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第十二章
564:突きつけられた現実
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ユニヴァースが立ち上がったことで、彼が掃除をしていた対象がロビー達の視界に入った。それは彼らが知らないものであることがわかる。
ロビーがこの地を出発したとき、この場になかったものであった。
ここの場所は彼が出発したときは何もない空きスペースだったはずだ。
「……それは……?」
ロビーが喉の奥から絞り出すような声で尋ねた。わずかに声が震えている。
大胆不敵な彼ですらそうさせるだけの事実がそこにはあった。
「……お前さんたちが……ここを出るとき……残していった青年の……ものだ」
この男ですら言い難いことがあったのか、と感じさせるほどユニヴァースの言葉はとぎれとぎれのものであった。
ぶっきらぼうであるがいつもは力強い話し方をするユニヴァースですら、そうなったのだ。
ロビー、オオイダ、カネサキがユニヴァースの脇にある物体に向けて飛び出した。
「これって……」
最初に物体の前に到達したオオイダが言葉を失った。
それは墓石であった。
セス・クルスの名前が彫られていた。
彼らが最も見たくなかったものであり、この存在が彼らが間に合わなかったという事実を突き付けたのであった。
「……昨年九月の二四日の夕方、正確には一六時一四分、車椅子に座ったまま事切れていた彼を見つけた。ちょうどこの場所だった……」
十数秒ほど経過してからユニヴァースはウォーリー・トワの墓の前を示した。時刻まで正確に伝えるあたりはこの男らしい。
セスの墓は兄であるウォーリー・トワの墓の隣にあった。
生きている間お互いが直接顔を合わせることはなかったが、これで思う存分積もる話もできるであろう、ということが唯一の救いであるかもしれなかった。
「な、何でよ、こんなのって……」
オオイダは茫然とセスの墓の前に立ち尽くしていた。
「しゃんとしなさい! クルス君に伝えることがあるでしょう!」
カネサキは辛うじて姿勢を正していたが、その声は涙声で両目からは大粒の涙がこぼれていた。
コナカはうつむいたままで、メイは崩れ落ちるように跪いた。
「間に合わなかったのか……」
ロビーが小さくつぶやいた。
「これはお前さんたちが持つべきものだ。後で見ておきなさい」
そう言ってユニヴァースはロビーに封筒を手渡した。
そして、失礼すると告げてその場を離れた。ユニヴァースなりに気を利かせたのかもしれない。
「……泣いてないで、報告がまだよ」
カネサキがロビーを促した。
「……そうだったな。セス、遅れて済まなかった。東側に出たばかりのところで引き返しちまったが、人の住めそうなところはあったんだ……」
ロビーの言葉は諭すような調子であった。
ロビーが周辺を見ると、カネサキやオオイダが続けなさいという仕草を見せた。
ロビーが報告を続ける。
「全員、何とか無事に帰ってきた。カネサキ先輩とオオイダ先輩が怪我しちまったが、そのおかげで、人をそりに乗せて運べる道も見つかった。もう何度か調べれば、セスのような車椅子の奴でも、島の東西を行き来できるようになるさ……」
カネサキがロビーの言葉に大きくうなずいた。
その後、辺りは静寂に包まれた。
どれほどの時間が経っただろうか、不意に風が砂埃を巻き上げた。
同時にロビーの手にあった封筒から一枚の紙が高く舞い上がった。
それに気付いたロビーが飛びあがり、長い腕を伸ばして紙を掴む。
着地したロビーは左手で器用に封筒の蓋を閉じ、右手で掴んだ紙を開いた。
それは、セスの死に関する報告書であった。
昨年の九月二六日の日付で作成された物で、作成者としてアズマ・ノトという署名があったが、それはロビーの知らない名前であった。
署名からはECN社の従業員であり、メディットで医師の資格を得た者であることがわかる程度である。
(この医師には後で確認をとっておこう、何か新しいことがわかるかもしれない)
ロビーはそう考えて、紙を丁寧に畳んで封筒の中に入れた。
「……そろそろ本社に報告に行くが……」
「そうね、モトムラマネージャーがそろそろ戻っているわね」
ロビーの言葉に即座にカネサキが反応した。
年長者として職務への責任を感じているのかもしれないな、とロビーは思った。
オオイダ、コナカがカネサキに促されて簡易宿泊所へと向かう。
メイはコナカの後ろをとぼとぼとついていく。
「隊長、行きましょう」
カネサキに促されてロビーが続いた。
何にせよ、本社、すなわちエリックへの報告が終わらない限り、今回の任務は完了しないのだ。
任務を完了させるため、ロビー達は通信室へ向かった。
ロビーにとっては任務の完了がセスに対する最低限の責任である。
あのような形での報告になってしまったとはいえ、セスに対する責任は果たさなければならない。
程度にこそ差はあれども、ロビーに同行しているカネサキ、オオイダ、コナカ、メイも同じような責任を感じているように思われた。
ロビー達が通信室の前へ戻ると、ホンゴウとアイネスが待っていた。
ロビーがこの地を出発したとき、この場になかったものであった。
ここの場所は彼が出発したときは何もない空きスペースだったはずだ。
「……それは……?」
ロビーが喉の奥から絞り出すような声で尋ねた。わずかに声が震えている。
大胆不敵な彼ですらそうさせるだけの事実がそこにはあった。
「……お前さんたちが……ここを出るとき……残していった青年の……ものだ」
この男ですら言い難いことがあったのか、と感じさせるほどユニヴァースの言葉はとぎれとぎれのものであった。
ぶっきらぼうであるがいつもは力強い話し方をするユニヴァースですら、そうなったのだ。
ロビー、オオイダ、カネサキがユニヴァースの脇にある物体に向けて飛び出した。
「これって……」
最初に物体の前に到達したオオイダが言葉を失った。
それは墓石であった。
セス・クルスの名前が彫られていた。
彼らが最も見たくなかったものであり、この存在が彼らが間に合わなかったという事実を突き付けたのであった。
「……昨年九月の二四日の夕方、正確には一六時一四分、車椅子に座ったまま事切れていた彼を見つけた。ちょうどこの場所だった……」
十数秒ほど経過してからユニヴァースはウォーリー・トワの墓の前を示した。時刻まで正確に伝えるあたりはこの男らしい。
セスの墓は兄であるウォーリー・トワの墓の隣にあった。
生きている間お互いが直接顔を合わせることはなかったが、これで思う存分積もる話もできるであろう、ということが唯一の救いであるかもしれなかった。
「な、何でよ、こんなのって……」
オオイダは茫然とセスの墓の前に立ち尽くしていた。
「しゃんとしなさい! クルス君に伝えることがあるでしょう!」
カネサキは辛うじて姿勢を正していたが、その声は涙声で両目からは大粒の涙がこぼれていた。
コナカはうつむいたままで、メイは崩れ落ちるように跪いた。
「間に合わなかったのか……」
ロビーが小さくつぶやいた。
「これはお前さんたちが持つべきものだ。後で見ておきなさい」
そう言ってユニヴァースはロビーに封筒を手渡した。
そして、失礼すると告げてその場を離れた。ユニヴァースなりに気を利かせたのかもしれない。
「……泣いてないで、報告がまだよ」
カネサキがロビーを促した。
「……そうだったな。セス、遅れて済まなかった。東側に出たばかりのところで引き返しちまったが、人の住めそうなところはあったんだ……」
ロビーの言葉は諭すような調子であった。
ロビーが周辺を見ると、カネサキやオオイダが続けなさいという仕草を見せた。
ロビーが報告を続ける。
「全員、何とか無事に帰ってきた。カネサキ先輩とオオイダ先輩が怪我しちまったが、そのおかげで、人をそりに乗せて運べる道も見つかった。もう何度か調べれば、セスのような車椅子の奴でも、島の東西を行き来できるようになるさ……」
カネサキがロビーの言葉に大きくうなずいた。
その後、辺りは静寂に包まれた。
どれほどの時間が経っただろうか、不意に風が砂埃を巻き上げた。
同時にロビーの手にあった封筒から一枚の紙が高く舞い上がった。
それに気付いたロビーが飛びあがり、長い腕を伸ばして紙を掴む。
着地したロビーは左手で器用に封筒の蓋を閉じ、右手で掴んだ紙を開いた。
それは、セスの死に関する報告書であった。
昨年の九月二六日の日付で作成された物で、作成者としてアズマ・ノトという署名があったが、それはロビーの知らない名前であった。
署名からはECN社の従業員であり、メディットで医師の資格を得た者であることがわかる程度である。
(この医師には後で確認をとっておこう、何か新しいことがわかるかもしれない)
ロビーはそう考えて、紙を丁寧に畳んで封筒の中に入れた。
「……そろそろ本社に報告に行くが……」
「そうね、モトムラマネージャーがそろそろ戻っているわね」
ロビーの言葉に即座にカネサキが反応した。
年長者として職務への責任を感じているのかもしれないな、とロビーは思った。
オオイダ、コナカがカネサキに促されて簡易宿泊所へと向かう。
メイはコナカの後ろをとぼとぼとついていく。
「隊長、行きましょう」
カネサキに促されてロビーが続いた。
何にせよ、本社、すなわちエリックへの報告が終わらない限り、今回の任務は完了しないのだ。
任務を完了させるため、ロビー達は通信室へ向かった。
ロビーにとっては任務の完了がセスに対する最低限の責任である。
あのような形での報告になってしまったとはいえ、セスに対する責任は果たさなければならない。
程度にこそ差はあれども、ロビーに同行しているカネサキ、オオイダ、コナカ、メイも同じような責任を感じているように思われた。
ロビー達が通信室の前へ戻ると、ホンゴウとアイネスが待っていた。
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