テイルウィンド

双子烏丸

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第十一章 束の間の安寧と、そして――

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 二人は前に出るように促され、ブラッククラッカーの前に進み出る。
「……キャプテン、招かれざる客が二名、訪れたみたいです」
 フウマ、そしてマリンの前には、一人の大柄な覆面男性と、ブラッククラッカーの上には同じく覆面をつけた女性、そして――その隣には、一人の少年が立っていた。
「ほう、みんなさっきの騒ぎで、シェルターにいるかと思ったけど……これは意外さ」
 少年――いや、レーサーであったはずの、ジョン・コバルトは、下の二人を見下ろして微笑む。



 一方、下におりフウマ達の前に立っている、大柄の男性はこう指示を出す。
「さて、部外者がここにいるのは、面倒だ。悪いが君たち二人には、しばらく眠っていてもらう」
 それを合図に背後の覆面男達は、光線銃を構える。
「止めろ! ディアス!」
 ……が、ジョンは鋭い声で、それを阻止した。
「キャプテン、しかし……」
 抗議しようとする男性――ディアスだが、彼はその言葉に聞く耳を持たない。
「そこのフウマは僕の友人で、気に入っているんだ。ついでにマリンにも、無礼な真似は許さないよ。
 そっちの二人も、いつまで銃を向けてるのさ、僕まで嫌われちちゃうだろ?」
 ジョンの指示で、マリン、フウマの背後の二人は、銃を下した。
 すると、今度は彼は、フウマへと視線を投げかける。
 そして親しげに、にこっと笑顔を見せた。
「やぁ、フウマ。まさかこんな所で出会うなんてね、正直僕も、驚きだよ」
 その様子は、まさにこれまで見せたジョンの様子、そのものだった。


 ――しかし、今の異様な状況では、それはあまりにも不自然。
 それはフウマにさえ、嫌でも分かり、緊張が背中を走る。
 ……だが、そんな時!
「動かないで!」
 背後の二人が銃を下したことで、形勢が有利になったと感じたマリン。彼女は懐から、自身の光線銃を素早く抜き、上に立っているジョンに向ける。


「……マリン!?」
 フウマはその突然の行動に驚く。
「さてと、ジョン……あなたが連中のリーダーって言うことね。
 あなたたちも、リーダーの無事を願うなら、大人しくしてなさいよ! これ以上の狼藉は、私が許さないんだから!」
 これは先ほど、ミーシャがサイクロプスにやった手と、まさに同じ。
 ――だが、あの時とは異なり、周囲の覆面達も、そして銃を向けられたジョンも、全く驚きも動揺も示さず、余裕を見せている。 
 ――やっぱり私じゃ、お母さんのようには、行かないってこと!?――
 今度は逆に、マリンの方が動揺し出す。いつもは強気で、豪胆な彼女とは、思えない弱気さだった。

 
 
 するとジョンは、そんな彼女に薄く微笑んだまま、ゆっくり前へと歩み出る。
「だから! 動かないでって言ってるでしょ!」
 思ったように進まないことに、やや混乱気味のマリンとは対称的に、依然落ち着きを見せるジョン。
「まぁ、落着きなよ。別に取って食おうって、わけじゃないんだし」
「……いいから、しずかにしていなさい! でないと……」
 マリンは銃の引き金に、力を入れようとする。しかし――。
「その銃、低出力に抑えてあるでしょ? 仮に撃たれてもショックで気絶する程度……殺傷能力のない武器で、脅したって無駄さ」
 気にもとめる様子もないジョンに、彼女は攻撃的な笑みを見せた。
「私を、甘く見てるって訳? 言っておくけど私、犯罪者に容赦する趣味はないのよ!」
「でも、だからと言って、君は誰かを傷つけられる人ではないはずさ。……何なら、試しに撃ってみるといい」
 そこまで言われ、唇を噛み、強い怒りを見せるマリン。
「よくも言ったわね、その挑発、後悔させて――」


 しかし、彼女が言葉を続ける前に、強いショックが全身を走った。
「……えっ。……う、うそっ……」
 手足の感覚もなく、マリンの意識は、急速に深い闇の中へと落ちて行った――。



 意識を失い、倒れるマリンを、背後の覆面男が受け止める。
 ジョンの手元には、いつの間にか小型の交戦銃が握られていた。
「ふっ、早撃ちだって得意なのさ。それに、感情的になのはいけないな、感情にばかり集中しているから……」
 と、今度は改めて、フウマの方へと目を移す。
「どう言うつもりだよ……ジョン」
 先ほどから急な展開が続き、フウマもまた、混乱していた。
「彼女なら、ただ気絶させた程度。しばらくしたら、目覚めるはずだから、安心していい」
 相変わらずな様子のジョンに、フウマは再び問いかける。
「ただのレーサーじゃ、ないな。ジョン、君は一体、何者なんだ!?」
 ジョンは少し考える表情を見せる。
「ふむ。普通なら、正体なんて明しはしないけど……フウマは僕のお気に入りだからね。特別に教えてあげる」
 そして、彼の問いかけに……こう口を開く。

「レーサーのジョン・コバルトは、仮の姿。
 僕は――カイル・フォード。宇宙海賊フォード・パイレーツのキャプテンさ」



 ジョン――いや、カイルの言葉に、フウマは固まる。
「フォード・パイレーツの……キャプテン」
「ふっ、驚くのも無理はないか、何しろ僕は――」
 格好よく正体を現し、得意げな様子のカイル。
 だが、しかし。
「……でも、フォード・パイレーツって、何なのさ?」
 これには彼も、さすがに予想外。
 カイルは思わず、ずっこけてしまった。
「いや待ってよ、これでも結構、噂になっているんだよ? まさか、本当に知らない?」
「ごめん。僕の住んでいる所は田舎だから、そうした噂とか疎いんだ。宇宙海賊って言っても、以前にも会ったサイクロプスさんくらいしか、よく知らないし……」
 思わずフウマは、申し訳なさそうになる。そして頭を抱え、項垂れるカイル。
 すると、そこに――



「フォード・パイレーツ……、善人や一般人には一切手を出さず、悪徳企業や犯罪組織を標的とする、宇宙海賊。
 高性能海賊船ラグナシアで宇宙各地を駆け巡り、海賊行為ならず貧しき星を救い、内戦や戦争までも収める……勇敢な義賊でもあるのさ」
 突然、どこからか聞こえる、誰かの声。
 二人の覆面男たちは、周囲を捜索する。……が。
「ぐわっ!」
 その内一人が、突然声を上げて倒れた。
 とっさに一人が、銃を構えて臨戦態勢を取る。
「……くっ、一体どこに」
 辺りを見回し、姿を探る男。すると、何かの人影が、ちらりと見えた。
「そこだ!」
 男は銃口を向け、引き金を――。
 だがその前に、銃身の先は何者かに掴まれ、動きを封じられる。
 と、同時に男の腹部に、強烈なジャブが、深々とめり込んだ。
「……うっ、げはっ!」
 たった一撃で、この男もノックアウトだ。
 そして何者かは、先ほど中断した、話を続ける。
「――そして、銀河捜査局からは第S級と認定される程の脅威とされ、重要な捜査対象となっている。
 今君の目の前にいるのは、フォード・パイレーツのキャプテン……。それこそがジョン・コバルトと名乗っていた、奴――カイル・フォードってことだ」
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