テイルウィンド

双子烏丸

文字の大きさ
29 / 204
第三章 新たな強敵(ライバル)達 

銀河捜査局

しおりを挟む


 シロノ達二人が向かった場所、それは惑星ギャザーロードの軌道上にある宇宙ステーション。そう、シロノの機体であるホワイトムーンを停泊させた場所である。
 ステーション内の指定された小部屋に入ると、彼らを待っていたのは、灰色の制服を着た痩身の男だった。
 その顔付きは鷹のような猛禽類に近い顔つきをしており、職務に忠実、そして有能な仕事人間である印象を感じる。


 男はシロノ達に自己紹介をした。
「急な呼び出し、申し訳ない。私は銀河捜査局捜査長官、ヘンリックだ」
 シロノとアインも、ヘンリックに挨拶をする。
「初めましてヘンリックさん。急用だと聞いたので駆け付けたのですが、一体何が?」
 小部屋の窓には他の宇宙船とともに、宇宙ステーションのドッキングアームに接舷され、停泊しているホワイトムーンの姿が見える。
 ヘンリックは窓にうつるホワイトムーンを横目に眺め、こう答える。
「実は、貴方の宇宙船に、つい先ほどナンバーズ・マフィアが襲撃に入ったのだ。その名前と噂は――少しは聞いたことはあるだろう
?」
 自分の機体の襲撃されたことに、シロノ達は驚きを隠せなかった。
 加えてナンバーズ・マフィアの存在…………、その噂は二人も聞いた覚えがある。



 それは銀河捜査局と同じく、宇宙の広範囲で暗躍する犯罪組織の一つである。盗み、裏取引、暗殺、破壊工作など、報酬次第ではどんな仕事をこなし、この組織による事件は、現に幾つも存在している。
 そして……組織がナンバーズ・マフィアと呼ばれる所以、それは組織の構成員には名前と記憶は無く、ただ番号としての存在として、活動している。
 これまでにも、マフィアの組員や幹部を逮捕に追い込んだ事は数多い。しかし…………。
「襲撃犯は全員逮捕した。だが例によって彼らが組織にいた頃の記憶は、薬物で全て消しており、何も情報も得られないままだ。持ち物を調べた所で……知れる事は少ないからな。いつも通り、かつてナンバーズ・マフィアの構成員だったと分かる程度だ」
 若干うんざりした様子で、ヘンリックは溜息をついた。
「しかし、どうして私の機体が?」
 シロノは彼に尋ねた。
「二週間後に開催されるG3レース、その有力な選手である貴方を先に潰す為に、おそらく何者かがマフィアを雇ったのだな。そして……」
 更にヘンリックは続ける。
「襲撃を受けたのは、恐らく貴方だけではないだろう。最近もG3レースの出場者を襲う、不審な事故が多発している。練習中の機体トラブルに、選手の事故…………最近ではローヴィスで起こった爆発事故だ」
「レースの出場者を――狙っているのか」
 シロノは彼の言った言葉を、確かめるように呟く。
「――その通り。それに、この事は君たちのスポンサーも予想していたらしい。ふふっ、まさかあのスリースター・インダストリーの会長、クラウディオ・メナードが直々に私へ、君達と機体の護衛を私に依頼して来るとは……」
「彼が私たちと、ホワイトムーンを?」
「ああ、だからこそ、マフィアの破壊工作を未然に防げたのだ」



 そんな会話の中、アインは一つの事を尋ねた。
「あの、ヘンリックさん、一ついいですか?」
「何かな?」
「一連の襲撃、それを起こしたマフィアを雇った存在の目的は、G3レースの出場者を潰すため、そう言いましたね」
「それが、どうした?」
「以前、僕はクラウディオさんから聞きました。G3レースの出場選手『ジンジャーブレッド』のスポンサーであるゲルベルト重工…………それが怪しいと。ヘンリックさんは、どう考えていますか?」
 これを聞いたヘンリックは、腕を組んで考え込む。
「私も、それには同意見だ。あの企業の今までの行為、その様相を考えると……グレーと言ったところか。
 ――だが、襲撃の目的を考えると疑問が多い。何しろジンジャーブレッドは長年のブランクがあると言え、現役不敗を誇った伝説のレーサー。彼を優勝させる事が目的なら、果たして小細工をする必要はあるだろうか? 理由があるならば――他の目的があるはず。それにはっきりとした証拠も、未だない状況だ。ナンバーズ・マフィアは仕事こそ二流程だが、組織の体質上、証拠や情報の隠蔽は我々より上手だからな。しかし現時点で一番黒幕の可能性があるのは、あのゲルベルト重工、今でも捜査局は隠密に張り込みを続けているが、それでも何か得られるかどうか……」
「そう……ですか」
 僅かに不安を覚えながら、アインは呟く。
「しかし悪い知らせだけではない。もし黒幕をゲルベルト重工と仮定するなら、今後襲撃を起こすことはないだろう。何しろこれ以上選手狙いの工作行為をすれば、事故とG3レースとの関与も、強く疑われかねないからな」
 これでようやく話すべき事を話し終えたらしく、ヘンリックは一息つく。
 そして二人に笑みを見せて、こう言った。
「ここまで、長話に付き合わせて申し訳ない。では、一旦休憩を入れようか。大体の内容は全て話し終えた訳だが、細かい話はまだ残っている。さて……飲み物は何がいい? コーヒーか? ミルクか? それとも、紅茶かな?」
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

処理中です...