王への道は険しくて

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賛とヒミカ

ご飯

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 賛は、誰かが食べないと料理に手を伸ばさない。毒味をさせているのだろうか。それとも、先に食べることを申し訳なく思っているのだろうか。
「賛さん、このお芋、美味しいですよ」
「良い色ですね」
そういう会話を一つしてから、ようやく箸を伸ばす。もしかして、味が好みじゃないのかな。賛は、口に運ぶと、どれも「美味しい」と言ってくれる。それは、嬉しいしモチベーションになっている。でも、妙な間は是非とも止めていただきたい。不安になる。美味しくないって本心では感じているんじゃなかろうか。
「皿洗いなら、僕がやります。美味しいご飯、食べてばっかりじゃあれなんで」
そして、皿洗いは丁寧で綺麗になる。
「夫婦だったら、家事は二人でやった方が良いですもんね」
賛は、家事をするときに、よく夫婦は二人で分担して担うのが良いと言う。短い時間でも、軽く掃除をしたり、洗濯を取り込んだりしてくれる。きっと、優しくてしっかりした御両親がいるのだろう。偽夫婦に果たしてほそんなものが必要かと思われるが、便利なのでこちらは軽食を用意したりして帳尻を合わせる。

「ヒミカさん、カンさんから聞いたんですけど、このクニでは紅葉が黄色で、銀杏が赤って本当ですか?」
「反対ですねぇ、まったく、カンってばまた嘘を吹き込んじゃって。カンの言うことを全部真面目に受け止める必要ないんですよ」
でも、急に抜けているところがある。真面目すぎが良くないのかな。そんな賛にクスッと笑いが込み上げた。
「良かった。僕はてっきり、この時代では黄色を赤と呼ぶ風習があるのかと」
「それは、ややこしすぎ」
第三者からすれば、私たちの会話は面白くない。それは、分かっているが、賛の不思議なところでそれすらも面白話みたいに聞こえてくるのだ。

「賛さん、」
呼びかけてみると、賛は箸を止めてこちらをチラッと見る。
「今晩は月食だと、シュー様が言っていたのですが聞きましたか?一緒に見ませんか?」
ヒミカはにっこりと笑う。
「タヨも!」
タヨは賛とヒミカが二人になることを絶対に許さない。
「良いですね!望遠鏡か何か持ってきたら良かったな」
タヨからは近づくなオーラがプンプンだが、賛はあんまり気にしていないようにみえる。

これが、私と賛の日常である。何かが急に起こったりするわけでもなく、鬱陶しくもなく、仲良くほどよく生活を共有している。

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