払いで恵梨花は、目元を拭いながら前を向いた。
「……ふっ……うん、ちょっと? ……ね? はい、わかりました」
楽しげに震える声でだが、一応は了承してくれた。
(穴はないのか……)
つい目で、隠れられる場所を探してしまった亮である。
しかし、そんなもの見つかるはずもなく、亮は話題を変えることにした。
「そ、そういえば、恵梨花って、この辺によく来たりするのか?」
これは今朝のメールで、待ち合わせ場所をこの街――泉座に指定してきた時から、気になっていたことである。
「え? ううん、今日で……二回目かな」
その返答に、つい安堵の息を零す。
「そうか……わかってると思うが、夜に近づくような真似はするなよ?」
「それはもちろん……ね。この辺も落ち着いてきたらしいけど……夜は怖くて来れないよ」
「ああ。来ないで正解だな」
「亮くんは……? この街によく来るの?」
「……よく来るように見えるか?」
肩を竦めてそう返す亮に、恵梨花は眉を寄せ「う~ん」と唸る。
「わかんない」
小首を傾げたその仕草に、何故だか笑いそうになった。
そして恵梨花を疑った訳ではないが、返事を聞いて亮は更に安心する。
街によく来る人間には特有の雰囲気があるため、慣れた者ならばそれを嗅ぎ分けることができる。
そのことから、恵梨花の返答の「わかんない」は、街に慣れていないことを示している。
街に慣れているなら、「見える」か「見えない」かの二択で答えるだろう。
「そうか、俺はたまに、だな……月に一回あるか、ないかぐらい」
「そうなんだ……来る時って、夜?」
「ああ」
「そっか……まあ、亮くんなら大丈夫だよね」
「ああ、そっちの心配ならまったく無用だ」
そっち、とは無法な若者達の暴力である。
「うん。私が言えた立場じゃないと思うけど、だからと言って、無闇に喧嘩したりしちゃダメだよ?」
「失礼な、俺は自分から素人相手に喧嘩ふっかけるような真似はしねえぞ」
「うん、よろしい」
満足気に頷く恵梨花。
その言い方がまたどこかのお母さんっぽくて、亮はつい笑ってしまった。
それから二人は、適当に街中をブラブラと歩いた。
恵梨花はこの街に慣れておらず、どこにどんな店があるかも詳しく知らない。
亮はたまに来るとは言っても、夜に男友達と飲み食いするのが目的なので、知っている店など限られている。
当然、女の子を案内するようなところなどわからない。
わかるのは、自分の知っている美味いラーメン屋や焼き鳥屋へ、付き合って初めてのデートで連れて行くべきではない、ということぐらいだ。
結局、二人とも詳しくないということなので、とりあえず街を散策してみることにした。
普段は夜にしかこの街に来ない亮が、明るい時間に歩いて一つわかったことがある。
この街は昼と夜とでは、見せる顔がまるで違うということだ。
昼の治安がよくなったとは聞いていても、昔のイメージが悪過ぎて、いまいち信じられなかった。
しかし、歩いてみるとそれがよくわかる。
ふと視線を動かせば、女の子だけのグループが楽しげに談笑しているのが見える。
それも如何にも街に慣れている、といった感じではなく、普通の女の子達だ。
ちょっと前まではなかなかお目にかかれなかった光景だろう。
お洒落な店も増えていて、昼の光景だけを見ていれば、普通の若者が集まる街のようだ。
「治安がよくなったってのは、本当だったんだな……」
亮がしみじみと呟くと、恵梨花が不思議そうに問い掛けた。
「? 亮くん、たまに来てるんじゃないの?」
「俺が来るのはいつも夜だからな」
「……やっぱり、夜と昼じゃ全然違う?」
「ああ、全然違う。正直、驚いてる」
「へえー……夜はやっぱりまだ危険なの?」
「まあ……でも昔ほどじゃないだろうな」
「そっか……あ、ねえ、あのお店、何かの雑貨屋さんかな? 行こ?」
楽しげに駆け出す恵梨花に、苦笑を浮かべて亮も後に続いた。
◇◆◇◆◇◆◇
「ここか?」
「うん、オムライスが美味しいんだって!」
「へえ……席、空いてりゃいいんだけど」
そう言いながら亮が扉を開ける。重い木製の扉を備えたこの店は、洋食屋だった。
そもそも今日のデートが泉座になったのは、恵梨花がお昼に食べてみたいこの店があったからで、街に来ること自体が目的ではない。
亮の勝手な想像から、お昼は小洒落たカフェに連れてかれると思っていたので、少々予想外であった。
それほど大きな店ではなく、外壁は白く窓が二つ並んでいる。近くまで来なければ、民家と間違えそうだ。
中に入ると、テーブル席が四つ、カウンター席が六つで、それほど広くない。席は七割ほど埋まっているが騒がしくはなく、落ち着いた雰囲気である。
客は亮達より少し年上の大学生ぐらいが多く、店内はカップルで占められていた。
カウンターの中では豊かな髭をたくわえた中年の男が、白のコックコートとコック帽で身を包み、愛想のいい笑みを浮かべている。
「いらっしゃい、奥のテーブルへどうぞ」
手で示された席に向かい、二人は向かい合って腰を下ろす。
「はあ、本当に今日は暑いな」
だらしなく椅子にもたれて亮がボヤくと、恵梨花がクスリと笑う。
「ねえ、もう夏だね」
ちなみに店内はエアコンが効いていて涼しい。
「だな……オムライスが美味いんだって?」
「そう! 友達から聞いてたんだけど、場所が場所だから今まで積極的に来ようと思わなくて」
「俺がいるならってか」
「うん!」
嬉しそうに輝かんばかりの笑顔で頷く恵梨花。
亮がいるから安全、というのは、朝に明が予想した通りのようだった。
「なら、オムライスにしてみるか。一応メニューはっと……」
テーブルの上で、二人で見れるようにメニューを開く。
オムライスの欄を見ると、ランチメニューの範囲内では三種類あった。
「私、デミグラスソースにしよっかな……亮くんは?」
「俺は……トマトソースにするか」
「うんうん……あっ、ここって大盛りとかできるのかな? 亮くん、足りないよね?」
流石いつも亮の弁当を作っているだけあって、普通の一人前では亮の腹を満たさないだろうと、すぐに気づいた恵梨花である。
メニューを眺めながら、「メガ盛り」の文字はどこかと探していた亮も、苦笑するしかない。
「大盛りがあるかはもちろん聞くが、無けりゃ、おかわりするから」
「そっか……おかわり何回になるんだろ」
「……」
後半、ボソッと自分に問い掛けるような恵梨花の独り言に、亮は何も答えなかった。
「美味しそー」
湯気立つデミグラスソースのかかったオムライスを前に、恵梨花が上機嫌な声を上げる。ちなみに量は普通に一人前である。
そしてその差し向かいに並ぶのは、チーズも混ぜられたトマトソースのかかったオムライス。
こちらは、目測でも恵梨花のオムライスの、ざっと三倍以上の量がある。ハッキリ言って馬鹿みたいな大きさである。
注文を頼む時、「大盛りはあるか?」と亮が問うと、店主から「プラス二百円でありますよ」と返事があった。
更に亮が「特盛りは?」と聞くと、店主は少し考えた後に「プラス三百円で用意します」と、愛想良く言った。
更に更に、亮が「メガ盛りは?」と聞くと、店主はちょっと引きつった顔で「……プラス五百円です」と答えてくれた。
更に更に更に、亮が調子に乗って「ギガ盛――」と言いかけたところで、恵梨花が「メガ盛りでお願いします、すみません」と割って入り、ようやく注文が終わった。
亮が恵梨花に睨まれ、少々気まずい空気が流れた後に、説教タイムが始まる。
内容を簡潔にまとめると、「あんまり無茶を言って、お店に迷惑をかけるんじゃありません」だ。
驚くべきは、この内容の説教を言葉を変えながら十分近く続けた恵梨花か、はたまた十分かからずにメガ盛りのオムライスを用意してきた店主か、甲乙つけがたいところである。
ともあれ、オムライスを目にした恵梨花の機嫌が急回復したので、亮はホッとして、心の中で店主に深い侘びと感謝の言葉を捧げた。
亮も空腹になっていたので、意識は綺麗にオムライスに向けられた。
「いただきます」
二人の声が重なり、スプーンを手に取り一口。
「美味しい」
幸せそうな声を出す恵梨花に、亮は同意するように頷いた。
卵は半熟のふわとろで、かかっているソースはトマトの甘味と、チーズの旨みが混ざり、中のケチャップライスとの相性も抜群。酸味も利いて、食べる毎に食欲が増してくるようだ。
しかし、二口、三口と恵梨花よりも明らかにハイペースで食べ進めていた亮は、ふと違和感を覚えて手を止めた。
(美味いことは美味いんだけどな……?)
手を動かしながらも首を傾げている亮に、恵梨花が気づく。
「どうしたの? ……美味しくない?」
「いや……そういう訳じゃねえんだけど……」
「けど?」
「……何か……そうさな、物足りない?」
「ふうん? ……味付けとか?」
「いや……何かこう……」
小首を傾げている恵梨花と目が合う。
そこで亮は気づいた。
「ああ、そうか。恵梨花と一緒に昼飯を食べてるのに、恵梨花が作ったのじゃないからか」
ここ最近、亮の昼食は全部恵梨花の手作り弁当である。味はもちろんだが、何よりその手作り感に、亮は非常に満足している。
いつもと同じく恵梨花と一緒なのに、恵梨花の手作りでない料理を食べていることが、味は良くても違和感――物足りなさの原因となってしまったのだ。
「そういえば、最近、恵梨花がいない時のメシでも同じようなこと考えてたっけな……毎日三食食べたいってのは、流石に我が儘が過ぎるよな……」
「……? あ、そ、そうなんだ……」
亮の言いたいことが瞬時にはわからず、恵梨花は不思議そうな表情を浮かべたが、理解すると俯いてしまった。耳が真っ赤だ。
「まあ、無いものねだりしても仕方ねえしな。弁当じゃなくていいって言ったのは俺だし、恵梨花は気にしなくていいから」
「う、うん……」
ぎこちなく頷く恵梨花を前に、違和感の正体がわかってスッキリした亮は、再びオムライスの攻略にかかる。そして、口に含んだものを呑み下した時、そういえばと思い出した。
「そういや、材料費もう無くなったんじゃねえか? ここの支払いの時に、また一万円渡すから」
もそもそと俯きながら食べていた恵梨花が、きょとんと顔を上げる。
「え? ううん、まだ残ってるからいいよ」
「……まだ……残ってるのか?」
信じられないと言わんばかりの亮に、コクリと頷く恵梨花。
二人が何の話をしているかと言うと、恵梨花が作る弁当の材料費のことである。
人より少し多めに食べると自覚のある亮だ。
そんな亮に合わせて、恵梨花はかなり大きな弁当を毎日作ってくれている。
この材料費をもし恵梨花が自分の小遣いで賄っていたら、女子高生の小遣いなど瞬時に枯渇してしまうだろう。
もしくは、恵梨花の家の冷蔵庫の中身を亮がガッツリ消費していることになる。
浮かれていた亮は、梓の指摘でそのことに気づき、材料費として一万円を渡したのだ。それが無くなったら、また渡すということにして。
昼食が恵梨花の弁当になって、もう二週間が経つ。
食堂や購買、コンビニで済ましていた時は、十日ともたずに一万円なくなる亮からしたら、まだ材料費を残しているという恵梨花の言葉は信じられなかった。
「お米買っちゃったから、そんなにだけど……まだあるよ?」
あごに人差し指を当て、軽い調子で言う恵梨花に、亮はたどたどしく返した。
「そ、そうか……無くなりそうになったら言ってくれ」
「はあい」
唖然としている亮がおかしかったのか、クスクスと笑う恵梨花であった。
◇◆◇◆◇◆◇
食事を終え、特製のメガ盛りオムライスを完食した亮に、驚愕の眼差しを向けてくる店主に支払いを済ませた二人は、店を出た。
時刻は正午を過ぎ、強い陽射しが照りつける外を歩くのも……ということで、目に留まった大きめのゲームセンターへ入ることにする。
奥の方ではプリクラコーナーが充実しているらしく女の子の姿が目立つが、亮と恵梨花は、せっかくなので二人で遊べるゲームをやり始めた。
ゾンビの出るガンシューティングでは、恵梨花は時折ビクッと驚くこともあったが、基本的には笑顔で楽しんでいた。
どちらとも腕前に大差は無かったが、反射神経の差か、亮が恵梨花より少しだけ長生きするという結果に終わる。
太鼓のリズムゲームでは、亮は力の入れ過ぎで太鼓を叩き潰すこともなく、上手いとも下手とも言えない手つきでそこそこのスコアを取れた。
恵梨花はと言うと、リズミカルにミスなく叩き、亮のスコアに大差をつけて勝利し、Vサインをして喜んだ。何でも、家に同じゲームがあって、家族でよくやるそうだ。
ちょっと騙し討ちを食らった気分になった亮は、次にエアホッケーを提案する。
運動神経に反射神経に動体視力、これらの要素が強いため、亮の負けは無いと思えたからだ――セコい。
実際、前半は確かに亮が圧倒的だった。が、しかし。
後半に入り、開いていく点差に恵梨花が少しむくれてきたところで、観客が増え始めた――主に、男の。
恵梨花の容姿のせいだろうと放っておいたところ、観戦する男達が次々と恵梨花の背後に集まってくる。
何故だと首を傾げた亮は、男達が鼻を伸ばしている様から、ようやく察した。
パックを叩く時は、前屈みの姿勢となる――つまりは、突き出るのだ、お尻が。
別に恵梨花は露出の高い格好をしている訳でも、水着を着ている訳でもない。
ただ後ろ姿を見られているだけと言えないこともないが、目の前でやられると鬱陶しい上に腹も立ってくる。
恵梨花の後ろにいる全員を蹴り飛ばしたい衝動に駆られるが、流石にそんな暴挙に出る訳にもいかず、亮は恵梨花に悟られないよう、男達を睨みつけることにした。
殺気も織り交ぜた視線を浴びた男達は、集まったそばから散っていく。
亮がその作業に集中していると、いつの間にか恵梨花に逆転されてゲームが終わっていた。
恵梨花は、自分が勝てたのがよほど意外だったようで、飛び跳ねるように喜びを表した。
その時の恵梨花の笑顔が魅力的で可愛かったものだから、亮は予想外の負けの悔しさを苦笑一つで収めることにした。
最後に恵梨花の希望で、プリクラへ。
撮影時、前回のようなぎこちなさは無かったのだが、最後のカットで何気なく恵梨花が腕を組んできたため、硬直した亮の間抜け面が一枚撮影されてしまった。
◇◆◇◆◇◆◇
「もう三時過ぎか……」
ゲーセンを出て、少し歩いたところで腕時計に目を落とした亮が呟いた。
「もう? 早いね、時間経つの」
「そうだな……なんか小腹空いたな」
「そう――え?」
相槌を打とうとした恵梨花だが、すぐさま信じられないといった面持ちで振り向いた。
「ん? いや、小腹空いたなって」
聞き返されたと思ったのか、普通に言い直す亮。
「え? ……だって、オムライスあんなに……」
「いや、もう食って……三時間近くは経つだろ?」
「あー……うん、はい、消化したのね?」
「ああ」
以前、まったく同じようなことがあったのを恵梨花は思い出した。
(はあ……本当に……)
亮はいろんなことで驚かしてくれる。昨日の剣道部との騒動なんかもそうだ。
しかし、だ。
やはり一番の驚きポイントは、食べても食べてもすぐに消化する、異常に活発な亮の胃袋ではないだろうか。
そんな気がしてならない。
「ん……? なんか、公園の方からいい匂いが……」
恵梨花の心の内など露知らず、亮が鼻をヒクつかせつつ首を動かす。
釣られて同じ方向を見てみれば、公園の入り口あたりで、ワゴン車が何か販売していた。
「あれは……クレープか……」
亮は近くの女の子が手にしているのを見たようで、そう呟きながら恵梨花を振り返る。
「俺達も買って、公園で食わねえか?」
ふと、亮の言葉から前回のデートの記憶がよみがえり、恵梨花は茶目っ気たっぷりに聞いてみた。
「……ねえ、亮くん、前にも似たようなことありませんでしたっけ?」
「あー……」
亮も思い出したのだろう、苦笑している。
前のデートの時、会うなりお互いを褒め合って、変な空気になったことがあった。今日も似たようなことをしている。
「そういえば、そんなこともありましたな」
恵梨花の茶目っ気に乗って、無駄に厳しい顔を作って頷く亮。
「やっぱり、亮くんもそう思われましたか」
恵梨花も似たような顔つきをして、亮を見上げた。
そして目が合うと、少しの間を置いて、だしぬけに崩れる二人の表情。
「くっく……」
「ふふっ……」
そして堪えきれずに、二人はその場で大笑いしたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇
「穴があったら入りたいとはこのことか……」
正気に戻った亮の、浮かれていた己の所行を悔いた言葉である。
思い出したくもないが、つい先ほどのことなので、自分がどれだけ興奮状態にあって、どれだけ恥ずかしいことをしていたか、鮮明に記憶していた。
それだけでもキツいところだが、問題はその原因たる隣を歩く恵梨花だ。
横目で見ると、恵梨花は亮とは反対方向へと顔を背け、肩を小刻みに震わせている。
普段は見えない、真っ白なうなじが目に飛び込み、つい目がそこへ行きそうになるのを、意思の力を振り絞って元に戻す。
(やばい)
この一言に尽きる。
ポニーテールで武装した恵梨花は、尋常ではない破壊力を有している(特に亮に対して)。
有り得ないぐらい可愛く、目が合うと最近はあまりなかった緊張がどっと押し寄せてきそうになり、それを抑えるので精一杯なのである。
亮は臨戦態勢を整えるように、深呼吸をした。
「オッホン」
ワザと大きめの咳払いをして、恵梨花の注意をこちらに向ける。
「……っふ、ふふっ……」
亮の意図することが伝わったようで、恵梨花は笑みを零しながら正面を向いた。
「えーっとだな、恵梨花」
「ふふっ……おほん! 何?」
ここでの恵梨花の咳払いは、笑いを無理矢理抑えるために違いない。しかし、口元に手を当てているあたり、抑えきれてはいなかった。
亮はやりきれない気持ちになりながら頭を掻く。
「さっきのことなんだがな……」
「うん」
「まあ、なんだ、記憶から消去してくれたら助かるんだが……」
「ええー」
恵梨花が殊の外、残念そうな声を出した。しかし、瞳は悪戯っぽい光を放っている。
「あんなに亮くんが褒めてくれたことを忘れろって言うの?」
そんなことを言いながら、からかい混じりの笑みで見上げてくる。
「……ぐ……」
そんな恵梨花が可愛いやら恥ずかしいやらで、亮は顔を赤くし、更には上手く口が回らず変な呻き声を漏らした。
「ぜ、全部、忘れろとは言わんが、その、俺がちょっと……舞い上がってたことなんかは忘れてもらいたい」
そんな情けないことを言うと、恵梨花は噴き出すのを堪えきれなかったようで、口を手で抑えながら顔を背けてしまった。
再び静かに震える恵梨花の肩。
「……オッホン!」
再度の亮の咳払いで恵梨花は、目元を拭いながら前を向いた。
「……ふっ……うん、ちょっと? ……ね? はい、わかりました」
楽しげに震える声でだが、一応は了承してくれた。
(穴はないのか……)
つい目で、隠れられる場所を探してしまった亮である。
しかし、そんなもの見つかるはずもなく、亮は話題を変えることにした。
「そ、そういえば、恵梨花って、この辺によく来たりするのか?」
これは今朝のメールで、待ち合わせ場所をこの街――泉座に指定してきた時から、気になっていたことである。
「え? ううん、今日で……二回目かな」
その返答に、つい安堵の息を零す。
「そうか……わかってると思うが、夜に近づくような真似はするなよ?」
「それはもちろん……ね。この辺も落ち着いてきたらしいけど……夜は怖くて来れないよ」
「ああ。来ないで正解だな」
「亮くんは……? この街によく来るの?」
「……よく来るように見えるか?」
肩を竦めてそう返す亮に、恵梨花は眉を寄せ「う~ん」と唸る。
「わかんない」
小首を傾げたその仕草に、何故だか笑いそうになった。
そして恵梨花を疑った訳ではないが、返事を聞いて亮は更に安心する。
街によく来る人間には特有の雰囲気があるため、慣れた者ならばそれを嗅ぎ分けることができる。
そのことから、恵梨花の返答の「わかんない」は、街に慣れていないことを示している。
街に慣れているなら、「見える」か「見えない」かの二択で答えるだろう。
「そうか、俺はたまに、だな……月に一回あるか、ないかぐらい」
「そうなんだ……来る時って、夜?」
「ああ」
「そっか……まあ、亮くんなら大丈夫だよね」
「ああ、そっちの心配ならまったく無用だ」
そっち、とは無法な若者達の暴力である。
「うん。私が言えた立場じゃないと思うけど、だからと言って、無闇に喧嘩したりしちゃダメだよ?」
「失礼な、俺は自分から素人相手に喧嘩ふっかけるような真似はしねえぞ」
「うん、よろしい」
満足気に頷く恵梨花。
その言い方がまたどこかのお母さんっぽくて、亮はつい笑ってしまった。
それから二人は、適当に街中をブラブラと歩いた。
恵梨花はこの街に慣れておらず、どこにどんな店があるかも詳しく知らない。
亮はたまに来るとは言っても、夜に男友達と飲み食いするのが目的なので、知っている店など限られている。
当然、女の子を案内するようなところなどわからない。
わかるのは、自分の知っている美味いラーメン屋や焼き鳥屋へ、付き合って初めてのデートで連れて行くべきではない、ということぐらいだ。
結局、二人とも詳しくないということなので、とりあえず街を散策してみることにした。
普段は夜にしかこの街に来ない亮が、明るい時間に歩いて一つわかったことがある。
この街は昼と夜とでは、見せる顔がまるで違うということだ。
昼の治安がよくなったとは聞いていても、昔のイメージが悪過ぎて、いまいち信じられなかった。
しかし、歩いてみるとそれがよくわかる。
ふと視線を動かせば、女の子だけのグループが楽しげに談笑しているのが見える。
それも如何にも街に慣れている、といった感じではなく、普通の女の子達だ。
ちょっと前まではなかなかお目にかかれなかった光景だろう。
お洒落な店も増えていて、昼の光景だけを見ていれば、普通の若者が集まる街のようだ。
「治安がよくなったってのは、本当だったんだな……」
亮がしみじみと呟くと、恵梨花が不思議そうに問い掛けた。
「? 亮くん、たまに来てるんじゃないの?」
「俺が来るのはいつも夜だからな」
「……やっぱり、夜と昼じゃ全然違う?」
「ああ、全然違う。正直、驚いてる」
「へえー……夜はやっぱりまだ危険なの?」
「まあ……でも昔ほどじゃないだろうな」
「そっか……あ、ねえ、あのお店、何かの雑貨屋さんかな? 行こ?」
楽しげに駆け出す恵梨花に、苦笑を浮かべて亮も後に続いた。
◇◆◇◆◇◆◇
「ここか?」
「うん、オムライスが美味しいんだって!」
「へえ……席、空いてりゃいいんだけど」
そう言いながら亮が扉を開ける。重い木製の扉を備えたこの店は、洋食屋だった。
そもそも今日のデートが泉座になったのは、恵梨花がお昼に食べてみたいこの店があったからで、街に来ること自体が目的ではない。
亮の勝手な想像から、お昼は小洒落たカフェに連れてかれると思っていたので、少々予想外であった。
それほど大きな店ではなく、外壁は白く窓が二つ並んでいる。近くまで来なければ、民家と間違えそうだ。
中に入ると、テーブル席が四つ、カウンター席が六つで、それほど広くない。席は七割ほど埋まっているが騒がしくはなく、落ち着いた雰囲気である。
客は亮達より少し年上の大学生ぐらいが多く、店内はカップルで占められていた。
カウンターの中では豊かな髭をたくわえた中年の男が、白のコックコートとコック帽で身を包み、愛想のいい笑みを浮かべている。
「いらっしゃい、奥のテーブルへどうぞ」
手で示された席に向かい、二人は向かい合って腰を下ろす。
「はあ、本当に今日は暑いな」
だらしなく椅子にもたれて亮がボヤくと、恵梨花がクスリと笑う。
「ねえ、もう夏だね」
ちなみに店内はエアコンが効いていて涼しい。
「だな……オムライスが美味いんだって?」
「そう! 友達から聞いてたんだけど、場所が場所だから今まで積極的に来ようと思わなくて」
「俺がいるならってか」
「うん!」
嬉しそうに輝かんばかりの笑顔で頷く恵梨花。
亮がいるから安全、というのは、朝に明が予想した通りのようだった。
「なら、オムライスにしてみるか。一応メニューはっと……」
テーブルの上で、二人で見れるようにメニューを開く。
オムライスの欄を見ると、ランチメニューの範囲内では三種類あった。
「私、デミグラスソースにしよっかな……亮くんは?」
「俺は……トマトソースにするか」
「うんうん……あっ、ここって大盛りとかできるのかな? 亮くん、足りないよね?」
流石いつも亮の弁当を作っているだけあって、普通の一人前では亮の腹を満たさないだろうと、すぐに気づいた恵梨花である。
メニューを眺めながら、「メガ盛り」の文字はどこかと探していた亮も、苦笑するしかない。
「大盛りがあるかはもちろん聞くが、無けりゃ、おかわりするから」
「そっか……おかわり何回になるんだろ」
「……」
後半、ボソッと自分に問い掛けるような恵梨花の独り言に、亮は何も答えなかった。
「美味しそー」
湯気立つデミグラスソースのかかったオムライスを前に、恵梨花が上機嫌な声を上げる。ちなみに量は普通に一人前である。
そしてその差し向かいに並ぶのは、チーズも混ぜられたトマトソースのかかったオムライス。
こちらは、目測でも恵梨花のオムライスの、ざっと三倍以上の量がある。ハッキリ言って馬鹿みたいな大きさである。
注文を頼む時、「大盛りはあるか?」と亮が問うと、店主から「プラス二百円でありますよ」と返事があった。
更に亮が「特盛りは?」と聞くと、店主は少し考えた後に「プラス三百円で用意します」と、愛想良く言った。
更に更に、亮が「メガ盛りは?」と聞くと、店主はちょっと引きつった顔で「……プラス五百円です」と答えてくれた。
更に更に更に、亮が調子に乗って「ギガ盛――」と言いかけたところで、恵梨花が「メガ盛りでお願いします、すみません」と割って入り、ようやく注文が終わった。
亮が恵梨花に睨まれ、少々気まずい空気が流れた後に、説教タイムが始まる。
内容を簡潔にまとめると、「あんまり無茶を言って、お店に迷惑をかけるんじゃありません」だ。
驚くべきは、この内容の説教を言葉を変えながら十分近く続けた恵梨花か、はたまた十分かからずにメガ盛りのオムライスを用意してきた店主か、甲乙つけがたいところである。
ともあれ、オムライスを目にした恵梨花の機嫌が急回復したので、亮はホッとして、心の中で店主に深い侘びと感謝の言葉を捧げた。
亮も空腹になっていたので、意識は綺麗にオムライスに向けられた。
「いただきます」
二人の声が重なり、スプーンを手に取り一口。
「美味しい」
幸せそうな声を出す恵梨花に、亮は同意するように頷いた。
卵は半熟のふわとろで、かかっているソースはトマトの甘味と、チーズの旨みが混ざり、中のケチャップライスとの相性も抜群。酸味も利いて、食べる毎に食欲が増してくるようだ。
しかし、二口、三口と恵梨花よりも明らかにハイペースで食べ進めていた亮は、ふと違和感を覚えて手を止めた。
(美味いことは美味いんだけどな……?)
手を動かしながらも首を傾げている亮に、恵梨花が気づく。
「どうしたの? ……美味しくない?」
「いや……そういう訳じゃねえんだけど……」
「けど?」
「……何か……そうさな、物足りない?」
「ふうん? ……味付けとか?」
「いや……何かこう……」
小首を傾げている恵梨花と目が合う。
そこで亮は気づいた。
「ああ、そうか。恵梨花と一緒に昼飯を食べてるのに、恵梨花が作ったのじゃないからか」
ここ最近、亮の昼食は全部恵梨花の手作り弁当である。味はもちろんだが、何よりその手作り感に、亮は非常に満足している。
いつもと同じく恵梨花と一緒なのに、恵梨花の手作りでない料理を食べていることが、味は良くても違和感――物足りなさの原因となってしまったのだ。
「そういえば、最近、恵梨花がいない時のメシでも同じようなこと考えてたっけな……毎日三食食べたいってのは、流石に我が儘が過ぎるよな……」
「……? あ、そ、そうなんだ……」
亮の言いたいことが瞬時にはわからず、恵梨花は不思議そうな表情を浮かべたが、理解すると俯いてしまった。耳が真っ赤だ。
「まあ、無いものねだりしても仕方ねえしな。弁当じゃなくていいって言ったのは俺だし、恵梨花は気にしなくていいから」
「う、うん……」
ぎこちなく頷く恵梨花を前に、違和感の正体がわかってスッキリした亮は、再びオムライスの攻略にかかる。そして、口に含んだものを呑み下した時、そういえばと思い出した。
「そういや、材料費もう無くなったんじゃねえか? ここの支払いの時に、また一万円渡すから」
もそもそと俯きながら食べていた恵梨花が、きょとんと顔を上げる。
「え? ううん、まだ残ってるからいいよ」
「……まだ……残ってるのか?」
信じられないと言わんばかりの亮に、コクリと頷く恵梨花。
二人が何の話をしているかと言うと、恵梨花が作る弁当の材料費のことである。
人より少し多めに食べると自覚のある亮だ。
そんな亮に合わせて、恵梨花はかなり大きな弁当を毎日作ってくれている。
この材料費をもし恵梨花が自分の小遣いで賄っていたら、女子高生の小遣いなど瞬時に枯渇してしまうだろう。
もしくは、恵梨花の家の冷蔵庫の中身を亮がガッツリ消費していることになる。
浮かれていた亮は、梓の指摘でそのことに気づき、材料費として一万円を渡したのだ。それが無くなったら、また渡すということにして。
昼食が恵梨花の弁当になって、もう二週間が経つ。
食堂や購買、コンビニで済ましていた時は、十日ともたずに一万円なくなる亮からしたら、まだ材料費を残しているという恵梨花の言葉は信じられなかった。
「お米買っちゃったから、そんなにだけど……まだあるよ?」
あごに人差し指を当て、軽い調子で言う恵梨花に、亮はたどたどしく返した。
「そ、そうか……無くなりそうになったら言ってくれ」
「はあい」
唖然としている亮がおかしかったのか、クスクスと笑う恵梨花であった。
◇◆◇◆◇◆◇
食事を終え、特製のメガ盛りオムライスを完食した亮に、驚愕の眼差しを向けてくる店主に支払いを済ませた二人は、店を出た。
時刻は正午を過ぎ、強い陽射しが照りつける外を歩くのも……ということで、目に留まった大きめのゲームセンターへ入ることにする。
奥の方ではプリクラコーナーが充実しているらしく女の子の姿が目立つが、亮と恵梨花は、せっかくなので二人で遊べるゲームをやり始めた。
ゾンビの出るガンシューティングでは、恵梨花は時折ビクッと驚くこともあったが、基本的には笑顔で楽しんでいた。
どちらとも腕前に大差は無かったが、反射神経の差か、亮が恵梨花より少しだけ長生きするという結果に終わる。
太鼓のリズムゲームでは、亮は力の入れ過ぎで太鼓を叩き潰すこともなく、上手いとも下手とも言えない手つきでそこそこのスコアを取れた。
恵梨花はと言うと、リズミカルにミスなく叩き、亮のスコアに大差をつけて勝利し、Vサインをして喜んだ。何でも、家に同じゲームがあって、家族でよくやるそうだ。
ちょっと騙し討ちを食らった気分になった亮は、次にエアホッケーを提案する。
運動神経に反射神経に動体視力、これらの要素が強いため、亮の負けは無いと思えたからだ――セコい。
実際、前半は確かに亮が圧倒的だった。が、しかし。
後半に入り、開いていく点差に恵梨花が少しむくれてきたところで、観客が増え始めた――主に、男の。
恵梨花の容姿のせいだろうと放っておいたところ、観戦する男達が次々と恵梨花の背後に集まってくる。
何故だと首を傾げた亮は、男達が鼻を伸ばしている様から、ようやく察した。
パックを叩く時は、前屈みの姿勢となる――つまりは、突き出るのだ、お尻が。
別に恵梨花は露出の高い格好をしている訳でも、水着を着ている訳でもない。
ただ後ろ姿を見られているだけと言えないこともないが、目の前でやられると鬱陶しい上に腹も立ってくる。
恵梨花の後ろにいる全員を蹴り飛ばしたい衝動に駆られるが、流石にそんな暴挙に出る訳にもいかず、亮は恵梨花に悟られないよう、男達を睨みつけることにした。
殺気も織り交ぜた視線を浴びた男達は、集まったそばから散っていく。
亮がその作業に集中していると、いつの間にか恵梨花に逆転されてゲームが終わっていた。
恵梨花は、自分が勝てたのがよほど意外だったようで、飛び跳ねるように喜びを表した。
その時の恵梨花の笑顔が魅力的で可愛かったものだから、亮は予想外の負けの悔しさを苦笑一つで収めることにした。
最後に恵梨花の希望で、プリクラへ。
撮影時、前回のようなぎこちなさは無かったのだが、最後のカットで何気なく恵梨花が腕を組んできたため、硬直した亮の間抜け面が一枚撮影されてしまった。
◇◆◇◆◇◆◇
「もう三時過ぎか……」
ゲーセンを出て、少し歩いたところで腕時計に目を落とした亮が呟いた。
「もう? 早いね、時間経つの」
「そうだな……なんか小腹空いたな」
「そう――え?」
相槌を打とうとした恵梨花だが、すぐさま信じられないといった面持ちで振り向いた。
「ん? いや、小腹空いたなって」
聞き返されたと思ったのか、普通に言い直す亮。
「え? ……だって、オムライスあんなに……」
「いや、もう食って……三時間近くは経つだろ?」
「あー……うん、はい、消化したのね?」
「ああ」
以前、まったく同じようなことがあったのを恵梨花は思い出した。
(はあ……本当に……)
亮はいろんなことで驚かしてくれる。昨日の剣道部との騒動なんかもそうだ。
しかし、だ。
やはり一番の驚きポイントは、食べても食べてもすぐに消化する、異常に活発な亮の胃袋ではないだろうか。
そんな気がしてならない。
「ん……? なんか、公園の方からいい匂いが……」
恵梨花の心の内など露知らず、亮が鼻をヒクつかせつつ首を動かす。
釣られて同じ方向を見てみれば、公園の入り口あたりで、ワゴン車が何か販売していた。
「あれは……クレープか……」
亮は近くの女の子が手にしているのを見たようで、そう呟きながら恵梨花を振り返る。
「俺達も買って、公園で食わねえか?」
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