ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

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第十四章

665:ヌマタの勝負 その2

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 ヌマタはサクライの人物に疑念を抱いている。
 一方、サクライの立場としては、このタイミングでのヌマタの来社に疑念を抱かざるを得ない。
 立場、というよりもミヤハラ、エリックという同席メンバーの関係、というほうがしっくりくるかもしれない。
 ミヤハラはこうした場で自ら積極的に口を開くタイプではない。
 一方、エリックはヌマタと親しいようで、ヌマタに対して否定的な立場には立ちにくいであろう。
 そのため結果的にサクライがその立場に立ち、口を開くしかないという状況だ。
 しかし、エリックはともかくミヤハラやサクライについてそれほどよく知らないヌマタに、サクライの立場を理解しろというのはやや無理がある。

「アカシさんは、『勉強会』の連中に存在を知られていないメッセンジャーを探していた。そこに俺が現れた。それだけの理由だ」
「行方不明、ということなら確かに『勉強会』グループも存在は認識していないのだろうが、そもそも何故君が行方不明になったのか、そこから……」
 サクライがそう言いかけたところで、ミヤハラがそれを制止する。
「一体、アカシ代表は何を望んでいる? それだけ説明してくれ」
 ミヤハラの言葉はヌマタにとって本質を突いているものだと思えたのだが、いかんせん言葉を発している表情と姿勢にやや問題があった。
 面倒だ、という表情を隠しきれておらず、ソファの背もたれに寄りかかった状態で腕組みをして言われたのでは無理もない。「早く済ませたい」というのが本音だろう。
「ECN社としてこの事実を公表し、『勉強会』の連中の一連の事件に対する捜査手法には問題があると指摘すること。冤罪で身柄を拘束されている組合員の解放と名誉の回復、そして真犯人の確保、だ」
「うむ」
 ミヤハラは腕組みをしたままヌマタの話を聞いている。
「それから、これは個人的な意見だが、『勉強会』グループの捜査からの切り離しと、罪なき者を冤罪で拘束したことによる処罰、ECN社とIMPUの連携も必要だと思う」
「おい! ECN社は、君が言う『一連の事件』の捜査には何も関与していない立場だぞ。それに社としてインデストの治安にも関与していない。それを理解しているのか?」
 最初に反論してきたのはサクライだった。
「そんな不見識な発言があるか! ECN社の設立目的を知らないのか?! 『エクザロームにおける人類の生活・社会環境の整備』は最初に書かれているだろうが!」
「当然、指摘されるまでもなく社の設立目的は理解している」
 ヌマタの怒鳴り声に対して、サクライはやや低い声で答えた。
 ヌマタは更に攻撃の言葉を続ける。
「ならば、何だ? インデストはエクザロームに非ず、とでも言いたいのか? そんな不見識な人物がエクザロームを代表する企業のナンバーツーとは、社として恥とは思わないのか?!」
「あらゆる問題に自ら介入することだけが社会環境の整備ではない。直接関与するだけではなく、各都市の市民が自身の力で都市を運営できるようにしていくことも社会環境の整備だ」
「自らの義務を放棄するための体のよい言い訳だな。なるほど、トワさんが見限った会社と、そこに戻ったメンバー、ということか?」
 ヌマタの言葉は辛辣である。
 目上の人間に対してこそ徹底的に辛辣な言葉を浴びせるべきと考えている彼にとっては、これでも手ぬるいと感じているのだが、それを理解する者は必ずしも多くない。
 彼の理解者、という点についてこの場ではそれに最も近いのがエリックであろう。
 そのエリックは無言でヌマタとサクライのやり取りを聞いている。
「もし、わが社がこの件に介入する、ということになれば、もう一方の当事者、すなわち『勉強会』グループの話も聞かなければ片手落ちだ。少なくとも今の情報だけで、アカシ氏に肩入れするというのは不適当だ」
 サクライも負けじとヌマタにやり返した。
 ミヤハラは無言で二人のやり取りを聞いている。
 エリックにはお互いどうすれば納得するか、その答えがある。
 サクライについては、ECN社内でヌマタの持ち込んだ文書と通信機に対する対応を検討し、その結果に従うという形であれば問題がないと思われる。
 サクライがヌマタに反論しているのは、半分は自分が直接関わるのが面倒だからなのだが、もう半分は主に社内の事情によることをエリックは看破していた。
 「タブーなきエンジニア集団」と異なり、ECN社はトップの独断でコトを動かすことが困難な組織体制となっている。
 タスクユニット単位の意思決定であれば、ユニットを管理する役員や上級チームマネージャーの判断で動かすことはできる。
 しかし社全体となると、そうもいかない。
 社全体の意思決定は、社長を含めた役員と上級チームマネージャーからなる会議体で行われるケースが殆どである。
 こうした体制になったのは、エクザロームでECN社を設立 (または再構築)した際に、中心となったのが経営者の独断でコトが進むことを嫌ったメンバーであった、という事情もある。
 特に当時のトップ、カズト・イナは地球でのECN社の創立者ユウダイ・イナの弟というだけの理由でその地位に就いており、能力の点については大いに疑問視されていた。
 そうした経営者を抱く以上、必要以上に経営者が力を持たないよう、組織が整備されていったのだ。
 このことは逆に、経営者に対して能力よりも「実質的な社の意思決定を行う役員や上級チームマネージャーレベルの邪魔をしない」という特性を求める結果にもなっている。
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