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最終話 ねじ巻きトカゲの愛と嘘
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「こんな世界はまるでパチンコだ」
荒れ狂う荒野で醜い男は独り呟いた
マグマオーシャンは身を焦がし、この環境で生息できる生物などいるはずもない。
そんな世界でねじ巻きは生まれてしまった。
「お誕生日おめでとう」
男がそう呟いた
ねじ巻きにとって彼は生みの親であり、育ての親になる。しかし、本当の親ではない。
刷り込みとでも言うのだろうか
月は朱色に光り、地面はひび割れ、海は裂けた。
退廃したこんな世界でしか生きれないという、アイロニーをその耳に捉えざるを得なかった。
時は現代、首都東京
色と欲にまみれた新宿の歌舞伎町にねじ巻きは居た。
駅近の廃ビルで"彼ら"は窓の外を眺める。
「ったく、野郎達には困ったもんだぜ…」
「始末しちゃいます?アニキ~」
おちゃらけた様子で一人のねじ巻きが言う。
「いや、奴らを正すのが俺たちの使命だ。そうだろ?N.401」
「あぁ、そのとおりだ。それに、奴らだってバカじゃない。踏み越えちゃならない一線くらいは分かってるはずさ」
ねじ巻きには、ねじ巻きの掟がある。
上司に対するマナーから、バナナはおやつに入らない。などというふざけたものまで
ねじ巻き達の中では、規則としてしっかり定まっている。
その中で最も大事な掟、ねじ巻き達が命を懸けて守らなければならない掟がある。
〈愛と嘘を大切にする〉
それがねじ巻き達の絶対順守の掟
「まだ作戦開始まで時間があるな… 俺は少し外の空気を吸ってくる」
そう言ってねじ巻きはドアノブに手をかける。
「あまり遅くなるなよ、この作戦の大事さはお前が一番わかってるはずだ」
「あぁ、分かってるよN.401。本当に少しさ」
ねじ巻きは廃ビルを出たあと、暗い路地裏を歩く。
一歩一歩踏みしめるように、心を整えていく。
N.401に言われた通り、これから行う作戦はねじ巻きにとって一世一代の大勝負のようなものだ。
「そろそろ帰ろう」
そう思い、踵を返そうとした瞬間
背後から、弱々しく小さい声で語りかけられる。
「助けて…ください…」
ねじ巻きの後ろにいたのは、20代後半の青年。
下にうつむき膝を押さえ、ハァ…ハァ…と息を整えながらも必死にねじ巻きに訴える
「助けて…ください…!」
その男にどこか面影を感じたのだろうか、だからこそねじ巻きは柄にもないことをしてしまう。
青年の腕を引き、自分の背後の物陰に身を隠させる。
「おい!こっちから、こんくらいの男が走ってこなかったか!?」
「あ~…確かにさっき、あちらの方へ走っていく人は見かけましたね」
「そうか、…おい!行くぞ!」
強面の男達はねじ巻きの指さした方へと走っていく。
ねじ巻きは後ろに振り返り
「どんな状況か、話してもらおうか」
そう、男に語りかけた
曰く、強面の男達は借金取りで、この青年が借金返済の目処が立たなくなったので追いかけられていた、とのこと
そんなことこの街では日常茶飯事で、そんなことだろうとねじ巻きは思っていた。
だが、いつもと違いねじ巻きは青年を助けてしまった。
いつもなら、借金取りに付き出すとまではいかなくも、極力揉め事に関わろうとしないはずのねじ巻きが、だ。
ねじ巻きはそのことに驚きはしなかったが、反面気持ち悪さを心の奥底に感じていた。
青年は、といえば自分のこれからについて必死に考えている。
当然といえば当然だ、ここで助かったのは姑息な手段に過ぎないのだから。
だが、命の恩人とも呼べる存在の目の前で、自分の事だけしか考えないのは、"あまりにも醜い"
だからこそ、ねじ巻きは彼に好感を持った。
そして、頭の中でこれからどうするかと考えが右往左往している青年に言う。
「俺についてこないか?」
「お前…一体何を考えているんだ」
戻っできたねじ巻き達を見るなりN.401が言った。
「こいつも作戦に加える、なに、責任は俺が取る」
「そういうことじゃねぇだろ!」
間髪入れずN.401が叫ぶ。
「言ったよな、この作戦がどれだけ大事かって、それなのにこんな厄介ごと持って帰ってきやがって。一体どういうつもりだ、って聞いてんだよ!」
「一体いつから…お前は俺にそんな口聞けるようになったんだ?」
比較的温厚なねじ巻きが、低く冷たい声で言う。
場の不穏さを感じ取ったのか
「ま、まぁそこらへんにしてくださいっすよ ねじ巻きさんも何も考えなしにコイツ連れてきたわけじゃなさそうですし…」
一人のねじ巻きが仲裁役を買って出たことで、この話は一旦落ち着いた。
「お前にやってもらいたいのは運び仕事だ」
ねじ巻きは青年に仕事の内容を伝える。
「まずは新宿駅東口の5番ゲート、そこの窓口で『黒のチャネルプを落とした』と言え そしたら一つのカバンが渡される。それをここに持ってこい、それだけだ」
青年は真剣な様子でねじ巻きの話を聞く。
青年にとっては、これが人生最後のチャンスなのだ。
「それが成功したなら、向こう100年のお前の安全を保証してやる。だが、失敗しようものなら…あの借金取りなんて目じゃない地獄がお前を襲う。それを覚悟しろ」
「俺たちは犯罪者だ、お前の生きている生ぬるい世界にゃ存在しねぇほどの"悪"だ。分かったら早く行け、俺たちには時間がない。」
青年には彼らがどんな人物で、これから何を行おうとしているか何一つとして分からなかった。
それでも、醜くも自分のため、青年は作戦を遂行するためにドアノブに手をかけた。
「さて、そろそろ話してもらおうか?」
N.401がねじ巻きに問いかける。
「…アイツは蛙だ」
「ククッ、トカゲに睨まれた蛙、ってところか?お前もそんな冗談言うんだな」
ねじ巻きは窓の外を眺める。
指でピストルの形を作り外を歩く人々の中心に向かって、引き金を引く。
「喜べお前ら、処理するべき死体が一つ増えるぞ」
青年は言われた通りカバンを受け取り、慎重にあの廃ビルへと向かう。
決して借金取りに見つからないよう慎重に。
傍から見ると、大事にカバンを変えた姿は万引きしている学生の様だ。
あるいは、麻薬の密売人初心者ってところかな?
しかし、そんな彼を通報するものは誰もいない。
当然だ、この街じゃあそれが日常茶飯事なのだから。
廃ビルにもうねじ巻き達の姿はない。
ねじ巻き達はやるべきことをすべて終えたのだ。
当然、青年も廃ビルへは向かわない。
途中で見てしまったのだ、カバンの中身を。
それがわざとなのか、はたまた偶然なのかは本人にしか分からないところだが、ともかく青年はカバンの中身を見た。
溢れるほどの大金の入ったカバンの中身を。
青年は急いで自分の部屋に戻った。
はどう荘の405号室で、急いで遠くへ旅立つ用意をする。
必要なものなど殆どないが、ささやかな荷造りぐらいはした。
青年はふと思い立ち、手紙を一つ書く。
そんな時間ないと分かっていながら青年は一言だけ、誰に向けたものかは書かず一言だけ。
「ごめんなさい」
ねじ巻きは歩いていた。
愛も、嘘もわからないままねじ巻きは歩いていた。
先日、彼が借金取りに追われていた青年にしたことは、"愛"のある"嘘"なのだろうか。
ねじ巻きはそんなことを頭の片隅に起き歩いていた。
荒れ狂う荒野で一人歩いていた。
そこにはねじ巻きの他に男が一人、多くの才能を持っていながらそれをドブに捨ててしまった一人の醜い男がいた。
彼は2☓☓☓年からタイムスリップしてここにやってきた。
研究所に忍び込み、逃げるように未完成のタイムマシンに乗って、この時代に飛んできた。
ねじ巻きは男に話しかける。
「何があったか…聞いても?」
男はゆっくりと口を開く。
「何も…無かったんだよ…」
弱々しく、男は続ける。
「何もかもあったはずなんだ…それでも…気づいたら何もなくて…」
子供のように、男は泣き出す。
決して、声を出すようなことはなかったが、今にも叫んでしまいそうな程に震え、泣いていた。
それを見たねじ巻きは
「私は…そうは思いませんよ」
そう、一言だけ
「あぁ…君は優しいんだな…」
「愛がある、とでも言うのだろうか 乾ききった僕の心に君の嘘はとても染みる」
「僕なんかには勿体ないくらいだ」
男は言葉を続ける。
自分がここにいることの証明かのように。
「君の…名前を聞いてもいいか?」
最後の力を振り絞るような声で、男はねじ巻きに聞く。
「ねじ巻きトカゲ」
「ねじ巻きトカゲです。」
男は返事をしなかった。
することができなかったのかもしれない。
だが、男は最後の最後で感じることができたのだ。
ねじ巻きトカゲの愛と嘘を
荒れ狂う荒野で醜い男は独り呟いた
マグマオーシャンは身を焦がし、この環境で生息できる生物などいるはずもない。
そんな世界でねじ巻きは生まれてしまった。
「お誕生日おめでとう」
男がそう呟いた
ねじ巻きにとって彼は生みの親であり、育ての親になる。しかし、本当の親ではない。
刷り込みとでも言うのだろうか
月は朱色に光り、地面はひび割れ、海は裂けた。
退廃したこんな世界でしか生きれないという、アイロニーをその耳に捉えざるを得なかった。
時は現代、首都東京
色と欲にまみれた新宿の歌舞伎町にねじ巻きは居た。
駅近の廃ビルで"彼ら"は窓の外を眺める。
「ったく、野郎達には困ったもんだぜ…」
「始末しちゃいます?アニキ~」
おちゃらけた様子で一人のねじ巻きが言う。
「いや、奴らを正すのが俺たちの使命だ。そうだろ?N.401」
「あぁ、そのとおりだ。それに、奴らだってバカじゃない。踏み越えちゃならない一線くらいは分かってるはずさ」
ねじ巻きには、ねじ巻きの掟がある。
上司に対するマナーから、バナナはおやつに入らない。などというふざけたものまで
ねじ巻き達の中では、規則としてしっかり定まっている。
その中で最も大事な掟、ねじ巻き達が命を懸けて守らなければならない掟がある。
〈愛と嘘を大切にする〉
それがねじ巻き達の絶対順守の掟
「まだ作戦開始まで時間があるな… 俺は少し外の空気を吸ってくる」
そう言ってねじ巻きはドアノブに手をかける。
「あまり遅くなるなよ、この作戦の大事さはお前が一番わかってるはずだ」
「あぁ、分かってるよN.401。本当に少しさ」
ねじ巻きは廃ビルを出たあと、暗い路地裏を歩く。
一歩一歩踏みしめるように、心を整えていく。
N.401に言われた通り、これから行う作戦はねじ巻きにとって一世一代の大勝負のようなものだ。
「そろそろ帰ろう」
そう思い、踵を返そうとした瞬間
背後から、弱々しく小さい声で語りかけられる。
「助けて…ください…」
ねじ巻きの後ろにいたのは、20代後半の青年。
下にうつむき膝を押さえ、ハァ…ハァ…と息を整えながらも必死にねじ巻きに訴える
「助けて…ください…!」
その男にどこか面影を感じたのだろうか、だからこそねじ巻きは柄にもないことをしてしまう。
青年の腕を引き、自分の背後の物陰に身を隠させる。
「おい!こっちから、こんくらいの男が走ってこなかったか!?」
「あ~…確かにさっき、あちらの方へ走っていく人は見かけましたね」
「そうか、…おい!行くぞ!」
強面の男達はねじ巻きの指さした方へと走っていく。
ねじ巻きは後ろに振り返り
「どんな状況か、話してもらおうか」
そう、男に語りかけた
曰く、強面の男達は借金取りで、この青年が借金返済の目処が立たなくなったので追いかけられていた、とのこと
そんなことこの街では日常茶飯事で、そんなことだろうとねじ巻きは思っていた。
だが、いつもと違いねじ巻きは青年を助けてしまった。
いつもなら、借金取りに付き出すとまではいかなくも、極力揉め事に関わろうとしないはずのねじ巻きが、だ。
ねじ巻きはそのことに驚きはしなかったが、反面気持ち悪さを心の奥底に感じていた。
青年は、といえば自分のこれからについて必死に考えている。
当然といえば当然だ、ここで助かったのは姑息な手段に過ぎないのだから。
だが、命の恩人とも呼べる存在の目の前で、自分の事だけしか考えないのは、"あまりにも醜い"
だからこそ、ねじ巻きは彼に好感を持った。
そして、頭の中でこれからどうするかと考えが右往左往している青年に言う。
「俺についてこないか?」
「お前…一体何を考えているんだ」
戻っできたねじ巻き達を見るなりN.401が言った。
「こいつも作戦に加える、なに、責任は俺が取る」
「そういうことじゃねぇだろ!」
間髪入れずN.401が叫ぶ。
「言ったよな、この作戦がどれだけ大事かって、それなのにこんな厄介ごと持って帰ってきやがって。一体どういうつもりだ、って聞いてんだよ!」
「一体いつから…お前は俺にそんな口聞けるようになったんだ?」
比較的温厚なねじ巻きが、低く冷たい声で言う。
場の不穏さを感じ取ったのか
「ま、まぁそこらへんにしてくださいっすよ ねじ巻きさんも何も考えなしにコイツ連れてきたわけじゃなさそうですし…」
一人のねじ巻きが仲裁役を買って出たことで、この話は一旦落ち着いた。
「お前にやってもらいたいのは運び仕事だ」
ねじ巻きは青年に仕事の内容を伝える。
「まずは新宿駅東口の5番ゲート、そこの窓口で『黒のチャネルプを落とした』と言え そしたら一つのカバンが渡される。それをここに持ってこい、それだけだ」
青年は真剣な様子でねじ巻きの話を聞く。
青年にとっては、これが人生最後のチャンスなのだ。
「それが成功したなら、向こう100年のお前の安全を保証してやる。だが、失敗しようものなら…あの借金取りなんて目じゃない地獄がお前を襲う。それを覚悟しろ」
「俺たちは犯罪者だ、お前の生きている生ぬるい世界にゃ存在しねぇほどの"悪"だ。分かったら早く行け、俺たちには時間がない。」
青年には彼らがどんな人物で、これから何を行おうとしているか何一つとして分からなかった。
それでも、醜くも自分のため、青年は作戦を遂行するためにドアノブに手をかけた。
「さて、そろそろ話してもらおうか?」
N.401がねじ巻きに問いかける。
「…アイツは蛙だ」
「ククッ、トカゲに睨まれた蛙、ってところか?お前もそんな冗談言うんだな」
ねじ巻きは窓の外を眺める。
指でピストルの形を作り外を歩く人々の中心に向かって、引き金を引く。
「喜べお前ら、処理するべき死体が一つ増えるぞ」
青年は言われた通りカバンを受け取り、慎重にあの廃ビルへと向かう。
決して借金取りに見つからないよう慎重に。
傍から見ると、大事にカバンを変えた姿は万引きしている学生の様だ。
あるいは、麻薬の密売人初心者ってところかな?
しかし、そんな彼を通報するものは誰もいない。
当然だ、この街じゃあそれが日常茶飯事なのだから。
廃ビルにもうねじ巻き達の姿はない。
ねじ巻き達はやるべきことをすべて終えたのだ。
当然、青年も廃ビルへは向かわない。
途中で見てしまったのだ、カバンの中身を。
それがわざとなのか、はたまた偶然なのかは本人にしか分からないところだが、ともかく青年はカバンの中身を見た。
溢れるほどの大金の入ったカバンの中身を。
青年は急いで自分の部屋に戻った。
はどう荘の405号室で、急いで遠くへ旅立つ用意をする。
必要なものなど殆どないが、ささやかな荷造りぐらいはした。
青年はふと思い立ち、手紙を一つ書く。
そんな時間ないと分かっていながら青年は一言だけ、誰に向けたものかは書かず一言だけ。
「ごめんなさい」
ねじ巻きは歩いていた。
愛も、嘘もわからないままねじ巻きは歩いていた。
先日、彼が借金取りに追われていた青年にしたことは、"愛"のある"嘘"なのだろうか。
ねじ巻きはそんなことを頭の片隅に起き歩いていた。
荒れ狂う荒野で一人歩いていた。
そこにはねじ巻きの他に男が一人、多くの才能を持っていながらそれをドブに捨ててしまった一人の醜い男がいた。
彼は2☓☓☓年からタイムスリップしてここにやってきた。
研究所に忍び込み、逃げるように未完成のタイムマシンに乗って、この時代に飛んできた。
ねじ巻きは男に話しかける。
「何があったか…聞いても?」
男はゆっくりと口を開く。
「何も…無かったんだよ…」
弱々しく、男は続ける。
「何もかもあったはずなんだ…それでも…気づいたら何もなくて…」
子供のように、男は泣き出す。
決して、声を出すようなことはなかったが、今にも叫んでしまいそうな程に震え、泣いていた。
それを見たねじ巻きは
「私は…そうは思いませんよ」
そう、一言だけ
「あぁ…君は優しいんだな…」
「愛がある、とでも言うのだろうか 乾ききった僕の心に君の嘘はとても染みる」
「僕なんかには勿体ないくらいだ」
男は言葉を続ける。
自分がここにいることの証明かのように。
「君の…名前を聞いてもいいか?」
最後の力を振り絞るような声で、男はねじ巻きに聞く。
「ねじ巻きトカゲ」
「ねじ巻きトカゲです。」
男は返事をしなかった。
することができなかったのかもしれない。
だが、男は最後の最後で感じることができたのだ。
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