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第三章
精霊界のガーデンニング
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「うーん、私は樹木専門なのよね。草花はメリアスの方が詳しいんじゃないかな? カーリンやリーゼならオリヴィアを知っていると思うけど……」
ある日、私はパートナーの一体、ドライアドのメラニーとリビングで話をしていた。
実は先日、とある相談客から「精霊界でガーデニングをするとしたらどのようなことができるか?」という質問を受けた。
「ケルークス」に出勤している相談員全員にガーデニング事情を尋ねてみたのだが、うちの相談所の相談員にガーデニングに詳しい者はいなかった。
更に手を広げて、近くにいる魂霊にも尋ねてみたのだが、結果は同じであった。
そこで、植物を司る精霊たちに聞いてみることを思いついた。
幸い私のパートナーには樹木を司るメラニーがいるから、彼女に話を聞くのがてっとり早いと思ったのだ。
「ガーデニングって樹木も対象になると思うから、メラニーが管理している木もあり得ると思う」
「そうね……私が見ているのは家の近くにあるシイ、マナの木、それと『ケルークス』の前にあるウバメガシとかだけど、存在界のやり方で木が喜ぶとはちょっと考えにくいのよ……」
メラニーが首を傾げたのは、存在界のガーデニングのやり方が精霊界における植物の在り方に反するからのようだ。
存在界のガーデニングといえば、庭などに人間が好きな植物を植えて、これを楽しむことと考えられる。
一方で、精霊界では植物は自らが思い思いの場に生える。そのため他者の意思で自らが生きる場所を決められることを植物自身が受け入れないだろうということらしい。
植物の意思で引っ越したり、逆に彼らを司る精霊の移動に同行して引っ越すケースはあるらしいのだが。ちなみに、家の近所の木は後者のケースに該当する。すなわち、メラニーの移動に同行して現在の場所に生えているのだ。
また、存在界と異なり、精霊界では植物も永遠の命を持つ。
稀に枯れることもあるらしいのだが、それは種となって自らの居場所を変える場合に限られるそうだ。
種となって新たに生える地を見つけて根を下ろしても、過去の記憶は残っている。
「私も樹木の精霊だから、草や木を愛でるということは理解できるけど……ごめん、あまり参考にならないよね」
「いや、助かる。樹木とコミュニケーションを取るのが精霊界のガーデニングのやり方のようにも思えてきた。だけど、私は草木とは話ができないからな……」
「アーベルはウチのシイやマナの木からはいい印象を持たれているけどね……」
それは知らなかった。
「まあ、メラニーのような植物を司る精霊を通じてコミュニケーションを取る、というのは一つのやり方かもしれない。あとは……」
「リーゼから聞いたことあるけど、存在界では食べるために種や実を植物からもらうのが一般的なのでしょう? こっちだとマナの木やウケの木、この前実をもらったスーラの木あたりね。ほかにもいくつかあるけど、ちょっと遠いレイヤになるわ」
やはり精霊界は存在界と比べると植物もバリエーションが少ないようだ。
樹木に関して入手できる情報はこのくらいだろう。
次に草花の情報を得るために草花を司る精霊メリアスのオリヴィアに話を聞くことにした。
「カーリン、オリヴィアにガーデニングについての話を聞きたいのだけど、彼女今家にいるかな?」
私は作業場へ移動してオリヴィアと親しいカーリンに声をかけた。
「あ、それならリーゼが『ケルークス』に行くので、その帰りにこちらに連れてきてもらえばいいと思います」
「何かそれオリヴィアに申し訳ないのだが……それに『ケルークス』なら私が行った方がよくないか?」
リーゼが「ケルークス」に行く用事、というのがわからない。
新しい本かゲームでも入荷したのだろうか?
アンブロシア酒の納品なら、もう少し先のはずだ。
「アーベルさん、リーゼはユーリさんに呼ばれたのですよ。何でもリーゼに聞いてみたいことがあるみたいで。それにオリヴィアさんもいっしょだそうです」
「わかった。それならオリヴィアにそれほど手間をかけさせることもないか」
リーゼはこれから出発するとのことで、私はリーゼに声をかけて帰りにオリヴィアを家まで連れてきてもらうよう頼んだ。
「アーベルさま、わかりました。オリヴィアならお茶かグラネトエールの一杯も出せば喜んで来ると思います」
リーゼがそう言うので、私はニーナに頼んでグラネトエールを準備してもらった。
「そうだ、カーリン。こっちでガーデニングをやりたいという相談を受けたのだが、心当たりはないだろうか?」
「ガーデニング、って何でしょうか? 庭をお手入れすること?」
「あ、そこからか……」
カーリンは存在界のことについて疎い部分があるから、ガーデニングの概要をさっと説明した。
メラニーも存在界についての知識はカーリンと大差ないが、彼女には先にこちらで入手したガーデニングの特集が掲載された雑誌を渡していたのだった。
「私は庭いじりはしないですね。お酒造りのためにメラニーから木の実をもらうくらいです……」
職人肌のカーリンは、専門としている酒造り以外のことは疎いようだ。
「あ、そうだ。青菜を司るニンサルとか、果実を司るポモナという精霊もいるので彼女たちから話を聞くのも手かもしれません」
「カーリン、花を司るフローラもおります」
近くを通りかかったニーナが付け足した。
「私はお酒造りに使わない植物はあまり知らないので……ガーデニングは花を愛でることもあるのですね」
カーリンは感心した様子でニーナの言葉にうなずいていた。
やはりカーリンは呑むこと、食べることに関係していることに知識が集中している。
これは彼女の良さであり、私も好ましく思っている。
リーゼの帰りを待つ間、私はカーリンのアンブロシア酒造りを手伝った。
今回のロットは中盤戦から後半戦に入ったところで、私はカーリンの魔術に乱れがないかをチェックする。
カーリンにとって精神的に疲れる仕事なので、休憩やご褒美を入れながらの作業となる。
「アーベルさま。オリヴィアを連れてきました」
三度目の休憩に入ったところで、入口からリーゼの声が聞こえてきた。
アンブロシア酒造りをいったん中断して、私はオリヴィアをリビングに招き入れた。
パートナーたちもぞろそろとリビングに集まってきた。
「どうぞ」
ニーナが手際よくグラネトエールの入ったコップを人数分テーブルに置いた。
黄緑色のセミロングの髪を丁寧に編み込んだ女性がさっとコップに手を伸ばした。
彼女がオリヴィアで、草木の精霊メリアスである。
「くわーっ! 労働の後のエールはいいよね。で、アーベルが私に用なんだって? 何?」
オリヴィアがさり気なくニーナにグラネトエールのお代わりを求めてコップを差し出した。
何か反応がビール好きの中年みたいだが、外見は若い女性だし、まあいいか。
ニーナが苦笑しながら私の方を見たので、「構わない」とうなずいておいた。
「そうなんだ。相談客に精霊界で草木の世話をしたり、その実や種を収穫するようなことをしたいって言われたのだけど、魂霊がそういうのを楽しむ方法はないだろうか?」
「うーん、魂霊は植物と会話ができないよね。訓練すればできるのかな?」
オリヴィアが首を傾げた。
訓練で魂霊が植物と会話ができるようになるかは私にはわからない。
「それと……種や実って何に使うの?」
「存在界だと食べたり、酒を造ったりするのに使う。花だと愛でる、というのもあると思うけど……」
「花を愛でる、というのなら私たちメリアスの得意分野よ。それなら色々と紹介できると思うな。クリーナー草の花だって綺麗なんだから」
オリヴィアが誇らしい顔をしている。
実は私はクリーナー草の花を見たことがない。そもそもクリーナー草に花が咲くことを知らなかったのだから。
そのことをオリビアに話したら呆れた顔をされたが。
「精霊界の草木は大抵綺麗な花が咲くよ。種とか実が目的ならポモナの専門分野なのだけど、このあたりにはいない精霊だからねー。黄緑とか黄色とか橙色のレイヤにいるから、そっちに住んでいる精霊に聞いてみたらいいと思うよ? アイリスなら知っているだろうし」
ポモナはカーリンからも名前が出た精霊だ。やはり種とか実が目的なら、ポモナに相談してみる必要がありそうだ。
それがわかっただけでも収穫と言えよう。
植物と会話する、というのが精霊界でのガーデニングの肝になりそうだが、それについてはアイリスに調査を頼んだ方が良さそうだ。
また、必要ならポモナという精霊に話を聞いてみてもいい、これもアイリスに頼む必要がありそうだが……
「助かった。大体必要なことは聞けたかな。ありがとう」
「えーっ?! もう終わり? もうちょっとコレ、呑みたかったのだけど……」
オリヴィアが名残惜しそうに空になったコップに目をやった。
「何だ、グラネトエールが目的だったのか。別にこの樽が空になるくらいまでだったら構わないよ」
グラネトエールを造ってくれたニーナにはちょっと申し訳ないが、このくらいの礼はしておいていいと私は判断した。
ニーナに視線で詫びると、ニーナは申し訳なさそうに首を横に振った。別に彼女が申し訳なく思うことはない。
「せっかく来てくれたのだし、仕事じゃなくてこれからは話を楽しむとしよう」
私はそう宣言して、軽い宴会を始めた。
「このグラネトエール、美味しいねー。これもカーリンが造ったの?」
「いいえ、これはニーナが造っています」
カーリンの答えを聞いたオリヴィアが意外そうな顔をしてニーナに目をやっている。
「わたくしがお酒を造ったら変、でしょうか?」
「そうじゃなくて! お酒造るのが二人もいるんだー。私、お酒造り苦手だからうらやましーいっ!」
どうやらオリヴィアは呑むほう専門の酒好きらしい。
「『ケルークス』のグラネトエールも好きなのだけど、呑むときにちょっと身構えちゃう味なのよね。家で、『くわーっ!』って言いながら呑める感じじゃないんだよね。ニーナのはまさにそう! 力を抜いて呑めるのがいいんだよねー」
オリヴィアはすっかりご機嫌だ。
精霊は酒には酔わないはずだが、ちょっとテンションが高いような気もする。
「その……わたくしのグラネトエールは気が抜けている、ということでしょうか?」
真剣な顔でニーナがオリヴィアに尋ねた。多分そういうことではないはずなのだが、ニーナは真面目過ぎるところがあるからな……
「違う違う。家で一日の疲れを癒したいときは、肩ひじ張らない味がいいってこと! ニーナのはリラックスさせる力があるってことだよ」
「そ、そうでしたか……」
ニーナが納得できたかはわからないが、これ以上オリヴィアを追及する気もないようだ。
結局、オリヴィアは一人で樽の半分以上を飲み干して満足げな様子で家へと帰っていった。
帰り際に独り言で気になることを言っていたのが引っかかるが……
「こんなのを毎日楽しめるのなら、あの話もアリかな。リーゼにも話は通っているみたいだし……」
リーゼとオリヴィアで何か企んでいるのだろうか?
リーゼがいるなら変なことはしないだろうから、彼女たちを追及するのは野暮ってものだ。ここは追及しないでおくに限る。
ある日、私はパートナーの一体、ドライアドのメラニーとリビングで話をしていた。
実は先日、とある相談客から「精霊界でガーデニングをするとしたらどのようなことができるか?」という質問を受けた。
「ケルークス」に出勤している相談員全員にガーデニング事情を尋ねてみたのだが、うちの相談所の相談員にガーデニングに詳しい者はいなかった。
更に手を広げて、近くにいる魂霊にも尋ねてみたのだが、結果は同じであった。
そこで、植物を司る精霊たちに聞いてみることを思いついた。
幸い私のパートナーには樹木を司るメラニーがいるから、彼女に話を聞くのがてっとり早いと思ったのだ。
「ガーデニングって樹木も対象になると思うから、メラニーが管理している木もあり得ると思う」
「そうね……私が見ているのは家の近くにあるシイ、マナの木、それと『ケルークス』の前にあるウバメガシとかだけど、存在界のやり方で木が喜ぶとはちょっと考えにくいのよ……」
メラニーが首を傾げたのは、存在界のガーデニングのやり方が精霊界における植物の在り方に反するからのようだ。
存在界のガーデニングといえば、庭などに人間が好きな植物を植えて、これを楽しむことと考えられる。
一方で、精霊界では植物は自らが思い思いの場に生える。そのため他者の意思で自らが生きる場所を決められることを植物自身が受け入れないだろうということらしい。
植物の意思で引っ越したり、逆に彼らを司る精霊の移動に同行して引っ越すケースはあるらしいのだが。ちなみに、家の近所の木は後者のケースに該当する。すなわち、メラニーの移動に同行して現在の場所に生えているのだ。
また、存在界と異なり、精霊界では植物も永遠の命を持つ。
稀に枯れることもあるらしいのだが、それは種となって自らの居場所を変える場合に限られるそうだ。
種となって新たに生える地を見つけて根を下ろしても、過去の記憶は残っている。
「私も樹木の精霊だから、草や木を愛でるということは理解できるけど……ごめん、あまり参考にならないよね」
「いや、助かる。樹木とコミュニケーションを取るのが精霊界のガーデニングのやり方のようにも思えてきた。だけど、私は草木とは話ができないからな……」
「アーベルはウチのシイやマナの木からはいい印象を持たれているけどね……」
それは知らなかった。
「まあ、メラニーのような植物を司る精霊を通じてコミュニケーションを取る、というのは一つのやり方かもしれない。あとは……」
「リーゼから聞いたことあるけど、存在界では食べるために種や実を植物からもらうのが一般的なのでしょう? こっちだとマナの木やウケの木、この前実をもらったスーラの木あたりね。ほかにもいくつかあるけど、ちょっと遠いレイヤになるわ」
やはり精霊界は存在界と比べると植物もバリエーションが少ないようだ。
樹木に関して入手できる情報はこのくらいだろう。
次に草花の情報を得るために草花を司る精霊メリアスのオリヴィアに話を聞くことにした。
「カーリン、オリヴィアにガーデニングについての話を聞きたいのだけど、彼女今家にいるかな?」
私は作業場へ移動してオリヴィアと親しいカーリンに声をかけた。
「あ、それならリーゼが『ケルークス』に行くので、その帰りにこちらに連れてきてもらえばいいと思います」
「何かそれオリヴィアに申し訳ないのだが……それに『ケルークス』なら私が行った方がよくないか?」
リーゼが「ケルークス」に行く用事、というのがわからない。
新しい本かゲームでも入荷したのだろうか?
アンブロシア酒の納品なら、もう少し先のはずだ。
「アーベルさん、リーゼはユーリさんに呼ばれたのですよ。何でもリーゼに聞いてみたいことがあるみたいで。それにオリヴィアさんもいっしょだそうです」
「わかった。それならオリヴィアにそれほど手間をかけさせることもないか」
リーゼはこれから出発するとのことで、私はリーゼに声をかけて帰りにオリヴィアを家まで連れてきてもらうよう頼んだ。
「アーベルさま、わかりました。オリヴィアならお茶かグラネトエールの一杯も出せば喜んで来ると思います」
リーゼがそう言うので、私はニーナに頼んでグラネトエールを準備してもらった。
「そうだ、カーリン。こっちでガーデニングをやりたいという相談を受けたのだが、心当たりはないだろうか?」
「ガーデニング、って何でしょうか? 庭をお手入れすること?」
「あ、そこからか……」
カーリンは存在界のことについて疎い部分があるから、ガーデニングの概要をさっと説明した。
メラニーも存在界についての知識はカーリンと大差ないが、彼女には先にこちらで入手したガーデニングの特集が掲載された雑誌を渡していたのだった。
「私は庭いじりはしないですね。お酒造りのためにメラニーから木の実をもらうくらいです……」
職人肌のカーリンは、専門としている酒造り以外のことは疎いようだ。
「あ、そうだ。青菜を司るニンサルとか、果実を司るポモナという精霊もいるので彼女たちから話を聞くのも手かもしれません」
「カーリン、花を司るフローラもおります」
近くを通りかかったニーナが付け足した。
「私はお酒造りに使わない植物はあまり知らないので……ガーデニングは花を愛でることもあるのですね」
カーリンは感心した様子でニーナの言葉にうなずいていた。
やはりカーリンは呑むこと、食べることに関係していることに知識が集中している。
これは彼女の良さであり、私も好ましく思っている。
リーゼの帰りを待つ間、私はカーリンのアンブロシア酒造りを手伝った。
今回のロットは中盤戦から後半戦に入ったところで、私はカーリンの魔術に乱れがないかをチェックする。
カーリンにとって精神的に疲れる仕事なので、休憩やご褒美を入れながらの作業となる。
「アーベルさま。オリヴィアを連れてきました」
三度目の休憩に入ったところで、入口からリーゼの声が聞こえてきた。
アンブロシア酒造りをいったん中断して、私はオリヴィアをリビングに招き入れた。
パートナーたちもぞろそろとリビングに集まってきた。
「どうぞ」
ニーナが手際よくグラネトエールの入ったコップを人数分テーブルに置いた。
黄緑色のセミロングの髪を丁寧に編み込んだ女性がさっとコップに手を伸ばした。
彼女がオリヴィアで、草木の精霊メリアスである。
「くわーっ! 労働の後のエールはいいよね。で、アーベルが私に用なんだって? 何?」
オリヴィアがさり気なくニーナにグラネトエールのお代わりを求めてコップを差し出した。
何か反応がビール好きの中年みたいだが、外見は若い女性だし、まあいいか。
ニーナが苦笑しながら私の方を見たので、「構わない」とうなずいておいた。
「そうなんだ。相談客に精霊界で草木の世話をしたり、その実や種を収穫するようなことをしたいって言われたのだけど、魂霊がそういうのを楽しむ方法はないだろうか?」
「うーん、魂霊は植物と会話ができないよね。訓練すればできるのかな?」
オリヴィアが首を傾げた。
訓練で魂霊が植物と会話ができるようになるかは私にはわからない。
「それと……種や実って何に使うの?」
「存在界だと食べたり、酒を造ったりするのに使う。花だと愛でる、というのもあると思うけど……」
「花を愛でる、というのなら私たちメリアスの得意分野よ。それなら色々と紹介できると思うな。クリーナー草の花だって綺麗なんだから」
オリヴィアが誇らしい顔をしている。
実は私はクリーナー草の花を見たことがない。そもそもクリーナー草に花が咲くことを知らなかったのだから。
そのことをオリビアに話したら呆れた顔をされたが。
「精霊界の草木は大抵綺麗な花が咲くよ。種とか実が目的ならポモナの専門分野なのだけど、このあたりにはいない精霊だからねー。黄緑とか黄色とか橙色のレイヤにいるから、そっちに住んでいる精霊に聞いてみたらいいと思うよ? アイリスなら知っているだろうし」
ポモナはカーリンからも名前が出た精霊だ。やはり種とか実が目的なら、ポモナに相談してみる必要がありそうだ。
それがわかっただけでも収穫と言えよう。
植物と会話する、というのが精霊界でのガーデニングの肝になりそうだが、それについてはアイリスに調査を頼んだ方が良さそうだ。
また、必要ならポモナという精霊に話を聞いてみてもいい、これもアイリスに頼む必要がありそうだが……
「助かった。大体必要なことは聞けたかな。ありがとう」
「えーっ?! もう終わり? もうちょっとコレ、呑みたかったのだけど……」
オリヴィアが名残惜しそうに空になったコップに目をやった。
「何だ、グラネトエールが目的だったのか。別にこの樽が空になるくらいまでだったら構わないよ」
グラネトエールを造ってくれたニーナにはちょっと申し訳ないが、このくらいの礼はしておいていいと私は判断した。
ニーナに視線で詫びると、ニーナは申し訳なさそうに首を横に振った。別に彼女が申し訳なく思うことはない。
「せっかく来てくれたのだし、仕事じゃなくてこれからは話を楽しむとしよう」
私はそう宣言して、軽い宴会を始めた。
「このグラネトエール、美味しいねー。これもカーリンが造ったの?」
「いいえ、これはニーナが造っています」
カーリンの答えを聞いたオリヴィアが意外そうな顔をしてニーナに目をやっている。
「わたくしがお酒を造ったら変、でしょうか?」
「そうじゃなくて! お酒造るのが二人もいるんだー。私、お酒造り苦手だからうらやましーいっ!」
どうやらオリヴィアは呑むほう専門の酒好きらしい。
「『ケルークス』のグラネトエールも好きなのだけど、呑むときにちょっと身構えちゃう味なのよね。家で、『くわーっ!』って言いながら呑める感じじゃないんだよね。ニーナのはまさにそう! 力を抜いて呑めるのがいいんだよねー」
オリヴィアはすっかりご機嫌だ。
精霊は酒には酔わないはずだが、ちょっとテンションが高いような気もする。
「その……わたくしのグラネトエールは気が抜けている、ということでしょうか?」
真剣な顔でニーナがオリヴィアに尋ねた。多分そういうことではないはずなのだが、ニーナは真面目過ぎるところがあるからな……
「違う違う。家で一日の疲れを癒したいときは、肩ひじ張らない味がいいってこと! ニーナのはリラックスさせる力があるってことだよ」
「そ、そうでしたか……」
ニーナが納得できたかはわからないが、これ以上オリヴィアを追及する気もないようだ。
結局、オリヴィアは一人で樽の半分以上を飲み干して満足げな様子で家へと帰っていった。
帰り際に独り言で気になることを言っていたのが引っかかるが……
「こんなのを毎日楽しめるのなら、あの話もアリかな。リーゼにも話は通っているみたいだし……」
リーゼとオリヴィアで何か企んでいるのだろうか?
リーゼがいるなら変なことはしないだろうから、彼女たちを追及するのは野暮ってものだ。ここは追及しないでおくに限る。
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