ストランディング・ワールド(Stranding World)　第二部　～不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める～

空乃参三

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第十二章

555：駆け引き

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　（それにしても「勉強会」グループの単独調査に固執するな。一体何を狙っているのだか……）
　こう思っている者が議長席の脇に座っていた。
　特筆すべきは彼がヒキと同じ「勉強会」グループに属する者であったことだ。
　セイガ・ブナイ、これが彼の本名である。
　ブナイは「勉強会」グループで主にIMPUに関する調査を担当している。
　彼の所属会社はOP社の関連会社としては主流ではなかった。しかし、「勉強会」が必要としている情報を迅速に集めてきたことからオオバが重用していた。
　本来であればこの会談に出席するような立場の者ではないのだが、情報収集に必要だろうとオオバが敢えて書記役として連れてきたのである。

　一方、レイカもヒキの言葉には首を傾げざるを得ない。
　そもそも「勉強会」グループはIMPU所属企業の従業員や、IMPUに派遣されているOP社社員の集まりではないか？
　その時点でヒキの言葉を借りれば「勉強会」グループの原因調査や復旧作業が信用できるとはとても考えられない。
　ヒキの主張に対しては、そのような反論が容易に可能である。
　逆にあからさまに主張に隙があるので、何か企んでいるのではないか、とも考えられる。
　レイカもそう考えて、敢えて「勉強会」グループの主張の穴を指摘せず、他の者がどのような意見を述べるか、動向を見守ることにした。
　最初に口を開いたのは、OP社のタノダであった。
　OP社とIMPUは事故の当事者である。したがって、第三者的な立場を取ることができるECN社か「勉強会」グループが地熱発電所の事故調査担当として望ましい、という主張である。
　オソダもタノダに賛成とのことである。
　ここでイオから「ECN社さんはどうでしょうか？」とレイカに問いかけがあった。
　（私に発言させたいようね……）
　レイカはイオの発言の意図を探るため、逆に質問を投げかけた。
「その地熱発電所の掘削作業が再開したとして、いつ頃にどのくらいの量の電力が提供できるようになるのでしょうか？　それを聞いて判断します」
　アカシがレイカの方を見て、なるほどと顎に手をやった。
　レイカの質問に対してはオソダとタノダから回答があり、工事期間は一年半から二年程度、電力供給量は現在不足している量に対して二割から四割を見込んでいるとのことであった。
　また、併せて海流を利用した発電と比較して、技術者の熟練が要求されないことも説明された。

「ECN社さん、どうでしょうか？」
　再びイオがレイカに問いかけた。
　レイカは「ECN社」と言い張るイオの態度に違和感を覚えているのだが、敢えて表情には出していない。
　レイカが率いているのはECN社の一プロジェクトであってECN社そのものではないからだ。
「短期的にはともかく、中長期的には一定の効果が得られるとは思います。人員に余裕があるならば原因調査と掘削作業の再開を急いだ方が良いと思いますが、原因調査はいつごろから可能になりますか？」
　レイカは「勉強会」グループが調査をする気があるのかどうかを探ることにした。
「この場で我々に調査許可を出していただければ、明日にでも開始します」
　イオに代わってオオバが答えた。
「第三者、ということであれば私も調査に同行させていただけないでしょうか？　調査の公平性も増すと思いますが……」
　レイカの言葉を聞いて、サカデがアカシに何か耳打ちした。
　それを受けてアカシが答える。
「メルツ室長が同行するのであれば、『勉強会』による原因調査でも構わない。IMPUとしても、原因調査がいたずらに遅れるのは避けたい」
　アカシの言葉がきっかけで、「勉強会」グループによる地熱発電所火災事故の原因調査が決定した。
「勉強会」グループ以外には、レイカら「ECN社調達特別プロジェクトチーム」の三名が同行することとなった。

（奴らが引いた？！　IMPUでは不可でレイカ・メルツなら良いというのか？　一体何を考えているのやら……まあいいか）
　地熱発電所火災の原因調査の問題が一定の解決を見たことに、ブナイは驚いていてオオバやヒキの方を見やった。
　彼はヒキやオオバがもう少しごねると思ったのだが、そうはならなかったからだ。
（レイカ・メルツは発電や掘削の専門家ではない。事故調査に関しても同様だろう。なるほど、素人をチェック役にしてごまかそう、という魂胆か……）
　ブナイはそう考えなおして自分を納得させた。
　彼は「勉強会」グループに身を置いているが、トップのオオバや他のメンバーの考えに賛同している訳ではない。
　彼が求めるのは「勉強会」グループの動きそのものであり、そしてそれがどのような考えのもとになされるか、という情報であった。
　彼はある団体のメンバーであり、その団体のために「勉強会」グループの動きを追っている。「勉強会」グループのメンバーという肩書？　はあくまで仮面でしかない。
（どのような意図で引いたのか、後で確認すればよいか……）
　ブナイは記録用の端末の画面に視線を戻した。

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