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第二章
アーベル、パートナーと旅行する その9
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ボート遊びではしゃぎすぎたのか、翌日は力尽きて砂浜でゲームをしたり、パラソルの下でぼーっとしたりして過ごした。
そして、今日はいよいよ我が家に向けて戻る日。
ちょっと名残惜しい気もするが、カーリン、リーゼ、メラニーの三体にとっては管理している泉や樹木が気になりだすころだ。
海を楽しみたくなったら、機会を見つけてまた遊びに来ればいい。
最初にテントを片付け、荷物をリヤカーに乗せる。
すべての荷物をリヤカーに乗せたところで、受付のヴァルキリーに挨拶に行った。
世話になった礼を言うのとともに、少しの間リヤカーの荷物を預かってもらうためだ。
というのも、帰りは直接我が家に戻るのではない。
旅行なら土産物があったほうがいいと思い、それを入手しに行くのだ。
土産物の件に関しては、計画時点で私が何気なしに言ったことなのだが、これがパートナーたちを悩ませる要因になったのは反省すべきである。
というのも、精霊界では旅行で土産を買うという習慣がないし、「ケルークス」や「海の家」のような例外はあるが商取引そのものが一般的ではない。
そもそも精霊は生き続けるのにあまりモノを必要としないから、モノのやり取りの必要性が低い。
「アーベル様、『光の砂浜』から少し距離がありますがスーラの木が集まっている場所があります」
「スーラ?」
「それはですね……」
ニーナの説明によると、スーラは緑の光のレイヤと緑の闇のレイヤの境界付近に生える木らしい。
実がグラネトエール酒やウケ (スナック菓子のような精霊界の食べ物)の材料になる。
「光の砂浜」は緑の光の七レイヤだから、緑の闇のレイヤは割と近い、ということになる。
といっても片道三、四時間かかるらしいのだが……
「では、出発しましょう。場所は受付で聞いてきたのでバッチリです!」
カーリンが先頭に立って進みだした。背中にはリュックを背負っている。
道がわかるのはカーリンとニーナだけのようなので、彼女たちに先導をお願いする。
それだと不公平になるので、私はニ十分おきに先導組と後ろからついていく組を行ったり来たりすることにした。
今回はリヤカーを引いていないので、私の身体はフルに空いている。
そのためかパートナーたちが絡みついてくるが、これは役得だと理解している。
ニーナも絡みつきに参加しているのは良い傾向だ。
「スーラの実は何に使うつもりなの?」
「わたくしはグラネトエールに使ってみようと思っておりますが……メラニー、興味があるのなら他のことに使っても構いません」
「うーん、私は料理とかお酒を造れないからねー」
メラニーは樹木の精霊ドライアドであるが、ドライアドはもの造りをしないタイプが多いのだそうだ。
しかし、これは彼女が何もしていないことを意味しない。
彼女は他のパートナーたちをよく見て気遣っているし、家の周りの樹木が健康なのも彼女が適切に面倒を見ているからだ。
ただ、もの造りの役割は担っていない、というだけの話だ。
「ニーナ、スーラの実でウケを焼いてみようと思うのだが……」
家でもウケは時々料理するが、家ではウケの実を使うことが多い。
スーラは今まで食べたことがないので、チャレンジしてみたい気はする。
「アーベル様、承知しました。アーベル様のお手を煩わすのは少し気にはなるのですが……」
「こちらがやりたくてやるのだから気遣いは不要だ、ニーナ」
「はい……」
二時間ほど話をしながら進んでいると、徐々に周囲が暗くなってきた。
背の高い樹木の数が増えてきたからで、木の枝や葉が光を遮っているのだ。
「闇のレイヤに入ったと思います」
ニーナがやや緊張した面持ちで告げた。
鬱蒼とした森ではあるが、危険があるとは私には思えなかった。
「ニーナ、何か問題でもあるのか?」
「いえ、そのようなことは。スーラの木を管理している精霊たちとの交渉が上手くいけばいいと思っているだけでして……」
スーラの実を分けてもらうためには、木を管理している精霊たちの許可が必要だ。
一応こちらも対価となるものを持ってきているが、初めて会う相手だから交渉が上手くいくかは予断を許さない。
「管理しているのはメラニーと同族のドライアドですから、話は通じると思いますよ、ニーナ」
カーリンは楽観的に構えているが、ニーナの心配も理解できないではない。
対価として、こちらはカーリンお手製のネクタル酒を一樽持ってきている。悪い取引ではないはずだ。
「私が話をしてみるから大丈夫よ。変なことをしなければドライアドは決して狭量な精霊ではないの」
同族のメラニーが言うのであれば、恐らく間違いはないと思う。
森の中を進んでいくと、白っぽい花をつけている木が目につくようになってきた。
よく見ると巨大な枝豆のような鞘がぶら下がっている。
鞘には二つのふくらみがあり、この中に実が入っているのだろう。
「アーベル様、これがスーラの木です」
ニーナが教えてくれた。
実の大きさはメロンか小玉のスイカくらいはありそうだ。
「アーベルさん、見えてきました」
カーリンが指差した先には、木でできた小さな小屋が十件ばかり集まっている広場があった。
これがスーラの木を管理しているドライアドの集落なのだろうか?
「失礼します。『光の砂浜』に旅行で来た者なのですが、お願いしたいことがあります」
カーリンの声が静かな森に響いた。
「……」
しばらくして、建物からカチャリと扉が開く音がして、黄緑色の髪の女性が姿を現した。
雰囲気がメラニーと似ているのは、同じドライアドだからであろう。
「旅の方? どういった御用かしら?」
「こちらでは上質なスーラの実が採れると聞きました。私たちにも少し分けていただけないでしょうか? こちらのネクタル酒と交換をお願いしたいのですが」
カーリンがリュックからネクタル酒の樽を取り出した。
「失礼するわね……いいわ、ちょっと待っていて」
どうやら交渉は成立したようだ。
ドライアドは近くの木にするすると登っていき、少ししてから大きな鞘をどっさり抱えて下りてきた。
「入りきるだけ持っていっちゃって。これだけのネクタルが手に入るのなら大歓迎よ」
ドライアドはカーリンがスーラの鞘をリュックにすべて詰め込んだのを確認してから、機嫌良さそうに樽を抱えて小屋へと戻っていった。
リュックの中には十鞘ばかりのスーラの実が入っている。
私たちは小屋の方に向けて大声で礼を言ってから、荷物を預けてある「光の砂浜」の方へと戻っていった。
目的となるスーラの実は手に入れたが、家に帰るまでが旅行だ。
まだまだ気を抜くわけにはいかない。
私がリュックを背負おうかと言ったら、カーリンにやんわりと断られてしまった。
その代わりに彼女自身が私の背中に抱き着いてきたので、これはよしとする。
帰りはメラニーが先導役で、左右の腕はリーゼとニーナが引くことになった。
ちょっと珍しい体勢ではあるが、たまにはいいだろう。
「ふひひ……こういうのもいいです……ニーナもどうぞ」
「リーゼ、表情があくどいです……」
左腕を引いているリーゼが何かを企んでいるような表情を浮かべている。
ニーナは若干引き気味だ。
リーゼは実際に悪事を起こそうとしているのではなく、恐らく本かゲームで見たキャラクターの表情を真似ているのだと思う。
寝室以外では表情が乏しく見えがちな彼女であるが、このような表情もできるのだ。
それだけでも旅行に連れてきた甲斐がある。
「砂浜に戻ったら、場所は交代してもらうよ。それまではこのままでいいだろう」
「アーベル様がそう仰られるのなら」
ニーナもそれ以上リーゼにツッコむのは諦めたらしい。
軽く手を引いてやると抵抗することなくニーナが近づいてきた。
初日の夜以降、ニーナは少しだが遠慮することが減ったように思う。
彼女は私と契約してから日が浅いから、時間をかけてでも理解することが重要なのだろう。
「アーベル様? どうかなされましたか?」
「ニーナ、アーベルさんに甘えておいた方がいいよ」
背中にしがみついているカーリンがニーナにそっと耳打ちした。
「今日はリーゼとニーナの日、でいいんじゃないかな」
私の言葉にニーナはこくん、とうなずいてそっと身体を寄せてきた。これでいい。
行きよりは少し短い時間で「光の砂浜」に戻り、管理人のヴァルキリーに礼を言って預かってもらっていたリヤカーを回収した。
ここからはリヤカーを引きながら家に戻る。
ニ〇分ごとに先導役を交代しながら懐かしい我が家を目指す。
「アーベル、私、家に着いたらお風呂入って呑みたい気分なのよ」
先導の順番が終わってメラニーが左腕に抱き着きに来た。
「そうですね、私もお酒とお風呂が欲しい気分です」
右手を引いているカーリンがメラニーの話に乗ってきた。
確かに風呂は理解できる。旅行中、砂浜で水浴びはしていたが、風呂はなかった。
酒も……わからないでもない。こちらは毎日呑んでいたとはいえ、今日は呑んで話をしたい気分だ。
「アーベル様。家にグラネトエール酒の樽が二つ残っていますので開けることにします。お風呂の準備は……」
メラニーとカーリンのやり取りを聞きつけた先導役のニーナが反応した。
「ニーナは火の魔術はあまり得意じゃないでしょう? お風呂の準備は言い出しっぺの私がやるわよ」
「……メラニー、お願いします」
過去のニーナなら一度はメラニーの申し出を断ったと思う。
それを一度で受け入れたのは良い傾向だ。
「ニーナ、グラネトエールは冷たくしてほしいです」
今度は背中に抱き着いているリーゼだ。
我が家ではグラネトエールを室温よりちょっと低いくらいの温度で出すのが普通だ。
リーゼはそれよりも冷たい温度のものを所望している。
「確かにちょっと冷たいのが欲しい気分だな」
私もリーゼの案に乗ることにした。
風呂上りなら冷たい飲み物が欲しいところだ。単純に気分の問題だが。
「承知しました。やらせて頂きます」
そうと決まれば急いで帰るに限る。
夕方に家に戻った私たちは、夜遅くまで風呂と酒、そして旅行の余韻を楽しんだ。
全員で大きい方の寝室に入ったときには、既に次の日の明け方になっていた。
家では見ることができないパートナーたちの一面を見るという貴重な経験ができたと思う。また行こう。
そして、今日はいよいよ我が家に向けて戻る日。
ちょっと名残惜しい気もするが、カーリン、リーゼ、メラニーの三体にとっては管理している泉や樹木が気になりだすころだ。
海を楽しみたくなったら、機会を見つけてまた遊びに来ればいい。
最初にテントを片付け、荷物をリヤカーに乗せる。
すべての荷物をリヤカーに乗せたところで、受付のヴァルキリーに挨拶に行った。
世話になった礼を言うのとともに、少しの間リヤカーの荷物を預かってもらうためだ。
というのも、帰りは直接我が家に戻るのではない。
旅行なら土産物があったほうがいいと思い、それを入手しに行くのだ。
土産物の件に関しては、計画時点で私が何気なしに言ったことなのだが、これがパートナーたちを悩ませる要因になったのは反省すべきである。
というのも、精霊界では旅行で土産を買うという習慣がないし、「ケルークス」や「海の家」のような例外はあるが商取引そのものが一般的ではない。
そもそも精霊は生き続けるのにあまりモノを必要としないから、モノのやり取りの必要性が低い。
「アーベル様、『光の砂浜』から少し距離がありますがスーラの木が集まっている場所があります」
「スーラ?」
「それはですね……」
ニーナの説明によると、スーラは緑の光のレイヤと緑の闇のレイヤの境界付近に生える木らしい。
実がグラネトエール酒やウケ (スナック菓子のような精霊界の食べ物)の材料になる。
「光の砂浜」は緑の光の七レイヤだから、緑の闇のレイヤは割と近い、ということになる。
といっても片道三、四時間かかるらしいのだが……
「では、出発しましょう。場所は受付で聞いてきたのでバッチリです!」
カーリンが先頭に立って進みだした。背中にはリュックを背負っている。
道がわかるのはカーリンとニーナだけのようなので、彼女たちに先導をお願いする。
それだと不公平になるので、私はニ十分おきに先導組と後ろからついていく組を行ったり来たりすることにした。
今回はリヤカーを引いていないので、私の身体はフルに空いている。
そのためかパートナーたちが絡みついてくるが、これは役得だと理解している。
ニーナも絡みつきに参加しているのは良い傾向だ。
「スーラの実は何に使うつもりなの?」
「わたくしはグラネトエールに使ってみようと思っておりますが……メラニー、興味があるのなら他のことに使っても構いません」
「うーん、私は料理とかお酒を造れないからねー」
メラニーは樹木の精霊ドライアドであるが、ドライアドはもの造りをしないタイプが多いのだそうだ。
しかし、これは彼女が何もしていないことを意味しない。
彼女は他のパートナーたちをよく見て気遣っているし、家の周りの樹木が健康なのも彼女が適切に面倒を見ているからだ。
ただ、もの造りの役割は担っていない、というだけの話だ。
「ニーナ、スーラの実でウケを焼いてみようと思うのだが……」
家でもウケは時々料理するが、家ではウケの実を使うことが多い。
スーラは今まで食べたことがないので、チャレンジしてみたい気はする。
「アーベル様、承知しました。アーベル様のお手を煩わすのは少し気にはなるのですが……」
「こちらがやりたくてやるのだから気遣いは不要だ、ニーナ」
「はい……」
二時間ほど話をしながら進んでいると、徐々に周囲が暗くなってきた。
背の高い樹木の数が増えてきたからで、木の枝や葉が光を遮っているのだ。
「闇のレイヤに入ったと思います」
ニーナがやや緊張した面持ちで告げた。
鬱蒼とした森ではあるが、危険があるとは私には思えなかった。
「ニーナ、何か問題でもあるのか?」
「いえ、そのようなことは。スーラの木を管理している精霊たちとの交渉が上手くいけばいいと思っているだけでして……」
スーラの実を分けてもらうためには、木を管理している精霊たちの許可が必要だ。
一応こちらも対価となるものを持ってきているが、初めて会う相手だから交渉が上手くいくかは予断を許さない。
「管理しているのはメラニーと同族のドライアドですから、話は通じると思いますよ、ニーナ」
カーリンは楽観的に構えているが、ニーナの心配も理解できないではない。
対価として、こちらはカーリンお手製のネクタル酒を一樽持ってきている。悪い取引ではないはずだ。
「私が話をしてみるから大丈夫よ。変なことをしなければドライアドは決して狭量な精霊ではないの」
同族のメラニーが言うのであれば、恐らく間違いはないと思う。
森の中を進んでいくと、白っぽい花をつけている木が目につくようになってきた。
よく見ると巨大な枝豆のような鞘がぶら下がっている。
鞘には二つのふくらみがあり、この中に実が入っているのだろう。
「アーベル様、これがスーラの木です」
ニーナが教えてくれた。
実の大きさはメロンか小玉のスイカくらいはありそうだ。
「アーベルさん、見えてきました」
カーリンが指差した先には、木でできた小さな小屋が十件ばかり集まっている広場があった。
これがスーラの木を管理しているドライアドの集落なのだろうか?
「失礼します。『光の砂浜』に旅行で来た者なのですが、お願いしたいことがあります」
カーリンの声が静かな森に響いた。
「……」
しばらくして、建物からカチャリと扉が開く音がして、黄緑色の髪の女性が姿を現した。
雰囲気がメラニーと似ているのは、同じドライアドだからであろう。
「旅の方? どういった御用かしら?」
「こちらでは上質なスーラの実が採れると聞きました。私たちにも少し分けていただけないでしょうか? こちらのネクタル酒と交換をお願いしたいのですが」
カーリンがリュックからネクタル酒の樽を取り出した。
「失礼するわね……いいわ、ちょっと待っていて」
どうやら交渉は成立したようだ。
ドライアドは近くの木にするすると登っていき、少ししてから大きな鞘をどっさり抱えて下りてきた。
「入りきるだけ持っていっちゃって。これだけのネクタルが手に入るのなら大歓迎よ」
ドライアドはカーリンがスーラの鞘をリュックにすべて詰め込んだのを確認してから、機嫌良さそうに樽を抱えて小屋へと戻っていった。
リュックの中には十鞘ばかりのスーラの実が入っている。
私たちは小屋の方に向けて大声で礼を言ってから、荷物を預けてある「光の砂浜」の方へと戻っていった。
目的となるスーラの実は手に入れたが、家に帰るまでが旅行だ。
まだまだ気を抜くわけにはいかない。
私がリュックを背負おうかと言ったら、カーリンにやんわりと断られてしまった。
その代わりに彼女自身が私の背中に抱き着いてきたので、これはよしとする。
帰りはメラニーが先導役で、左右の腕はリーゼとニーナが引くことになった。
ちょっと珍しい体勢ではあるが、たまにはいいだろう。
「ふひひ……こういうのもいいです……ニーナもどうぞ」
「リーゼ、表情があくどいです……」
左腕を引いているリーゼが何かを企んでいるような表情を浮かべている。
ニーナは若干引き気味だ。
リーゼは実際に悪事を起こそうとしているのではなく、恐らく本かゲームで見たキャラクターの表情を真似ているのだと思う。
寝室以外では表情が乏しく見えがちな彼女であるが、このような表情もできるのだ。
それだけでも旅行に連れてきた甲斐がある。
「砂浜に戻ったら、場所は交代してもらうよ。それまではこのままでいいだろう」
「アーベル様がそう仰られるのなら」
ニーナもそれ以上リーゼにツッコむのは諦めたらしい。
軽く手を引いてやると抵抗することなくニーナが近づいてきた。
初日の夜以降、ニーナは少しだが遠慮することが減ったように思う。
彼女は私と契約してから日が浅いから、時間をかけてでも理解することが重要なのだろう。
「アーベル様? どうかなされましたか?」
「ニーナ、アーベルさんに甘えておいた方がいいよ」
背中にしがみついているカーリンがニーナにそっと耳打ちした。
「今日はリーゼとニーナの日、でいいんじゃないかな」
私の言葉にニーナはこくん、とうなずいてそっと身体を寄せてきた。これでいい。
行きよりは少し短い時間で「光の砂浜」に戻り、管理人のヴァルキリーに礼を言って預かってもらっていたリヤカーを回収した。
ここからはリヤカーを引きながら家に戻る。
ニ〇分ごとに先導役を交代しながら懐かしい我が家を目指す。
「アーベル、私、家に着いたらお風呂入って呑みたい気分なのよ」
先導の順番が終わってメラニーが左腕に抱き着きに来た。
「そうですね、私もお酒とお風呂が欲しい気分です」
右手を引いているカーリンがメラニーの話に乗ってきた。
確かに風呂は理解できる。旅行中、砂浜で水浴びはしていたが、風呂はなかった。
酒も……わからないでもない。こちらは毎日呑んでいたとはいえ、今日は呑んで話をしたい気分だ。
「アーベル様。家にグラネトエール酒の樽が二つ残っていますので開けることにします。お風呂の準備は……」
メラニーとカーリンのやり取りを聞きつけた先導役のニーナが反応した。
「ニーナは火の魔術はあまり得意じゃないでしょう? お風呂の準備は言い出しっぺの私がやるわよ」
「……メラニー、お願いします」
過去のニーナなら一度はメラニーの申し出を断ったと思う。
それを一度で受け入れたのは良い傾向だ。
「ニーナ、グラネトエールは冷たくしてほしいです」
今度は背中に抱き着いているリーゼだ。
我が家ではグラネトエールを室温よりちょっと低いくらいの温度で出すのが普通だ。
リーゼはそれよりも冷たい温度のものを所望している。
「確かにちょっと冷たいのが欲しい気分だな」
私もリーゼの案に乗ることにした。
風呂上りなら冷たい飲み物が欲しいところだ。単純に気分の問題だが。
「承知しました。やらせて頂きます」
そうと決まれば急いで帰るに限る。
夕方に家に戻った私たちは、夜遅くまで風呂と酒、そして旅行の余韻を楽しんだ。
全員で大きい方の寝室に入ったときには、既に次の日の明け方になっていた。
家では見ることができないパートナーたちの一面を見るという貴重な経験ができたと思う。また行こう。
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