117 / 304
第十二章
538:ヌマタ、ピーター・ウェル農場に常駐する
しおりを挟む
「……お前、何者だ?」
ヌマタは目出し帽をかぶった相手に思い切り低い声で問いかけた。
インデスト郊外にあるピーター・ウェル農場へ荷物を運んだが、あいにく受取人は不在であった。
近いうちに戻ってくるとのメモが残されていたため、ヌマタは待ち時間を利用して周囲を調査した。
石だらけの急斜面に果樹を植えるなど、この農場はヌマタの目から見て怪しかったからだ。
調査から戻る途中に農場関係者と思われる者と出会ったので、警戒している。
(しまった、見られたか……?)
ヌマタは内心焦りを覚えているのだが、相手に隙を見せるわけにはいかない。
もし、相手が何らかの企みを考えているのであれば、秘密を知った可能性のあるヌマタに何らかの危害を加える恐れがある。
現に目の前の相手は、目出し帽で顔を隠している。
これ自体が姿を隠す必要がある証拠ではないか? とヌマタは思った。
ヌマタの勢いに相手はわずかにたじろいだようだったが、ヌマタは警戒を解くことなく再び何者か、と問いかけた。
すると相手は逆に落ち着いたようで、姿勢を正してからこう言った。
「当農場にご用でしょうか?」
目出し帽の相手がそう答えた。
声から察するに若い男性のようだ。
「ピーター・ウェル農場に用がある」
ヌマタは警戒を解かずに答えた。
「失礼しました。事務所を開けますので、申し訳ありませんが少しお待ち願えないでしょうか?」
そう言って目出し帽の男は、「ピーター・ウェル農場」の看板が掲げられた建物へと小走りで移動し、閉ざされたドアを開けた。
「失礼ですが、お名前とご用件を確認させていただいてよろしいでしょうか?」
「そういうアンタは何者なんだ?」
ヌマタは未だに警戒を解いていない。
相手の姿があまりにも怪しいので、警戒を解きたくても解きようがないのだ。
「失礼しました。ピーター・ウェル農場のジンダイ、と言います」
目出し帽の男はそう言って頭を下げた。
半ば呆気に取られ気味のヌマタを見て、目出し帽の男は着ていた上着を脱いで、左胸の名札を示した。
「あ、ああ……確かにここの人間のようだな……」
目出し帽の男━━ジンダイは、ヌマタに「荷物の配送ですか?」と確認してきた。
ヌマタがそうだと答え、社名を告げると、ジンダイは携帯端末を広げた。
どうやら、農場のオーナーを呼び出しているらしい。
オーナーの到着まで少し時間がかかる、と言ってジンダイはヌマタを建物の中へと案内した。
「ところでジンダイさんはこの農場で何をやっている人なんだ?」
ヌマタはジンダイに探りを入れてみた。
ジンダイは農場の作業員であるが、事務を担当することもあると答えた。
更に探りを入れてみると、ジンダイが農場で仕事を始めたのは今年に入ってからで、まだまだ新入りのようだ。
(何のために新人を採用したのか? 農場で冬に仕事が増えるなど考えにくいが……)
ヌマタはジンダイの回答に疑問を持った。
彼の言う通りであれば、真冬である一月から農場は彼を雇ったことになる。
この時期に新たな人手が必要になるとは到底考えられない。
「ああ、御苦労さま」
ヌマタが次の質問を投げかけようとしたとき、作業着姿の大柄な男が入ってきた。
その姿は農夫というより、整備工のようにヌマタの目には見える。
「オーナー、こちらです」
ジンダイがヌマタの方に男を案内した。
「農場のオーナーのピーター・ウェルです。荷物は表に出ているものだね?」
「そうです、確認してもらえますか?」
「いいとも」
ヌマタはピーターを外に出ている荷物のところへと案内した。
ピーターは手にしたリストと荷物を几帳面に一つ一つチェックし、問題がないことを確認した。
確認のサインをもらうため建物の中に入ろうとしたとき、ヌマタの携帯端末がけたたましく鳴った。
通常の連絡ではこうした音はならないから、緊急事態だろう。
(まったく、こんなときに一体……)
そう思いながらもピーターに一言断って通話に応じる。
こうしたとことがヌマタが本質的に律儀であることを示していると言えなくもない。
相手はエフ・ティ・ロジの本社だった。
ヌマタとしては大いに不満で、かつ不本意であった。だが、お客の前なので、できるだけ落ち着いた声で対応する。
どうやらウェル農場に常駐し、近辺への配送を請け負う人員が必要だが、ヌマタにその任務を担当してもらえないか? ということらしい。
いつものヌマタであれば嫌味の十や二十は言ってしまうが、お客の前である。
そして、ウェル農場が怪しいと睨んでいるヌマタにとって、好都合な話でもあった。
農場に常駐していれば、怪しまれずに調べられることも増えるであろう。
また、ヌマタにはウマの合わない上司としばらく顔を合わせずに済みそうな仕事、というのもありがたかった。
「構わないですが、先方と話をしてから回答します。今、ちょうどウェル農場にいますので」
ヌマタはそう答えてピーターに通話を代わってもらった。
「はい、こちらとしても助かります。ええ、是非お願いします」
ピーターの話の様子だと、社の申し出を快諾したようだ。
こうしてヌマタが当分の間、ピーター・ウェル農場に常駐することが決まった。
ヌマタは目出し帽をかぶった相手に思い切り低い声で問いかけた。
インデスト郊外にあるピーター・ウェル農場へ荷物を運んだが、あいにく受取人は不在であった。
近いうちに戻ってくるとのメモが残されていたため、ヌマタは待ち時間を利用して周囲を調査した。
石だらけの急斜面に果樹を植えるなど、この農場はヌマタの目から見て怪しかったからだ。
調査から戻る途中に農場関係者と思われる者と出会ったので、警戒している。
(しまった、見られたか……?)
ヌマタは内心焦りを覚えているのだが、相手に隙を見せるわけにはいかない。
もし、相手が何らかの企みを考えているのであれば、秘密を知った可能性のあるヌマタに何らかの危害を加える恐れがある。
現に目の前の相手は、目出し帽で顔を隠している。
これ自体が姿を隠す必要がある証拠ではないか? とヌマタは思った。
ヌマタの勢いに相手はわずかにたじろいだようだったが、ヌマタは警戒を解くことなく再び何者か、と問いかけた。
すると相手は逆に落ち着いたようで、姿勢を正してからこう言った。
「当農場にご用でしょうか?」
目出し帽の相手がそう答えた。
声から察するに若い男性のようだ。
「ピーター・ウェル農場に用がある」
ヌマタは警戒を解かずに答えた。
「失礼しました。事務所を開けますので、申し訳ありませんが少しお待ち願えないでしょうか?」
そう言って目出し帽の男は、「ピーター・ウェル農場」の看板が掲げられた建物へと小走りで移動し、閉ざされたドアを開けた。
「失礼ですが、お名前とご用件を確認させていただいてよろしいでしょうか?」
「そういうアンタは何者なんだ?」
ヌマタは未だに警戒を解いていない。
相手の姿があまりにも怪しいので、警戒を解きたくても解きようがないのだ。
「失礼しました。ピーター・ウェル農場のジンダイ、と言います」
目出し帽の男はそう言って頭を下げた。
半ば呆気に取られ気味のヌマタを見て、目出し帽の男は着ていた上着を脱いで、左胸の名札を示した。
「あ、ああ……確かにここの人間のようだな……」
目出し帽の男━━ジンダイは、ヌマタに「荷物の配送ですか?」と確認してきた。
ヌマタがそうだと答え、社名を告げると、ジンダイは携帯端末を広げた。
どうやら、農場のオーナーを呼び出しているらしい。
オーナーの到着まで少し時間がかかる、と言ってジンダイはヌマタを建物の中へと案内した。
「ところでジンダイさんはこの農場で何をやっている人なんだ?」
ヌマタはジンダイに探りを入れてみた。
ジンダイは農場の作業員であるが、事務を担当することもあると答えた。
更に探りを入れてみると、ジンダイが農場で仕事を始めたのは今年に入ってからで、まだまだ新入りのようだ。
(何のために新人を採用したのか? 農場で冬に仕事が増えるなど考えにくいが……)
ヌマタはジンダイの回答に疑問を持った。
彼の言う通りであれば、真冬である一月から農場は彼を雇ったことになる。
この時期に新たな人手が必要になるとは到底考えられない。
「ああ、御苦労さま」
ヌマタが次の質問を投げかけようとしたとき、作業着姿の大柄な男が入ってきた。
その姿は農夫というより、整備工のようにヌマタの目には見える。
「オーナー、こちらです」
ジンダイがヌマタの方に男を案内した。
「農場のオーナーのピーター・ウェルです。荷物は表に出ているものだね?」
「そうです、確認してもらえますか?」
「いいとも」
ヌマタはピーターを外に出ている荷物のところへと案内した。
ピーターは手にしたリストと荷物を几帳面に一つ一つチェックし、問題がないことを確認した。
確認のサインをもらうため建物の中に入ろうとしたとき、ヌマタの携帯端末がけたたましく鳴った。
通常の連絡ではこうした音はならないから、緊急事態だろう。
(まったく、こんなときに一体……)
そう思いながらもピーターに一言断って通話に応じる。
こうしたとことがヌマタが本質的に律儀であることを示していると言えなくもない。
相手はエフ・ティ・ロジの本社だった。
ヌマタとしては大いに不満で、かつ不本意であった。だが、お客の前なので、できるだけ落ち着いた声で対応する。
どうやらウェル農場に常駐し、近辺への配送を請け負う人員が必要だが、ヌマタにその任務を担当してもらえないか? ということらしい。
いつものヌマタであれば嫌味の十や二十は言ってしまうが、お客の前である。
そして、ウェル農場が怪しいと睨んでいるヌマタにとって、好都合な話でもあった。
農場に常駐していれば、怪しまれずに調べられることも増えるであろう。
また、ヌマタにはウマの合わない上司としばらく顔を合わせずに済みそうな仕事、というのもありがたかった。
「構わないですが、先方と話をしてから回答します。今、ちょうどウェル農場にいますので」
ヌマタはそう答えてピーターに通話を代わってもらった。
「はい、こちらとしても助かります。ええ、是非お願いします」
ピーターの話の様子だと、社の申し出を快諾したようだ。
こうしてヌマタが当分の間、ピーター・ウェル農場に常駐することが決まった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる