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第十章
436:エリック、ハモネスに戻る
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LH (ルナ・ヘヴンス暦)五一年一一月二六日の早朝、ECN社本社に一人の青年が飛び込んできた。
「東部探索隊」への物資輸送業務を切り上げて駆けつけたエリック・モトムラである。
ミヤハラの帰社命令に慌てて駆けつけてきたのだ。
要求された「一一月二六日の午前中」より少し早めに戻ってきたのは彼の律義さの表れである。
エリックは人もまばらなフロアを駆け抜け、四階の社長室へとやって来た。
社長室のドアを開けようとして、鍵がかかっていることに気付く。
時計に目をやると、始業時刻の前だということがわかる。
エリックは、「早すぎたかな」とつぶやいて近くのミーティングコーナーに空きを見つけて腰掛けた。
三〇分ほどして始業時刻を迎えたが、ミヤハラやサクライが現れる気配はない。
サクライはともかく、ミヤハラは始業時間にだけは正確である。
何かあったのだろうと思い、更に三〇分待ってみる。
しかし、一向に二人が出社する気配はない。
それどころか、社内の人の姿が異常に少ないのである。
再びエリックは時計に目をやり、ようやく事態が把握できた。
土曜日だったのである。
「そうか、今日は休みだったな……」
社長室の前の廊下でエリックがひとり、つぶやいた。
周囲に社の従業員の姿はない。
エクザロームにおいても、多くの企業は土日休みの形態を取っている。
ECN社の場合は交代勤務の従業員がいるため、必ずしも土日が休みではないが、土日に出勤する従業員は平日の二割程度に過ぎない。
「社内では落ち着かないから、どこかで待つか」
エリックは一旦建物の外へ出て、近くのカフェで時間をつぶす。
そして、一一時を回ったところで、ミヤハラに連絡を入れた。
あまり朝早くに電話をかけると、ミヤハラが気分を害すると考えたからだ。
こうした気遣いがエリックらしい。
ミヤハラからはすぐにハモネス中央駅前まで来るように命じられた。
ハモネス中央駅は、ハモネスとチクハ・タウンを結ぶ鉄道の終点でECN社本社の最寄り駅でもある。
鉄道で移動するのだろうかと考えながら、エリックはECN社本社を後にした。
エリックがハモネス中央駅まで走っていくと、その場にサクライがたたずんでいた。
エリックの姿を認めると、サクライはミヤハラからの連絡を待っていると舌打ちしながら言う。
触らぬ神にたたりなしといわんばかりに、エリックは無言でサクライの背後に回りこむ。
ほどなくして、サクライの携帯端末へミヤハラの呼び出しが入る。
ぶつぶつ文句を言いながらサクライが歩き出したので、エリックもそれに続く。
「エリック、TMなら相変わらずこの調子だぜ。自分で迎えに来ればいいものを『待っているから来い』だものな……」
サクライはミヤハラをTM呼ばわりしている。
普段、公の場では「社長」と呼んではいるが、今は感情が昂ぶっているのだろう。
こうしたとき、長く染み付いた習慣を変えるのは難しいらしい。
ミヤハラが社長代行に就任してからまだ半年足らずであり、TMだった時代の方がずっと長いのだ。
「場所を取っておいてくれているのではないでしょうか……?」
エリックがミヤハラを気遣った。
それを聞いたサクライは気を遣う必要なんてない、と言って先に歩いていった。
ミヤハラの指定した場所は、エリックの予想よりもはるかに近い場所であり、鉄道での移動は必要なかった。
そこは古風な日本家屋の一軒屋で、扉に「会食処」と書かれた小さな木の板がなければ、飲食店とは到底認識できないような場所であった。
二人が中に入ると、ミヤハラが中で待っていた。
「今日は奥さん同伴じゃないんですか?」
サクライの言葉にミヤハラが首を横に振る。
「社の重大な話だからな、妻には関係ない」
要するに奥さんに聞かせられない内容なのだな、とサクライは解釈したのか、ミヤハラが席を勧める前に勝手に席に着いてしまった。
エリックはその場に立ち尽くしていたが、ミヤハラの「突っ立ってないで座れ」の声に慌てて席に着いた。
二人が席に着いたのを確認してから、席の脇にあるインターホンへミヤハラが話しかける。
しばらくして、サクライやエリックが入ってきた扉から料理のワゴンを押している店員と思われる二人が入ってきた。
ミヤハラによれば、建物そのものを貸しきっており、調理場などは隣の建物だとのことだ。
店員が料理を置いて去ると、ミヤハラが二人に向かって厳かに宣言した。
「ここでの話は重大な機密事項だからな、覚悟しておいてくれ」
エリックが神妙な面持ちでうなずく。
一方、サクライの表情には別段変わった様子がない。
「東部探索隊」への物資輸送業務を切り上げて駆けつけたエリック・モトムラである。
ミヤハラの帰社命令に慌てて駆けつけてきたのだ。
要求された「一一月二六日の午前中」より少し早めに戻ってきたのは彼の律義さの表れである。
エリックは人もまばらなフロアを駆け抜け、四階の社長室へとやって来た。
社長室のドアを開けようとして、鍵がかかっていることに気付く。
時計に目をやると、始業時刻の前だということがわかる。
エリックは、「早すぎたかな」とつぶやいて近くのミーティングコーナーに空きを見つけて腰掛けた。
三〇分ほどして始業時刻を迎えたが、ミヤハラやサクライが現れる気配はない。
サクライはともかく、ミヤハラは始業時間にだけは正確である。
何かあったのだろうと思い、更に三〇分待ってみる。
しかし、一向に二人が出社する気配はない。
それどころか、社内の人の姿が異常に少ないのである。
再びエリックは時計に目をやり、ようやく事態が把握できた。
土曜日だったのである。
「そうか、今日は休みだったな……」
社長室の前の廊下でエリックがひとり、つぶやいた。
周囲に社の従業員の姿はない。
エクザロームにおいても、多くの企業は土日休みの形態を取っている。
ECN社の場合は交代勤務の従業員がいるため、必ずしも土日が休みではないが、土日に出勤する従業員は平日の二割程度に過ぎない。
「社内では落ち着かないから、どこかで待つか」
エリックは一旦建物の外へ出て、近くのカフェで時間をつぶす。
そして、一一時を回ったところで、ミヤハラに連絡を入れた。
あまり朝早くに電話をかけると、ミヤハラが気分を害すると考えたからだ。
こうした気遣いがエリックらしい。
ミヤハラからはすぐにハモネス中央駅前まで来るように命じられた。
ハモネス中央駅は、ハモネスとチクハ・タウンを結ぶ鉄道の終点でECN社本社の最寄り駅でもある。
鉄道で移動するのだろうかと考えながら、エリックはECN社本社を後にした。
エリックがハモネス中央駅まで走っていくと、その場にサクライがたたずんでいた。
エリックの姿を認めると、サクライはミヤハラからの連絡を待っていると舌打ちしながら言う。
触らぬ神にたたりなしといわんばかりに、エリックは無言でサクライの背後に回りこむ。
ほどなくして、サクライの携帯端末へミヤハラの呼び出しが入る。
ぶつぶつ文句を言いながらサクライが歩き出したので、エリックもそれに続く。
「エリック、TMなら相変わらずこの調子だぜ。自分で迎えに来ればいいものを『待っているから来い』だものな……」
サクライはミヤハラをTM呼ばわりしている。
普段、公の場では「社長」と呼んではいるが、今は感情が昂ぶっているのだろう。
こうしたとき、長く染み付いた習慣を変えるのは難しいらしい。
ミヤハラが社長代行に就任してからまだ半年足らずであり、TMだった時代の方がずっと長いのだ。
「場所を取っておいてくれているのではないでしょうか……?」
エリックがミヤハラを気遣った。
それを聞いたサクライは気を遣う必要なんてない、と言って先に歩いていった。
ミヤハラの指定した場所は、エリックの予想よりもはるかに近い場所であり、鉄道での移動は必要なかった。
そこは古風な日本家屋の一軒屋で、扉に「会食処」と書かれた小さな木の板がなければ、飲食店とは到底認識できないような場所であった。
二人が中に入ると、ミヤハラが中で待っていた。
「今日は奥さん同伴じゃないんですか?」
サクライの言葉にミヤハラが首を横に振る。
「社の重大な話だからな、妻には関係ない」
要するに奥さんに聞かせられない内容なのだな、とサクライは解釈したのか、ミヤハラが席を勧める前に勝手に席に着いてしまった。
エリックはその場に立ち尽くしていたが、ミヤハラの「突っ立ってないで座れ」の声に慌てて席に着いた。
二人が席に着いたのを確認してから、席の脇にあるインターホンへミヤハラが話しかける。
しばらくして、サクライやエリックが入ってきた扉から料理のワゴンを押している店員と思われる二人が入ってきた。
ミヤハラによれば、建物そのものを貸しきっており、調理場などは隣の建物だとのことだ。
店員が料理を置いて去ると、ミヤハラが二人に向かって厳かに宣言した。
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一方、サクライの表情には別段変わった様子がない。
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