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第十四章
625:検問所へ
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レイカ達は寒い時期に二週間近く屋外での潜伏生活を余儀なくされたが、皆、まだまだ動ける状態にあった。少なくとも表面上、体調面に問題のあるメンバーはいないようであった。
レイカの同行者の人選をしたマコト・トミシマが体力勝負になる可能性もあると考え、比較的若いメンバーをあてがったのがその理由かもしれない。
事実、最年長のシバノイですら三九歳であり、ナタバのようにレイカより年下の者も混じっている。
若いといっても、何らかの分野のスペシャリストたちであり、ECN社が誇る精鋭でもある。
トミシマは苦しい台所事情の中から最高に近いメンバーをレイカに預けたのである。
レイカもそれを承知しているから、今回のインデスト行きについては成果にこだわるのだ。
インデスト市街に向かう道中は足元の悪さに苦戦しながらも、一行の歩みの速さは衰えない。
レイカも他の男性メンバーと同じように進んでおり、彼女をお客様扱いする者はいない。
レイカをよく知る「とぉえんてぃ? ず」の三人が、彼女の今の姿を見たら大いに驚いたであろう。
一行の歩みはインデストを脱出するときよりも速く、半日ほどで検問所の見える位置まで到達した。
辺りは薄暗くなっており、建物の灯りなしではすぐに方向を見失いそうであった。
街道にはところどころに街灯が設置されているが、街道を外れて進んでいる一行がそれを目にすることはなかった。
真っ暗になる前に市街、最悪でも検問所の建物には入っておきたいところだ。
しかし、すぐに検問所へは姿を現さない。
労働者組合の者のいないところで、姿を現すのは逆効果だからだ。
一行の中から隠密行動に長けているモモギが周囲の様子を探る。
そして慎重、かつ迅速に検問所に向けて進んでいく。
数分後、戻ってきたモモギは「表から行きましょう」と言って、レイカたちを呼び寄せた。
検問所の周りには柵が張り巡らされ、容易に人が出入りできないようになっていた。
モモギは一行を二つに分け、巧みにレイカのいるグループだけを見張りの死角になるように誘導しながら、検問所へと近づいていく。
検問所に近い物陰にレイカのグループを残し、モモギはナタバとタカジロを連れて入口へと向かう。
入口には三名が立っており、彼らがこの場所を通る人を見張っているようであった。
女性が一人、男性が二人のようで、モモギたちの姿に最初に気づいたのは女性のほうであった。
女性は二人いるうちの背の高い方の男性に声をかけ、モモギのほうへと向かわせた。
よく見ると男性二人は腕に「組合」と書かれた腕章をしているが、女性の腕に腕章はない。
「失礼ですが、インデスト市街にはどういったご用件で?」
「ECN社の者ですが、弊社の従業員が行方不明となっているという話は聞いていないでしょうか?」
モモギの答えに相手は訝しげな顔を見せたが、何かを思い出したように慌てて携帯端末を広げた。
十数秒後、相手はモモギに頭を下げる。
「ECN社のザライ・モモギさんで間違いないでしょうか? そして、後ろのお二人はバップ・タカジロさん、ホシミ・ナタバさんですね? 失礼しました!」
そして、相手はキースと名乗った。
腕章が示すとおり、労働者組合の所属で、インデスト市街への人の出入りを管理しているという。
ここでモモギはナタバを走らせ、レイカたちを呼び寄せた。
レイカがキースと名乗る青年を見やって、一瞬、おや、という表情を見せた。
それは、あまりに短い時間のことであったので、他の誰もが気づくことはなかった。
(この顔、どこかで……)
キースの顔はレイカの知る誰かに似ていたのである。
それが誰かまでは思い出せなかったため、レイカは相手の顔を記憶にとどめることにした。
キースはレイカたちを検問所の中へと案内した。
途中からキースに指示を出した女性が同行する。
キースに対する彼女の態度は厳しいが、レイカや同行者に対しては妙に愛想がよい。
聞いてもいないのに、「シア・キタヤ」という本名と、「エイジー合成化学」社の営業部次長という立場があっという間に判明した。キタヤは話好きな性質のように見えるが、どうもそれだけではないとレイカは感じていた。
更にキタヤは食事を用意させる、宿を手配するなどと申し出てきては、レイカたちを困惑させた。
レイカはキタヤのこの行動からひとつの意思を読みとった。
(キースさんや組合関係者から、私たちを引き離そうとしているわね……)
レイカや同行者たちにとっては、望ましくない状態である。
検問所の前にいた三人のうちキタヤだけが「組合」の腕章を身に着けていなかった。
所属企業での地位から考えても、管理職である彼女が組合員であることは考えにくい。
であるならば、彼女は何者か?
IMPUの幹部に好意的な者であるならば、組合員に対しても同じような態度で接する可能性が高い。
(「勉強会」グループの関係者かそれに近い存在、と考える方が自然ね……)
レイカは世話を焼こうとするキタヤに閉口しながらそう感じていた。
レイカの同行者の人選をしたマコト・トミシマが体力勝負になる可能性もあると考え、比較的若いメンバーをあてがったのがその理由かもしれない。
事実、最年長のシバノイですら三九歳であり、ナタバのようにレイカより年下の者も混じっている。
若いといっても、何らかの分野のスペシャリストたちであり、ECN社が誇る精鋭でもある。
トミシマは苦しい台所事情の中から最高に近いメンバーをレイカに預けたのである。
レイカもそれを承知しているから、今回のインデスト行きについては成果にこだわるのだ。
インデスト市街に向かう道中は足元の悪さに苦戦しながらも、一行の歩みの速さは衰えない。
レイカも他の男性メンバーと同じように進んでおり、彼女をお客様扱いする者はいない。
レイカをよく知る「とぉえんてぃ? ず」の三人が、彼女の今の姿を見たら大いに驚いたであろう。
一行の歩みはインデストを脱出するときよりも速く、半日ほどで検問所の見える位置まで到達した。
辺りは薄暗くなっており、建物の灯りなしではすぐに方向を見失いそうであった。
街道にはところどころに街灯が設置されているが、街道を外れて進んでいる一行がそれを目にすることはなかった。
真っ暗になる前に市街、最悪でも検問所の建物には入っておきたいところだ。
しかし、すぐに検問所へは姿を現さない。
労働者組合の者のいないところで、姿を現すのは逆効果だからだ。
一行の中から隠密行動に長けているモモギが周囲の様子を探る。
そして慎重、かつ迅速に検問所に向けて進んでいく。
数分後、戻ってきたモモギは「表から行きましょう」と言って、レイカたちを呼び寄せた。
検問所の周りには柵が張り巡らされ、容易に人が出入りできないようになっていた。
モモギは一行を二つに分け、巧みにレイカのいるグループだけを見張りの死角になるように誘導しながら、検問所へと近づいていく。
検問所に近い物陰にレイカのグループを残し、モモギはナタバとタカジロを連れて入口へと向かう。
入口には三名が立っており、彼らがこの場所を通る人を見張っているようであった。
女性が一人、男性が二人のようで、モモギたちの姿に最初に気づいたのは女性のほうであった。
女性は二人いるうちの背の高い方の男性に声をかけ、モモギのほうへと向かわせた。
よく見ると男性二人は腕に「組合」と書かれた腕章をしているが、女性の腕に腕章はない。
「失礼ですが、インデスト市街にはどういったご用件で?」
「ECN社の者ですが、弊社の従業員が行方不明となっているという話は聞いていないでしょうか?」
モモギの答えに相手は訝しげな顔を見せたが、何かを思い出したように慌てて携帯端末を広げた。
十数秒後、相手はモモギに頭を下げる。
「ECN社のザライ・モモギさんで間違いないでしょうか? そして、後ろのお二人はバップ・タカジロさん、ホシミ・ナタバさんですね? 失礼しました!」
そして、相手はキースと名乗った。
腕章が示すとおり、労働者組合の所属で、インデスト市街への人の出入りを管理しているという。
ここでモモギはナタバを走らせ、レイカたちを呼び寄せた。
レイカがキースと名乗る青年を見やって、一瞬、おや、という表情を見せた。
それは、あまりに短い時間のことであったので、他の誰もが気づくことはなかった。
(この顔、どこかで……)
キースの顔はレイカの知る誰かに似ていたのである。
それが誰かまでは思い出せなかったため、レイカは相手の顔を記憶にとどめることにした。
キースはレイカたちを検問所の中へと案内した。
途中からキースに指示を出した女性が同行する。
キースに対する彼女の態度は厳しいが、レイカや同行者に対しては妙に愛想がよい。
聞いてもいないのに、「シア・キタヤ」という本名と、「エイジー合成化学」社の営業部次長という立場があっという間に判明した。キタヤは話好きな性質のように見えるが、どうもそれだけではないとレイカは感じていた。
更にキタヤは食事を用意させる、宿を手配するなどと申し出てきては、レイカたちを困惑させた。
レイカはキタヤのこの行動からひとつの意思を読みとった。
(キースさんや組合関係者から、私たちを引き離そうとしているわね……)
レイカや同行者たちにとっては、望ましくない状態である。
検問所の前にいた三人のうちキタヤだけが「組合」の腕章を身に着けていなかった。
所属企業での地位から考えても、管理職である彼女が組合員であることは考えにくい。
であるならば、彼女は何者か?
IMPUの幹部に好意的な者であるならば、組合員に対しても同じような態度で接する可能性が高い。
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