テイルウィンド

双子烏丸

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第十章 Grand Galaxy Grand prix [Action!〕

それぞれへの想い

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                                ――――
 G3レース、前半戦の最後の舞台となるのが……この惑星エメラルドである。
 一番先に出発した団体――第一陣のレーサーは、すでにこの星に到達し、レースを繰り広げていた。
 そして……それに交じって、フウマのテイルウィンドも飛ぶ。
 ――ようやくここまで来たって感じ。……まだ相手は残っているけど、今の僕なら――
 テイルウィンドは第一陣のレース機体を、次々に相手にしては、それを打ち破る。
 最も、この場にいるのは何も第一陣ばかりでなく、腕の良い第二陣、第三陣のレーサー達の機体も、この場に到達し、フウマに立ちはだかる。


 そして、第四陣のレーサーも一人、彼の近くを飛行していた。
 加えてそのレーサーとも、見知らぬ間柄でもない。今、相手からの通信を、フウマは受け取っている。
「……そっちの方が先に、ここまで来ていたんだね。人の事を言うくせして、自分だってやるじゃないかよ……ジョン!」
 テイルウィンドの少し先には、ブルーの機体色を輝かせたスワローの姿がある。
〈僕の場合は、ちょっと運が良かっただけだよ。むしろ……前半戦だけでここまで上位に上がって来た、フウマ、君の方こそ才能があるさ。
 やはり……僕の目に狂いはなかったって所か〉
「いつもそう言ってくれるのは嬉しいけど、何だか、会うたびにそんな感じだと、少しこそばゆいかな」


 少し苦笑いするフウマに、ジョンは首を横に振る。
〈まぁそう言わないでさ、僕、人を見る目には自信あるんだから。
 だから、さ……やっぱり、君が僕の仲間になってくれたら……とても光栄だな〉
「言っているだろ? 面白そうな申し出だけど、今は後回しだって」
〈……そう、だったね。なら今はこの際だ! 君の実力を、たっぷり僕に見せておくれよ!〉
 どうやら向こうも本気のようだ。
 ジョン・コバルトとその機体、スワロー、その実力そして、フウマの成長の成長の程は、果たして……。

 

 ――――
 惑星エメラルドの、鬱蒼としたジャングルに覆われた、緑色の大地。
 この地域はまだ平坦なジャングルが広がるのみで、それに今はまだ、大気も安定している。
 しかし……この星の気候は、非常に変化しやすいとの事だ。現在は良いが、この先どうなるかは、分からない。
 そんな中で、エメラルドの空では――いくつものレース機が飛ぶ。  


 G3レースは数多くのレーサーと機体が参加する、一大レースだ。あまりに多いために、一度に全機出発が不可能なほどに。
 よって、これまでのレースに対する成績を元に、第一陣から第二陣、第三陣、そして第四陣とグループを分けて別々にスタートさせると言う、一定のハンデも兼ねた方法をとった。



 そんな中、第一陣はもちろん、ここまでリードを伸ばした第二陣、第三陣の中でも特に優秀なレーサーでさえ、フウマには敵わない。 
 第四陣に選抜されたフウマ、そしてテイルウィンド……。もちろん両者の間に、実力の差がある事も要因だが――フウマ自身の成長も大きかった。
 それは彼自らも気づきつつあり、これまでの思いさえも……変化を見せていた。               
 ――シロノ……。これまではただの負けず嫌いで対抗することばかりだったけど……本当は僕よりも、ずっと凄くて恰好良いレーサーだって、ようやく気が付いたんだ。だから今は――そんなシロノに少しでも、追いつきたいんだ!――
 そして同じく第四陣に選抜される程の実力を持つとされる、ジョンとその機体スワローさえも、徐々に……そして確実に、距離を縮め、すぐ傍にまで接近する。


〈……ふっ! やっぱりすごいよ、フウマは! 君のその腕と……そして、レースに賭ける強い意志、それが僕に伝わって来るよ!〉
 レースで対決を繰り広げる、スワローとテイルウィンド。
 フウマの巧みな記述により、すぐに機体はスワローの真横を取った。
 しかし、スワローもそう簡単には先を譲らない。
 両者は拮抗し、互角に近い性能と能力を引き出し、対決する。
「……正直言うとさ、自分でも幾らか……上手くなった気もするんだ。何しろG3レースだから、張り切っているからかな?」
 競い合いながらも、二人は会話する。
 モニター越しのジョンは、朗らかな笑みを見せた。
〈かもしれないけど、それでも着実に、腕を上げているはずさ〉
 彼はその成長を、高く評価した。
 それ程までにジョンは……フウマを認めていたのだった。



 彼は、こうも続ける
〈まだまだ、君はもっと成長するはずさ。……頑張ってあげないといけない、大切な人だって――いるわけだからね〉
 そんなジョンの言葉に、フウマは頷く。
「うん。とても……とても大好きな、ちょっと恥ずかしいけど、愛してる女の子がいるんだ」
 フウマの意識にあったのは、よく彼に優しい笑顔を見せる大切な人……ミオの姿だった。
 ――ミオ、昔から僕と一緒にいてくれたよね。これまでは幼馴染だったけど、これからは……それよりもずっと、大切な人なんだ!
 このレースの勝利は、彼女の為にも……だから――
「だからこそ……僕は、全身全霊で行くんだ!」
 そして、フウマはその拮抗を打ち破り――ジョンのスワローを抜いた。
〈素晴らしいね、やっぱり君は。――ますます、気に入ったよ〉
 テイルウィンドに先を越されても、満足そうなジョン。
 彼とその機体を置いて、テイルウィンドは先を行った。


 ここまで来ると、もう他の機体は一、二機程度……。
 フウマは現在順位を確認すると――何と、すでにトップ九位に入っていた。
 それに先頭を飛行する、ジンジャーブレッドの乗機、ブラッククラッカー。距離はまだ遠いが、それでも頑張れば前半戦の内に、到達可能な距離であった。
 そう……フウマにとっては、ジンジャーブレッドの存在も大きい。

 
 かつて数十年前、誰にも敗北を許さなかった伝説のレーサー、ジンジャーブレッド。
 数多くのレーサーの憧れであり、そして、最大の壁となる……そんな人物だ。
 ――そして、ジンジャーブレッド。あの伝説となったレーサーにも、僕はもう、ここまで手が伸びているんだ。……あと少し、あと少し頑張れば……もっと僕は、成長出来る気がするんだ。
 今の僕が敵うかどうか分からないけど、それでも――
 先程は、穏やかなだった天候――。しかし、その空は灰色の雲に覆われ暗くなって行き、雨もポツポツと降り始めている。
 安定し、あまりなかった気流も乱れが生じていた。さっきまでそんな兆候がなかった分、あまりに急な変化の始まりだった。
 ……恐らく、この先も更に、天候は荒くなって行くだろう。
 それはまるで――これからの激戦を、予感させるように思えた。
 
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