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第十一章
500:レイカ、インデストへ向けて警戒しながら出発する
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レイカの提案の翌々日、すなわちLH五二年一月二七日の朝、レイカと七名の護衛役がインデストへ向けて出発した。
レイカの出発はOP社とIMPUに伝えられた。
OP社は当初、ポータル・シティの本社を経由してインデストへ向かうよう提案したのだが、レイカがこれを断った。
ECN社がOP社寄りの立場にあるとインデストの関係者に誤解される可能性がある、というのが表向きの理由である。中立性が損なわれるのは望ましくない。
OP社はレイカの説明に納得はしなかったものの、最終的にはこれを受け入れた。それだけ困窮しているというのが実態のようであった。
レイカがOP社本社を経由することを固辞したのは、中立性の問題だけが理由ではなかった。
彼女は多くの他人が想像するよりも遥かに用心深かった。
OP社に立ち寄ればインデストまで同行者がつく可能性がある。
彼女はOP社に自らの行動を監視されたくはなかった。正確にいえばOP社だけではなく自分以外の他者すべてから、である。
同行者に男性ばかりを選んだのもそのためだ。
同行者が男性であれば、宿泊時に彼女と同室や同じテントになる者がなくても不自然ではない。
彼女はいつでも秘密主義という訳ではないのだが、自らが提案した今回の交渉の重大性は熟知しているつもりだ。
ECN社の代表として、彼女に失敗は許されない。彼女はそのことを強く意識している。
成功のためには少なくない準備が必要であり、そうした準備の場に他人がいると都合の悪いこともある。
だからこそ同行者に男性ばかりを選んだのである。
また、OP社に近づくのを嫌ったのはもうひとつの理由がある、すなわち「リスク管理研究所」の存在である。
最近、「リスク管理研究所」はOP社の発電事業の不備を幾度となく非難している。そのためOP社に最も批判的な組織ととらえられることが多い。
しかし、レイカはこの点に疑問を抱いている。
その根拠は「リスク管理研究所」が提示するOP社批判のレポートにある。
このレポートはOP社の組織構造や事業構造、そして経営戦略などを分析し、現状の問題点を指摘しているのだが、その内容が詳しすぎるのだ。
彼女からすれば、OP社の内部の者でない限り知りえない情報を得てレポートが書かれているように思える。
論理的に説明はできないのだが、「リスク管理研究所」とOP社はどこかで通じているのではないか、という疑いを彼女は持っている。
余計な情報を「リスク管理研究所」に知られるのは、彼女が最も避けたいことであった。
「リスク管理研究所」のトップ、トニー・シヴァは、彼女がこの世界で三本の指に入るほど苦手としている人物である。
職業学校時代、レイカとトニーは同時期に教官として勤務していたことがあるが、トニーは何かとレイカの行動に対して非難の言葉を浴びせた。
単に非難されるだけならば、まだ許容できる。
しかし、トニーの非難は彼女がどうしても許容できない複数の成分を含んでいた。
ひとつは、彼が何かとレイカが女性であることを強調していた点である。
「エクザローム一の美女」とも言われる彼女であるが、彼女自身はどちらかというと好奇心旺盛な少年のような性格をしていると思っており、女性と言われるのにやや抵抗を覚えることがあるのだ。
また、彼女はどちらかというと女性を苦手としており、「とぉえんてぃ? ず」の三人を除けば、その知人は圧倒的に男性が多い。
その自分が苦手とする女性であることを理由にして非難されるのは、納得がいかないのである。
もっとも、持って生まれた才能の部分はあるにしろ、彼女が現在の美貌を維持するために投じている労力を知れば、彼女が「納得がいかない」としている方が不自然であるかもしれないのだが。
更に、トニーの非難は相手を蔑むと同時に自分を持ち上げる成分を忍び込ませているように思われ、この点が彼女にとってはたまらなく不快である。
彼女にとっては、他人の自己アピールも気になる部分があるのだが、多くは許容できるものである。
しかし、トニーの場合は相手を非難する際に同時に自己をアピールし、相手を蔑むという行動に見える。
これが何ともいえない不快感となって、彼女に襲いかかるのである。
これらが彼女がトニーを苦手とする要因であった。
今回の交渉の経過や結果が、「リスク管理研究所」のレポートの標的となるのは避けられない、とレイカは思っている。
ただ、その中でも報じられたくない部分というものがあり、それを知られることは絶対に避けたい。
その部分を除けば、むしろ「リスク管理研究所」が今回の交渉をレポートの対象として取り上げるのは歓迎している。
だからこそ、レイカにとって「リスク管理研究所」の動向が気になるのだ。
特に不利な情報、弱みを彼らに握られることは絶対に避けねばなるまいと細心の注意を払っている。
そのために彼女は、OP社本社に立ち寄らないこと以外にもいくつか手を打っていた。
レイカの出発はOP社とIMPUに伝えられた。
OP社は当初、ポータル・シティの本社を経由してインデストへ向かうよう提案したのだが、レイカがこれを断った。
ECN社がOP社寄りの立場にあるとインデストの関係者に誤解される可能性がある、というのが表向きの理由である。中立性が損なわれるのは望ましくない。
OP社はレイカの説明に納得はしなかったものの、最終的にはこれを受け入れた。それだけ困窮しているというのが実態のようであった。
レイカがOP社本社を経由することを固辞したのは、中立性の問題だけが理由ではなかった。
彼女は多くの他人が想像するよりも遥かに用心深かった。
OP社に立ち寄ればインデストまで同行者がつく可能性がある。
彼女はOP社に自らの行動を監視されたくはなかった。正確にいえばOP社だけではなく自分以外の他者すべてから、である。
同行者に男性ばかりを選んだのもそのためだ。
同行者が男性であれば、宿泊時に彼女と同室や同じテントになる者がなくても不自然ではない。
彼女はいつでも秘密主義という訳ではないのだが、自らが提案した今回の交渉の重大性は熟知しているつもりだ。
ECN社の代表として、彼女に失敗は許されない。彼女はそのことを強く意識している。
成功のためには少なくない準備が必要であり、そうした準備の場に他人がいると都合の悪いこともある。
だからこそ同行者に男性ばかりを選んだのである。
また、OP社に近づくのを嫌ったのはもうひとつの理由がある、すなわち「リスク管理研究所」の存在である。
最近、「リスク管理研究所」はOP社の発電事業の不備を幾度となく非難している。そのためOP社に最も批判的な組織ととらえられることが多い。
しかし、レイカはこの点に疑問を抱いている。
その根拠は「リスク管理研究所」が提示するOP社批判のレポートにある。
このレポートはOP社の組織構造や事業構造、そして経営戦略などを分析し、現状の問題点を指摘しているのだが、その内容が詳しすぎるのだ。
彼女からすれば、OP社の内部の者でない限り知りえない情報を得てレポートが書かれているように思える。
論理的に説明はできないのだが、「リスク管理研究所」とOP社はどこかで通じているのではないか、という疑いを彼女は持っている。
余計な情報を「リスク管理研究所」に知られるのは、彼女が最も避けたいことであった。
「リスク管理研究所」のトップ、トニー・シヴァは、彼女がこの世界で三本の指に入るほど苦手としている人物である。
職業学校時代、レイカとトニーは同時期に教官として勤務していたことがあるが、トニーは何かとレイカの行動に対して非難の言葉を浴びせた。
単に非難されるだけならば、まだ許容できる。
しかし、トニーの非難は彼女がどうしても許容できない複数の成分を含んでいた。
ひとつは、彼が何かとレイカが女性であることを強調していた点である。
「エクザローム一の美女」とも言われる彼女であるが、彼女自身はどちらかというと好奇心旺盛な少年のような性格をしていると思っており、女性と言われるのにやや抵抗を覚えることがあるのだ。
また、彼女はどちらかというと女性を苦手としており、「とぉえんてぃ? ず」の三人を除けば、その知人は圧倒的に男性が多い。
その自分が苦手とする女性であることを理由にして非難されるのは、納得がいかないのである。
もっとも、持って生まれた才能の部分はあるにしろ、彼女が現在の美貌を維持するために投じている労力を知れば、彼女が「納得がいかない」としている方が不自然であるかもしれないのだが。
更に、トニーの非難は相手を蔑むと同時に自分を持ち上げる成分を忍び込ませているように思われ、この点が彼女にとってはたまらなく不快である。
彼女にとっては、他人の自己アピールも気になる部分があるのだが、多くは許容できるものである。
しかし、トニーの場合は相手を非難する際に同時に自己をアピールし、相手を蔑むという行動に見える。
これが何ともいえない不快感となって、彼女に襲いかかるのである。
これらが彼女がトニーを苦手とする要因であった。
今回の交渉の経過や結果が、「リスク管理研究所」のレポートの標的となるのは避けられない、とレイカは思っている。
ただ、その中でも報じられたくない部分というものがあり、それを知られることは絶対に避けたい。
その部分を除けば、むしろ「リスク管理研究所」が今回の交渉をレポートの対象として取り上げるのは歓迎している。
だからこそ、レイカにとって「リスク管理研究所」の動向が気になるのだ。
特に不利な情報、弱みを彼らに握られることは絶対に避けねばなるまいと細心の注意を払っている。
そのために彼女は、OP社本社に立ち寄らないこと以外にもいくつか手を打っていた。
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