ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

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第十二章

566:それぞれの行き先

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 本社への報告を終えたその夜、ロビーは一人でセスの墓所へと向かった。

 墓所には先客がいた。
 皿に載せた菓子を供えているようだ。
 (……カネサキ先輩か、そういえばセスの奴は甘いものが好きだったからな……)

「オオイダもマネージャーに恨みがあるわけじゃないのよね……」
 ロビーに気付いたカネサキがつぶやいた。
「わかってますって、先輩。ところで検査はいいんですか? そろそろ時間じゃ?」
「そうね、行ってくるわ。後をお願い」
 そう答えてカネサキがその場を去った。

 (……間に合わなくて済まなかった。だが、まだ調査は途中だ)
 カネサキの背中を見送ってからロビーはセスに語りかけた。
 あれから考えたが、仮にエリックがロビーにセスの死を知らせたとすれば、隊の行動はまとまりを欠くものになっただろう。
 セスが望んだのは、あくまで島の東部に居住可能区域があるかどうかの調査結果であり、少なくともセスの死の時点ではそれは明らかではなかった。
 それが明らかになってから最短の日程でロビーは、この場所に戻ってきた。

 結果は得られた。次は更に先の調査と、島の東西の行き来を考える段階であろう。
 調査にあとどれだけの時間を要するかはわからないが、ロビーにはまだ時間がある。
 納得のいく結果が得られるまで調査を続け、落ち着いたらはじまりの丘へ戻ってこよう。
 ロビーがそう考えていると、不意に丘の下のほうから声がした。
「タカミさん! いらっしゃいますか?」
 コナカの声であった。
 よく見るとメイを伴っている。
「コナカさんか……どうかしたか?」
「それが……」
 どうやら、メイが早急に隊から外れたいと言っているようであった。
 (そうか……俺らの報告は済んだが、秘書さんの報告はまだだったな……)
 ロビーは、それならば、とハモネスまで誰かを同行させるように手配すると提案したが、メイがコナカの後ろで首を横に振った。
 時間が許せば自分が同行するかコナカに同行させるのだが、それだけの余裕はないとロビーは考えた。
 一方でメイは一刻も早く出発したいであろう。
 ロビーのセスに対する思いと同様、メイはオイゲンに対して一刻も早く結果を報告したいのであろう。
 彼女の場合は今回得られた結果で報告内容としては十分なのかもしれない。
 そう考えたロビーはメイに出発の許可を与えた。
「社長さんにはよろしく伝えておいてくれ。何か困ったことがあったらコナカさんに連絡すれば俺も何らかアクションが取れると思う」
 ロビーがそう告げると、メイはかろうじて聞き取れる大きさの声で「ご迷惑をおかけしました、すみませんでした」と頭を下げ、走り出した。
「お、おい……」
 ロビーが止めようとしたが、考え直してその場にとどまった。
 ここからはメイ個人の任務だ、自分たちが余計な手出しをする場面ではない。

「行ってしまいました……」
 走り去っていくメイの背中を茫然と見送りながらコナカがつぶやいた。
「……行ったな。ところで俺はカネサキ先輩とオオイダ先輩の検査結果が出たら、次の調査に出発したいと思う。コナカさんはどうする?」
 ロビーはいつもと変わらぬ口調で尋ねた。

「……私が行っても問題ないのですか?」
 コナカの言葉は自らの心情を吐露したものであった。
 隊に参加したい気持ちはあるのだが、正直なところ、足を引っ張らないか心配なのだ。
「……正直、今回の隊は俺にとっては荷が重かった。俺にはこの通り経験や知識が足りないから」
「それはないと思いますけど……」
 ロビーが冗談を交えずに心情を吐露するのは珍しいな、とコナカは思った。
 ただ、その意味するところに確信は持てない。
「先輩にこう言うのは気が引けるが、コナカさんがいなかったらと思うとぞっとする」
「……」
「コナカさんには次の隊に参加してもらいたい、隊のトップとしての要請だ」
「……わかりました」
 要請とあれば、コナカに断る理由はなかった。
「それと、これは個人的な話になるが……次の隊の調査が終わって、コナカさんがいいと考えてくれたのなら、俺と結婚してもらえないだろうか?」

 ロビーは今回の探索で自分がコナカにどれだけ助けられたか痛感していた。
 メイの面倒は任せきりであったし、細かい頼みごとが彼女に集中してしまっていた。
 自分の都合とはいえ、コナカの存在が必要だ、とロビーは考えていたのだ。
「次の隊に参加してもらえるなら、そこで俺がどういう人間だかじっくり見てもらえればいいと思う。それで返事を決めてもらえば」
「……はい」
 コナカは小さくうなずいた。
 コナカからすれば、確かにロビーと行動することが多かった。
 自分では気づかないふりをしていたが、ロビーに好意らしきものがあったのは確かである。
 ただ、相手はそうは見ていないだろう、と考えていた。
 だから、無意識のうちにロビーと接する行動を増やしていた。
 自分がロビーにふさわしいかはわからない。
 次の隊で周りを見てから考えよう、コナカはそう決めた。

 (さて、場合によってはカネサキ先輩に報告しなきゃならないな)
 ロビーは天を仰いだ。
 LH五二年二月九日、東部探索隊の第一陣はその任を終えた。
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