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第三章
姉妹の泉の大掃除
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「アーベル様、わたくしが入ります。わざわざアーベル様のお手を煩わせるわけには……」
「そうですよ。いつもは三人でやっていましたから」
私がリビングのソファから立ち上がろうとしたところをニーナとカーリンに止められた。
事の発端はこうだ。
我が家はカーリンとリーゼの姉妹が管理する泉に面した場所にある。
そして、泉の周りには何本もの樹木が生い茂っている。
これらの木々は存在界でいう「常緑樹」に近いもので、滅多に葉を落とすことはない。
何十年かに一度、これらの木々は一斉に葉を落とす。人間で言うと髪や爪を切るような感覚らしい。
その日が来たと、木々を管理するメラニーが伝えてきた。
葉は泉に落ち、流れ出している小川の方へ向かって流れていく。
ただ、葉の量が多すぎて小川をせき止めてしまうので、これらを取り除く必要があるのだ。
取り除いた葉っぱは魔術で加工して服などの材料にする。
「前回、私は相談所の仕事で参加できなかったからね。どんな作業だか興味もある。今日は相談所に行く予定もないしね」
「だったらいいんじゃない? 私とアーベルで葉っぱを家の前まで運ぶから」
メラニーが助け船を出してくれた。
「確かに、アーベル様とニーナが入ってくれれば作業が早く終わります」
リーゼも私に味方してくれた。
「では、こうしましょう。私とリーゼで川から葉っぱを取り除きます。アーベルさんとメラニーで家の前まで運んでください。ニーナは魔術で布に加工してくれますか?」
カーリンの一言で役割が決まった。
前回、この作業を行ったのは二〇年ほど前なので、ニーナも今回が初めてになる。
カーリン、リーゼ、そしてメラニーは何十億年とこの作業を続けてきたそうだから年季が違う。
「お姉ちゃん、始めようか?」
「リーゼ、行くよ」
カーリンとリーゼが泉に飛びこんで小川の方へと泳いでいく。
ニンフは水属性の精霊だけあって、まさに水を得た魚というような動きだ。
泉の水深は浅く、一番深いところでも私の腰くらいまでだと思ったが、それでも器用に泳いでいく。
目を凝らしてみると、すいすい泳ぎながら底に溜まった葉をかき集めているのがわかる。
「アーベル、行こうよ」
私の左腕にがっちりと抱き着いたまま、メラニーが泉の方に向けて歩き出した。
「メラニー、気を付けてください」
ニーナがメラニーに忠告する。
私は右手に籠を持っているから、人間だったら危ない恰好かもしれない。
バランスを崩して泉に落ちるくらいはあるかも知れないが、そうなったところで事故にもならないから大丈夫だろう。
魂霊の身体に感謝だ。
ザバッ!
「アーベルさん、メラニー、お願いします!」
カーリンが岸に向かって泳いできて、集めた葉を陸側に押し出した。
私とメラニーで葉をまとめて籠に詰め込む。
そして、ニーナのいる場所まで運んで、新しい籠と交換する。
葉の詰まった籠はニーナの魔術で中味を服などの材料に加工する。
「アーベルさま、メラニー。こちらもお願いします」
リーゼが小川と泉の境目あたりに顔を出した。
陸側にはこんもりと葉が積まれている。
まだ小川がちょろちょろとしか流れていないので、落ち葉が取り除ききれていないのだと思う。
周囲の樹木を見回したが、一枚も葉が見当たらない。相当な量の葉を落としたのには間違いない。
メラニーと私とで葉を拾って籠に詰める。
量が多いので一度で運ぶのを諦め、ニーナの待つ場所と葉の山の間を何往復かすることにした。
ニーナの前に籠が次々と置かれていく。
魔術で葉を加工するのが一番時間がかかる作業のようで、籠の数が徐々に増えている。
ザバババッ!
「こっちは終わりました! ニーナ、私もそっちに行きます!」
カーリンが勢いよく泉から飛び出してきた。
泉の方を見ると、積もった葉で緑色になっていた水底が本来の白っぽい石の色になっている。
小川に流れ出す場所の付近ではリーゼが葉を陸に上げていて、こちらはもう少しかかりそうな感じだ。
「アーベルさま、こっちお願いできますか?」
リーゼが水面から顔だけ出した。
小川のあたりの水深はかなり浅いので、腹ばいになっているようだ。
「リーゼ、今行く」
小川の脇にかなりの量の葉が積み上がっていた。
もくもくとリーゼが陸に上げていたのだろう。
私は慌ててメラニーを連れて走った。
籠を持っての往復を十数回繰り返したところで、リーゼも水から上がってきた。
すっきりした顔をしているのは、彼女が水の精霊だからだろうか?
「アーベルさま、籠を運ぶのを手伝いましょうか?」
「いや、あと二、三回だから大丈夫だろう。他の作業を進めてくれないか?」
陸に積まれた葉はほとんど籠に入れられてしまっているし、ニーナ、カーリンの作業ももうすぐ終わりそうだ。
「だったら、お姉ちゃんのところに行ってます」
ザバンッ!
リーゼが泉に飛び込んで家の方に向かって泳ぎ出した。
私などから見れば陸を歩いた方が早いのではないかと思うが、水の精霊にはこちらの方が良いのだろう。
「アーベル、これで最後だね。ニーナとカーリンの魔術が終わったらお茶の時間になるから」
「これで終わりなのか?」
「そう。今回はアーベルとニーナがいるから早く済んだの」
メラニーが籠を抱えてぴょんぴょんと跳ねている。ご機嫌な彼女を見ているとこちらも気分が良くなってくる。
「ニーナ、カーリン。よろしく頼む」
私がメラニーと二人がかりで籠を置くと、ニーナとカーリンが顔を見合わせてうなずいた。
ニーナの額にはうっすらと汗が浮かんでいる。魔力を結構使っているのかもしれない。
「……カーリン、こんなところでしょうか?」
ニーナが最後の籠の中味を布へと変えた。
山のように布が積まれているが、これらは今後我々が着る衣類などに使われる。
「うん、大丈夫。ニーナ、お疲れ様。助かりました!」
カーリンが布を籠に詰め込んで地下の倉庫へと運んでいく。
さすがに彼女一人では一度に運びきれないので、私とメラニーで手伝った。
布を地下の倉庫に運び終えたところで作業は完了。
あとはのんびりおしゃべりでも楽しめばいいだろう。
「片付いたか。今日は私がマナを焼いてみよう。『ケルークス』で買ったお菓子も出すよ」
「あ、アーベル様?! それは私とカーリンで……」
キッチンに向かおうとした私をニーナが止めに入ったが、魔術で消耗している彼女たちの出番ではない。
「ならお茶の準備をお願いできないかな? 久々にマナを焼いてみたくなった」
「……それでしたら、お願いします」
納得してくれたかはわからないがニーナが引き下がってくれたので、私はキッチンでマナを焼く。
うちには魔力で動くオーブンがあるので、これを使って調理できる。魔力を貯めておくタンクがあるので、これに溜まった魔力で動かすのだ。
今日は外がサクッと中がしっとりの仕上げにしたいので、大きめにマナを丸めておく。
オーブンでじっくり焼けば完成だ。出来は悪くない。
作業の後だからお酒もアリだと思うけど、ちょっと時間が早い。
部屋の時計を見ると時刻は午後二時過ぎだ。これならお茶で、状況を見てお酒に移ってもいいだろう。
出来上がったマナを皿にのせてリビングへ向かうと、カーリンとニーナがお茶の準備をしていた。
「アーベル様、こちらは準備できました。マナを焼いてくださってありがとうございます」
ニーナがこちらに気付いて礼儀正しく頭を下げた。そこまではしなくていいと思うのだが。
「アーベルさんとニーナに手伝ってもらったので、すごく早く終わりました。ありがとうございます!」
お茶を飲み始めたところで、カーリンが手を合わせて私とニーナに礼を言った。
「そうですね。前回は夜までかかっちゃいました」
リーゼが正座してお茶をすすった。
「だね。いつも魔術をたくさん使うから、魔力が厳しくなってフラフラになるのよね」
メラニーが私にもたれかかる。今回は魔術を使っていないので余裕がありそうだ。
前回はカーリン、リーゼ、メラニーの三体で泉の葉を掃除していた。
確か私が出勤する前から始めて、帰宅したのとほぼ同時に終わったと記憶している。
「三人でやると魔術が追いつかなくなっちゃうんです。だから夜までかかっちゃいましたし、魔力も厳しくなっちゃって……」
カーリンがマナをかじりながら、こちらに熱い視線を向けている。
「前回は終わった後、三人ともアーベルさまの寝室でひっくり返っていましたね」
リーゼがお茶をふぅと吹いた。熱いのだろうか。
「あー、思い出した。魔力が厳しくなると動けなくなるよねぇ」
メラニーがしみじみとうなずいている。
「あ、ニーナは少し休んだ方がいいです。しばらくはここでお茶を飲みながらお話ししていますし」
「わたくしは平気ですけど」
「ニーナ、今日は魔術をたくさん使ったのだから」
「はあ……」
カーリンが強引にニーナを休ませた。
といっても、ソファに座らせただけなので、お茶は飲めるし会話にも参加できる。
ニーナは一瞬怪訝な表情を浮かべたが、カーリンの言葉を受け入れた。それなりに魔力を使ったという自覚があるのだろうか。
今日はこれ以上することがないので、ひたすらお茶とマナ、そしておしゃべりを楽しんだ。
パートナーたちと話していると時間を忘れてのめり込んでしまう。
マナの皿が空になった頃には、午後八時を回っていた。
「ニーナ、少しは回復しましたか?」
「カーリン、おかげで楽になりました。そろそろお酒にしますか?」
ニーナのいう通り、そろそろお酒に切り替えてもいいかもしれない。
だが、カーリンは首を横に振った。
「アーベルさん、今日は全員で寝室へ行く日なので皆を可愛がってほしいのですけど……」
カーリンが熱い視線を私に向けた。お茶を飲みだしてからずっと視線を感じていたが、そういうことだったか。もう少し早く気付いていれば良かったか。
「そうですね。私もアーベルさまに可愛がっていただきたいです」
「いいわね。前回は三人でひっくり返っちゃって何もできなかったものね」
リーゼが立ち上がり、メラニーが腕まくりした。
「三人とも、アーベル様のご都合も……」
ニーナが割って入ろうとする。
「昨日はニーナの番でしたね」
「ニーナはお楽しみでしたよね……」
「そうよね。ニーナは一人のときへ思いっきりアーベルに甘えているのでしょう?」
カーリン、リーゼ、メラニーがニーナに冷たい視線を向けた。
「……」
ニーナがたじたじとなって後退する。
「すまない。今日は全員の日だから、片付けたら皆でお風呂に入って寝室に行こうか」
「はいっ!」
「アーベルさま、了解です!」
「そう来なくっちゃ」
「はい……」
どうにかこの場は治まったようだ。
急いで片付けたら皆で風呂に行こう。夜はまだまだ長いし、皆には楽しんでもらうことにしよう。
いい仕事をした日なのだから、そのあとにご褒美もないとね。
「そうですよ。いつもは三人でやっていましたから」
私がリビングのソファから立ち上がろうとしたところをニーナとカーリンに止められた。
事の発端はこうだ。
我が家はカーリンとリーゼの姉妹が管理する泉に面した場所にある。
そして、泉の周りには何本もの樹木が生い茂っている。
これらの木々は存在界でいう「常緑樹」に近いもので、滅多に葉を落とすことはない。
何十年かに一度、これらの木々は一斉に葉を落とす。人間で言うと髪や爪を切るような感覚らしい。
その日が来たと、木々を管理するメラニーが伝えてきた。
葉は泉に落ち、流れ出している小川の方へ向かって流れていく。
ただ、葉の量が多すぎて小川をせき止めてしまうので、これらを取り除く必要があるのだ。
取り除いた葉っぱは魔術で加工して服などの材料にする。
「前回、私は相談所の仕事で参加できなかったからね。どんな作業だか興味もある。今日は相談所に行く予定もないしね」
「だったらいいんじゃない? 私とアーベルで葉っぱを家の前まで運ぶから」
メラニーが助け船を出してくれた。
「確かに、アーベル様とニーナが入ってくれれば作業が早く終わります」
リーゼも私に味方してくれた。
「では、こうしましょう。私とリーゼで川から葉っぱを取り除きます。アーベルさんとメラニーで家の前まで運んでください。ニーナは魔術で布に加工してくれますか?」
カーリンの一言で役割が決まった。
前回、この作業を行ったのは二〇年ほど前なので、ニーナも今回が初めてになる。
カーリン、リーゼ、そしてメラニーは何十億年とこの作業を続けてきたそうだから年季が違う。
「お姉ちゃん、始めようか?」
「リーゼ、行くよ」
カーリンとリーゼが泉に飛びこんで小川の方へと泳いでいく。
ニンフは水属性の精霊だけあって、まさに水を得た魚というような動きだ。
泉の水深は浅く、一番深いところでも私の腰くらいまでだと思ったが、それでも器用に泳いでいく。
目を凝らしてみると、すいすい泳ぎながら底に溜まった葉をかき集めているのがわかる。
「アーベル、行こうよ」
私の左腕にがっちりと抱き着いたまま、メラニーが泉の方に向けて歩き出した。
「メラニー、気を付けてください」
ニーナがメラニーに忠告する。
私は右手に籠を持っているから、人間だったら危ない恰好かもしれない。
バランスを崩して泉に落ちるくらいはあるかも知れないが、そうなったところで事故にもならないから大丈夫だろう。
魂霊の身体に感謝だ。
ザバッ!
「アーベルさん、メラニー、お願いします!」
カーリンが岸に向かって泳いできて、集めた葉を陸側に押し出した。
私とメラニーで葉をまとめて籠に詰め込む。
そして、ニーナのいる場所まで運んで、新しい籠と交換する。
葉の詰まった籠はニーナの魔術で中味を服などの材料に加工する。
「アーベルさま、メラニー。こちらもお願いします」
リーゼが小川と泉の境目あたりに顔を出した。
陸側にはこんもりと葉が積まれている。
まだ小川がちょろちょろとしか流れていないので、落ち葉が取り除ききれていないのだと思う。
周囲の樹木を見回したが、一枚も葉が見当たらない。相当な量の葉を落としたのには間違いない。
メラニーと私とで葉を拾って籠に詰める。
量が多いので一度で運ぶのを諦め、ニーナの待つ場所と葉の山の間を何往復かすることにした。
ニーナの前に籠が次々と置かれていく。
魔術で葉を加工するのが一番時間がかかる作業のようで、籠の数が徐々に増えている。
ザバババッ!
「こっちは終わりました! ニーナ、私もそっちに行きます!」
カーリンが勢いよく泉から飛び出してきた。
泉の方を見ると、積もった葉で緑色になっていた水底が本来の白っぽい石の色になっている。
小川に流れ出す場所の付近ではリーゼが葉を陸に上げていて、こちらはもう少しかかりそうな感じだ。
「アーベルさま、こっちお願いできますか?」
リーゼが水面から顔だけ出した。
小川のあたりの水深はかなり浅いので、腹ばいになっているようだ。
「リーゼ、今行く」
小川の脇にかなりの量の葉が積み上がっていた。
もくもくとリーゼが陸に上げていたのだろう。
私は慌ててメラニーを連れて走った。
籠を持っての往復を十数回繰り返したところで、リーゼも水から上がってきた。
すっきりした顔をしているのは、彼女が水の精霊だからだろうか?
「アーベルさま、籠を運ぶのを手伝いましょうか?」
「いや、あと二、三回だから大丈夫だろう。他の作業を進めてくれないか?」
陸に積まれた葉はほとんど籠に入れられてしまっているし、ニーナ、カーリンの作業ももうすぐ終わりそうだ。
「だったら、お姉ちゃんのところに行ってます」
ザバンッ!
リーゼが泉に飛び込んで家の方に向かって泳ぎ出した。
私などから見れば陸を歩いた方が早いのではないかと思うが、水の精霊にはこちらの方が良いのだろう。
「アーベル、これで最後だね。ニーナとカーリンの魔術が終わったらお茶の時間になるから」
「これで終わりなのか?」
「そう。今回はアーベルとニーナがいるから早く済んだの」
メラニーが籠を抱えてぴょんぴょんと跳ねている。ご機嫌な彼女を見ているとこちらも気分が良くなってくる。
「ニーナ、カーリン。よろしく頼む」
私がメラニーと二人がかりで籠を置くと、ニーナとカーリンが顔を見合わせてうなずいた。
ニーナの額にはうっすらと汗が浮かんでいる。魔力を結構使っているのかもしれない。
「……カーリン、こんなところでしょうか?」
ニーナが最後の籠の中味を布へと変えた。
山のように布が積まれているが、これらは今後我々が着る衣類などに使われる。
「うん、大丈夫。ニーナ、お疲れ様。助かりました!」
カーリンが布を籠に詰め込んで地下の倉庫へと運んでいく。
さすがに彼女一人では一度に運びきれないので、私とメラニーで手伝った。
布を地下の倉庫に運び終えたところで作業は完了。
あとはのんびりおしゃべりでも楽しめばいいだろう。
「片付いたか。今日は私がマナを焼いてみよう。『ケルークス』で買ったお菓子も出すよ」
「あ、アーベル様?! それは私とカーリンで……」
キッチンに向かおうとした私をニーナが止めに入ったが、魔術で消耗している彼女たちの出番ではない。
「ならお茶の準備をお願いできないかな? 久々にマナを焼いてみたくなった」
「……それでしたら、お願いします」
納得してくれたかはわからないがニーナが引き下がってくれたので、私はキッチンでマナを焼く。
うちには魔力で動くオーブンがあるので、これを使って調理できる。魔力を貯めておくタンクがあるので、これに溜まった魔力で動かすのだ。
今日は外がサクッと中がしっとりの仕上げにしたいので、大きめにマナを丸めておく。
オーブンでじっくり焼けば完成だ。出来は悪くない。
作業の後だからお酒もアリだと思うけど、ちょっと時間が早い。
部屋の時計を見ると時刻は午後二時過ぎだ。これならお茶で、状況を見てお酒に移ってもいいだろう。
出来上がったマナを皿にのせてリビングへ向かうと、カーリンとニーナがお茶の準備をしていた。
「アーベル様、こちらは準備できました。マナを焼いてくださってありがとうございます」
ニーナがこちらに気付いて礼儀正しく頭を下げた。そこまではしなくていいと思うのだが。
「アーベルさんとニーナに手伝ってもらったので、すごく早く終わりました。ありがとうございます!」
お茶を飲み始めたところで、カーリンが手を合わせて私とニーナに礼を言った。
「そうですね。前回は夜までかかっちゃいました」
リーゼが正座してお茶をすすった。
「だね。いつも魔術をたくさん使うから、魔力が厳しくなってフラフラになるのよね」
メラニーが私にもたれかかる。今回は魔術を使っていないので余裕がありそうだ。
前回はカーリン、リーゼ、メラニーの三体で泉の葉を掃除していた。
確か私が出勤する前から始めて、帰宅したのとほぼ同時に終わったと記憶している。
「三人でやると魔術が追いつかなくなっちゃうんです。だから夜までかかっちゃいましたし、魔力も厳しくなっちゃって……」
カーリンがマナをかじりながら、こちらに熱い視線を向けている。
「前回は終わった後、三人ともアーベルさまの寝室でひっくり返っていましたね」
リーゼがお茶をふぅと吹いた。熱いのだろうか。
「あー、思い出した。魔力が厳しくなると動けなくなるよねぇ」
メラニーがしみじみとうなずいている。
「あ、ニーナは少し休んだ方がいいです。しばらくはここでお茶を飲みながらお話ししていますし」
「わたくしは平気ですけど」
「ニーナ、今日は魔術をたくさん使ったのだから」
「はあ……」
カーリンが強引にニーナを休ませた。
といっても、ソファに座らせただけなので、お茶は飲めるし会話にも参加できる。
ニーナは一瞬怪訝な表情を浮かべたが、カーリンの言葉を受け入れた。それなりに魔力を使ったという自覚があるのだろうか。
今日はこれ以上することがないので、ひたすらお茶とマナ、そしておしゃべりを楽しんだ。
パートナーたちと話していると時間を忘れてのめり込んでしまう。
マナの皿が空になった頃には、午後八時を回っていた。
「ニーナ、少しは回復しましたか?」
「カーリン、おかげで楽になりました。そろそろお酒にしますか?」
ニーナのいう通り、そろそろお酒に切り替えてもいいかもしれない。
だが、カーリンは首を横に振った。
「アーベルさん、今日は全員で寝室へ行く日なので皆を可愛がってほしいのですけど……」
カーリンが熱い視線を私に向けた。お茶を飲みだしてからずっと視線を感じていたが、そういうことだったか。もう少し早く気付いていれば良かったか。
「そうですね。私もアーベルさまに可愛がっていただきたいです」
「いいわね。前回は三人でひっくり返っちゃって何もできなかったものね」
リーゼが立ち上がり、メラニーが腕まくりした。
「三人とも、アーベル様のご都合も……」
ニーナが割って入ろうとする。
「昨日はニーナの番でしたね」
「ニーナはお楽しみでしたよね……」
「そうよね。ニーナは一人のときへ思いっきりアーベルに甘えているのでしょう?」
カーリン、リーゼ、メラニーがニーナに冷たい視線を向けた。
「……」
ニーナがたじたじとなって後退する。
「すまない。今日は全員の日だから、片付けたら皆でお風呂に入って寝室に行こうか」
「はいっ!」
「アーベルさま、了解です!」
「そう来なくっちゃ」
「はい……」
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ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
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