23 / 204
第二章 ティーブレイク・タイム
レクリエーション・タイム(4)
しおりを挟む新緑色の草が生い茂る草原で、フウマはひしゃげたボードを片手にふてくされていた。
「よしっ! 私の勝ちだね!」
その一方でミリィは、自分の勝利にはしゃいでいた。
一度は機転によって逆転したフウマだったが、その後、鳥の群れに襲われ、その内一羽がヘルメットをしていない彼の顔に衝突した。
衝突したショックで一瞬気を失い、その間にボードは鳥の群れに翻弄されて姿勢が崩れた。そしてフウマが気が付いた時には、ゴールである草原に辿り着く寸前で墜落した後。
結局、トップでゴールしたのはミリィとなった。
戻って来た他のメンバーはと言うと、そんな対比的な二人の様子を面白そうに眺めていた。
「ううっ……。今日はたまたま調子が悪かっただけさ」
「って言うか、自業自得ね。鳥さん達を驚かせたりするから」
二人の会話に、同じくひしゃげたボードを持ったキースが口を挟む。
「鳥の群れが巻き起こす突風を利用して、ボードの速度を上げる……。アイデア自体は良かったが、詰めが甘かったな」
「そっちだって、後ろに気を取られて木に当たったじゃないか。偉そうに人の事を言えないだろ」
「ああ、そう言えば確かにそうだったな。……ん? あれは……」
そんな時、キースは何かに気が付いたらしい。彼はニヤリと笑ってフウマに言った。
「ほら、見てみろよ。どうやら迎えが来たようだぜ」
そう言いながら指差す草原の空には、一台のエアカーがこちらに飛んで来るのが見えた。外見はタイヤが存在しない事を除けば、普通の車とほぼ変わらない形である。
「ん? 何でまたこんな所に? …………まさか!」
フウマはすっかり忘れてたある事を思い出して、顔色が変わった。
「あーあ、約束をすっぽかしたりするから……」
エアカーは、フウマ達のすぐ近くに着陸する。
そして後部ドアが開くと、誰かが二人降りて来た。
「やっぱりここにいたのね。追いつくのに大変だったんだから」
「全く、約束を無視するなんて、何を考えているのですか」
エアカーから降りたのは、ミオとリアンだった。二人とも、多少なりに腹を立てているらしい。
「そんな、どうしてここに!」
「何年私がフウマの幼馴染をしていると思うの? こうして何か約束をすっぽかす時は、大体どこかで友達と一緒に、ウィンドボードで遊んでいるでしょ? そして、久しぶりにウィンドボードをするなら、多分ここじゃないかなって思ったの。それで私はリアンに頼んで、ここに迎えに来たって訳」
「だから勉強なら、自分でもやっているさ。勉強会なんて要らないってば!」
フウマは、まるで子供のような言い訳をしてみせた。
「それが駄目だから、こうして勉強会を開いたんでしょ? ほら、だからそう言っていないで、とりあえず行きましょう」
「だから無理! 勉強会みたいに厳しい勉強なんて、僕は苦手なんだよ!」
「はぁ……宇宙レースで幾ら活躍しているか知らないけれど、まるでお子様ね。良いわ、本当ならミオの頼み通りやさしく教えるつもりだったけど、その根性からみっちり教育してあげないとね。いいわね? ミオ?」
「ええ。でも、あまり厳しくしないでね?」
そう言うとミオとリアンは、駄々をこねるフウマの両腕を掴むと、ずるずるとエアカーに引っ張っていった。
「だーかーらー、やだってばー」
相変わらずそう言い続けるフウマを無理やり乗せて、エアカーは飛び立った。
それを見送ったミリィは隣のキースにこう言った。
「ねぇ、キース?」
「ん?」
「やっぱりフウマってさ、実年齢以外は、本当に子どもだよね?」
「…………ああ」
その意見は、二人とも同感だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる