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第十三章
571:ヌマタ、激怒する
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インデスト市街中心部からそれほど離れていない場所でもこのニュースを知り、アカシ同様憤りを隠さない人物がいた。
「何だこれは! 『火災事件調査委員会』って奴の目は節穴か?!」
彼の姿はインデストとポータル・シティを結ぶ街道にあった。
空になった木箱をいくつか載せたそりのようなものを引いている。
男は仕事の場でススム・カワエと名乗っていたが、これは偽名であった。
ジン・ヌマタ、これが彼の本名である。
ヌマタは常駐しているピーター・ウェル農場から、生産された蒸留酒を取引先に運んで帰る途中であった。
道端で休憩を取っているときに、ニュースを知った。
容疑者にはシン・スザキ、ヨシヒロ・オギタ、リオナ・サニシの三名の名前が挙がっていた。
このうちオギタを除く二名は面識こそなかったものの、ヌマタが知っている人物である。
シン・スザキが容疑者になるのであれば、自分にも可能性があるだろう、とヌマタは考えた。
ヌマタもシン同様、肉親をハドリによって殺害されていたからだ。
ヌマタの場合は弟だった。
ユイ・スザキが企てたハドリの暗殺計画に結果的にではあるが、ヌマタの弟も参加していた。
ハドリの手がヌマタ本人や他の親類縁者に及ばなかったのは、ヌマタの弟の事件に対する関与度合いが低いとされたためだ。ヌマタの弟以外の親類縁者が暗殺計画に関与している事実もなく、その意味ではOP社の捜査は適切に行われていたといってよい。
兄弟の事件への関与度合い以外にヌマタとシン・スザキの間に差はないといってよかった。
ハドリは自分に歯向かう者には容赦ない人物として知られていたが、厳格な人物でもあった。一部の例外を除き、血統だけを理由に他者を処分するような真似はしなかったのだ。
ヌマタは直感的に「火災事件調査委員会」がアカシの失脚とIMPUの地位低下を狙っていると確信した。
「勉強会」なるグループの主なメンバーが、IMPUや組合関係者を蛇蝎のごとく嫌っていることを肌で知っていたからだ。
彼が「ピーター・ウェル農場」に到着した当初は農場の者がこうした企みに関与しているのではないかと疑ったが、その疑いは晴れつつあった。
農場のオーナー、ピーター・ウェルはポータル・シティに住む機械工であったが、酒好きが昂じて自ら醸造と蒸留を始め、良い土地を求めてインデストに移ってきたという経歴の持ち主であった。
ヌマタが「ピーター・ウェル農場」に到着してから、二週間ほどの時間しか経過していないが、その全貌は驚くほどの速さで明かされようとしていた。
農場の者はヌマタが拍子抜けするほど簡単に、ヌマタの疑問に答えていった。
岩だらけの急斜面に葡萄畑がある理由も、できた葡萄から作られた酒の味を実物で示されればヌマタも納得するしかなかった。
オーナーのピーターは興が乗ってくれば、いつまでも話を止めない人間で、ヌマタは何度かジンダイを間に立ててその場から撤退することを余儀なくされたほどである。
単純に酒好きのもと機械工が道楽というには真摯すぎる態度で酒造りと対峙した結果が現在の状況であるだけに過ぎなかったのだ。
ピーターには医師の弟と弟の診療所で薬剤師兼看護師を務めている妻、三歳になる長女がいる。
彼らも自らの仕事を忠実に果たしており、ヌマタの目から見て怪しいと思われる点はなかった。
農場の従業員の中で、何人かヌマタを快く思っていないような者がいたが、数十名も人がいれば、気が合わない者が数名いるのは不思議ではない。
ヌマタから見ればウマの合わないのは、単なる無能で人として最低限必要なある種の知恵が欠落しているだけで、彼らが権力や資金を持たない限り注意を払う必要はない、ということである。
その一方で収穫もあった。
当初一番怪しいと睨んでいたジンダイという目出し帽の人物は、ヌマタの言うところの「人として必要なある種の知恵」をもっとも的確に理解しているように思われた。
気は小さいように思われるが、将来ヌマタが何か行動を起こすときにともに行動する仲間にできるのではないか、とすらヌマタは考えた。
宿泊している部屋が近いこともあり、ヌマタはジンダイと話す機会が多かった。
インデストの状況やそれに関するニュースなどについてヌマタが自らの正体を明かさないように質問を向けると、面白味はないが悪くない答えが返ってきた。
そしてヌマタが意見を述べれば、それを理解する知恵はあるようだった。
ヌマタにはジンダイが「考えが合わなければならないラインと分かれてよいライン、その線引きを的確に理解している人物」のように思われた。
更にヌマタがジンダイに対して好意的になるのは、ジンダイがサン・アカシやウォーリー・トワに関して、好意的な視点を持っていることであった。
「帰ったら、ジンダイの奴にニュースの詳細を聞いてみるか」
ヌマタは携帯端末を取りだして、ジンダイにニュースの情報を調べるように頼んだ。
そして農場への帰り道を急ぐ。戻った頃にはジンダイが必要な情報を集めているだろうと期待しながら。
「何だこれは! 『火災事件調査委員会』って奴の目は節穴か?!」
彼の姿はインデストとポータル・シティを結ぶ街道にあった。
空になった木箱をいくつか載せたそりのようなものを引いている。
男は仕事の場でススム・カワエと名乗っていたが、これは偽名であった。
ジン・ヌマタ、これが彼の本名である。
ヌマタは常駐しているピーター・ウェル農場から、生産された蒸留酒を取引先に運んで帰る途中であった。
道端で休憩を取っているときに、ニュースを知った。
容疑者にはシン・スザキ、ヨシヒロ・オギタ、リオナ・サニシの三名の名前が挙がっていた。
このうちオギタを除く二名は面識こそなかったものの、ヌマタが知っている人物である。
シン・スザキが容疑者になるのであれば、自分にも可能性があるだろう、とヌマタは考えた。
ヌマタもシン同様、肉親をハドリによって殺害されていたからだ。
ヌマタの場合は弟だった。
ユイ・スザキが企てたハドリの暗殺計画に結果的にではあるが、ヌマタの弟も参加していた。
ハドリの手がヌマタ本人や他の親類縁者に及ばなかったのは、ヌマタの弟の事件に対する関与度合いが低いとされたためだ。ヌマタの弟以外の親類縁者が暗殺計画に関与している事実もなく、その意味ではOP社の捜査は適切に行われていたといってよい。
兄弟の事件への関与度合い以外にヌマタとシン・スザキの間に差はないといってよかった。
ハドリは自分に歯向かう者には容赦ない人物として知られていたが、厳格な人物でもあった。一部の例外を除き、血統だけを理由に他者を処分するような真似はしなかったのだ。
ヌマタは直感的に「火災事件調査委員会」がアカシの失脚とIMPUの地位低下を狙っていると確信した。
「勉強会」なるグループの主なメンバーが、IMPUや組合関係者を蛇蝎のごとく嫌っていることを肌で知っていたからだ。
彼が「ピーター・ウェル農場」に到着した当初は農場の者がこうした企みに関与しているのではないかと疑ったが、その疑いは晴れつつあった。
農場のオーナー、ピーター・ウェルはポータル・シティに住む機械工であったが、酒好きが昂じて自ら醸造と蒸留を始め、良い土地を求めてインデストに移ってきたという経歴の持ち主であった。
ヌマタが「ピーター・ウェル農場」に到着してから、二週間ほどの時間しか経過していないが、その全貌は驚くほどの速さで明かされようとしていた。
農場の者はヌマタが拍子抜けするほど簡単に、ヌマタの疑問に答えていった。
岩だらけの急斜面に葡萄畑がある理由も、できた葡萄から作られた酒の味を実物で示されればヌマタも納得するしかなかった。
オーナーのピーターは興が乗ってくれば、いつまでも話を止めない人間で、ヌマタは何度かジンダイを間に立ててその場から撤退することを余儀なくされたほどである。
単純に酒好きのもと機械工が道楽というには真摯すぎる態度で酒造りと対峙した結果が現在の状況であるだけに過ぎなかったのだ。
ピーターには医師の弟と弟の診療所で薬剤師兼看護師を務めている妻、三歳になる長女がいる。
彼らも自らの仕事を忠実に果たしており、ヌマタの目から見て怪しいと思われる点はなかった。
農場の従業員の中で、何人かヌマタを快く思っていないような者がいたが、数十名も人がいれば、気が合わない者が数名いるのは不思議ではない。
ヌマタから見ればウマの合わないのは、単なる無能で人として最低限必要なある種の知恵が欠落しているだけで、彼らが権力や資金を持たない限り注意を払う必要はない、ということである。
その一方で収穫もあった。
当初一番怪しいと睨んでいたジンダイという目出し帽の人物は、ヌマタの言うところの「人として必要なある種の知恵」をもっとも的確に理解しているように思われた。
気は小さいように思われるが、将来ヌマタが何か行動を起こすときにともに行動する仲間にできるのではないか、とすらヌマタは考えた。
宿泊している部屋が近いこともあり、ヌマタはジンダイと話す機会が多かった。
インデストの状況やそれに関するニュースなどについてヌマタが自らの正体を明かさないように質問を向けると、面白味はないが悪くない答えが返ってきた。
そしてヌマタが意見を述べれば、それを理解する知恵はあるようだった。
ヌマタにはジンダイが「考えが合わなければならないラインと分かれてよいライン、その線引きを的確に理解している人物」のように思われた。
更にヌマタがジンダイに対して好意的になるのは、ジンダイがサン・アカシやウォーリー・トワに関して、好意的な視点を持っていることであった。
「帰ったら、ジンダイの奴にニュースの詳細を聞いてみるか」
ヌマタは携帯端末を取りだして、ジンダイにニュースの情報を調べるように頼んだ。
そして農場への帰り道を急ぐ。戻った頃にはジンダイが必要な情報を集めているだろうと期待しながら。
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