ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

文字の大きさ
149 / 304
第十三章

569:セキュリティ・センター長の足取り

しおりを挟む
 ハドリ行方不明の報を得たとき、オオカワは「タブーなきエンジニア集団」及び「OP社グループ労働者組合」との戦いの場にいた。
 オオカワは躊躇なくOP社を去ることを選択した。
 辞表を出して社を去るという選択肢もあったが、その場合、戦後処理の前に抜ければ責任から逃げたと糾弾されるであろうし、戦後処理を行えば責任を押し付けられるだろう、と考えた。
 そこでオオカワは戦闘中に行方不明になったように装うことを決めた。
 協力者の存在もあり、オオカワは行方不明を装い、各地を転々としていた。
 「リスク管理研究所」の門を叩いたのは、昨年の九月のことである。

 「リスク管理研究所」がOP社に対する経営指導を行っていることを知ったオオカワはOP社の内情に詳しい人間として自らを売り込んだ。
 サワムラの推薦もあって、トニーはオオカワを迎え入れた。
 ただし、その存在は徹底的に秘匿された。
 このためオオカワの存在を知る者は所内でもトニーとサワムラを除けば他に数名といった状況であった。

「まあ、正直オオカワさんの情報に目新しいものはなかったからなぁ。すべて俺の調査や予測の通りだったが。今の社長の知られていない素顔の情報とかでもあれば面白かったのに。あの真面目くさった親父が実は男好き、とか」
 トニーが悪戯っぽい表情を見せた。
 本質的に彼はこうした毒のある冗談を好むのかもしれない。
「それがあの通りの人ですから……酒宴でも一人お茶を飲んでいる人ですし、だからこそ、ハドリ社長が信頼を置いていたのでしょうが」
 オオカワの答えはまごうことなき事実であった。
 トニーも調査を進めたのだが、現在のOP社の社長、ノブヤ・ヤマガタに関するスキャンダラスな情報は何一つ手に入らなかった。
「それにしても趣味が書道だっけ? このご時世に手で文字を書こうなんて物好きだよなぁ」
 トニーの言葉にサワムラとオオカワは笑いで応じた。
「まったく、話を脱線させるな!」
 トニーはサワムラとオオカワをいきなり叱りつけたが、これはいつもの彼のやり方である。
 さて、とつぶやいてトニーはサキ・アツミが設立した市民団体への対応に話題を変えた。
「このオバさんもやっちゃったな。市民団体を立ち上げてOP社とやり合うなんて考えられる中でも最悪に近い選択肢だからな。理由はわかるな?」
「そもそも今の状況を作った原因がハドリ元社長でしょう。今の経営陣に責任がないとは言えないでしょうが、状況を考えればそれもさほど重いものではあり得ないでしょうからな。
 今の問題の原因が発電技術者の不足なら、職業学校にでも走って行って技術者の訓練でも支援すべきでしたな」
 先にサワムラが答えた。
「俺の答えのマネの気もするが、視点がひとつ欠けているな」
「……といいますと?」
「電力供給は技術者の人数と、その発電効率の掛け算だ。効率の視点が抜けている」
 トニーはしてやったり、という表情を見せた。
「リスク管理研究所」によるOP社の指導の中には、技術者の発電効率の向上が含まれていた。
 トニーはOP社に対して発電技術者の勤務シフトの効率の悪さを指摘した。
 そこでシフトの最適化を命じ、技術者の発電効率を向上させたのだ。
「オオカワさんはどうだ?」
 トニーが今度はオオカワに回答を求めた。
「市民団体、というのが印象が悪いですな。かつての『エクザローム防衛隊』も市民団体を名乗っていましたし、世間の市民団体に対する目は厳しいものもあるでしょう。
 サワムラさんも言われていましたが、彼らの問題点は問題を指摘しても、その解決策を持たなかったり、あったとしても必要な資金や人員を用意できているケースは皆無に等しいと思いますね」
 オオカワの言葉は辛辣であった。
 OP社時代にセキュリティ・センターのセンター長としてこの手の輩とやりあった経験が豊富なためか、どうも意見が厳しくなるらしい。
「確かにな。今回はマスコミが絡んでいるのも厄介だ。連中は自分の広告枠が売れればよしと思っているところがあるからな。それにしても……ん?」
 トニーは不意に話を止め、モニタに目をやった。
 新しいニュースが飛び込んできたのだ。
「これは……」
 サワムラの目が大きく見開かれる。
「インデストか、オオカワさんは行ったことがあるんだよな? 心当たりがあるか?」
「いえ、まったく。信じられません、事実とは考えにくい……」
 トニーの問いに、オオカワは首を横に振った。
「かつての敵でもそう思うのか?」
「はい。あえて言えば若い跳ねっ返りの暴走でしょうが、そこまで用意が回るような知恵があるとは……」
 オオカワは怪訝な表情を見せていた。
「まあいい、そういえば今、インデストにはあのレイカ・メルツがいるんだったな。お手並み拝見、といったところだな。
 とにもかくにも荒れるぞ、これは。楽しみだ」
 トニーが不気味に笑った。
「そうですな」
「ですね」
 サワムラとオオカワもトニーに同意の姿勢を見せた。
「さて、今後の対応について確認しておこう」
 トニーがサワムラとオオカワにモニタを見るよう促した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

処理中です...