ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

文字の大きさ
62 / 304
第十一章

484:苛立ち

しおりを挟む
 かつて、ロビーは一度だけ彼自身に向けられたメイの肉声を耳にしている。
 時間をかけて慣れさせればロビー自身は無理でも、コナカあたりとなら話ができると考えていたのだが、これがとんでもない難物であった。
 相変わらずメイは、コナカの質問に対してうなずいたり首を横に振ったりすることで、言葉に対して肯定か否定かの意志を示すことはできる。
 また、コナカを通じることで指示を出すことはできる。
 少なくとも、隊列を組んで進んでいるときは、決められた場所を進むし、留まっているときは皆から少し離れた位置にいるものの、ロビーの視界の外に消えることは滅多にない。
 ただ、今のところ彼女の側からの答が肯定か否定か以外にないので、彼女から具体的な情報を引き出すことができなかった。
 このため、ロビーも思い切って彼女に作業をさせることができていない。

「他に何か秘書さんに変わったことはないか? 食べるものを食べてないとか、何か妙な行動をとっているとか……?」
 ロビーの質問にコナカはしばらく頭をひねって考えてから、
「特には……
 あえて言えば歩いているときに時々私の服の裾を引っ張るくらいかな。でも、これも前からあったことではあるし……」
 と答えた。
「もうちょっとコナカさんに懐いてくれると助かるのだけどな」
「うーん、ごめんなさい。ちょっと難しい……と思う。私じゃ社長さんと違って、こちらから言葉を伝えることしかできないから……」
「そうか、何か変化があったら教えてくれ」
 ロビーの立場としてもコナカにあまり負担はかけたくない。
 ただでさえ、最近のカネサキはコナカに対して厳しいと感じているからだ。
 探索が危険を伴うものであるだけに、カネサキの厳しい態度は必ずしも誤っているとは思えない。
 ただ、ロビーの目からはカネサキはコナカとメイに特別厳しい態度を取っているように思われ、これが隊のメンバーの不和を招かないかが気にかかる。
 ロビーもそれとなくはカネサキに注意を促しており、その度にカネサキもそれに従う意思は見せる。
 しかし、しばらくすればもとの厳しい態度に戻り、その矛先がコナカに向くようにロビーには思われる。
 (ちょっとはカネサキさんも遠慮してくれればいいのだけどなぁ……)
 幸い、ホンゴウやアイネスができた人間であることと、女性陣のうち三人が仲間であることから、メンバーの間に不協和音が生じているようには見えない。
 ただ、これ以上カネサキが厳しい態度を取るとコナカ以外と意思疎通ができないメイはともかく、コナカが萎縮しかねない。
 温和で素直なのがコナカの良さであるのに、萎縮させてしまっては元も子もないからだ。
 また、ロビーが彼女にもっとも期待しているのはメイを隊からはみ出させないことである。
 メイがはみ出せば、真っ先にカネサキが爆発するであろう。
 そのときにカネサキを抑えることができないとは思わないが、できればそうした事態は避けたいところである。
 いくら手を焼いているとはいえ、メイが志願して隊にいる以上は、ロビーの性質として彼女を放り出すことはできない。
 他のメンバーに対してもロビーは同様に考えているから、やはりここは全員が仲たがいすることなく、まとまって行動してくれるのが望ましい。

 ロビーがふと視線を上げた。
 彼の視線の先には、一人たたずむ小柄な女性の姿があった。
 メイである。
 (やはり、社長さんじゃないとダメなのか……?!)
 ロビーの目から見てもコナカのメイに対する対応は、十分以上のものであった。
 しかし、そのコナカをもってしてもメイが隊の輪の中に入る気配はない。
 それどころか、コナカに対してすら一言も発してないという。
 コナカからも、恐らく社長さんことオイゲンでないと、彼女との会話はできないだろう、と言われている。
 (行方不明って、一体社長さんは何をしているんだ?! 生きているならば、出てくればいいものを! 秘書さんがどれだけ傷ついているかわかっているのか?!)
 ロビーがぶつけようのない怒りに顔をしかめてから、慌てて何かを振り払うように手を振った。
 オイゲンが姿を現すことのできない理由を想像しているうちに、最悪の事態が浮かんできたからだ。
 正直なところ、ロビーにとってオイゲンの生死はセスの生死と比較すれば取るに足りないくらいの重要性しか持たない。
 だが、「東部探索隊」のメンバーが力を発揮できない状況にあるのは、ロビーとしては看過できない。
 正直なところ、メイが何を目的として「東部探索隊」に参加しているのかはロビーにも理解できていない。
 ただ、隊に隊員として参加している以上、隊に何らかの貢献をすべきであるという考えはロビーにはある。
 もし、隊に貢献していない者があるとするならば……それは隊を率いる隊長、すなわちロビー自身の責任である。これがロビーを苛立たせている。
 (……ったく、どうすればいいんだ?! 俺は何をやっている?)
 ロビーが途方に暮れていると、不意に後方から彼を呼ぶ声が聞こえてきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...