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第十三章
569:セキュリティ・センター長の足取り
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ハドリ行方不明の報を得たとき、オオカワは「タブーなきエンジニア集団」及び「OP社グループ労働者組合」との戦いの場にいた。
オオカワは躊躇なくOP社を去ることを選択した。
辞表を出して社を去るという選択肢もあったが、その場合、戦後処理の前に抜ければ責任から逃げたと糾弾されるであろうし、戦後処理を行えば責任を押し付けられるだろう、と考えた。
そこでオオカワは戦闘中に行方不明になったように装うことを決めた。
協力者の存在もあり、オオカワは行方不明を装い、各地を転々としていた。
「リスク管理研究所」の門を叩いたのは、昨年の九月のことである。
「リスク管理研究所」がOP社に対する経営指導を行っていることを知ったオオカワはOP社の内情に詳しい人間として自らを売り込んだ。
サワムラの推薦もあって、トニーはオオカワを迎え入れた。
ただし、その存在は徹底的に秘匿された。
このためオオカワの存在を知る者は所内でもトニーとサワムラを除けば他に数名といった状況であった。
「まあ、正直オオカワさんの情報に目新しいものはなかったからなぁ。すべて俺の調査や予測の通りだったが。今の社長の知られていない素顔の情報とかでもあれば面白かったのに。あの真面目くさった親父が実は男好き、とか」
トニーが悪戯っぽい表情を見せた。
本質的に彼はこうした毒のある冗談を好むのかもしれない。
「それがあの通りの人ですから……酒宴でも一人お茶を飲んでいる人ですし、だからこそ、ハドリ社長が信頼を置いていたのでしょうが」
オオカワの答えはまごうことなき事実であった。
トニーも調査を進めたのだが、現在のOP社の社長、ノブヤ・ヤマガタに関するスキャンダラスな情報は何一つ手に入らなかった。
「それにしても趣味が書道だっけ? このご時世に手で文字を書こうなんて物好きだよなぁ」
トニーの言葉にサワムラとオオカワは笑いで応じた。
「まったく、話を脱線させるな!」
トニーはサワムラとオオカワをいきなり叱りつけたが、これはいつもの彼のやり方である。
さて、とつぶやいてトニーはサキ・アツミが設立した市民団体への対応に話題を変えた。
「このオバさんもやっちゃったな。市民団体を立ち上げてOP社とやり合うなんて考えられる中でも最悪に近い選択肢だからな。理由はわかるな?」
「そもそも今の状況を作った原因がハドリ元社長でしょう。今の経営陣に責任がないとは言えないでしょうが、状況を考えればそれもさほど重いものではあり得ないでしょうからな。
今の問題の原因が発電技術者の不足なら、職業学校にでも走って行って技術者の訓練でも支援すべきでしたな」
先にサワムラが答えた。
「俺の答えのマネの気もするが、視点がひとつ欠けているな」
「……といいますと?」
「電力供給は技術者の人数と、その発電効率の掛け算だ。効率の視点が抜けている」
トニーはしてやったり、という表情を見せた。
「リスク管理研究所」によるOP社の指導の中には、技術者の発電効率の向上が含まれていた。
トニーはOP社に対して発電技術者の勤務シフトの効率の悪さを指摘した。
そこでシフトの最適化を命じ、技術者の発電効率を向上させたのだ。
「オオカワさんはどうだ?」
トニーが今度はオオカワに回答を求めた。
「市民団体、というのが印象が悪いですな。かつての『エクザローム防衛隊』も市民団体を名乗っていましたし、世間の市民団体に対する目は厳しいものもあるでしょう。
サワムラさんも言われていましたが、彼らの問題点は問題を指摘しても、その解決策を持たなかったり、あったとしても必要な資金や人員を用意できているケースは皆無に等しいと思いますね」
オオカワの言葉は辛辣であった。
OP社時代にセキュリティ・センターのセンター長としてこの手の輩とやりあった経験が豊富なためか、どうも意見が厳しくなるらしい。
「確かにな。今回はマスコミが絡んでいるのも厄介だ。連中は自分の広告枠が売れればよしと思っているところがあるからな。それにしても……ん?」
トニーは不意に話を止め、モニタに目をやった。
新しいニュースが飛び込んできたのだ。
「これは……」
サワムラの目が大きく見開かれる。
「インデストか、オオカワさんは行ったことがあるんだよな? 心当たりがあるか?」
「いえ、まったく。信じられません、事実とは考えにくい……」
トニーの問いに、オオカワは首を横に振った。
「かつての敵でもそう思うのか?」
「はい。あえて言えば若い跳ねっ返りの暴走でしょうが、そこまで用意が回るような知恵があるとは……」
オオカワは怪訝な表情を見せていた。
「まあいい、そういえば今、インデストにはあのレイカ・メルツがいるんだったな。お手並み拝見、といったところだな。
とにもかくにも荒れるぞ、これは。楽しみだ」
トニーが不気味に笑った。
「そうですな」
「ですね」
サワムラとオオカワもトニーに同意の姿勢を見せた。
「さて、今後の対応について確認しておこう」
トニーがサワムラとオオカワにモニタを見るよう促した。
オオカワは躊躇なくOP社を去ることを選択した。
辞表を出して社を去るという選択肢もあったが、その場合、戦後処理の前に抜ければ責任から逃げたと糾弾されるであろうし、戦後処理を行えば責任を押し付けられるだろう、と考えた。
そこでオオカワは戦闘中に行方不明になったように装うことを決めた。
協力者の存在もあり、オオカワは行方不明を装い、各地を転々としていた。
「リスク管理研究所」の門を叩いたのは、昨年の九月のことである。
「リスク管理研究所」がOP社に対する経営指導を行っていることを知ったオオカワはOP社の内情に詳しい人間として自らを売り込んだ。
サワムラの推薦もあって、トニーはオオカワを迎え入れた。
ただし、その存在は徹底的に秘匿された。
このためオオカワの存在を知る者は所内でもトニーとサワムラを除けば他に数名といった状況であった。
「まあ、正直オオカワさんの情報に目新しいものはなかったからなぁ。すべて俺の調査や予測の通りだったが。今の社長の知られていない素顔の情報とかでもあれば面白かったのに。あの真面目くさった親父が実は男好き、とか」
トニーが悪戯っぽい表情を見せた。
本質的に彼はこうした毒のある冗談を好むのかもしれない。
「それがあの通りの人ですから……酒宴でも一人お茶を飲んでいる人ですし、だからこそ、ハドリ社長が信頼を置いていたのでしょうが」
オオカワの答えはまごうことなき事実であった。
トニーも調査を進めたのだが、現在のOP社の社長、ノブヤ・ヤマガタに関するスキャンダラスな情報は何一つ手に入らなかった。
「それにしても趣味が書道だっけ? このご時世に手で文字を書こうなんて物好きだよなぁ」
トニーの言葉にサワムラとオオカワは笑いで応じた。
「まったく、話を脱線させるな!」
トニーはサワムラとオオカワをいきなり叱りつけたが、これはいつもの彼のやり方である。
さて、とつぶやいてトニーはサキ・アツミが設立した市民団体への対応に話題を変えた。
「このオバさんもやっちゃったな。市民団体を立ち上げてOP社とやり合うなんて考えられる中でも最悪に近い選択肢だからな。理由はわかるな?」
「そもそも今の状況を作った原因がハドリ元社長でしょう。今の経営陣に責任がないとは言えないでしょうが、状況を考えればそれもさほど重いものではあり得ないでしょうからな。
今の問題の原因が発電技術者の不足なら、職業学校にでも走って行って技術者の訓練でも支援すべきでしたな」
先にサワムラが答えた。
「俺の答えのマネの気もするが、視点がひとつ欠けているな」
「……といいますと?」
「電力供給は技術者の人数と、その発電効率の掛け算だ。効率の視点が抜けている」
トニーはしてやったり、という表情を見せた。
「リスク管理研究所」によるOP社の指導の中には、技術者の発電効率の向上が含まれていた。
トニーはOP社に対して発電技術者の勤務シフトの効率の悪さを指摘した。
そこでシフトの最適化を命じ、技術者の発電効率を向上させたのだ。
「オオカワさんはどうだ?」
トニーが今度はオオカワに回答を求めた。
「市民団体、というのが印象が悪いですな。かつての『エクザローム防衛隊』も市民団体を名乗っていましたし、世間の市民団体に対する目は厳しいものもあるでしょう。
サワムラさんも言われていましたが、彼らの問題点は問題を指摘しても、その解決策を持たなかったり、あったとしても必要な資金や人員を用意できているケースは皆無に等しいと思いますね」
オオカワの言葉は辛辣であった。
OP社時代にセキュリティ・センターのセンター長としてこの手の輩とやりあった経験が豊富なためか、どうも意見が厳しくなるらしい。
「確かにな。今回はマスコミが絡んでいるのも厄介だ。連中は自分の広告枠が売れればよしと思っているところがあるからな。それにしても……ん?」
トニーは不意に話を止め、モニタに目をやった。
新しいニュースが飛び込んできたのだ。
「これは……」
サワムラの目が大きく見開かれる。
「インデストか、オオカワさんは行ったことがあるんだよな? 心当たりがあるか?」
「いえ、まったく。信じられません、事実とは考えにくい……」
トニーの問いに、オオカワは首を横に振った。
「かつての敵でもそう思うのか?」
「はい。あえて言えば若い跳ねっ返りの暴走でしょうが、そこまで用意が回るような知恵があるとは……」
オオカワは怪訝な表情を見せていた。
「まあいい、そういえば今、インデストにはあのレイカ・メルツがいるんだったな。お手並み拝見、といったところだな。
とにもかくにも荒れるぞ、これは。楽しみだ」
トニーが不気味に笑った。
「そうですな」
「ですね」
サワムラとオオカワもトニーに同意の姿勢を見せた。
「さて、今後の対応について確認しておこう」
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