秀才くんの憂鬱

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道を歩け です。

盗賊 です。

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「優、疲れないの?」
「こんな状況で疲れていられない。僕は一刻もはやくクニを助けなければならない」
「立派なご使命は結構だけど、無理は良くないよ」
優は一度足を止めた。ユウが足を止めた拍子に、サワがユウの背中にぶつかった。
長い長い道。幅は細く、端は見えない。邪馬台国の端は人っ子一人いない寂しいところだった。王都なんかとはまったく違っている。
「なんだか、すごく静かなところですね」
イチナは翡翠の上に股がったままぐるりと辺りを見渡す。
「サワ、イチナさんを」
「あぁ。イチナ、馬から降りて。私が守る」
あうんの呼吸だろうか、サワはするりとアイスピックのような細い武器を取り出した。キラリと光るそれは、ちょうど、肘から指先くらいの長さで、二本。先は尖っている。イチナは戸惑いながらも、サワと賛から発せられるただならぬ気配を感じて、馬から降りる。
「ユウ、」
「分かっている」
ユウは、右腰の刀に近い形の刃物をするりと抜いて構えた。刀のみねにユウの顔が反射する。美しい波紋にギラつく美しい銀色。

「あの、えっと…」
イチナはまだ状況が分からないらしくキョロキョロとする。
「私たちは囲まれている。盗賊に」
「そうだ」
不法な働きを生業とするやつはいると覚悟はしていた。なにせ、クニの端となれば多くの護衛を置くことはできない。

「行くぞー!」
低い男の声が聞こえると、姿勢をかがめ息を殺していた男どもが一斉にこちらに襲いかかってくる。
「それ以上、近づくのは止めるのが賢明だと思うが?」
ユウはそう言うが、男は構うもんかと、サワに手を伸ばしてきた。サワは、くるりと半回転して、襲いかかってきた男の後ろに立ち回り、背後から鋭いアイスピックを当てる。
ひんやりとした感覚が、男の背筋を伝う。
「悪いけど、私ら、あんたより強いから」
がくがくと膝が震える男。
「何、女相手にやってんだよ」
ユウは剣を力任せに振り上げて加勢しようとする男の胸元に蹴りをいれた。ドンという思い衝撃に耐えられず、男は後ろに倒れる。
しかし、次から次へとやってくる。
「一体、何人いるんだ」
ユウが眉間にシワを寄せると同時に、サワが答えた。
「8人」
「ありがと」
「人当たり、2秒。そうでしょ、ユウ」
「当たり前」
ユウは相手の懐に入り込み、鎖骨の窪んだ辺りを柄で強くつく。するとたちまち、呼吸が荒れだして、ユウの相手どころではなくなる。目にも止まらぬ早業とはまさにこのこと。
サワは、背後をとって、アイスピックを相手に当てて、身動き出来ないようにしてから、その長い脚で相手のがら空きになった脇腹に蹴りをいれる。
ぴったりと息のあった攻撃に隙はない。丸腰のイチナに指一本触れることすら叶わないうちに、その圧倒的な強さに盗賊は尻尾をまいて逃げる。今にも転びそうなヨタヨタとした足取り。もう、僕らを追いかける元気などないらしい。
「おのれ、化け物め」
誰かが、捨て台詞のように言い放った。
「化け物で結構、もう、これに懲りて悪さするんじゃないよ!」
サワは、そう大声で呼び掛ける。

 サワはアイスピックをしまう。ユウも刀を腰にさす。
「流石だな。どうりで、サワとの真っ向からの喧嘩に僕が勝てた試しが無いわけだ」
ユウはグッと腰を伸ばした。
「何年前の話?…私は、もっと強くならないと、大切なものも、護れなかったのに」
暗くなっていった声。ユウは、小さく息を吐いた。
「今は、僕が側にいるよ。サワが護りたいものは僕も一緒に護るよ」
 そんなことを言ったところで、僕にはそれに相応しい実力も、自信も、欠けている。今は、気休めなのかもしれない。でも、サワに暗い顔をしてほしくない。
「イチナちゃん、怪我してない?」
屈んでいるイチナに手を差し出したサワは、少し誇らしげな顔をした。
「うん、二人ともありがとう」
「先を急ごう。日没までにはクニを出られるはずだから」
ユウは小さな門が微かに見える方向を指差した。太陽は夕日に装いを変えて、昼の空気をさらっていきそうな雰囲気だった。
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