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第十三章
587:信頼できる渉外担当と捜査担当
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二月一七日午前一時四〇分、防災班はついに爆発が事件であることを示す決定的な証拠を得る。
四〇三号室の捜索中に、時限式の起爆装置を発見したのである。
爆発による破損はあったものの比較的状態は良好で、防災班によれば解析に支障はないということであった。
それを聞いたサクライは、すぐにトミシマに通信を繋ぎ、再び役員と上級チームマネージャーからなる幹部との会議のセッティングを命じた。
通信を繋げた幹部の中には、最悪の事態を想像した者も少なくなかったようで、通信の音声から不安の声が漏れ伝わってきた。ECN社の関係者に関する手掛かりは何一つ得られていなかったから無理もない。
ミヤハラやサクライは、それらの声に対し「彼らの状況については依然情報収集中だ」と伝えた上で、サクライが会議の招集理由を説明した。
ミヤハラに説明させようとしたところで動かないことをサクライはよく知っていたためである。
サクライは起爆装置が見つかったことで、今回の件が事件である可能性が高い、と説明した。
これについては幹部の想定にあったらしく、特に反応はなかった。
しかし、続けてサクライの口から発された言葉については、幹部からわずかにではあるが、驚きの声があがった。
「IMPUから事件であるとの発表があれば、直ちに社として犯人への非難声明を出す。そして、対策委員会を事件調査本部に格上げし、事件の調査と状況次第で行方不明者の捜索を行う」
非難声明は幹部の予測の範疇にあったが、調査と行方不明者の捜索は少々出すぎた行為ではないか? と考える者も少なくなかった。
その一方でサクライの考えに理解を示す者も少なくなかった。
役員の一人であるナント・タンザンなどは、行方不明者の捜索部隊を直ちにインデストに派遣すべきだと強硬に主張したのである。
タンザンはIMPUとの直接取引にも否定的であったから。この反応も驚くほどのものではなかった。要するにIMPUを信用していないのだ。IMPUに任せるくらいなら自社で捜索した方がましだ、と考えたのだろう。
「タンザンマネージャー、気持はわかるが……」
最年長のイヤナギという役員が止めに入った。だが、これもタンザンの怒りに油を注ぐ結果となる。
「我が社の社員の生命が危機にさらされているのだぞ! それも一刻を争う状況だ! 社員の命がどうでもよいというのか! IMPUなる団体に社員の生命をゆだねてよいのか?!」
ちなみにECN社では、社長副社長以外の役員の呼称は上級チームマネージャーと同じく、「マネージャー」とされることが多い。
イヤナギは控えめに言葉をかけたのだが、これがかえってタンザンに火をつけてしまったらしい。
「社長、副社長! 今すぐ捜索部隊の編成を! 私のユニットからも人を出しますぞ!」
タンザンの勢いにサクライは気圧されそうになり、慌ててミヤハラの方に目をやる。
ミヤハラは腕組みしたまま動かなかったが、再びサクライがミヤハラに答えを促す。
(仕方ねぇなぁ……)
そうは思っても、ミヤハラは表情に出さない。
「タンザンマネージャー。今からインデストに人を送って、捜索か開始できるのはいつになる?」
ミヤハラは、いつもと変わらぬ調子で尋ねた。彼はあくまで冷静であった。
「二三日か二四日くらいでしょうな。それが一体……?」
「それでは遅い、マネージャー。事態は一刻を争う。それなのに、一週間も待てるだろうか?」
ミヤハラの声のトーンがやや低くなった。
それに対してすかさずタンザンが言い返す。
「それはわかりますが、他に有効な手段が社長におありか?」
「タンザンマネージャー、待ちなさい! 社長に失礼です」
マキと言う女性の役員がタンザンをたしなめたが、ミヤハラは構わないと答えた。
「事態が事態だ。我が社はインデストに十分な人員を置いていないし、インデストは遠い」
ミヤハラがいったん言葉を区切る。
「……ならば、インデストの事情に明るい者を渉外担当として、信頼できる外部の者に捜索を依頼する。その方が早く捜索に入ることができる」
「なるほど、それならば本社から人を派遣するより早く捜索に入れますね」
そう言ったのはトミシマであった。
「渉外担当は誰が適任でしょうか?」
マキがミヤハラに問うと、幹部達がしーんと静まり返った。
わずかに間を置いてから、ミヤハラが静かに答える。
「モトムラマネージャー、頼んだ。これ以上の適任はないだろう」
ミヤハラの言葉に抗う者はなかった。
「タブーなきエンジニア集団」閥の内部人事か、と思った者もいたであろうが、それは他に有効な候補を擁立する能力があることを意味していなかった。
そもそもECN社の幹部でインデストへの訪問経験がある者自体が少ない。
ましてやエリックのように、インデストに長期滞在した経験がある者など他に皆無である。
これは、ECN社の幹部が出不精、ということを意味してはいなかった。
単にハモネスやポータル・シティに住んでいる者でインデストを訪れる者が少ない、というだけのことであった。
こうして、エリックが事件調査本部に堂々と参加できるようになった。
四〇三号室の捜索中に、時限式の起爆装置を発見したのである。
爆発による破損はあったものの比較的状態は良好で、防災班によれば解析に支障はないということであった。
それを聞いたサクライは、すぐにトミシマに通信を繋ぎ、再び役員と上級チームマネージャーからなる幹部との会議のセッティングを命じた。
通信を繋げた幹部の中には、最悪の事態を想像した者も少なくなかったようで、通信の音声から不安の声が漏れ伝わってきた。ECN社の関係者に関する手掛かりは何一つ得られていなかったから無理もない。
ミヤハラやサクライは、それらの声に対し「彼らの状況については依然情報収集中だ」と伝えた上で、サクライが会議の招集理由を説明した。
ミヤハラに説明させようとしたところで動かないことをサクライはよく知っていたためである。
サクライは起爆装置が見つかったことで、今回の件が事件である可能性が高い、と説明した。
これについては幹部の想定にあったらしく、特に反応はなかった。
しかし、続けてサクライの口から発された言葉については、幹部からわずかにではあるが、驚きの声があがった。
「IMPUから事件であるとの発表があれば、直ちに社として犯人への非難声明を出す。そして、対策委員会を事件調査本部に格上げし、事件の調査と状況次第で行方不明者の捜索を行う」
非難声明は幹部の予測の範疇にあったが、調査と行方不明者の捜索は少々出すぎた行為ではないか? と考える者も少なくなかった。
その一方でサクライの考えに理解を示す者も少なくなかった。
役員の一人であるナント・タンザンなどは、行方不明者の捜索部隊を直ちにインデストに派遣すべきだと強硬に主張したのである。
タンザンはIMPUとの直接取引にも否定的であったから。この反応も驚くほどのものではなかった。要するにIMPUを信用していないのだ。IMPUに任せるくらいなら自社で捜索した方がましだ、と考えたのだろう。
「タンザンマネージャー、気持はわかるが……」
最年長のイヤナギという役員が止めに入った。だが、これもタンザンの怒りに油を注ぐ結果となる。
「我が社の社員の生命が危機にさらされているのだぞ! それも一刻を争う状況だ! 社員の命がどうでもよいというのか! IMPUなる団体に社員の生命をゆだねてよいのか?!」
ちなみにECN社では、社長副社長以外の役員の呼称は上級チームマネージャーと同じく、「マネージャー」とされることが多い。
イヤナギは控えめに言葉をかけたのだが、これがかえってタンザンに火をつけてしまったらしい。
「社長、副社長! 今すぐ捜索部隊の編成を! 私のユニットからも人を出しますぞ!」
タンザンの勢いにサクライは気圧されそうになり、慌ててミヤハラの方に目をやる。
ミヤハラは腕組みしたまま動かなかったが、再びサクライがミヤハラに答えを促す。
(仕方ねぇなぁ……)
そうは思っても、ミヤハラは表情に出さない。
「タンザンマネージャー。今からインデストに人を送って、捜索か開始できるのはいつになる?」
ミヤハラは、いつもと変わらぬ調子で尋ねた。彼はあくまで冷静であった。
「二三日か二四日くらいでしょうな。それが一体……?」
「それでは遅い、マネージャー。事態は一刻を争う。それなのに、一週間も待てるだろうか?」
ミヤハラの声のトーンがやや低くなった。
それに対してすかさずタンザンが言い返す。
「それはわかりますが、他に有効な手段が社長におありか?」
「タンザンマネージャー、待ちなさい! 社長に失礼です」
マキと言う女性の役員がタンザンをたしなめたが、ミヤハラは構わないと答えた。
「事態が事態だ。我が社はインデストに十分な人員を置いていないし、インデストは遠い」
ミヤハラがいったん言葉を区切る。
「……ならば、インデストの事情に明るい者を渉外担当として、信頼できる外部の者に捜索を依頼する。その方が早く捜索に入ることができる」
「なるほど、それならば本社から人を派遣するより早く捜索に入れますね」
そう言ったのはトミシマであった。
「渉外担当は誰が適任でしょうか?」
マキがミヤハラに問うと、幹部達がしーんと静まり返った。
わずかに間を置いてから、ミヤハラが静かに答える。
「モトムラマネージャー、頼んだ。これ以上の適任はないだろう」
ミヤハラの言葉に抗う者はなかった。
「タブーなきエンジニア集団」閥の内部人事か、と思った者もいたであろうが、それは他に有効な候補を擁立する能力があることを意味していなかった。
そもそもECN社の幹部でインデストへの訪問経験がある者自体が少ない。
ましてやエリックのように、インデストに長期滞在した経験がある者など他に皆無である。
これは、ECN社の幹部が出不精、ということを意味してはいなかった。
単にハモネスやポータル・シティに住んでいる者でインデストを訪れる者が少ない、というだけのことであった。
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