ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

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第十章

449:光明

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 「東部探索隊」では最年少グループのロビーではあるが、隊のトップは彼である。
 山道を歩くことに関しては副隊長のホンゴウの方が経験も知識も豊富だ。
 だからロビーはホンゴウの意見には重きを置いている。
 しかし、ホンゴウは自らの役割をわきまえているのか、それとも本来からの性質なのか、よほどのことがない限り、ロビーを差し置いて自らの意見を通すことがない。
 それでもホンゴウの意見やアドバイスは的確であったから、ロビーとしてもそれらを差し置いてまで強引に自分の意見を通すことは、可能な限り避けている。
 一方、他のメンバーの中でロビーに意見するのはオオイダくらいのものである。
 彼女の場合「意見」というより「不平不満」の類であったから、ロビーも相手が年上だということを差し置いて怒っていたこともあった。最近では呆れる方が先で、適当に受け流すことを覚えてしまったのだが。
 カネサキは本来口数の多いほうではあるが、最近に限っては非常に口数が少ない。
 当初はメイの行動を叱っていたのだが、現在では無視を決め込んでいるようだ。
 アイネスは最年長であるが、自ら意見することはほとんどない。
 ロビーの決めたことを正確に守るとともに、誰かがそれを外れれば必ずそれを指摘する。
 アイネスの行動はロビーのそれと違った意味で隊の秩序を保っていた。口うるさい学級委員長のような役割だ。彼は自らに課された役割を正しく理解していたのだ。
 コナカはもともと引っ込み思案な方だ。
 ロビーに質問されれば答えはするが、何か意見を求められても、他人の意見に賛同するくらいだ。それでもメイの様子については彼女が把握していたし、女性陣の中では一番体力があるのでメイの管理者としてロビーは重宝している。
 そのメイに関しては、他人とコミュニケーションがほとんど取れないので論外である。
 やはりロビーが自分で判断し、決めなければならないのだ。

 (天気がここまで妨害するか。面白いじゃないか。セス、待っていろよ。俺が道を見つけてやるからな!)
 自分がやらなければならない、そのような状況に追い込まれつつある中で、ロビーは腹の底から何かが湧き上がってくるのを感じていた。
 (俺は、追い込まれたときの方が力が出せるんだ……そうだ!)
 ふとロビーが思いたったように外へ出る。
 風は強く、一九〇センチを超えるロビーの長身を容赦なく地面にひれ伏させようとする。
 ロビーは屈しなかった。
 逆に風に全身で抗おうかとせんばかりに胸を反らし、その場に仁王立ちしていた。
 そして、その目はかつて歩んできた道のほうを見据えている。

 (どこだ……? どこに道はある……?
 風の隙間はどこにある……?)
 目を凝らしていると、その先で何かが光ったように見えた。
「ホンゴウさんっ! 来てくれ!」
 ロビーが岩穴の中に向けて叫んだ。
「行きます。むっ!」
 すぐにホンゴウが飛び出してきたが、風の強さに思わずのけぞった。
 ホンゴウが体勢を立て直す間もなく、ロビーがある一点を指差して声を張り上げる。
「あそこ! 何かあるように見える。何だかわかりませんか?」
 ホンゴウが首にぶら下げていた双眼鏡を覗き込んで、ロビーの指差した方を探ってみる。
 すると、かすかに水色の円が見えた。
「水色の丸印のようなものが見えます! 多分……」
「ホンゴウさん、貸してくれ!」
 ホンゴウの言葉をさえぎってロビーがホンゴウに双眼鏡を渡すように促す。
 ホンゴウは飛ばされないようにストラップを確認してから双眼鏡を手渡した。
 ホンゴウのいう図形には心当たりがある。
 もちろん、ホンゴウにも心当たりがあったから「多分……」と言葉をつなげようとした。
 しかし、ロビーに必要なのはホンゴウの言葉ではない。
 自らの目で、それが何かを確かめることであった。

 双眼鏡のレンズを通してロビーの視界に水色の円、そして緑色の曲線で描かれた「E」の文字が目に入った。
 それは彼がよく知っている企業のロゴマークであった。
「社のロゴだ! 間違いない!」
 ロビーが見間違うはずもなかった。
 それは彼の所属している会社のロゴマークだったのだから。
 ロビーは双眼鏡をホンゴウに戻し、空を見上げた。
 先ほどよりも少し風が弱まり、視界が通るようになってきたように思えた。
「ホンゴウさん、あそこまでなら行けるな!」
 ホンゴウは少し考えてから、すぐに向かいましょう、と答えた。
 彼はロビーの待てない性格を十分に把握していた。
 このまま待ってロビーや他のメンバーの士気を落とすよりも、今動く方が得策だと考えたのである。
 少し弱まったとはいえ、未だに風は強いから少し考えたのだが、現在の状況ならば何とかなる。
 急いで支度を整え、「東部探索隊」の七名が避難していた岩穴を後にした。
 背の高い男性陣が風除けとなり、少しずつ歩を進めていく。
 コナカなどは小柄で体重の軽いメイが飛ばされないか心配になる。
 しかし、メイは身体を低くして風の抵抗を受けないように進んでいる。
 彼らにとって幸いだったのは、あくまで徒歩で安全に進めるルートを探していたため、こうした状況でも道そのものは、それほど険しいものでないことだった。
 行き先さえ見失わなければ何とかなる。
 ロビーは慎重に進路を定めながら、隊を引っ張って歩いていく。
 その足跡をたどりながら、他のメンバーが彼についていく。
 ECN社のロゴマークが次第に鮮明に見えるようになってきた。
 位置から判断すると、ロビーたちが一ヶ月ほど前まで使っていた拠点である。
 しかし、彼らはその場所にロゴマークなど描いた覚えはないし、もしあったとしても、この距離から識別できるほど大きなものを描く道具など持っていない。
 それが可能な集団はそれほど多くない。
 (本社が来たな……)
 ロビーの想像が確信に変わった。
「本社の部隊が何かを置いていったぞ! たどり着けば補給があるはずだ!」
 そう叫んでロビーが皆を鼓舞する。
 間違いない。
 あれほど大きな社のロゴマークを描くことができるのは、本社、それもエリックが率いている補給物資の輸送部隊に違いない。
 ロゴマークのおかげで、ロビーたち「東部探索隊」は、迷うことなくほぼ一直線に目的地へと歩を進めていった。
 そして三時間半後、彼らはその場所へと到達し、ロビーの言葉が正しいことを知ったのである。
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