65 / 304
第十一章
487:もと社長秘書の策
しおりを挟む
ロビーの呼びかけにオオイダも横たわったまま手を振って答えようとしたが、カネサキがそれを制止している。二人とも意識はある。
ホンゴウからの説明によれば、先行していたオオイダが足を滑らせて穴に転げ落ち、それを引き上げようとしたカネサキが巻き込まれたとのことであった。
オオイダが岩に横たわっているのは、転げ落ちた際に、強く頭を打ったからのようだった。
また、カネサキも無傷、というわけではないようだった。
カネサキの様子を不審に思ったアイネスが問いただしたところ、右腕が動かせないと、苛立ちを隠さない声でカネサキが答えたのだ。
更にアイネスがカネサキにいくつかの質問を投げかけた。
それに対し、カネサキは唇を噛みながら首を横に振った。
カネサキの様子を見たアイネスが、右腕を脱臼している可能性が考えられる、とロビーに告げた。
そうであるならば、たとえロープなどを投げ渡したとしても、彼女等が自力で戻ってくるのは不可能に近い。
アイネスとカネサキが問答している間、ロビーの後方に立っていたコナカは背後で何かが動くのを感じた。
振り返ると、メイがコナカの荷物を広げてガサガサと何かを探している。
気にはなったもののそれどころではない、と思いコナカはそれを放っておいた。
力のあるロビーがロープを身体に結び付けて救助に向かうと主張し、ホンゴウが静かにそれを制止した。
大柄なロビーでは砂状の外壁が耐えられないであろう。
ロープを結びつけるくらいの準備では、二重遭難になりかねない。
そうなれば、更なる救助が必要となり、その作業はとてつもない困難を伴うであろう、ということであった。
確かに外壁はロビーが軽く足をかけただけでも崩れかけるほど脆い。
ホンゴウの主張ももっともであると、ロビーは自らによる救助を思いとどまった。
かつてのロビーなら、ホンゴウの制止を振り切って意地でも救助に向かったであろうが、ここにいるのはかつての彼ではなかった。
この半年足らずの間、ロビーは「東部探索隊」のトップとして六名の部下を率いてきた。
こうした探索行を率いるトップとしては、島内でも屈指の経験を誇るレベルに到達しつつある。
しかし、「東部探索隊」には、OP社で治安改革部隊を率いてきたホンゴウがいる。
ホンゴウがロビーに意見することは決して多くなかったが、ロビーはその経験や見識を高く評価していた。
当初はロビーと敵対する陣営の上層部の者であったため、ロビーが反発するのではないかという懸念もECN社上層部にはあった。
だが、ロビーは彼らの想像よりもはるかに柔軟性に富んでいた。
「立場が違えば、するべき行動も違う」というのが彼の考え方であった。
職業学校、ECN社、「タブーなきエンジニア集団」、そして再びECN社と渡り歩いてきた経験が、彼に「立場が違えば、するべき行動も違う」という思想を植えつけたのかも知れない。
ホンゴウが物資を運ぶのに用いていたそりを用いて岩に向けて移動してはどうか、と提案したのでロビーがそりを持ってこようと振り返ると、小柄な人影が脇から飛び出してきた、メイである。
メイは抱えていた白っぽいものを広げ、穴の渕に置いた。
そして、その上にうつぶせに倒れこむ。
「待て!」
彼女の異変を察知したロビーが彼女の足首を摑んで止めた。
すると、メイは慌ててその場から飛びのき、コナカの後ろに回って隠れてしまう。
メイのいた位置にあったものは、野営用のテントの支柱とシートを組み合わせて作られた凧のようなものであった。
(そうか、こいつで砂の上を滑っていこうというのか!)
ロビーとホンゴウがほぼ同時にメイの意図に気付いた。
ソリほど頑丈ではないかもしれないが、その分軽い。
これなら、砂に埋もれることなくカネサキやオオイダを引き上げられるかもしれない。
問題は誰がこのシートに乗るか、だ。
カネサキやオオイダが自力でシートに掴まって上がるのは難しそうだ。
したがって、穴の外にいる誰かがシートに乗って彼女等のもとに赴き、彼女等を抱えて穴の外に引き上げてもらうしかないであろう。
シートに乗るにはロビーをはじめとした男性陣では身体が大きすぎるし、体重もあるのでその分砂に沈みやすくなる。
メンバー中最軽量なのはメイであるが、彼女ではカネサキやオオイダを引き上げるのには非力すぎるように思われる。
(コナカさんがベストだろうな……余計な負担はかけたくないが……)
そう思いながらも、ロビーの行動は早かった。
コナカの方に向けて、一歩踏み出す。
すると、コナカの後ろに隠れていたメイが後ずさる。
ロビーは、それを気にも留めずにコナカにむけて頭を下げる。
「コナカさん、上の方は俺で何とかするから、こいつで二人を連れてきてくれないか?」
コナカは一瞬躊躇する素振りを見せたが、ロビーの「俺が安全は守る」という言葉に首を縦に振った。
そして、メイの方を向いて、「大丈夫だから、心配しないでね」と声をかけてから、ロビーのほうへと歩み寄った。
ホンゴウからの説明によれば、先行していたオオイダが足を滑らせて穴に転げ落ち、それを引き上げようとしたカネサキが巻き込まれたとのことであった。
オオイダが岩に横たわっているのは、転げ落ちた際に、強く頭を打ったからのようだった。
また、カネサキも無傷、というわけではないようだった。
カネサキの様子を不審に思ったアイネスが問いただしたところ、右腕が動かせないと、苛立ちを隠さない声でカネサキが答えたのだ。
更にアイネスがカネサキにいくつかの質問を投げかけた。
それに対し、カネサキは唇を噛みながら首を横に振った。
カネサキの様子を見たアイネスが、右腕を脱臼している可能性が考えられる、とロビーに告げた。
そうであるならば、たとえロープなどを投げ渡したとしても、彼女等が自力で戻ってくるのは不可能に近い。
アイネスとカネサキが問答している間、ロビーの後方に立っていたコナカは背後で何かが動くのを感じた。
振り返ると、メイがコナカの荷物を広げてガサガサと何かを探している。
気にはなったもののそれどころではない、と思いコナカはそれを放っておいた。
力のあるロビーがロープを身体に結び付けて救助に向かうと主張し、ホンゴウが静かにそれを制止した。
大柄なロビーでは砂状の外壁が耐えられないであろう。
ロープを結びつけるくらいの準備では、二重遭難になりかねない。
そうなれば、更なる救助が必要となり、その作業はとてつもない困難を伴うであろう、ということであった。
確かに外壁はロビーが軽く足をかけただけでも崩れかけるほど脆い。
ホンゴウの主張ももっともであると、ロビーは自らによる救助を思いとどまった。
かつてのロビーなら、ホンゴウの制止を振り切って意地でも救助に向かったであろうが、ここにいるのはかつての彼ではなかった。
この半年足らずの間、ロビーは「東部探索隊」のトップとして六名の部下を率いてきた。
こうした探索行を率いるトップとしては、島内でも屈指の経験を誇るレベルに到達しつつある。
しかし、「東部探索隊」には、OP社で治安改革部隊を率いてきたホンゴウがいる。
ホンゴウがロビーに意見することは決して多くなかったが、ロビーはその経験や見識を高く評価していた。
当初はロビーと敵対する陣営の上層部の者であったため、ロビーが反発するのではないかという懸念もECN社上層部にはあった。
だが、ロビーは彼らの想像よりもはるかに柔軟性に富んでいた。
「立場が違えば、するべき行動も違う」というのが彼の考え方であった。
職業学校、ECN社、「タブーなきエンジニア集団」、そして再びECN社と渡り歩いてきた経験が、彼に「立場が違えば、するべき行動も違う」という思想を植えつけたのかも知れない。
ホンゴウが物資を運ぶのに用いていたそりを用いて岩に向けて移動してはどうか、と提案したのでロビーがそりを持ってこようと振り返ると、小柄な人影が脇から飛び出してきた、メイである。
メイは抱えていた白っぽいものを広げ、穴の渕に置いた。
そして、その上にうつぶせに倒れこむ。
「待て!」
彼女の異変を察知したロビーが彼女の足首を摑んで止めた。
すると、メイは慌ててその場から飛びのき、コナカの後ろに回って隠れてしまう。
メイのいた位置にあったものは、野営用のテントの支柱とシートを組み合わせて作られた凧のようなものであった。
(そうか、こいつで砂の上を滑っていこうというのか!)
ロビーとホンゴウがほぼ同時にメイの意図に気付いた。
ソリほど頑丈ではないかもしれないが、その分軽い。
これなら、砂に埋もれることなくカネサキやオオイダを引き上げられるかもしれない。
問題は誰がこのシートに乗るか、だ。
カネサキやオオイダが自力でシートに掴まって上がるのは難しそうだ。
したがって、穴の外にいる誰かがシートに乗って彼女等のもとに赴き、彼女等を抱えて穴の外に引き上げてもらうしかないであろう。
シートに乗るにはロビーをはじめとした男性陣では身体が大きすぎるし、体重もあるのでその分砂に沈みやすくなる。
メンバー中最軽量なのはメイであるが、彼女ではカネサキやオオイダを引き上げるのには非力すぎるように思われる。
(コナカさんがベストだろうな……余計な負担はかけたくないが……)
そう思いながらも、ロビーの行動は早かった。
コナカの方に向けて、一歩踏み出す。
すると、コナカの後ろに隠れていたメイが後ずさる。
ロビーは、それを気にも留めずにコナカにむけて頭を下げる。
「コナカさん、上の方は俺で何とかするから、こいつで二人を連れてきてくれないか?」
コナカは一瞬躊躇する素振りを見せたが、ロビーの「俺が安全は守る」という言葉に首を縦に振った。
そして、メイの方を向いて、「大丈夫だから、心配しないでね」と声をかけてから、ロビーのほうへと歩み寄った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる