1 / 1
第一話「ガイコツ騎士が現れた!」
しおりを挟む
昔々、カバみたいな顔つきにカバみたいは体格をしてカバみたいな声のそれはもうカバで良いわ、というモンスターに名状し難き魔王バラモンがいました。
彼は上司である大魔王ゴーマからとても恐ろしい人類侵略作戦の一端、アフヌカ地方の征服を命ぜられていました。
今日はその進捗具合を魔法の鏡による通信技術を用いて報告する日ですが、大魔王ゴーマは朝から頭を悩ませていました。その原因はもちろん部下、バラモンにありました。
「それで? 進捗はどんなもんかね?」
「はい! 昨日までに城西部の伐採と開墾はほぼ終了して付近の住民からは新たな農耕地が出来たと感謝されました!」
大魔王ゴーマは頭痛を覚えた!
「えー……質問を変えよう、キミ何で土地の開墾なんかやってんの?」
「はい! ここアフヌカ地方にはまだまだ未開の地が多く存在し、胸の内に燻っていたフロンティア精神を大いに駆り立てられるからです!」
大魔王ゴーマの肩の力が1ポイント抜けた!
「いや……うん、質問が悪かったね。キミ何でモンスターやってんの?」
後世の歴史家たちは語り継いだ、アフヌカ地方の発展には畑の神とも名高き開墾王バラモンの活躍なくしては成しえなかったであろうと。
「あのね、キミの所だけなんだよ? ロクな成果も挙げずに土をいじってばっかりで、お隣のゲドー君の所なんかはこの間、人間が寝てる間に夢の中に閉じ込めるだかなんかに成功したとか言ってきてね……」
「お言葉ですがゴーマ様、ここアフヌカの地にあるものと言えば、視界を遮らんと辺り一面に生い茂るジャングルに太陽を突き刺さんとばかりに天高くそびえ立つ岩山に囲まれ、水源とくればアナコンダもドン引きする程の複雑怪奇な川の流れ、後は魔族との戦争で故郷を焼かれ泣く泣く逃げ延びてきた難民の一部のみ。とてもじゃありませんが侵略する余地などは見どこにも当たらないのですが? 何よりもまず先に衣食住を充実させなければ我々魔族と難民たちが飢えてしまいますよ」
「だからその! 他の奴ら取り逃がした! 人間どもの後始末をだね……」
大魔王ゴーマがバラモンに自分たちが何と戦っているの説き伏せようしたその時でした、バラモンの配下であるアヒル型モンスターの『ももんがー』が慌てた様子で駆け込んできました。
「たたた大変ですよ! バラモン様!」
「どうしたのもも君?」
「アニエスさんが……はぁはぁ、アニエス……さんがですね……」
「落ち着いてもも君、アニエスさんの身に何かあったの?」
「無事に元気な赤ちゃんを出産しましたよ。男の子だそうですよ!」
「それはめでたい! 産気づいていたとは聞いていたが、うんうん。後で祝いの品を持っていくとしよう。何が良いかなー」
「ねぇ何でキミんとこ人間増やしてんの? えっ、何で?」
大魔王ゴーマは泣き出した!
しかしあまり効果はなかった。
「あっ! いやー失礼しました。……それでどのようなお話でしたっけ?」
「えっ……あーうん。兎に角だ、キミの所は侵略があまりにも上手くいってない様だから、ウチの部下の中から腕の立つエース、ガイコツ騎士を派遣する事になった。まぁ数日中にそっちに着くと思うから……」
「えー! ゴーマ様の所のガイコツ騎士殿といえば幾多の前線を駆け抜け、戦慄のスカルナイトと名高いのあのお方がですか!?」
「えっ? 何それ怖い。アイツ、そんなアホなあだ名付けられてんの?」
「こーしちゃいられません! すぐに歓迎会の準備を始めなくては! では失礼します!」
「あー! ちょっと待て! そんな新入社員を迎える様なノリでいるんじゃ……もう聞いてないよ」
大魔王ゴーマは通信を切るとただただ頭を抱えるだけでした。
「くそー、アフヌカに放り込めば嫌気がさして向こうから勝手に軍を抜けるか、どっかで野垂れ死ぬじゃないかと期待したのが間違いだったか。何で普通に活き活きとしているんだよあのカバ……じゃなかった馬鹿。もうすぐボーナスの査定だっていうのにはぁ、もう……誰かアイツを引き取ってくれないかな……」
数日後、ガイコツ騎士はバラモンの城まであともう少しという所まで来た時、彼は困惑しました。
「えっ……何で魔族の者が畑をいじっているんだ? つーか、何で人が住んでいるんだよここ!?」
畑を耕すモンスター、その横で平気な顔して住んでいる人間たち。常にその身は戦場から戦場へと渡り歩いていたガイコツ騎士にとって魔族と人間が共生している光景は理解し難いものでした。
「おい、そこの畑仕事のカバ! この辺りに魔王バラモン殿の城があると聞いたが何か知っているか?」
「えっ? お城でしたらその道をまっすぐ行って、立て札がある所を左に曲がった先にありますけど」
「立て札って何だよ!? 何でそんな所にそんな物があるんだよ!」
「いや、道に迷う人がいたら可愛そうじゃん?」
「つーかお前! 呑気に畑なんかをいじってる場合か!? 魔族としての本分はどうした! 俺たちは人間どもと戦争しているのだぞ! 分かっているのか!?」
「それを言うなら食料の確保も戦時中の大事の仕事の一つだと思うけど? 腹が減っては戦は出来ぬというし」
「ぐぬぬぬ……どうなっているんだここは? 俺がこの地に回されたというからには苛烈を極める最前線だと思っていたが……何故だ……」
ガイコツ騎士は頭痛を覚えた!
「くそ! ここで気にしても仕方があるまい。手を止めさせて悪かったな、俺は行く」
ガイコツ騎士は苛立ちを隠せぬまま去っていきました。それと入れ替わりに近くに隠れて様子を伺っていたももんがーが姿を現しました。
「バラモン様、あれが噂の騎士殿ですか? どーにも馴染めなさそうな者が来ましたね」
「もも君、僕は疑う前にまずは信じてみるがモットーでね、袖すり合った縁も楽しめないと心が棘だらけなっちゃうよ」
「……ふーむ」
「おっと! こうしちゃいられないよもも君! 先回りして歓迎会の飾りつけをしなくちゃ!」
「あっ! 待って下さいよーバラモン様ー!」
魔王城への道すがらガイコツ騎士はまた困惑した。小脇に大事そうに花と野菜を抱えながら。
「どうして俺が人間どもに歓迎されなきゃならんのだ!? 女どもには花を渡されて、男どもには野菜を押し付けられて、子供達にはひっつかれて! 一体全体どうなっているんだここは!?」
ガイコツ騎士が憤慨しながら歩いていると彼の目の前に木造二階建て建物が現れました。バラモン魔王城という表札付きで……。
「もはや城と呼んで良いのか迷うレベルの魔王城だなこれ、この建物を学校だの兵舎だのと紹介されても俺は1ミリも疑わんぞ」
ガイコツ騎士が花と野菜とやりばの無い怒りを抱えながら中へ入った時でした、彼の眼前でパーティ用のクラッカーが盛大に鳴り響きました。
「ようこそアフヌカへ!」
場内はさながらパーティ会場の様に装飾され、掲げられている垂れ幕には大きく『ガッ君歓迎会』と書かれていました。ちなみにこのガッ君はバラモンが考えたガイコツ騎士のあだ名です。
「何じゃこりゃあああ!!」
「やあガッ君、歓迎するよ!」
「お前、畑のカバ!? つーか誰がガッ君だ、誰が! 勝手に変なあだ名で呼ぶな!!」
「えー、せっかく良いのを思いついたのにー」
「下らん余興に付き合っている暇はない、ここの魔王バラモン殿に会わせてもらおうか? 聞きたい事が山とあるんでな」
ガイコツ騎士が足早にその場を去ろうとしたその時でした。
「ですからバラモン様、僕は騎士殿ですからきーやんが良いのではとあれほど言ったではありませんか……」
「そうかなー? 僕はガッ君が絶対に良いと思うんだけどなー」
「あんたがバラモンかぁぁぁー!!」
ガイコツ騎士は驚愕のあまりに顎の骨が外れましたが、バラモンが直ぐに取り付けた為、事なきを得ました。
「あっ、どーもどーも僕がバラモンです。こっちはももんがーのもも君、こう見えて結構すごい発明家なんだよ」
「いやはやどもども、ここで侵略兵器の設計および開発の担当を務めさせて頂いているももんがーという者です、以後お見知り置きをば」
「アヒルじゃん!」
「ももんがーです」
「いやどう見てもアヒルだろ!」
「ももんがーでっす」
ガイコツ騎士は混乱した! が直ぐに考えるのを止めた!
「それと向こうの端っこでモジモジしているのが殺人鬼族のエミリー、彼女は恥ずかしがり屋で覆面をしているけど、結構な美人さんだよ」
「…………」
エミリーは隠れるを発動した!
しかし効果はなかった!
「あれでよく殺人鬼族が勤まったものだな」
「あとはお手伝いさんのおばちゃんキノコが何匹かいて、最後にヤマタノオロチのやまちゃんっていうのがいるんだけど、今はジャパングという国に偵察に行っていて留守なんだよねー。まぁもう少ししたら帰ってくると思うけど」
「何でこんなお気楽カバが魔王をやれてんだよ……」
ガイコツ騎士の方の力が1ポイント抜けた!
「おやおや騎士殿、もしかしてもしかしたらバラモン様がどのようなお方なのか知らされずに来られたのですか?」
「ぐぬぬ……確かにアフヌカの場所を調べた程度でその他の事はゴーマ様から頂いた命令書にあった情報しか知らなくて……ぐぬぬぬ!」
「まぁまぁ、ほら僕は全然気にしてないから」
「いや無礼があったこと謝る、本当にすまなかった。だがしかし、その上で貴方に問いたい! ゴーマ様から命令書にはここアフヌカには他の地方で取り逃がした人間どもの一部がいるので、その始末をするようにとあったが何故、人間共と共存を図っているのか納得のいく説明をお聞かせて願おうか!」
「えー、だって可愛そうじゃん」
「か、可愛そう……だと?」
ガイコツ騎士の時が止まった!
しかし気のせいだった!
「ここには戦火で帰る場所を失くした人たちが藁にも縋るような思いで流れ着いているんだよ、可愛そうじゃん」
「な、何を言っているのか分かっているのかあんたは!? 俺たちは戦争をしているんだぞ、魔族と人間は!」
「じゃあ逆に聞きたいけど、一体いつまでいがみ合えば良いのさ? 人間と魔族の争いが始まってからもう千年も経っているんだよ? この千年間、争いを始めては一旦止めてからの再開を繰り返し
、その間に一体どれだけの国や都市が滅んだと思っているの? 人間と魔族、お互いに合わせて十四も失くしているんだよ?」
「歴史の勉強なら後にしろ! 俺たちは軍人なんだ! 魔族の為に人間と戦う軍人なんだよ! 嫌なら軍から出ていけ!」
ガイコツ騎士は魔王バラモンの胸倉を掴み取るとその怒りを思うがままに露わにしました。
「こ、このまま戦いを続けていればお互い、無駄に国力を消耗して、いずれは共倒れする未来しかないんだよ」
「それを避ける為に! 魔族が生き残る為の! 戦いじゃないのか!?」
「その未来を掴み取る為に後どれだけの血を流せば良い? どれだけの人間を殺して、どれだけの仲間を犠牲にすれば良いのさ?」
「何であんたは魔王をやっているんだよ!? あんたも魔王だというのなら! 魔族の軍人だというのなら立派に戦ってみせろ!」
「殺し合うだけが軍人じゃない! 命を奪い合うだけが戦争じゃない! 戦場ならここがとっくそうさ! ここが僕の戦場だ! 僕の理想と人間たちの現実がぶつかり合う戦場だ!」
「ぐぬぬぬ……綺麗事を……」
「どんなに罵られようとも僕はその綺麗事に殉ずるつもりだ、例え人に何度裏切られようとも、仲間たちに酷く蔑まれようとも!」
「…………」
「…………」
僅かな間、二人に沈黙が訪れたその時、ももんがーが間に割り入ってきました。
「まあまあ、お二人とも落ち着いて。ここはまだまだ未開の地で人も魔族も戦おうという気はないのですから、身内で言い争っても疲れるだけですよ」
ももんがー二人を宥めていると突然、召使いのおばちゃんキノコが何やら慌てた様子で駆け込んできました。
「大変だよバラモンちゃん! やまちゃんがまた勝手に他人様の所を襲ってるって! 今度はライフドットの村だって!」
「えぇー!? 何で? ジャパングの偵察はどうしちゃったのさ!? ていうかそこはゲドーさんちの管轄じゃん!? 勘弁してよーもう……もも君、急いで! 今すぐに転送魔法の準備を!」
「合点承知! お任せあれ!」
歓迎会そっちのけで出ていくバラモンとももんがーを見送るガイコツ騎士は悩んでいた。ここに来たからには最低限の仕事はしていこうと思うのだが、果たしてこのアフヌカに自分の出来る事はあるのだろうかと……。
「あー、すまんがおばちゃん、この野菜で何か美味いものでも作ってくれないか? 貰いもんなんでな」
「あいよ」
しばらくするとヤマタノオロチを連れたバラモンとももんがーが戻ってきました。
「もうダメだよやまちゃん、あそこはゲドーさんちの管轄なんだからウチが勝手に手を出したら怒られるんだよ?」
「ウガー……」
「まあまあバラモン様、オロチ殿の勇み足といえどもバラモン様の立身出世を願っての行動でしたのですから」
「……ウガー!」
「帰ったか、美味いスープが出来てるぞ」
ガイコツ騎士はおばちゃんキノコが作ってくれた野菜スープを美味しそう食べてました。
「やまちゃん、紹介するよ。今日からここで一緒に働く事になったガイコツ騎士のガッ君だよ」
「ガッ君言うな。まあ宜しく頼む……しかし何だ、いくら勇猛果敢といえども身勝手な行動は主君のためには……」
ヤマタノオロチはガイコツ騎士に激しい炎を吐きかけた!
ガイコツ騎士の顔が炭化した!
「…………」
「騎士殿、タオルをどうぞ」
「あ、あぁすまんな」
「あわわ! ご、ごめんねガッ君、やまちゃんって花も恥じらう乙女ってやつだからさ、照れちゃってるのかな? あは、あはは……」
「メスかよコイツ!」
「ウガー!」
「やまちゃんもホラ! これから一緒に働く仲間なんだからさ仲良くね。さあさあ仲直りの握手!」
ヤマタノオロチはガイコツ騎士に歩み寄り、握手するついでにそっと彼の耳に囁きました。
「貴様、我が主に何かあってみろ、決して生かしては帰さぬからな。よーく覚えておけよ、この白骨死体」
「普通に喋れるじゃないかこのゲテモン」
「オロチ殿は口の悪さが災いする事が多いのでバラモン様からあの様なキャラクターを求められているとかいないとかで」
「やまちゃん、ちゃんと握手出来て偉いね」
「ウガー!」
「………………」
ガイコツ騎士は思った。勤労とは一種の健康薬だと聞いたがここでは働いても苦悩、働かなくても苦悩という悪循環の方がよっぽど循環していそうに見えてくる不思議な環境。彼は出来ることなら無駄なことはしたくないという考えの持ち主だったが周りが無駄だらけなのではもう手の施しようがない。だからこそガイコツ騎士は思ったのでした、この悪魔も情けをかけてきそうな境遇において自分の出来る事を、郷に入っては郷に従う順応さを探してみようと。そして……。
「もう考えるは止めよう」
戦場においては鬼神の如く働きを見せる彼でしたが、その日は人間相手に戦うよりも疲れたと後に語るガイコツ騎士でした。
その日の夜。時をおいて頭が冷やされたガイコツ騎士はやはり自分の今の境遇に納得がいかず、鏡通信室にてその理由を大魔王ゴーマに問うのでした。
「ゴーマ様! 何故、自分がこのような場所に派遣されたのか教えて頂けますでしょうか?」
「いやー……何ていうかねー」
「命令書には取り逃がした人間の始末とありましたが、現地を担当する魔王は人間との共生を図っているではありませんか! 武器を手に取り、戦場に立つしか能のない自分にはここでやるべき事が分かりません!」
「いやー……だからね、その……」
「それに何故、あのような者が魔王の職に就けているのか!? 自分には甚だ理解できません!」
「まあ彼はその……ビューナス……様の息子さんでね」
ゴーマの言葉にガイコツ騎士は一瞬、固まってしまいました。
「ビューナス様!? あのビューナス様でありますか! 魔界貴族四候の一人であり、三百年前の大戦時には空の覇者と恐れられたあの!」
「えっ? 何それ怖い。っていうかあの行き遅れ元ヤンババアの話にそんな尾ひれ……げふんげふん! まあその何だ、昔、ビューナス様にこき使わ、じゃなかったお仕えしていた時があってね。その時の縁が仇、じゃなくて縁があって息子さんの仕事の面倒をみる事になってね……はぁーしんどい」
「しかしあのビューナス様がご結婚されたとは聞き及んでいませんが? それに何よりもどう見ても血の繋がった親子には見えません。ビューナス様といえば魔族の中でも絶世の美女と聞いていますし」
「美女ねえ……遠くから見てる分にはまだマシなのかねー……おっと! 滅多なことは言うもんじゃなかったな、あはは! 孤児院から引き取られたのだよ、まだ彼が赤ん坊の時にビューナス様がね。いつまでも独身でいたもんだから、ご両親に孫の顔が見たいだの何だの突っつかれたとか、貴族やってんのに跡取りがいない事を配下に言われ世間体がどうのこうのとあってね。致し方なく近所の孤児院に顔を出してみたらまあ、アレが物凄く可愛くみえたとか何とか言っちゃってもう大変だったよあん時は。孤児院の院長に断りもなく勝手に持って帰ってきちゃって、口から出る言い訳とくれば『宿命を感じたわ』とくるもんだからもう本当に呆れたよ、怒って来た院長を誰が上手く宥め帰したと思っているだか、はあ……。やっぱりあん時に強引にでも眼医者か脳外科医にでも診せるべきだったよなあ」
大魔王ゴーマの肩の力が1ポイント抜けた!
大魔王ゴーマは深い悲しみを覚えた!
「では、自分がここに送り込まれた理由はバラモンの奴を鍛え直す為でありますか?」
「いやいやいや! そんな事はしなくて良いから! 下手な事をしてビューナス様にまーた大目玉を食らったんじゃもう身がもたないよ。最近はずっとあちこちの戦場を引っ張りだこで疲れたでしょ? そこでゆっくり養生すると良いよ」
「はぁ……そう言われましても自分の体はどこも壊れてはいません。静養など不要です! 今すぐにどこか別の戦場へと回して頂きたいです!」
「う、うーん……まあね、そうだねー」
歯切れの悪いゴーマの言葉にガイコツ騎士は何か嫌な予感がしました。
「ゴーマ様! 何かあるのでしたらハッキリを仰って頂きたい! このガイコツ騎士、愚直ながらも長い事、ゴーマ様の戦いに身を投じて参りました。今更、何を隠し立てする事ががあると言うのですか!」
「いやまぁ、そこまで言うのなら別に隠しはしないけどね……怒らないでよ? 絶対に怒らずに聞いてよ? いやぁ最近のキミさ、戦場での活躍を聞きつけたウチの娘に結構、気にいられてるよね?」
「ゴーラ様にですか? 確かに最近、よくお会いして話す機会が多くなった気がしますが……好かれているかどうかは」
「いやいや兎に角だ、ウチのカミさんがね何ていうかそのー『ガイコツが娘婿なんてお断りよ!』なんて言い出すもんだからさぁ、あっはっはっは、いやー参った参った」
「ま、まさか!? ではわざわざ遠くの戦場を転々とさせられていたのも……」
「まあかくいう自分もね、流石に娘の婿はもっと違った奴がきて欲しいなとか考えていたり、いなかったりー……」
「そんな個人的な理由で自分をこんな辺境へと追いやったと言うのですか!? ただ単に自分の娘から遠ざけたかっただけで! そんな! そんな理由ででででぇー!」
荒ぶるガイコツ騎士は通信鏡に掴みかかった!
通信鏡は今にも壊れそうだ!
「あぁーダメだよそんな乱暴に扱っちゃ、それ高いんだから。経費で落とせるかどうかも……」
「ぬんがぁぁぁぁ!」
無残にも通信鏡は砕けちった!
ガイコツ騎士のストレスがレベルアップした!
ガイコツ騎士は忠誠を投げ捨てた!
「あーもしもーし? 聞こえてるー? どーしよこれ、経費で立て替えてくるれるのかな?」
「ふん!」
ガイコツ騎士は挨拶もせず部屋を去ってしまい、砕け散った通信鏡からは見えない通信相手へのゴーマの声がただただ部屋に響くだけでした。
魔族の未来を憂い、上司の言うがまま死に物狂いで戦地を駆け巡ってきたガイコツ騎士でしたが、与えられた成果は心にすきま風が吹き荒ぶ程の虚しさばかりでした。
ガイコツ騎士は悟り、そして誓うのでした。二度とゴーマの為に戦ってやるものかと……。
追記、ガイコツ騎士が破壊した通信鏡の買い替え費用はゴーマの自腹で賄われました。
所変わってここは大魔王ゴーマが自身の上司である邪神シンドウへ人類侵略の進捗具合を報告する会議室。
「それで、バラモン君によるアフヌカでの仕事は順調に機能しているのかね?」
「はぁー、その……現場での判断は彼に一任しておりますので……」
「その割には人間の殺害報告が一件も挙がってきていないのは何故かね?」
「いやーまあー何と言いましょうか、そのー……人を殺すことなく侵略でもしているのでしょうかねー、ははは……」
「………………」
「あはは…………」
その会議室にはただただゴーマの渇いた笑い声がこだまするばかりでした。
「アフヌカには他の地方で取り逃がした人間たちが流れ着いていると聞いている。流れ着いた人間の中に有力な王族や貴族の生き残りいてだ、それらが下手に結託でもして要らぬ勢力を生み出してからでは遅いのだよゴーマ君?」
「は、はい! それはもう重々承知の上でして、はい!」
邪神シンドウの今にも突き刺さりそうなその鋭い視線はゴーマの胃をキリキリと痛めつけていました。
「それそうと話は変わるが、もう間もなくボーナスの査定の時期だねゴーマ君?」
「……はい」
「君のボーナスをカットした分を軍の経費に回してやれば、苦戦を強いられている遠いかの地の戦友に大砲の一つや二つ届けてやれるかもしれんな」
「いやー……それはそのー、困ると言いましょうか何と言いましょうか……」
「精進したまえよ」
「はい、仰せのままに……」
大魔王ゴーマにもゴーマなりの苦労がある事を誰も知る由はありませんでした。
彼は上司である大魔王ゴーマからとても恐ろしい人類侵略作戦の一端、アフヌカ地方の征服を命ぜられていました。
今日はその進捗具合を魔法の鏡による通信技術を用いて報告する日ですが、大魔王ゴーマは朝から頭を悩ませていました。その原因はもちろん部下、バラモンにありました。
「それで? 進捗はどんなもんかね?」
「はい! 昨日までに城西部の伐採と開墾はほぼ終了して付近の住民からは新たな農耕地が出来たと感謝されました!」
大魔王ゴーマは頭痛を覚えた!
「えー……質問を変えよう、キミ何で土地の開墾なんかやってんの?」
「はい! ここアフヌカ地方にはまだまだ未開の地が多く存在し、胸の内に燻っていたフロンティア精神を大いに駆り立てられるからです!」
大魔王ゴーマの肩の力が1ポイント抜けた!
「いや……うん、質問が悪かったね。キミ何でモンスターやってんの?」
後世の歴史家たちは語り継いだ、アフヌカ地方の発展には畑の神とも名高き開墾王バラモンの活躍なくしては成しえなかったであろうと。
「あのね、キミの所だけなんだよ? ロクな成果も挙げずに土をいじってばっかりで、お隣のゲドー君の所なんかはこの間、人間が寝てる間に夢の中に閉じ込めるだかなんかに成功したとか言ってきてね……」
「お言葉ですがゴーマ様、ここアフヌカの地にあるものと言えば、視界を遮らんと辺り一面に生い茂るジャングルに太陽を突き刺さんとばかりに天高くそびえ立つ岩山に囲まれ、水源とくればアナコンダもドン引きする程の複雑怪奇な川の流れ、後は魔族との戦争で故郷を焼かれ泣く泣く逃げ延びてきた難民の一部のみ。とてもじゃありませんが侵略する余地などは見どこにも当たらないのですが? 何よりもまず先に衣食住を充実させなければ我々魔族と難民たちが飢えてしまいますよ」
「だからその! 他の奴ら取り逃がした! 人間どもの後始末をだね……」
大魔王ゴーマがバラモンに自分たちが何と戦っているの説き伏せようしたその時でした、バラモンの配下であるアヒル型モンスターの『ももんがー』が慌てた様子で駆け込んできました。
「たたた大変ですよ! バラモン様!」
「どうしたのもも君?」
「アニエスさんが……はぁはぁ、アニエス……さんがですね……」
「落ち着いてもも君、アニエスさんの身に何かあったの?」
「無事に元気な赤ちゃんを出産しましたよ。男の子だそうですよ!」
「それはめでたい! 産気づいていたとは聞いていたが、うんうん。後で祝いの品を持っていくとしよう。何が良いかなー」
「ねぇ何でキミんとこ人間増やしてんの? えっ、何で?」
大魔王ゴーマは泣き出した!
しかしあまり効果はなかった。
「あっ! いやー失礼しました。……それでどのようなお話でしたっけ?」
「えっ……あーうん。兎に角だ、キミの所は侵略があまりにも上手くいってない様だから、ウチの部下の中から腕の立つエース、ガイコツ騎士を派遣する事になった。まぁ数日中にそっちに着くと思うから……」
「えー! ゴーマ様の所のガイコツ騎士殿といえば幾多の前線を駆け抜け、戦慄のスカルナイトと名高いのあのお方がですか!?」
「えっ? 何それ怖い。アイツ、そんなアホなあだ名付けられてんの?」
「こーしちゃいられません! すぐに歓迎会の準備を始めなくては! では失礼します!」
「あー! ちょっと待て! そんな新入社員を迎える様なノリでいるんじゃ……もう聞いてないよ」
大魔王ゴーマは通信を切るとただただ頭を抱えるだけでした。
「くそー、アフヌカに放り込めば嫌気がさして向こうから勝手に軍を抜けるか、どっかで野垂れ死ぬじゃないかと期待したのが間違いだったか。何で普通に活き活きとしているんだよあのカバ……じゃなかった馬鹿。もうすぐボーナスの査定だっていうのにはぁ、もう……誰かアイツを引き取ってくれないかな……」
数日後、ガイコツ騎士はバラモンの城まであともう少しという所まで来た時、彼は困惑しました。
「えっ……何で魔族の者が畑をいじっているんだ? つーか、何で人が住んでいるんだよここ!?」
畑を耕すモンスター、その横で平気な顔して住んでいる人間たち。常にその身は戦場から戦場へと渡り歩いていたガイコツ騎士にとって魔族と人間が共生している光景は理解し難いものでした。
「おい、そこの畑仕事のカバ! この辺りに魔王バラモン殿の城があると聞いたが何か知っているか?」
「えっ? お城でしたらその道をまっすぐ行って、立て札がある所を左に曲がった先にありますけど」
「立て札って何だよ!? 何でそんな所にそんな物があるんだよ!」
「いや、道に迷う人がいたら可愛そうじゃん?」
「つーかお前! 呑気に畑なんかをいじってる場合か!? 魔族としての本分はどうした! 俺たちは人間どもと戦争しているのだぞ! 分かっているのか!?」
「それを言うなら食料の確保も戦時中の大事の仕事の一つだと思うけど? 腹が減っては戦は出来ぬというし」
「ぐぬぬぬ……どうなっているんだここは? 俺がこの地に回されたというからには苛烈を極める最前線だと思っていたが……何故だ……」
ガイコツ騎士は頭痛を覚えた!
「くそ! ここで気にしても仕方があるまい。手を止めさせて悪かったな、俺は行く」
ガイコツ騎士は苛立ちを隠せぬまま去っていきました。それと入れ替わりに近くに隠れて様子を伺っていたももんがーが姿を現しました。
「バラモン様、あれが噂の騎士殿ですか? どーにも馴染めなさそうな者が来ましたね」
「もも君、僕は疑う前にまずは信じてみるがモットーでね、袖すり合った縁も楽しめないと心が棘だらけなっちゃうよ」
「……ふーむ」
「おっと! こうしちゃいられないよもも君! 先回りして歓迎会の飾りつけをしなくちゃ!」
「あっ! 待って下さいよーバラモン様ー!」
魔王城への道すがらガイコツ騎士はまた困惑した。小脇に大事そうに花と野菜を抱えながら。
「どうして俺が人間どもに歓迎されなきゃならんのだ!? 女どもには花を渡されて、男どもには野菜を押し付けられて、子供達にはひっつかれて! 一体全体どうなっているんだここは!?」
ガイコツ騎士が憤慨しながら歩いていると彼の目の前に木造二階建て建物が現れました。バラモン魔王城という表札付きで……。
「もはや城と呼んで良いのか迷うレベルの魔王城だなこれ、この建物を学校だの兵舎だのと紹介されても俺は1ミリも疑わんぞ」
ガイコツ騎士が花と野菜とやりばの無い怒りを抱えながら中へ入った時でした、彼の眼前でパーティ用のクラッカーが盛大に鳴り響きました。
「ようこそアフヌカへ!」
場内はさながらパーティ会場の様に装飾され、掲げられている垂れ幕には大きく『ガッ君歓迎会』と書かれていました。ちなみにこのガッ君はバラモンが考えたガイコツ騎士のあだ名です。
「何じゃこりゃあああ!!」
「やあガッ君、歓迎するよ!」
「お前、畑のカバ!? つーか誰がガッ君だ、誰が! 勝手に変なあだ名で呼ぶな!!」
「えー、せっかく良いのを思いついたのにー」
「下らん余興に付き合っている暇はない、ここの魔王バラモン殿に会わせてもらおうか? 聞きたい事が山とあるんでな」
ガイコツ騎士が足早にその場を去ろうとしたその時でした。
「ですからバラモン様、僕は騎士殿ですからきーやんが良いのではとあれほど言ったではありませんか……」
「そうかなー? 僕はガッ君が絶対に良いと思うんだけどなー」
「あんたがバラモンかぁぁぁー!!」
ガイコツ騎士は驚愕のあまりに顎の骨が外れましたが、バラモンが直ぐに取り付けた為、事なきを得ました。
「あっ、どーもどーも僕がバラモンです。こっちはももんがーのもも君、こう見えて結構すごい発明家なんだよ」
「いやはやどもども、ここで侵略兵器の設計および開発の担当を務めさせて頂いているももんがーという者です、以後お見知り置きをば」
「アヒルじゃん!」
「ももんがーです」
「いやどう見てもアヒルだろ!」
「ももんがーでっす」
ガイコツ騎士は混乱した! が直ぐに考えるのを止めた!
「それと向こうの端っこでモジモジしているのが殺人鬼族のエミリー、彼女は恥ずかしがり屋で覆面をしているけど、結構な美人さんだよ」
「…………」
エミリーは隠れるを発動した!
しかし効果はなかった!
「あれでよく殺人鬼族が勤まったものだな」
「あとはお手伝いさんのおばちゃんキノコが何匹かいて、最後にヤマタノオロチのやまちゃんっていうのがいるんだけど、今はジャパングという国に偵察に行っていて留守なんだよねー。まぁもう少ししたら帰ってくると思うけど」
「何でこんなお気楽カバが魔王をやれてんだよ……」
ガイコツ騎士の方の力が1ポイント抜けた!
「おやおや騎士殿、もしかしてもしかしたらバラモン様がどのようなお方なのか知らされずに来られたのですか?」
「ぐぬぬ……確かにアフヌカの場所を調べた程度でその他の事はゴーマ様から頂いた命令書にあった情報しか知らなくて……ぐぬぬぬ!」
「まぁまぁ、ほら僕は全然気にしてないから」
「いや無礼があったこと謝る、本当にすまなかった。だがしかし、その上で貴方に問いたい! ゴーマ様から命令書にはここアフヌカには他の地方で取り逃がした人間どもの一部がいるので、その始末をするようにとあったが何故、人間共と共存を図っているのか納得のいく説明をお聞かせて願おうか!」
「えー、だって可愛そうじゃん」
「か、可愛そう……だと?」
ガイコツ騎士の時が止まった!
しかし気のせいだった!
「ここには戦火で帰る場所を失くした人たちが藁にも縋るような思いで流れ着いているんだよ、可愛そうじゃん」
「な、何を言っているのか分かっているのかあんたは!? 俺たちは戦争をしているんだぞ、魔族と人間は!」
「じゃあ逆に聞きたいけど、一体いつまでいがみ合えば良いのさ? 人間と魔族の争いが始まってからもう千年も経っているんだよ? この千年間、争いを始めては一旦止めてからの再開を繰り返し
、その間に一体どれだけの国や都市が滅んだと思っているの? 人間と魔族、お互いに合わせて十四も失くしているんだよ?」
「歴史の勉強なら後にしろ! 俺たちは軍人なんだ! 魔族の為に人間と戦う軍人なんだよ! 嫌なら軍から出ていけ!」
ガイコツ騎士は魔王バラモンの胸倉を掴み取るとその怒りを思うがままに露わにしました。
「こ、このまま戦いを続けていればお互い、無駄に国力を消耗して、いずれは共倒れする未来しかないんだよ」
「それを避ける為に! 魔族が生き残る為の! 戦いじゃないのか!?」
「その未来を掴み取る為に後どれだけの血を流せば良い? どれだけの人間を殺して、どれだけの仲間を犠牲にすれば良いのさ?」
「何であんたは魔王をやっているんだよ!? あんたも魔王だというのなら! 魔族の軍人だというのなら立派に戦ってみせろ!」
「殺し合うだけが軍人じゃない! 命を奪い合うだけが戦争じゃない! 戦場ならここがとっくそうさ! ここが僕の戦場だ! 僕の理想と人間たちの現実がぶつかり合う戦場だ!」
「ぐぬぬぬ……綺麗事を……」
「どんなに罵られようとも僕はその綺麗事に殉ずるつもりだ、例え人に何度裏切られようとも、仲間たちに酷く蔑まれようとも!」
「…………」
「…………」
僅かな間、二人に沈黙が訪れたその時、ももんがーが間に割り入ってきました。
「まあまあ、お二人とも落ち着いて。ここはまだまだ未開の地で人も魔族も戦おうという気はないのですから、身内で言い争っても疲れるだけですよ」
ももんがー二人を宥めていると突然、召使いのおばちゃんキノコが何やら慌てた様子で駆け込んできました。
「大変だよバラモンちゃん! やまちゃんがまた勝手に他人様の所を襲ってるって! 今度はライフドットの村だって!」
「えぇー!? 何で? ジャパングの偵察はどうしちゃったのさ!? ていうかそこはゲドーさんちの管轄じゃん!? 勘弁してよーもう……もも君、急いで! 今すぐに転送魔法の準備を!」
「合点承知! お任せあれ!」
歓迎会そっちのけで出ていくバラモンとももんがーを見送るガイコツ騎士は悩んでいた。ここに来たからには最低限の仕事はしていこうと思うのだが、果たしてこのアフヌカに自分の出来る事はあるのだろうかと……。
「あー、すまんがおばちゃん、この野菜で何か美味いものでも作ってくれないか? 貰いもんなんでな」
「あいよ」
しばらくするとヤマタノオロチを連れたバラモンとももんがーが戻ってきました。
「もうダメだよやまちゃん、あそこはゲドーさんちの管轄なんだからウチが勝手に手を出したら怒られるんだよ?」
「ウガー……」
「まあまあバラモン様、オロチ殿の勇み足といえどもバラモン様の立身出世を願っての行動でしたのですから」
「……ウガー!」
「帰ったか、美味いスープが出来てるぞ」
ガイコツ騎士はおばちゃんキノコが作ってくれた野菜スープを美味しそう食べてました。
「やまちゃん、紹介するよ。今日からここで一緒に働く事になったガイコツ騎士のガッ君だよ」
「ガッ君言うな。まあ宜しく頼む……しかし何だ、いくら勇猛果敢といえども身勝手な行動は主君のためには……」
ヤマタノオロチはガイコツ騎士に激しい炎を吐きかけた!
ガイコツ騎士の顔が炭化した!
「…………」
「騎士殿、タオルをどうぞ」
「あ、あぁすまんな」
「あわわ! ご、ごめんねガッ君、やまちゃんって花も恥じらう乙女ってやつだからさ、照れちゃってるのかな? あは、あはは……」
「メスかよコイツ!」
「ウガー!」
「やまちゃんもホラ! これから一緒に働く仲間なんだからさ仲良くね。さあさあ仲直りの握手!」
ヤマタノオロチはガイコツ騎士に歩み寄り、握手するついでにそっと彼の耳に囁きました。
「貴様、我が主に何かあってみろ、決して生かしては帰さぬからな。よーく覚えておけよ、この白骨死体」
「普通に喋れるじゃないかこのゲテモン」
「オロチ殿は口の悪さが災いする事が多いのでバラモン様からあの様なキャラクターを求められているとかいないとかで」
「やまちゃん、ちゃんと握手出来て偉いね」
「ウガー!」
「………………」
ガイコツ騎士は思った。勤労とは一種の健康薬だと聞いたがここでは働いても苦悩、働かなくても苦悩という悪循環の方がよっぽど循環していそうに見えてくる不思議な環境。彼は出来ることなら無駄なことはしたくないという考えの持ち主だったが周りが無駄だらけなのではもう手の施しようがない。だからこそガイコツ騎士は思ったのでした、この悪魔も情けをかけてきそうな境遇において自分の出来る事を、郷に入っては郷に従う順応さを探してみようと。そして……。
「もう考えるは止めよう」
戦場においては鬼神の如く働きを見せる彼でしたが、その日は人間相手に戦うよりも疲れたと後に語るガイコツ騎士でした。
その日の夜。時をおいて頭が冷やされたガイコツ騎士はやはり自分の今の境遇に納得がいかず、鏡通信室にてその理由を大魔王ゴーマに問うのでした。
「ゴーマ様! 何故、自分がこのような場所に派遣されたのか教えて頂けますでしょうか?」
「いやー……何ていうかねー」
「命令書には取り逃がした人間の始末とありましたが、現地を担当する魔王は人間との共生を図っているではありませんか! 武器を手に取り、戦場に立つしか能のない自分にはここでやるべき事が分かりません!」
「いやー……だからね、その……」
「それに何故、あのような者が魔王の職に就けているのか!? 自分には甚だ理解できません!」
「まあ彼はその……ビューナス……様の息子さんでね」
ゴーマの言葉にガイコツ騎士は一瞬、固まってしまいました。
「ビューナス様!? あのビューナス様でありますか! 魔界貴族四候の一人であり、三百年前の大戦時には空の覇者と恐れられたあの!」
「えっ? 何それ怖い。っていうかあの行き遅れ元ヤンババアの話にそんな尾ひれ……げふんげふん! まあその何だ、昔、ビューナス様にこき使わ、じゃなかったお仕えしていた時があってね。その時の縁が仇、じゃなくて縁があって息子さんの仕事の面倒をみる事になってね……はぁーしんどい」
「しかしあのビューナス様がご結婚されたとは聞き及んでいませんが? それに何よりもどう見ても血の繋がった親子には見えません。ビューナス様といえば魔族の中でも絶世の美女と聞いていますし」
「美女ねえ……遠くから見てる分にはまだマシなのかねー……おっと! 滅多なことは言うもんじゃなかったな、あはは! 孤児院から引き取られたのだよ、まだ彼が赤ん坊の時にビューナス様がね。いつまでも独身でいたもんだから、ご両親に孫の顔が見たいだの何だの突っつかれたとか、貴族やってんのに跡取りがいない事を配下に言われ世間体がどうのこうのとあってね。致し方なく近所の孤児院に顔を出してみたらまあ、アレが物凄く可愛くみえたとか何とか言っちゃってもう大変だったよあん時は。孤児院の院長に断りもなく勝手に持って帰ってきちゃって、口から出る言い訳とくれば『宿命を感じたわ』とくるもんだからもう本当に呆れたよ、怒って来た院長を誰が上手く宥め帰したと思っているだか、はあ……。やっぱりあん時に強引にでも眼医者か脳外科医にでも診せるべきだったよなあ」
大魔王ゴーマの肩の力が1ポイント抜けた!
大魔王ゴーマは深い悲しみを覚えた!
「では、自分がここに送り込まれた理由はバラモンの奴を鍛え直す為でありますか?」
「いやいやいや! そんな事はしなくて良いから! 下手な事をしてビューナス様にまーた大目玉を食らったんじゃもう身がもたないよ。最近はずっとあちこちの戦場を引っ張りだこで疲れたでしょ? そこでゆっくり養生すると良いよ」
「はぁ……そう言われましても自分の体はどこも壊れてはいません。静養など不要です! 今すぐにどこか別の戦場へと回して頂きたいです!」
「う、うーん……まあね、そうだねー」
歯切れの悪いゴーマの言葉にガイコツ騎士は何か嫌な予感がしました。
「ゴーマ様! 何かあるのでしたらハッキリを仰って頂きたい! このガイコツ騎士、愚直ながらも長い事、ゴーマ様の戦いに身を投じて参りました。今更、何を隠し立てする事ががあると言うのですか!」
「いやまぁ、そこまで言うのなら別に隠しはしないけどね……怒らないでよ? 絶対に怒らずに聞いてよ? いやぁ最近のキミさ、戦場での活躍を聞きつけたウチの娘に結構、気にいられてるよね?」
「ゴーラ様にですか? 確かに最近、よくお会いして話す機会が多くなった気がしますが……好かれているかどうかは」
「いやいや兎に角だ、ウチのカミさんがね何ていうかそのー『ガイコツが娘婿なんてお断りよ!』なんて言い出すもんだからさぁ、あっはっはっは、いやー参った参った」
「ま、まさか!? ではわざわざ遠くの戦場を転々とさせられていたのも……」
「まあかくいう自分もね、流石に娘の婿はもっと違った奴がきて欲しいなとか考えていたり、いなかったりー……」
「そんな個人的な理由で自分をこんな辺境へと追いやったと言うのですか!? ただ単に自分の娘から遠ざけたかっただけで! そんな! そんな理由ででででぇー!」
荒ぶるガイコツ騎士は通信鏡に掴みかかった!
通信鏡は今にも壊れそうだ!
「あぁーダメだよそんな乱暴に扱っちゃ、それ高いんだから。経費で落とせるかどうかも……」
「ぬんがぁぁぁぁ!」
無残にも通信鏡は砕けちった!
ガイコツ騎士のストレスがレベルアップした!
ガイコツ騎士は忠誠を投げ捨てた!
「あーもしもーし? 聞こえてるー? どーしよこれ、経費で立て替えてくるれるのかな?」
「ふん!」
ガイコツ騎士は挨拶もせず部屋を去ってしまい、砕け散った通信鏡からは見えない通信相手へのゴーマの声がただただ部屋に響くだけでした。
魔族の未来を憂い、上司の言うがまま死に物狂いで戦地を駆け巡ってきたガイコツ騎士でしたが、与えられた成果は心にすきま風が吹き荒ぶ程の虚しさばかりでした。
ガイコツ騎士は悟り、そして誓うのでした。二度とゴーマの為に戦ってやるものかと……。
追記、ガイコツ騎士が破壊した通信鏡の買い替え費用はゴーマの自腹で賄われました。
所変わってここは大魔王ゴーマが自身の上司である邪神シンドウへ人類侵略の進捗具合を報告する会議室。
「それで、バラモン君によるアフヌカでの仕事は順調に機能しているのかね?」
「はぁー、その……現場での判断は彼に一任しておりますので……」
「その割には人間の殺害報告が一件も挙がってきていないのは何故かね?」
「いやーまあー何と言いましょうか、そのー……人を殺すことなく侵略でもしているのでしょうかねー、ははは……」
「………………」
「あはは…………」
その会議室にはただただゴーマの渇いた笑い声がこだまするばかりでした。
「アフヌカには他の地方で取り逃がした人間たちが流れ着いていると聞いている。流れ着いた人間の中に有力な王族や貴族の生き残りいてだ、それらが下手に結託でもして要らぬ勢力を生み出してからでは遅いのだよゴーマ君?」
「は、はい! それはもう重々承知の上でして、はい!」
邪神シンドウの今にも突き刺さりそうなその鋭い視線はゴーマの胃をキリキリと痛めつけていました。
「それそうと話は変わるが、もう間もなくボーナスの査定の時期だねゴーマ君?」
「……はい」
「君のボーナスをカットした分を軍の経費に回してやれば、苦戦を強いられている遠いかの地の戦友に大砲の一つや二つ届けてやれるかもしれんな」
「いやー……それはそのー、困ると言いましょうか何と言いましょうか……」
「精進したまえよ」
「はい、仰せのままに……」
大魔王ゴーマにもゴーマなりの苦労がある事を誰も知る由はありませんでした。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる