テイルウィンド

双子烏丸

文字の大きさ
139 / 204
第十章 Grand Galaxy Grand prix [Action!〕

アインの推察

しおりを挟む
 ――――
 レースの前半戦は、かなり進行していた。
 多くの観客を乗せた大型宇宙船は、レースのコースとは異なるルートで、惑星エメラルドへと航行している最中だった。


 その宇宙船の一つ、ブルーホエールの通路にて。
 アインは定食屋でミオ、そして謎の美女と別れた後一人、元居た場所に戻る所だった。
 先ほどからヘンリック率いる銀河捜査局のエージェントとともに、アイン達スリースター・インダストリーの技術者も、調査協力している最中である。ずいぶん席を外したこともあり……急いで戻りたい所だった。
 ――今の所、まだ何も分かっていませんから。……やっぱり、情報が不足しています――
 ゲルベルト重工がレースで行おうとしている事。それを知れているものの、やはり決定的な決め手が不足していた。



 今回の観客も、虱潰しに当たったりもした。
 特にゲルベルト重工の船舶、クイーンギャラクシーに乗る乗客に関して。
 どの船にも、客層は様々だ。特にクイーンギャラクシーは一級の豪華客船であるだけあり、金持ち、資本家などの富裕層が多い。
 ……また、その船には他に、きな臭い人物が何人もいた。
 身分を隠してはいるものの、犯罪組織、宇宙海賊のボスや幹部、独裁惑星国家の軍部高官、そしていくつかの軍事企業の役員、社長が乗っていた。
 だが、それらの関係は今に始まったものではなく、これまでにもゲルベルトの近辺には見受けられる。


 また、ゲルベルト重工の開発した、ブラッククラッカーと、そのパイロット・ジンジャーブレッドにも調査を入れた。
 表向きは、ブラッククラッカーはかつてのジンジャーブレッドの愛機、クッキーを改良した高性能最新鋭機だ。かつて前機に搭載された人機一体型操縦システムも、更に発展させて精度も増している。
 それだけでさえも、通常の小型機の性能よりも遥かに高い。
 ……が、それだけでなく、他にも謎な点がいくつかあった。
 親善試合の最後で見せた、あの超加速。その機構に関してもはっきりとした内容は、不明なままだ。
 加速については機体の量子化の確認がなされており、ワープ機構のそれに近いものを感じさせる。
 これは機体のブラックボックスとして扱われ、この加速システムらしいものも、そして恐らく……他にもまだ機構が入ってそうだ。
 

 そして――ジンジャーブレッドに対しても、怪しい所があった。
 彼は三十年前から二十七年の間で活躍した、超一流のレーサーである事は、知っていた。
 だが……そもそも引退してから、そして今こうして復帰して再び、ゲルベルト重工をバックにつけて復帰するまでの間の、空白の二十七年間――その間の記録が、全く見当たらなかった。
 恐らく何者か――これもゲルベルト重工の可能性が高い――により、記録を意図的に削除されたのだろう。この情報こそが、一番の手がかりになるはずだ。
 だが、どの情報が削除されたか――、可能性として考えられる件数はかなり多い。一体、何処の記録を削除されたのか、それを探るのには……時間がかかる、との事らしい。

 つまり結局の所……殆ど何も、分かってはいないのだ。
 


 アインがこれまでの調査を振り返っていた間に、いつの間にか目的の部屋にたどり着いた。
「……只今、戻りました」
 部屋では、相変わらずの調査作業に打ち込む、捜査局の人間と、スリースター・インダストリーの職員。コンピューターと向かい合う座席は、いくつか空いている。
「ようやく戻ったか、アイン。今はうちのエージェントの何人かが、休憩をとっている。入れ違いとは有り難いな」
 座席の一つには、銀河捜査局のヘンリックが座り、自ら指揮を執っていた。
 アインは自分の席に座り、調査を再開する。
「そうだアイン、君がいない間……少し進展した展開があったのだ。情報は、できる限り共有しなければ、ならないからな」


「情報……ですって?」
 ヘンリックは、うなづく。
「……ああ。ただ、ゲルベルト関連には、直接関係しないものだがね。
 内容は、この件に関わりを見せている疑惑の強い、フォード・パイレーツについてだ」
 宇宙海賊――フォード・パイレーツ。それについても今回の、調査対象に入っていた。
 悪徳企業、犯罪組織をターゲットとした略奪、破壊行為を行う一方、民間を相手には基本手を出さないどころか、戦争などの社会混乱に介入してそれを鎮静化させ、貧困地域の支援の手を差し伸べるなどの慈善活動を行う、変わった海賊――この場合は義賊とも言えるだろうか――集団である。
 

 そう、悪徳企業を相手取る海賊集団、フォード・パイレーツだ。そしてこの事件に関わるのは、フォード・パイレーツのターゲットとなり得る悪徳企業、ゲルベルト重工。介入する可能性は十分にあった。
「彼らについても、調査対象でしたね。最も……ゲルベルト重工とは敵対している、みたいですけれど。
 この件については関わりがあるそうですが、肝心の目的については、やはり不明でしたね」
 アインの問いに、ヘンリックは答える。
「そうだ、目的は相変わらず不明なままだが……フォード・パイレーツは今回のG3レースへの関与について、新たな展開があった。先ほど、トライジュエル星系周辺の宙域に、旗艦であるラグナシアの姿が現れた。……と言う事は、恐らくレースへの関与は確実な事だろう。これが――その映像だ」
 するとアインのモニターに、彼に言われた映像が送られて来た。
 

 それはエメラルド付近の宇宙空間。
 レースのコースからも幾らか距離の離れた小惑星群の中、そこは小惑星群においても、大規模の小惑星がとりわけ多い宙域である。
 そんな小惑星の陰に隠れ、僅かに大型宇宙艦艇の姿が見えた。
 ダークブルーの船体を鈍く光らせ、さながらシャチのような優美な姿が、小惑星の間に泳ぐ。
「これが、フォード・パイレーツの、ラグナシアですね。しかし、聞いた話だとかなり有能だと聞いていましたが、こうして姿を見せるような真似など、するでしょうか?」
 ……しかし、この質問にヘンリックは、苦々しい顔を見せた。
「……痛い所をつくではないか。これも……奴らの狙いさ、あえて注目させて注意を惹くつもりなのだろう。我々を、甘く見おってからに」
 恐らく、何度か経験があったのだろう。そう話している彼には、苛立ちが表に出ている。
「だが――あんな行動を起こす、と言うことは、この後も必ず動きは出てくるはずだ。それも、大きな動きがな。
 フォード・パイレーツの首領であるカイル・フォード……、一体何を考えている」
 海賊のトップに位置する、カイル・フォードと呼ばれる謎の人物。ヘンリックもその正体を掴めていないが、あのフォード・パイレーツを率いるほどの人物だ。恐らく……並大抵の人間ではないだろう。




 そして、ヘンリックは続ける。
「それにもう一つ……、我々はそれに関する新たな情報も、手に入れることが出来た。
 情報によれば、どうやらフォード・パイレーツの他に、別の宇宙海賊もいるとの事だ。
 最も、海賊船で乗り込むと言うわけではなく、少数の海賊が会場に忍び込んでいるらしいがな」
 ここに来て、新たな組織の登場……。これにはアインも意外だった。
「別の海賊ですか。恐らくは……フォード・パイレーツの同盟者、ですね」
 ヘンリックは同意する。
「……ふむ。実はこの情報に関しては、つい先ほど、匿名で送られたものだ。その為信ぴょう性は薄いが、もし本当ならば……その可能性が高いだろうな」
 と、同時に、難しい様子を見せた。
「本当に――情報は増えたとは言え、それが本当に手掛かりか……それとも、我々を混乱に貶める罠か……実に難しい問題と言えるな」

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

処理中です...