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第十二章
557:誠意とは何か
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トレードマークのポニーテールを跳ねさせ、ルマリィが立ち上がりかける。
「よろしいでしょうか!」
そこに慌ててヤマノシタが割って入った。レイカの指示を実行するためだ。
イオが躊躇している間に、シトリがヤマノシタに発言するよう求めた。
ルマリィが浮かした腰を椅子に下ろした。
どうにかルマリィの発言の前に割り込むことに成功した。
「確認させてください。『誠意を示す』とは具体的にどのようなことを行うのか、ご教授いただけないでしょうか?」
ヤマノシタが丁寧な口調でヒキに問うた。
「わからんか? 我々『勉強会』グループは、組合だの『タブーなきエンジニア集団』だのが要らぬ争いを起こしたおかげで結果的に地位や権限を失った。彼らの地位や権限をこうした争いの起こる前の状態に回復させよ、ということだ。彼らはこうした争いに加担したわけではないから、争いに対する責任がないのはわかるな?」
ヒキの答えは比較的明確であった。
発言に対する罪が問われる状況ではないので、オブラートを被せる必要はないのであろう。
だが、ヤマノシタなどはこのような厚顔無恥ともとられかねない発言を躊躇なく行うヒキの態度に内心驚いてはいる。
ヒキの答えを聞いたアカシが肩を震わせながら立ちあがった。
「ヒキさん、争いの前後で貴方がたの地位や権限が変わったというのか? それならば何故、IMPU本部に報告してくれなかった? 例の争いの参加・不参加を理由に従業員の扱いを変えることは規程で禁止している!」
アカシの訴えは必死なものであったが、ヒキの表情は変わらない。
「我々は『OP社の関連会社の従業員』という地位を失い、OP社は鉄鋼事業を失った。OP社の元関連会社の一従業員に過ぎないお前に何ができる?」
ヒキの声は冷めていた。
「……」
これにはアカシにも返す言葉がなかった。
ヒキの要求がOP社の経営の問題である以上、IMPUにできることはほぼない。
アカシの立場であれば、OP社の経営問題だと突っぱねてもよさそうであるが、彼はそうしなかった。
アカシの所属しているウサミメタル社もOP社の元関連会社であったが、その地位は低く、関連会社の中でも中枢を外れていた。
そのため「OP社の関連会社の従業員」という肩書がもたらす有形無形の影響が、彼には十分に理解できなかったのである。
(OP社の問題、と撥ねつけるのは簡単。でも、その場合「OP社の関連会社」ということで恩恵を受けていた層は、確実に敵に回るわね……)
インデストの人間ではないレイカには、ヒキの主張が無茶なものであると切り捨てることができる。
だが、インデストではどうか?
残念ながら一定の支持は得られるだろう、というのがレイカの予測だった。
「OP社の関連会社の従業員」ということで恩恵を受けていた層は確実に存在するであろう。
また、人が得ていたものを失うときの抵抗は、それを得た手段が不当なものであるほど大きいということをレイカは感覚的に理解していたからだ。
インデストの最大の産業は鉄を中心とした鉱工業であり、その大部分はOP社が関係するものであった。
他の産業は鉱工業と比較して規模が小さい上に、主に距離が大きな障壁となって他都市から富を得る手段となり得るものは皆無に等しかった。
こうした事情から、住民のOP社に対する依存度、という点ではOP社の本拠地であるポータル・シティと比較してもはるかに大きいものであったことは想像に難くない。
現社長のヤマガタも、この点については理解が及んでいなかった可能性が高い。
でなければ、移行期間をほとんど置かずに、鉱工業からの完全撤退などというリスクの大きい決断をするとは考えにくい。
OP社からの利益に依存する多くの者達の反発が必至だからだ。
しかし、現時点ではインデストにおけるOP社に対する反発は、電力事業に対するものが大きく、鉱工業からの撤退に対するものはそれほどでもない。
アカシが即座にECN社という新しい取引先を獲得したことで、OP社の鉱工業からの撤退の影響が広がるよりも先に電力不足の問題が発覚したことも大きく影響している。
本人の意図どおりであったかはともかく、結果的にヤマガタは責をほとんど問われることなく鉱工業から撤退することに成功していた。
そして、この撤退がヒキのような者の後ろ盾を奪ったのだ。
レイカはオソダ、タノダらOP社からの参加者の表情も観察していた。
OP社が自社の鉱工業からの撤退をどう考えているか?
それを知るのには良い機会だったからだ。
インデストのオソダと本社のタノダとの間の感覚の違いも知ることができるのかもしれない。
だが、彼らの動きはない。
アカシを責めたいのであればヒキに便乗すればよいのだが、彼らはそれを選択しなかったのだ。
それどころか、彼らは自ら動く様子を見せず、レイカの動きを見ているようであった。
(……? OP社は私が動くのを待っている?)
会議の場を静寂が支配し始めた。
「よろしいでしょうか!」
そこに慌ててヤマノシタが割って入った。レイカの指示を実行するためだ。
イオが躊躇している間に、シトリがヤマノシタに発言するよう求めた。
ルマリィが浮かした腰を椅子に下ろした。
どうにかルマリィの発言の前に割り込むことに成功した。
「確認させてください。『誠意を示す』とは具体的にどのようなことを行うのか、ご教授いただけないでしょうか?」
ヤマノシタが丁寧な口調でヒキに問うた。
「わからんか? 我々『勉強会』グループは、組合だの『タブーなきエンジニア集団』だのが要らぬ争いを起こしたおかげで結果的に地位や権限を失った。彼らの地位や権限をこうした争いの起こる前の状態に回復させよ、ということだ。彼らはこうした争いに加担したわけではないから、争いに対する責任がないのはわかるな?」
ヒキの答えは比較的明確であった。
発言に対する罪が問われる状況ではないので、オブラートを被せる必要はないのであろう。
だが、ヤマノシタなどはこのような厚顔無恥ともとられかねない発言を躊躇なく行うヒキの態度に内心驚いてはいる。
ヒキの答えを聞いたアカシが肩を震わせながら立ちあがった。
「ヒキさん、争いの前後で貴方がたの地位や権限が変わったというのか? それならば何故、IMPU本部に報告してくれなかった? 例の争いの参加・不参加を理由に従業員の扱いを変えることは規程で禁止している!」
アカシの訴えは必死なものであったが、ヒキの表情は変わらない。
「我々は『OP社の関連会社の従業員』という地位を失い、OP社は鉄鋼事業を失った。OP社の元関連会社の一従業員に過ぎないお前に何ができる?」
ヒキの声は冷めていた。
「……」
これにはアカシにも返す言葉がなかった。
ヒキの要求がOP社の経営の問題である以上、IMPUにできることはほぼない。
アカシの立場であれば、OP社の経営問題だと突っぱねてもよさそうであるが、彼はそうしなかった。
アカシの所属しているウサミメタル社もOP社の元関連会社であったが、その地位は低く、関連会社の中でも中枢を外れていた。
そのため「OP社の関連会社の従業員」という肩書がもたらす有形無形の影響が、彼には十分に理解できなかったのである。
(OP社の問題、と撥ねつけるのは簡単。でも、その場合「OP社の関連会社」ということで恩恵を受けていた層は、確実に敵に回るわね……)
インデストの人間ではないレイカには、ヒキの主張が無茶なものであると切り捨てることができる。
だが、インデストではどうか?
残念ながら一定の支持は得られるだろう、というのがレイカの予測だった。
「OP社の関連会社の従業員」ということで恩恵を受けていた層は確実に存在するであろう。
また、人が得ていたものを失うときの抵抗は、それを得た手段が不当なものであるほど大きいということをレイカは感覚的に理解していたからだ。
インデストの最大の産業は鉄を中心とした鉱工業であり、その大部分はOP社が関係するものであった。
他の産業は鉱工業と比較して規模が小さい上に、主に距離が大きな障壁となって他都市から富を得る手段となり得るものは皆無に等しかった。
こうした事情から、住民のOP社に対する依存度、という点ではOP社の本拠地であるポータル・シティと比較してもはるかに大きいものであったことは想像に難くない。
現社長のヤマガタも、この点については理解が及んでいなかった可能性が高い。
でなければ、移行期間をほとんど置かずに、鉱工業からの完全撤退などというリスクの大きい決断をするとは考えにくい。
OP社からの利益に依存する多くの者達の反発が必至だからだ。
しかし、現時点ではインデストにおけるOP社に対する反発は、電力事業に対するものが大きく、鉱工業からの撤退に対するものはそれほどでもない。
アカシが即座にECN社という新しい取引先を獲得したことで、OP社の鉱工業からの撤退の影響が広がるよりも先に電力不足の問題が発覚したことも大きく影響している。
本人の意図どおりであったかはともかく、結果的にヤマガタは責をほとんど問われることなく鉱工業から撤退することに成功していた。
そして、この撤退がヒキのような者の後ろ盾を奪ったのだ。
レイカはオソダ、タノダらOP社からの参加者の表情も観察していた。
OP社が自社の鉱工業からの撤退をどう考えているか?
それを知るのには良い機会だったからだ。
インデストのオソダと本社のタノダとの間の感覚の違いも知ることができるのかもしれない。
だが、彼らの動きはない。
アカシを責めたいのであればヒキに便乗すればよいのだが、彼らはそれを選択しなかったのだ。
それどころか、彼らは自ら動く様子を見せず、レイカの動きを見ているようであった。
(……? OP社は私が動くのを待っている?)
会議の場を静寂が支配し始めた。
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