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第十四章
645:「判定者」の種
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「ようやく私の仕事を見つけた気がするわ。そう、私に仕事をさせて」
アレクが気にしているのはダイヤの言葉のこの部分であった。
「仕事」というのはレイカ・メルツの意思の確認だろう。
しかし、レイカがナベシマからどのような遺志を引き継いだのだとダイヤは考えているのか、アレクには理解できない部分がある。
確かにナベシマは「判定者とその支援者」の設立のきっかけとなった事件の実行犯のリーダー的存在であった。
しかし、アレクが得ている情報では、ナベシマは借金の債権者から迫られ、事件を指揮しただけに過ぎない。
それはダイヤやサファイアも知っていることだ。
事件によって少なくない生命が奪われたものの、それはナベシマが自ら望んだ結果だとはアレクには思えないのだ。
「ナベシマの遺志」とは一体何を意味するのだろうか?
考えれば考えるほど、アレクには理解できない。
また、「ようやく私の仕事を見つけた」というのも気にかかる。
ダイヤは常に精力的に動いており、自らの仕事に飢えるということなど到底考えられないような人物だ。
それにも関わらず、ようやく自分の仕事を見つけた、というのはどのようなことであろうか?
顔を合わせられれば、それを確かめてみたい。
だからこそ、アレクはダイヤの解放のため、彼女が無実であるという証拠を求め続けているのだ。
ダイヤが拘束された、という発表から今日で二週間になる。
彼女が無実であるという有力な情報は未だに得られていない。
彼女がIMPU幹部の暗殺や暴動を計画した、という証拠となっている情報がすべて「勉強会」グループに押さえられているのが、アレクの情報収集を困難なものにしていた。
ただし、証拠についての情報公開が一切ないということが証拠自体に何らかの問題があることを隠しているのではないか、とアレクは疑っている。
証拠が明らかなものであるならば、すぐにでもダイヤの処遇が決定されるはずだが、今のところそのような動きは見られない。
そこにつけ入る隙がある、とアレクは考えている。
七年前、彼女は「ポータル中央通信社」という中堅のマスコミに在籍していた。
その頃彼女はとある事件の調査を行っていた。
社から命じられた仕事ではなく、自らの興味で始めた仕事であった。
調査を進めていく上で、新たな事実をいくつも発見し、それを記事にしようとしたところ、社からストップがかかった。
社の決定に納得できなかった彼女は、「ポータル中央通信社」を辞め、野に下った。
そして、苦労した後、彼女が調査していた事件で生き残った被害者の一人と接触することに成功した。
その被害者こそが、ダイヤことミア・シトリであった。
シトリと出会ったアレクは「判定者とその支援者」を二人で設立したのである。
「判定者とその支援者」を生み出した事件は次のようなものであった。
LH三一年四月二七日、サブマリン島最悪と言われた「フジミの大虐殺」事件のちょうど七年前のことである。
「フジミの大虐殺」と同じ四月二七日というのは、運命の皮肉であろう。
その日は前日の夜から急に冷え込み、二ヶ月ほど季節が逆戻りしたかのようであった。
夜が明ける直前の午前四時半頃、ポータル・シティ北西部の工場から火の手があがった。
この日は日曜日ということもあり、工場の周辺に人通りはなかった。
火災の発見が遅れたのも、人通りの少ない時間と場所、というのが大いに影響していた。
火災が起きたのは、「ミクモ工芸」という発電機用の部品を製造する二〇名強の従業員を抱えるメーカーの本社工場であった。
工場の敷地内には従業員用の住宅も併設されており、従業員の多くとその家族が生活する場となっていた。
当時のポータル・シティでは、このような形態の企業は珍しいものではなく、「ミクモ工芸」が特別だったわけではない。
しかし、この場合は工場の形態が災いした。
「ミクモ工芸」の多くの従業員とその家族の生命は、この火災で失われたのである。
死者は六〇名に達し、工場の敷地内に居住していた者で助かったのは五歳から七歳の少女三名のみであった。
事件は火の不始末による失火と報道され、犠牲者の数と比較すれば、その扱いは著しく小さいものであった。
報道の重要性は必ずしも事件の犠牲者の数と比例するものではないかもしれないが、この事件に関しては扱いを小さくするには不審な点が数多くあった。
まず、出火元が住宅のひとつ、とされた点である。
複数の火災の目撃者が、「工場から先に燃えており、住宅の側が燃えだしたのは、少なくとも五分以上後」と証言していた。
また、当時の天候は住宅の側が風下となっており、出火元が住宅であれば工場が燃えることは考えにくい。
次に、少なくない死者の死因を「有毒ガスによる中毒」と医師が発表したことであった。
この医師は発表の後二ヶ月ほどで病死しており、このことがさまざまな憶測を生んだ。
最後に、「ミクモ工芸」が金融業者とトラブルを抱えていたことであった。
「ミクモ工芸」が抱えていた債務はそれほど大きなものではなく、会社の存続に影響がある水準とは言い難かった。
問題なのは、それにも関わらず、金融業者と「ミクモ工芸」の間に債務の返済に関してのトラブルが絶えなかったことであった。
一部には、「ミクモ工芸」の社員がこの金融業者と「EMいのちの守護者の会」が癒着しているという告発を行おうとしていた、という噂もあった。
しかし、これらの情報の多くは表に出ることなく、人々の記憶に留まることは殆どなかった。
アレクが気にしているのはダイヤの言葉のこの部分であった。
「仕事」というのはレイカ・メルツの意思の確認だろう。
しかし、レイカがナベシマからどのような遺志を引き継いだのだとダイヤは考えているのか、アレクには理解できない部分がある。
確かにナベシマは「判定者とその支援者」の設立のきっかけとなった事件の実行犯のリーダー的存在であった。
しかし、アレクが得ている情報では、ナベシマは借金の債権者から迫られ、事件を指揮しただけに過ぎない。
それはダイヤやサファイアも知っていることだ。
事件によって少なくない生命が奪われたものの、それはナベシマが自ら望んだ結果だとはアレクには思えないのだ。
「ナベシマの遺志」とは一体何を意味するのだろうか?
考えれば考えるほど、アレクには理解できない。
また、「ようやく私の仕事を見つけた」というのも気にかかる。
ダイヤは常に精力的に動いており、自らの仕事に飢えるということなど到底考えられないような人物だ。
それにも関わらず、ようやく自分の仕事を見つけた、というのはどのようなことであろうか?
顔を合わせられれば、それを確かめてみたい。
だからこそ、アレクはダイヤの解放のため、彼女が無実であるという証拠を求め続けているのだ。
ダイヤが拘束された、という発表から今日で二週間になる。
彼女が無実であるという有力な情報は未だに得られていない。
彼女がIMPU幹部の暗殺や暴動を計画した、という証拠となっている情報がすべて「勉強会」グループに押さえられているのが、アレクの情報収集を困難なものにしていた。
ただし、証拠についての情報公開が一切ないということが証拠自体に何らかの問題があることを隠しているのではないか、とアレクは疑っている。
証拠が明らかなものであるならば、すぐにでもダイヤの処遇が決定されるはずだが、今のところそのような動きは見られない。
そこにつけ入る隙がある、とアレクは考えている。
七年前、彼女は「ポータル中央通信社」という中堅のマスコミに在籍していた。
その頃彼女はとある事件の調査を行っていた。
社から命じられた仕事ではなく、自らの興味で始めた仕事であった。
調査を進めていく上で、新たな事実をいくつも発見し、それを記事にしようとしたところ、社からストップがかかった。
社の決定に納得できなかった彼女は、「ポータル中央通信社」を辞め、野に下った。
そして、苦労した後、彼女が調査していた事件で生き残った被害者の一人と接触することに成功した。
その被害者こそが、ダイヤことミア・シトリであった。
シトリと出会ったアレクは「判定者とその支援者」を二人で設立したのである。
「判定者とその支援者」を生み出した事件は次のようなものであった。
LH三一年四月二七日、サブマリン島最悪と言われた「フジミの大虐殺」事件のちょうど七年前のことである。
「フジミの大虐殺」と同じ四月二七日というのは、運命の皮肉であろう。
その日は前日の夜から急に冷え込み、二ヶ月ほど季節が逆戻りしたかのようであった。
夜が明ける直前の午前四時半頃、ポータル・シティ北西部の工場から火の手があがった。
この日は日曜日ということもあり、工場の周辺に人通りはなかった。
火災の発見が遅れたのも、人通りの少ない時間と場所、というのが大いに影響していた。
火災が起きたのは、「ミクモ工芸」という発電機用の部品を製造する二〇名強の従業員を抱えるメーカーの本社工場であった。
工場の敷地内には従業員用の住宅も併設されており、従業員の多くとその家族が生活する場となっていた。
当時のポータル・シティでは、このような形態の企業は珍しいものではなく、「ミクモ工芸」が特別だったわけではない。
しかし、この場合は工場の形態が災いした。
「ミクモ工芸」の多くの従業員とその家族の生命は、この火災で失われたのである。
死者は六〇名に達し、工場の敷地内に居住していた者で助かったのは五歳から七歳の少女三名のみであった。
事件は火の不始末による失火と報道され、犠牲者の数と比較すれば、その扱いは著しく小さいものであった。
報道の重要性は必ずしも事件の犠牲者の数と比例するものではないかもしれないが、この事件に関しては扱いを小さくするには不審な点が数多くあった。
まず、出火元が住宅のひとつ、とされた点である。
複数の火災の目撃者が、「工場から先に燃えており、住宅の側が燃えだしたのは、少なくとも五分以上後」と証言していた。
また、当時の天候は住宅の側が風下となっており、出火元が住宅であれば工場が燃えることは考えにくい。
次に、少なくない死者の死因を「有毒ガスによる中毒」と医師が発表したことであった。
この医師は発表の後二ヶ月ほどで病死しており、このことがさまざまな憶測を生んだ。
最後に、「ミクモ工芸」が金融業者とトラブルを抱えていたことであった。
「ミクモ工芸」が抱えていた債務はそれほど大きなものではなく、会社の存続に影響がある水準とは言い難かった。
問題なのは、それにも関わらず、金融業者と「ミクモ工芸」の間に債務の返済に関してのトラブルが絶えなかったことであった。
一部には、「ミクモ工芸」の社員がこの金融業者と「EMいのちの守護者の会」が癒着しているという告発を行おうとしていた、という噂もあった。
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