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第三章 新たな強敵(ライバル)達
銀河捜査局
しおりを挟むシロノ達二人が向かった場所、それは惑星ギャザーロードの軌道上にある宇宙ステーション。そう、シロノの機体であるホワイトムーンを停泊させた場所である。
ステーション内の指定された小部屋に入ると、彼らを待っていたのは、灰色の制服を着た痩身の男だった。
その顔付きは鷹のような猛禽類に近い顔つきをしており、職務に忠実、そして有能な仕事人間である印象を感じる。
男はシロノ達に自己紹介をした。
「急な呼び出し、申し訳ない。私は銀河捜査局捜査長官、ヘンリックだ」
シロノとアインも、ヘンリックに挨拶をする。
「初めましてヘンリックさん。急用だと聞いたので駆け付けたのですが、一体何が?」
小部屋の窓には他の宇宙船とともに、宇宙ステーションのドッキングアームに接舷され、停泊しているホワイトムーンの姿が見える。
ヘンリックは窓にうつるホワイトムーンを横目に眺め、こう答える。
「実は、貴方の宇宙船に、つい先ほどナンバーズ・マフィアが襲撃に入ったのだ。その名前と噂は――少しは聞いたことはあるだろう
?」
自分の機体の襲撃されたことに、シロノ達は驚きを隠せなかった。
加えてナンバーズ・マフィアの存在…………、その噂は二人も聞いた覚えがある。
それは銀河捜査局と同じく、宇宙の広範囲で暗躍する犯罪組織の一つである。盗み、裏取引、暗殺、破壊工作など、報酬次第ではどんな仕事をこなし、この組織による事件は、現に幾つも存在している。
そして……組織がナンバーズ・マフィアと呼ばれる所以、それは組織の構成員には名前と記憶は無く、ただ番号としての存在として、活動している。
これまでにも、マフィアの組員や幹部を逮捕に追い込んだ事は数多い。しかし…………。
「襲撃犯は全員逮捕した。だが例によって彼らが組織にいた頃の記憶は、薬物で全て消しており、何も情報も得られないままだ。持ち物を調べた所で……知れる事は少ないからな。いつも通り、かつてナンバーズ・マフィアの構成員だったと分かる程度だ」
若干うんざりした様子で、ヘンリックは溜息をついた。
「しかし、どうして私の機体が?」
シロノは彼に尋ねた。
「二週間後に開催されるG3レース、その有力な選手である貴方を先に潰す為に、おそらく何者かがマフィアを雇ったのだな。そして……」
更にヘンリックは続ける。
「襲撃を受けたのは、恐らく貴方だけではないだろう。最近もG3レースの出場者を襲う、不審な事故が多発している。練習中の機体トラブルに、選手の事故…………最近ではローヴィスで起こった爆発事故だ」
「レースの出場者を――狙っているのか」
シロノは彼の言った言葉を、確かめるように呟く。
「――その通り。それに、この事は君たちのスポンサーも予想していたらしい。ふふっ、まさかあのスリースター・インダストリーの会長、クラウディオ・メナードが直々に私へ、君達と機体の護衛を私に依頼して来るとは……」
「彼が私たちと、ホワイトムーンを?」
「ああ、だからこそ、マフィアの破壊工作を未然に防げたのだ」
そんな会話の中、アインは一つの事を尋ねた。
「あの、ヘンリックさん、一ついいですか?」
「何かな?」
「一連の襲撃、それを起こしたマフィアを雇った存在の目的は、G3レースの出場者を潰すため、そう言いましたね」
「それが、どうした?」
「以前、僕はクラウディオさんから聞きました。G3レースの出場選手『ジンジャーブレッド』のスポンサーであるゲルベルト重工…………それが怪しいと。ヘンリックさんは、どう考えていますか?」
これを聞いたヘンリックは、腕を組んで考え込む。
「私も、それには同意見だ。あの企業の今までの行為、その様相を考えると……グレーと言ったところか。
――だが、襲撃の目的を考えると疑問が多い。何しろジンジャーブレッドは長年のブランクがあると言え、現役不敗を誇った伝説のレーサー。彼を優勝させる事が目的なら、果たして小細工をする必要はあるだろうか? 理由があるならば――他の目的があるはず。それにはっきりとした証拠も、未だない状況だ。ナンバーズ・マフィアは仕事こそ二流程だが、組織の体質上、証拠や情報の隠蔽は我々より上手だからな。しかし現時点で一番黒幕の可能性があるのは、あのゲルベルト重工、今でも捜査局は隠密に張り込みを続けているが、それでも何か得られるかどうか……」
「そう……ですか」
僅かに不安を覚えながら、アインは呟く。
「しかし悪い知らせだけではない。もし黒幕をゲルベルト重工と仮定するなら、今後襲撃を起こすことはないだろう。何しろこれ以上選手狙いの工作行為をすれば、事故とG3レースとの関与も、強く疑われかねないからな」
これでようやく話すべき事を話し終えたらしく、ヘンリックは一息つく。
そして二人に笑みを見せて、こう言った。
「ここまで、長話に付き合わせて申し訳ない。では、一旦休憩を入れようか。大体の内容は全て話し終えた訳だが、細かい話はまだ残っている。さて……飲み物は何がいい? コーヒーか? ミルクか? それとも、紅茶かな?」
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