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第十一章
484:苛立ち
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かつて、ロビーは一度だけ彼自身に向けられたメイの肉声を耳にしている。
時間をかけて慣れさせればロビー自身は無理でも、コナカあたりとなら話ができると考えていたのだが、これがとんでもない難物であった。
相変わらずメイは、コナカの質問に対してうなずいたり首を横に振ったりすることで、言葉に対して肯定か否定かの意志を示すことはできる。
また、コナカを通じることで指示を出すことはできる。
少なくとも、隊列を組んで進んでいるときは、決められた場所を進むし、留まっているときは皆から少し離れた位置にいるものの、ロビーの視界の外に消えることは滅多にない。
ただ、今のところ彼女の側からの答が肯定か否定か以外にないので、彼女から具体的な情報を引き出すことができなかった。
このため、ロビーも思い切って彼女に作業をさせることができていない。
「他に何か秘書さんに変わったことはないか? 食べるものを食べてないとか、何か妙な行動をとっているとか……?」
ロビーの質問にコナカはしばらく頭をひねって考えてから、
「特には……
あえて言えば歩いているときに時々私の服の裾を引っ張るくらいかな。でも、これも前からあったことではあるし……」
と答えた。
「もうちょっとコナカさんに懐いてくれると助かるのだけどな」
「うーん、ごめんなさい。ちょっと難しい……と思う。私じゃ社長さんと違って、こちらから言葉を伝えることしかできないから……」
「そうか、何か変化があったら教えてくれ」
ロビーの立場としてもコナカにあまり負担はかけたくない。
ただでさえ、最近のカネサキはコナカに対して厳しいと感じているからだ。
探索が危険を伴うものであるだけに、カネサキの厳しい態度は必ずしも誤っているとは思えない。
ただ、ロビーの目からはカネサキはコナカとメイに特別厳しい態度を取っているように思われ、これが隊のメンバーの不和を招かないかが気にかかる。
ロビーもそれとなくはカネサキに注意を促しており、その度にカネサキもそれに従う意思は見せる。
しかし、しばらくすればもとの厳しい態度に戻り、その矛先がコナカに向くようにロビーには思われる。
(ちょっとはカネサキさんも遠慮してくれればいいのだけどなぁ……)
幸い、ホンゴウやアイネスができた人間であることと、女性陣のうち三人が仲間であることから、メンバーの間に不協和音が生じているようには見えない。
ただ、これ以上カネサキが厳しい態度を取るとコナカ以外と意思疎通ができないメイはともかく、コナカが萎縮しかねない。
温和で素直なのがコナカの良さであるのに、萎縮させてしまっては元も子もないからだ。
また、ロビーが彼女にもっとも期待しているのはメイを隊からはみ出させないことである。
メイがはみ出せば、真っ先にカネサキが爆発するであろう。
そのときにカネサキを抑えることができないとは思わないが、できればそうした事態は避けたいところである。
いくら手を焼いているとはいえ、メイが志願して隊にいる以上は、ロビーの性質として彼女を放り出すことはできない。
他のメンバーに対してもロビーは同様に考えているから、やはりここは全員が仲たがいすることなく、まとまって行動してくれるのが望ましい。
ロビーがふと視線を上げた。
彼の視線の先には、一人たたずむ小柄な女性の姿があった。
メイである。
(やはり、社長さんじゃないとダメなのか……?!)
ロビーの目から見てもコナカのメイに対する対応は、十分以上のものであった。
しかし、そのコナカをもってしてもメイが隊の輪の中に入る気配はない。
それどころか、コナカに対してすら一言も発してないという。
コナカからも、恐らく社長さんことオイゲンでないと、彼女との会話はできないだろう、と言われている。
(行方不明って、一体社長さんは何をしているんだ?! 生きているならば、出てくればいいものを! 秘書さんがどれだけ傷ついているかわかっているのか?!)
ロビーがぶつけようのない怒りに顔をしかめてから、慌てて何かを振り払うように手を振った。
オイゲンが姿を現すことのできない理由を想像しているうちに、最悪の事態が浮かんできたからだ。
正直なところ、ロビーにとってオイゲンの生死はセスの生死と比較すれば取るに足りないくらいの重要性しか持たない。
だが、「東部探索隊」のメンバーが力を発揮できない状況にあるのは、ロビーとしては看過できない。
正直なところ、メイが何を目的として「東部探索隊」に参加しているのかはロビーにも理解できていない。
ただ、隊に隊員として参加している以上、隊に何らかの貢献をすべきであるという考えはロビーにはある。
もし、隊に貢献していない者があるとするならば……それは隊を率いる隊長、すなわちロビー自身の責任である。これがロビーを苛立たせている。
(……ったく、どうすればいいんだ?! 俺は何をやっている?)
ロビーが途方に暮れていると、不意に後方から彼を呼ぶ声が聞こえてきた。
時間をかけて慣れさせればロビー自身は無理でも、コナカあたりとなら話ができると考えていたのだが、これがとんでもない難物であった。
相変わらずメイは、コナカの質問に対してうなずいたり首を横に振ったりすることで、言葉に対して肯定か否定かの意志を示すことはできる。
また、コナカを通じることで指示を出すことはできる。
少なくとも、隊列を組んで進んでいるときは、決められた場所を進むし、留まっているときは皆から少し離れた位置にいるものの、ロビーの視界の外に消えることは滅多にない。
ただ、今のところ彼女の側からの答が肯定か否定か以外にないので、彼女から具体的な情報を引き出すことができなかった。
このため、ロビーも思い切って彼女に作業をさせることができていない。
「他に何か秘書さんに変わったことはないか? 食べるものを食べてないとか、何か妙な行動をとっているとか……?」
ロビーの質問にコナカはしばらく頭をひねって考えてから、
「特には……
あえて言えば歩いているときに時々私の服の裾を引っ張るくらいかな。でも、これも前からあったことではあるし……」
と答えた。
「もうちょっとコナカさんに懐いてくれると助かるのだけどな」
「うーん、ごめんなさい。ちょっと難しい……と思う。私じゃ社長さんと違って、こちらから言葉を伝えることしかできないから……」
「そうか、何か変化があったら教えてくれ」
ロビーの立場としてもコナカにあまり負担はかけたくない。
ただでさえ、最近のカネサキはコナカに対して厳しいと感じているからだ。
探索が危険を伴うものであるだけに、カネサキの厳しい態度は必ずしも誤っているとは思えない。
ただ、ロビーの目からはカネサキはコナカとメイに特別厳しい態度を取っているように思われ、これが隊のメンバーの不和を招かないかが気にかかる。
ロビーもそれとなくはカネサキに注意を促しており、その度にカネサキもそれに従う意思は見せる。
しかし、しばらくすればもとの厳しい態度に戻り、その矛先がコナカに向くようにロビーには思われる。
(ちょっとはカネサキさんも遠慮してくれればいいのだけどなぁ……)
幸い、ホンゴウやアイネスができた人間であることと、女性陣のうち三人が仲間であることから、メンバーの間に不協和音が生じているようには見えない。
ただ、これ以上カネサキが厳しい態度を取るとコナカ以外と意思疎通ができないメイはともかく、コナカが萎縮しかねない。
温和で素直なのがコナカの良さであるのに、萎縮させてしまっては元も子もないからだ。
また、ロビーが彼女にもっとも期待しているのはメイを隊からはみ出させないことである。
メイがはみ出せば、真っ先にカネサキが爆発するであろう。
そのときにカネサキを抑えることができないとは思わないが、できればそうした事態は避けたいところである。
いくら手を焼いているとはいえ、メイが志願して隊にいる以上は、ロビーの性質として彼女を放り出すことはできない。
他のメンバーに対してもロビーは同様に考えているから、やはりここは全員が仲たがいすることなく、まとまって行動してくれるのが望ましい。
ロビーがふと視線を上げた。
彼の視線の先には、一人たたずむ小柄な女性の姿があった。
メイである。
(やはり、社長さんじゃないとダメなのか……?!)
ロビーの目から見てもコナカのメイに対する対応は、十分以上のものであった。
しかし、そのコナカをもってしてもメイが隊の輪の中に入る気配はない。
それどころか、コナカに対してすら一言も発してないという。
コナカからも、恐らく社長さんことオイゲンでないと、彼女との会話はできないだろう、と言われている。
(行方不明って、一体社長さんは何をしているんだ?! 生きているならば、出てくればいいものを! 秘書さんがどれだけ傷ついているかわかっているのか?!)
ロビーがぶつけようのない怒りに顔をしかめてから、慌てて何かを振り払うように手を振った。
オイゲンが姿を現すことのできない理由を想像しているうちに、最悪の事態が浮かんできたからだ。
正直なところ、ロビーにとってオイゲンの生死はセスの生死と比較すれば取るに足りないくらいの重要性しか持たない。
だが、「東部探索隊」のメンバーが力を発揮できない状況にあるのは、ロビーとしては看過できない。
正直なところ、メイが何を目的として「東部探索隊」に参加しているのかはロビーにも理解できていない。
ただ、隊に隊員として参加している以上、隊に何らかの貢献をすべきであるという考えはロビーにはある。
もし、隊に貢献していない者があるとするならば……それは隊を率いる隊長、すなわちロビー自身の責任である。これがロビーを苛立たせている。
(……ったく、どうすればいいんだ?! 俺は何をやっている?)
ロビーが途方に暮れていると、不意に後方から彼を呼ぶ声が聞こえてきた。
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