秀才くんの憂鬱

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過去と向き合え です。

君を訪ねて① です。

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 ユウたち一行は、堀で囲まれたクニへと足を踏み入れた。夕方で辺りは暗くなり出していた。そんな中でのシキの提案だった。何でも、この地域ではそこそこ名のあるらしく、八岐大蛇についてここで、話を聞いたことがあるという。

クニの中心部に広がる、野菜や木の実が並ぶ市場を抜けると、旅商人をもてなす宿屋街。古くより、黒曜石や翡翠を仕入れて、製品にして輸出することで繁栄してきたという。それから、豊富な水があることで農耕による食料の安定もしているらしく、不作の年は、周辺の集落なんかにも蓄えを分けているという。

 シキは市場から一番はなれた宿に入る。何でも、昔、ここで泊まったときに次回から使える割引券を手に入れていたらしい。
シキが宿の受付をする。
「今日、部屋空いてますか?」
「何部屋だい?」
シキは3人の方を見る。サワが 2 とサインを送る。
「二部屋」
「あいよ、そっちの通路の突き当たりの右と左の部屋。1日ごとに10袋の米」
1袋の米=1000円くらいで思っていただきたい。
「割引券、これで、1日4袋にして欲しい」
「ダメダメ、二部屋とるんだったら割り引いて8袋」
「5袋、一部屋で2袋半。私たち、ずっと山の中でこの寒い中、寝泊まりをしていて、ここが、ようやくありつけた宿なんです。どうか」
懇願するシキ。
「…ちょっと掛け合ってくるから待って」
受付のおばさんは、暖簾の裏で話している。
「5袋半で手を打たせてちょうだい」
「5袋半ですか…」
「別で1袋かかる二頭の餌代込みよ」
「じゃあ、それで」
シキは5袋と半分の米を受付代に出す。
それと引き換えに、鍵を渡される。

部屋につくと、荷物を置いて、横になる。
「じゃあ、私は女部屋に」
そそくさと出ていこうとするシキの裾を掴む。
「彼女たちも疲れてるんだ、ゆっくり休んで貰うのも大切だろう?」
裾を離す。
「またまた、ユウも本当は行きたいくせに」
シキに付き合っていては、きりがない。そう思ったユウは、着替えと手拭いを荷物から取り出す。
「僕は湯屋に行ってくる」
「のぞき?」
「違う!断じて、違う」


シキも結局、湯屋に来ることになった。
ユウは、のぞきの共犯として疑われないかが不安だ。

 湯屋までは、市場を抜けて、川のほとりまでいく必要がある。片道15分。瑠璃と翡翠を使って行こうと思い、馬舍をのぞくが、瑠璃も翡翠もいなかった。
「サワたちに先を越されたな」
「じゃあ、私たちはぶらぶらと歩いて行きますか」
「そうだな」

 市場だけが、昼間のように明るい。行き交う人々は厚着をして、夜ご飯の品定めをする。お酒が振る舞われる居酒屋にはほろ酔いになったおじさんの笑い声が聞こえる。

 肩がぶつかりよろめいた女性。大きな笠を頭に被り、顔ははっきりと見えない。
「打扰一下」(すみません)
「おい、気を付けろ」
酔っぱらいが、腹をたてたらしく、急に大声を出した。
「对不起」(ごめんなさい)
「んだよ、ちゃんと謝れよ!ほら、ったく気分わりぃ」
ユウは、そのやり取りをほおっておくことが出来ず、女性の方に駆け寄った。
「好的?」(大丈夫ですか?)
「すみません」
ユウは、酔っぱらいに頭を下げた。
「お前の連れか?しっかり、見とけ」
「はい、また、気を付けるように言っておきます」
酔っぱらいが去ったことを確認してから、ユウは頭を下げて、シキの元へ急ぐ。
「请允许我向您致谢」(あの、お礼させてください)
「不用了,我回家之前请小心。 看来这里有很多喝醉酒的人」(大丈夫です、帰るまで、気を付けてくださいね。この辺りは酔っぱらいも多そうですので)

「おーい、ユウ、置いていっちゃうぞ」
「分かった、今、行く」
ユウはもう一度、頭を下げて、シキの元へ駆ける。

「急に向こう行くから、どうしたんかと思ったよ」
「大陸の人で、言葉が伝わらなかったみたいだから、ちょっとね。さ、お風呂いこ」
「なんか、気分良さそうだな」
「まあ、人助けの後だからね」
シキとユウは並んで歩いて湯屋へ行く。その背中を見る、傘被りの女性。

「優…」



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