テイルウィンド

双子烏丸

文字の大きさ
1 / 204
第一章 追い風と白い月

大興奮の宇宙レース

しおりを挟む


 一筋、二筋……また一筋と、漆黒の闇に輝く星々を背景に、眩いばかりの光の軌跡が宇宙を切り裂く。
 その正体は、高速で宇宙空間を飛翔する――幾つもの宇宙船である。



〈ご覧下さい! 勇敢なるレーサー達がさながら光の矢の如く、次々と宇宙を駆ける様を! 第二十二回アシュクレイ杯、今回の宇宙レースも、まさに興奮の絶頂であります!〉
 宇宙空間に存在する、白銀の城を思わせるかのような巨大宇宙ステーション。その遥か真下には、灰色で荒れ果てた、孤立した星が一つ存在した。
 星は元々、何処かの恒星系に属する普通の惑星であったらしい。だが恒星の超新星爆発に巻き込まれ、その恒星と他の星は消滅し、この星だけが残ったのだ。星の半分が無残に砕け散っているのが、その名残だろう。
 今では星は、公転も自転もしておらず、かつて存在した大気も消え、重力も万有引力のみであるため、通常の惑星と較べてかなり弱い。そして周囲には、かつて恒星系を構成した星星の欠片と思われる無数の小惑星が存在し、それによる大きな小惑星帯が星全体を包み込んでいた。



 ステーション内では大勢の観客が、大画面のモニターでレースを観戦している。
 その映像は、コース上に浮遊する無人機のカメラによって撮影されたものだ。
 観客全体は興奮した雰囲気で、レースの様子を眺めていた。
〈レースはまだまだ始まったばかり。さて皆さん、モニターに注目願います〉
 辺りに響く実況者の言葉とともに、モニターの画面がコース全体の図へと切り替わった。
 表示された立体画面には、黄色い楕円の輪と、その内側にアシュクレイ星と宇宙ステーションを現す立体図が表れている。
〈選手達の機体は本ステーションから出発し、アシュクレイ星の上空に降下した後に半周、再びステーションに戻ってくるのが、コースの全貌であります。
 そして――星の上空に入ってからが、本レースの本番! コース全体の内、三分の一以上がこの星を半周するコースとなっており、そこがレースの行方が大きく左右する事となるでしょう。星には大気は無く、重力も非常に弱い。よって空には、星を包み込んでいる小惑星帯がそのまま浮かんでいるのです。この厄介な障害物をどう対応するか、まさに各選手の腕前が問われるわけです。 ――続いては、選手の紹介に移りましょう〉
 更にモニターは切り替わり、選手の顔と名前に情報、そしてその機体が映る。
〈まずはアルナダ星系出身のロッシュ・リー選手と、その機体エクサレイン。次は惑星ラインディールのレイド・フィスが駆るレイドアロー。そして……〉



 実況者は次々と、レース選手と機体の紹介を行っていく。
 やがて約五十人程の選手と機体の紹介を殆んど終えると、思わせぶりに一息ついて、叫んだ。
〈では本レース注目、三名の選手の紹介となります! まずはリッキー・マーティス選手! 惑星ローヴィスのリッキー・マーティスです!〉
 その掛け声とともに、モニターには筋骨隆々な褐色の大男と、巨大な砲弾の後ろに上下に六束の円筒をまとめて取り付けられたような、いかつい形の機体が映る。
〈彼が改造に改造を重ねた機体であるシュトラーダは、その見た目通り後部の六連ブースターによって、他の機体とは比べ物にならない高出力の加速が大きな特徴です。しかし同時に、出力の高さの為に多少、小回りが利かない上、パイロットの身体にかかる負担が大きい、暴れ馬のような機体であります。熟練なパイロットであり、かつ強靭な肉体の持ち主である、リッキー選手でなければ扱えない代物でしょう〉
 次に映った人物は、白いスペースジャケットを着込み、長い銀髪を後ろに束ねた凛とした青年だった。円弧状の形体である機体も輝かんばかりの白銀であり、さながら夜空に浮かぶ三日月の様である。
〈続いては、数多くのレースで優勝を収め『白の貴公子』の異名を持つ、アリュノ星系のレーサー、シロノ・ルーナ選手! 愛機ホワイトムーンはその美しさは勿論の事、レーダー機器を中心とした高性能を誇り、本レースでもその異名に恥じぬ活躍を見せることでしょう! そして、最後は……〉
 実況者は、最後の選手を紹介する。
〈……フウマ・オイカゼ選手と、テイルウィンド!〉



 モニターに、快活な感じの小柄な少年と、その機体が映る。
 年齢は十八才と、レースの選手として一番若い。そして小柄な体格と快活な雰囲気、そしてやや童顔な顔立ちのせいで、更に四才ほど若く見えた。着ているジャケットやズボンも少しサイズが大きく、僅かにだぶついている。
 彼の機体であるテイルウィンドは、剣の刃を横にしたかのような姿であり、本体後部のメインブースター以外に、航空機の翼を思わせるかのような直角三角形のブースターが、船体の左右に一対存在した。
〈惑星エアケルトゥング出身の彼はレーサーとしてはまだ若く、経験も浅いですが、既に多くの優秀な成績を残し、幾つかのレースでは優勝経験もあるその腕前は、確かなものです。
 さぁ! 役者は出揃いました! 果たしてこのレースで勝利を手にするのは誰か? この目で確かめようではありませんか!〉
 会場は、大いに盛り上がった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

処理中です...