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第十五章
701:オオカワの思惑
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「ちょっと割り込むぞ」
オオカワがインデストの状況を説明しているところにトニーが割って入る。
「ハドリのおっさんが組合制圧のために発電技術者を無理矢理兵隊にしちまったことの反動がこれだ。後始末のことを考えてないというのは完全に大失敗だったなぁ。やっちまった、ってやつだ」
そして、どうだと言わんばかりにオオカワに視線を向けた。
視線に気づいたオオカワが恐縮した様子でトニーに頭を下げた。
それに気をよくしたのか、トニーが話を続ける。
「組合を制圧した行動は正しいといえる。理由はわかるか? そうだな……イゾウ、答えてみろ」
トニーの指名にまだ少年の面影を残した若い男性が立ち上がった。
「あ、OP社の規定で徒党を組むことを禁止していたので、それを守らせた、ということでしょうか」
トニーは首を傾げて考えるふりをした。
イゾウと呼ばれた若者が少し不安気な表情を見せると、トニーはしてやったりとでも言わんばかりの表情を見せた。
「一番簡単な回答だな。合っているが、ずるいぞ。いい傾向だがな」
次にトニーはカナドという若い女性所員を指名した。
その際にイゾウと違って新人ではないのだから、相応の答えを期待する、と付け加えて彼女にプレッシャーをかけることを忘れなかった。
「そうですね、従業員に能力の違いを見せつけるという意味もあったと思います」
カナドの答えには何もコメントせずに、トニーはサワムラに答えるよう命じた。
「組合だけではなく、遠く離れたインデストにもいつでも制圧に行くことができるぞ、と島内に知らしめた。これだけで反逆の意思を持つ者に対しての警告となるのだ」
サワムラの答えにトニーはその通りと答えた上で、こう続けた。
「だが、結局のところハドリのおっさんは失敗しちまったんだな、これが。それが『EMいのちの守護者の会』を勢いづけたともいえる。今のOP社に奴らとやり合うだけの力はないだろうな……」
トニーの声に会場が静まりかえった。
「こうなったら、ミヤハラのおっさんをこの問題に介入させるしかない。奴らに対抗できる勢力が他にないからな。それに電力の問題を解決できる能力があるのはECN社だけだ。市民団体に技術者はいないからな。
だが、ECN社が勝ちすぎれば第二のハドリのおっさんになる。それをいかに阻止するか。そこが『リスク管理研究所』の仕事、って奴だな」
トニーの話はまだ続く。
「リスク管理研究所」の立場としては、直接インデストの問題には触れないようにすること。
そして、レポートなどで意見を発表する場合は。全島の電力供給不足問題の解決を図るため、発電技術者の早期復帰を求めることを推奨する方針とすること。
電力供給不足により乱れた治安と経済については、専門家の指導のもと市民と企業が協力して回復する体制を作るよう提言すること。
などを面白おかしく、時には真剣に話していった。
「そろそろ集中力が切れてきたか? この後が気になる奴も多そうだしな……次が最後の話だ」
最後にトニーはECN社がインデストにどれだけ介入するか、自らの見解を述べた。
表向きは一定の結果を得たことになっているが、レイカ・メルツがインデストを離脱したのは、事実上彼女の失敗である。
彼女の性格から失敗をそのままにして引き下がることはない。
そして、ECN社の幹部もレイカの経歴に傷をつけないよう、もう一度チャンスを与えるだろう。
何かをやりたいと手を挙げた者に対しては、基本的に邪魔をしないというのがECN社の社風だからだ。
話の間、オオカワは気が気ではなかった。
「リスク管理研究所」に救いを求めたのは、オオカワの立場がかなり厳しいものであるためだ。
OP社治安改革部隊の元幹部、という以外にオオカワには「EMいのちの守護者の会」の会員、という立場もある。
オオカワ自身は独身であり、家族は両親と姉が一人いるだけだ。
それでも子供相手は嫌いではなく、OP社に転じる前は体育教師の職にあった。
ハドリが有力者の地位を奪い、事実上自らがその地位に就いたことについては、反発もあった。
その一方でハドリの活動の一部については、高く評価していた。
OP社セキュリティ・センターのセンター長であり治安改革部隊という役職も、子供が生活する空間の治安を守る、という点においては誇らしく思っていた。
しかし、治安改革部隊の手がインデストに及ぶと知ったとき、オオカワは動揺した。
この頃既に「EMいのちの守護者の会」の主要な活動拠点はインデストに移されており、インデストへの侵攻が「EMいのちの守護者の会」に与える影響が懸念されたからだ。
ハドリは最後まで明確にしなかったものの、インデスト侵攻は組合や「タブーなきエンジニア集団」を屈服させるだけではなく、「EMいのちの守護者の会」をも屈服させるようにオオカワには思えた。
インデストでの攻防の際、「EMいのちの守護者の会」からオオカワに対して、極秘に使者が送られたことがあった。
OP社の意図について説明を求めてきたのだ。
この使者が、現在「勉強会」グループの幹部的存在であるマキオ・イラ・イオであった。
オオカワがインデストの状況を説明しているところにトニーが割って入る。
「ハドリのおっさんが組合制圧のために発電技術者を無理矢理兵隊にしちまったことの反動がこれだ。後始末のことを考えてないというのは完全に大失敗だったなぁ。やっちまった、ってやつだ」
そして、どうだと言わんばかりにオオカワに視線を向けた。
視線に気づいたオオカワが恐縮した様子でトニーに頭を下げた。
それに気をよくしたのか、トニーが話を続ける。
「組合を制圧した行動は正しいといえる。理由はわかるか? そうだな……イゾウ、答えてみろ」
トニーの指名にまだ少年の面影を残した若い男性が立ち上がった。
「あ、OP社の規定で徒党を組むことを禁止していたので、それを守らせた、ということでしょうか」
トニーは首を傾げて考えるふりをした。
イゾウと呼ばれた若者が少し不安気な表情を見せると、トニーはしてやったりとでも言わんばかりの表情を見せた。
「一番簡単な回答だな。合っているが、ずるいぞ。いい傾向だがな」
次にトニーはカナドという若い女性所員を指名した。
その際にイゾウと違って新人ではないのだから、相応の答えを期待する、と付け加えて彼女にプレッシャーをかけることを忘れなかった。
「そうですね、従業員に能力の違いを見せつけるという意味もあったと思います」
カナドの答えには何もコメントせずに、トニーはサワムラに答えるよう命じた。
「組合だけではなく、遠く離れたインデストにもいつでも制圧に行くことができるぞ、と島内に知らしめた。これだけで反逆の意思を持つ者に対しての警告となるのだ」
サワムラの答えにトニーはその通りと答えた上で、こう続けた。
「だが、結局のところハドリのおっさんは失敗しちまったんだな、これが。それが『EMいのちの守護者の会』を勢いづけたともいえる。今のOP社に奴らとやり合うだけの力はないだろうな……」
トニーの声に会場が静まりかえった。
「こうなったら、ミヤハラのおっさんをこの問題に介入させるしかない。奴らに対抗できる勢力が他にないからな。それに電力の問題を解決できる能力があるのはECN社だけだ。市民団体に技術者はいないからな。
だが、ECN社が勝ちすぎれば第二のハドリのおっさんになる。それをいかに阻止するか。そこが『リスク管理研究所』の仕事、って奴だな」
トニーの話はまだ続く。
「リスク管理研究所」の立場としては、直接インデストの問題には触れないようにすること。
そして、レポートなどで意見を発表する場合は。全島の電力供給不足問題の解決を図るため、発電技術者の早期復帰を求めることを推奨する方針とすること。
電力供給不足により乱れた治安と経済については、専門家の指導のもと市民と企業が協力して回復する体制を作るよう提言すること。
などを面白おかしく、時には真剣に話していった。
「そろそろ集中力が切れてきたか? この後が気になる奴も多そうだしな……次が最後の話だ」
最後にトニーはECN社がインデストにどれだけ介入するか、自らの見解を述べた。
表向きは一定の結果を得たことになっているが、レイカ・メルツがインデストを離脱したのは、事実上彼女の失敗である。
彼女の性格から失敗をそのままにして引き下がることはない。
そして、ECN社の幹部もレイカの経歴に傷をつけないよう、もう一度チャンスを与えるだろう。
何かをやりたいと手を挙げた者に対しては、基本的に邪魔をしないというのがECN社の社風だからだ。
話の間、オオカワは気が気ではなかった。
「リスク管理研究所」に救いを求めたのは、オオカワの立場がかなり厳しいものであるためだ。
OP社治安改革部隊の元幹部、という以外にオオカワには「EMいのちの守護者の会」の会員、という立場もある。
オオカワ自身は独身であり、家族は両親と姉が一人いるだけだ。
それでも子供相手は嫌いではなく、OP社に転じる前は体育教師の職にあった。
ハドリが有力者の地位を奪い、事実上自らがその地位に就いたことについては、反発もあった。
その一方でハドリの活動の一部については、高く評価していた。
OP社セキュリティ・センターのセンター長であり治安改革部隊という役職も、子供が生活する空間の治安を守る、という点においては誇らしく思っていた。
しかし、治安改革部隊の手がインデストに及ぶと知ったとき、オオカワは動揺した。
この頃既に「EMいのちの守護者の会」の主要な活動拠点はインデストに移されており、インデストへの侵攻が「EMいのちの守護者の会」に与える影響が懸念されたからだ。
ハドリは最後まで明確にしなかったものの、インデスト侵攻は組合や「タブーなきエンジニア集団」を屈服させるだけではなく、「EMいのちの守護者の会」をも屈服させるようにオオカワには思えた。
インデストでの攻防の際、「EMいのちの守護者の会」からオオカワに対して、極秘に使者が送られたことがあった。
OP社の意図について説明を求めてきたのだ。
この使者が、現在「勉強会」グループの幹部的存在であるマキオ・イラ・イオであった。
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