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第十一章
508:テロリストになりそこなった男、最近のインデストの情勢を聞く
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風呂が使えないと聞いたものの、ヌマタはそれに対して文句を言うことはなかった。
大都市近郊の簡易宿泊所ならともかく、それ以外の場所ではシャワーのみ、それも湯が出る時間制限のあるものが一般的である。
ヌマタもこうした状況には慣れており、特に不便を感じることもなかったからだ。
むしろここに湯船がある簡易宿泊所があることの方に驚いたくらいであった。
ただ、湯船のある施設でそれが使えないとなると、やはりインデストの電力供給状況は厳しいものがあるのだろうと思われた。
電力が十分に供給されなければ、インデストの主力産業である鉄鋼石の採掘も、その加工にも大きな支障が出るであろう。
ヌマタも採掘場の現場を管理していた立場として、関係者、特にインデストの鉄鋼業界のトップに立つアカシの苦労が手に取るようにわかる。
マスコミの報道程度の情報しか得られていないものの、地熱発電所での火災、一部労働者グループとの対立など、アカシを取り巻く状況は決して良いものとはいえない。
また、IMPUを構成する企業にもそれぞれの利害があるから、これをまとめるのは並大抵の苦労ではないはずだ。
シャワーを浴びて、持っていた携帯食料で食事を取ろうとすると、タザワがそれを止めた。
食事はタザワの側で用意するので、それを食べてくれ、ということのようだ。
ごく一部ではあるが、食事を提供する簡易宿泊所もある。ここもそれに当たるようだ。
インデストの情報を得るよい機会、と考えヌマタはタザワに食事に同席するように言った。
タザワはそれでは遠慮なく、とヌマタの誘いに乗った。
こうした簡易宿泊所の管理をしていると、なかなか人と話す機会がない、とタザワは笑いながら話した。
確かにその通りなのであろう。
基本的に簡易宿泊所を利用するのは、ほとんどが運送業者の配達員であり、それも夜の間だけである。
管理者が一人の簡易宿泊所であれば、昼間は基本的に一人で仕事をしており、話し相手などまずいないはずだ。
例外は悪天候などで配達員が足止めを食うケースだが、街道が整備されているインデスト近郊ではあまり発生しないそうだ。
宿泊者との会話も、管理者の数少ない楽しみなのですよ、とタザワは笑いながら言った。
「……なるほどな。まあ、俺もフジミ・タウンを出てから、ここへ来るまでほとんど人と会わなかったからな。人と話すのは三日ぶりだ」
それを聞いたタザワの表情が曇る。
ヌマタが理由を問うと、タザワは最近、鉄鋼事業が停滞気味でインデストから運び出す荷物が極端に減っていると答えた。
ヌマタとすれ違うのであればインデスト側から来る者であろうから、タザワの言うとおりインデストから運び出される物資の量が極端に減っていることが容易に感じとれる。
「私どもの会社もIMPUの所属でして、鉄鋼事業が傾くと我々の仕事も減ってしまいますので……」
「IMPU? 何故、御社が? IMPUは鉄鋼関連事業者の団体だったはずだが」
タザワの答えに、ヌマタがさらなる説明を求めた。
「私もそう思うことがあるのですが、鉄鋼製品を運送する運送業者さんのお世話をする会社、ということで弊社も加入を許された、と聞いています」
タザワはそう答えると、最後にこう付け加えた。
「IMPUでは鉄鋼製品の生産だけではなく、それを輸送する運送会社さんも重要視されています。そして、運送業者さんが快適に荷物を運送できるよう、こうした宿泊所の管理にも力を入れたい、ということでした」
答えを聞いたヌマタは、だから他の宿泊所と比べて管理が行き届いているのだな、と思った。そして、運送業者のことを気にかけるのはアカシらしい、とも。
「なるほど、ところで、最近インデストの方はどうだ? ニュースとかではあまりよい話を聞かないが?」
「おっしゃる通り、電力供給が厳しいですから……
それにOP社さんが、鉄鋼事業から撤退したことで製品の買い手が減ったのも痛いところです」
予想はしていたものの、やはり状況はよくないようだ。
(せっかくあのハドリがいなくなったというのに、アカシさんも苦労が絶えないな……)
正直なところ、ハドリの存在が消えた後のことについて、ヌマタは明確なビジョンを持っていたわけではない。
彼の目的は、あくまでもハドリの存在を消すことであり、そのために自らにテロリストとなることを科した。
結果的にハドリを消すという目的は達成したものの、それは彼の手によるものではなく、彼はハドリの存在が消え失せるのをただ指をくわえて見届けることしかできなかった。
テロリストにすらなれなかった……
ハドリの存在が消え失せた後、彼は常に自らにそう言い聞かせていた。
テロリストとなるのはあくまでハドリを消すための手段であったはずだが、既に彼の中では目的と手段が入れ替わっていたのかも知れなかった。
ヌマタ自身うすうすだが、それに気づいている。
だが、「テロリストにすらなれなかった男」の看板を外す気にはなれなかった。それでは他者から自らを縛り付ける枷を必要としていると思われても仕方ない。
大都市近郊の簡易宿泊所ならともかく、それ以外の場所ではシャワーのみ、それも湯が出る時間制限のあるものが一般的である。
ヌマタもこうした状況には慣れており、特に不便を感じることもなかったからだ。
むしろここに湯船がある簡易宿泊所があることの方に驚いたくらいであった。
ただ、湯船のある施設でそれが使えないとなると、やはりインデストの電力供給状況は厳しいものがあるのだろうと思われた。
電力が十分に供給されなければ、インデストの主力産業である鉄鋼石の採掘も、その加工にも大きな支障が出るであろう。
ヌマタも採掘場の現場を管理していた立場として、関係者、特にインデストの鉄鋼業界のトップに立つアカシの苦労が手に取るようにわかる。
マスコミの報道程度の情報しか得られていないものの、地熱発電所での火災、一部労働者グループとの対立など、アカシを取り巻く状況は決して良いものとはいえない。
また、IMPUを構成する企業にもそれぞれの利害があるから、これをまとめるのは並大抵の苦労ではないはずだ。
シャワーを浴びて、持っていた携帯食料で食事を取ろうとすると、タザワがそれを止めた。
食事はタザワの側で用意するので、それを食べてくれ、ということのようだ。
ごく一部ではあるが、食事を提供する簡易宿泊所もある。ここもそれに当たるようだ。
インデストの情報を得るよい機会、と考えヌマタはタザワに食事に同席するように言った。
タザワはそれでは遠慮なく、とヌマタの誘いに乗った。
こうした簡易宿泊所の管理をしていると、なかなか人と話す機会がない、とタザワは笑いながら話した。
確かにその通りなのであろう。
基本的に簡易宿泊所を利用するのは、ほとんどが運送業者の配達員であり、それも夜の間だけである。
管理者が一人の簡易宿泊所であれば、昼間は基本的に一人で仕事をしており、話し相手などまずいないはずだ。
例外は悪天候などで配達員が足止めを食うケースだが、街道が整備されているインデスト近郊ではあまり発生しないそうだ。
宿泊者との会話も、管理者の数少ない楽しみなのですよ、とタザワは笑いながら言った。
「……なるほどな。まあ、俺もフジミ・タウンを出てから、ここへ来るまでほとんど人と会わなかったからな。人と話すのは三日ぶりだ」
それを聞いたタザワの表情が曇る。
ヌマタが理由を問うと、タザワは最近、鉄鋼事業が停滞気味でインデストから運び出す荷物が極端に減っていると答えた。
ヌマタとすれ違うのであればインデスト側から来る者であろうから、タザワの言うとおりインデストから運び出される物資の量が極端に減っていることが容易に感じとれる。
「私どもの会社もIMPUの所属でして、鉄鋼事業が傾くと我々の仕事も減ってしまいますので……」
「IMPU? 何故、御社が? IMPUは鉄鋼関連事業者の団体だったはずだが」
タザワの答えに、ヌマタがさらなる説明を求めた。
「私もそう思うことがあるのですが、鉄鋼製品を運送する運送業者さんのお世話をする会社、ということで弊社も加入を許された、と聞いています」
タザワはそう答えると、最後にこう付け加えた。
「IMPUでは鉄鋼製品の生産だけではなく、それを輸送する運送会社さんも重要視されています。そして、運送業者さんが快適に荷物を運送できるよう、こうした宿泊所の管理にも力を入れたい、ということでした」
答えを聞いたヌマタは、だから他の宿泊所と比べて管理が行き届いているのだな、と思った。そして、運送業者のことを気にかけるのはアカシらしい、とも。
「なるほど、ところで、最近インデストの方はどうだ? ニュースとかではあまりよい話を聞かないが?」
「おっしゃる通り、電力供給が厳しいですから……
それにOP社さんが、鉄鋼事業から撤退したことで製品の買い手が減ったのも痛いところです」
予想はしていたものの、やはり状況はよくないようだ。
(せっかくあのハドリがいなくなったというのに、アカシさんも苦労が絶えないな……)
正直なところ、ハドリの存在が消えた後のことについて、ヌマタは明確なビジョンを持っていたわけではない。
彼の目的は、あくまでもハドリの存在を消すことであり、そのために自らにテロリストとなることを科した。
結果的にハドリを消すという目的は達成したものの、それは彼の手によるものではなく、彼はハドリの存在が消え失せるのをただ指をくわえて見届けることしかできなかった。
テロリストにすらなれなかった……
ハドリの存在が消え失せた後、彼は常に自らにそう言い聞かせていた。
テロリストとなるのはあくまでハドリを消すための手段であったはずだが、既に彼の中では目的と手段が入れ替わっていたのかも知れなかった。
ヌマタ自身うすうすだが、それに気づいている。
だが、「テロリストにすらなれなかった男」の看板を外す気にはなれなかった。それでは他者から自らを縛り付ける枷を必要としていると思われても仕方ない。
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