テイルウィンド

双子烏丸

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第十二章 Grand Galaxy Grand prix [Restart〕

あの時の、レース

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 ――――
 フウマ、ジンジャーブレッドがそんな様子である間――。
 幾らか後方では、シロノのホワイトムーンが砂漠上空を飛行している。
 ――やはり……どうしようもありませんね――
 いまだにその気持ちは、中途半端なシロノ。
 完全にレースを放棄する気にもなれず。かといって本気でレースをする事も出来ないまま、本当にただ……飛んでいるだけであった。
 ――自分らしくないとは、分かっているのですがね。けど、どうしようも――



 ……すると、再び一機、高加速でレース機が迫る。
 シロノはそれに気づくも、もはやこれ以上相手にする気力もない。
 放っておこうと、考えていたが……


 機体は後方から一気にホワイトムーンに迫り、そのまま追い越そうと……するのではなく、ぴたりとその横へと並んだ。
 並んで飛行する、二機のレース機。
 互いに競うこともなく、まるでレースの最中とは思えない様子でもある。
 シロノはその機体を横目に、ふとこう考えた。
 ――これはどう言うつもりでしょうか……マリン――



 そう、横に並んでいるのはマリンの機体、クリムゾンフレイムであった。
 すると通信も、向こうから送られて来る。
 先ほどはリッキーの通信を、拒絶していたシロノ。
 しかし――
 ――あの時もマリンは、私の事を思ってくれましたものね。……私の甘えかもしれませんが、もう一度話せたら――
 気弱になっていたシロノ、彼女の明るい様子に励まされたいと、そうも思ったのか……通信を許可した。



〈ヤッホー、シロノ!〉
 ハキハキとした天真爛漫な、マリンの表情と声……
「ははは……。やぁ、マリン」
 シロノもまた、挨拶を返す。
 だが、シロノの思い悩んだ様子に、マリンはすぐに気づいたようだった。
〈――シロノはまだ、悩んでいるみたいね。どう、今の調子は?〉 
 やはり彼女もまた、心配しているようだ。
 シロノは自嘲気味な表情で、こう答える。
「……ええ。せっかくマリンが、相談を聞いてくれたと言うのに……未だ、悩んでいる所です」
 やはりそう簡単には、行かないシロノ。
「レースを諦めることも、かと言って、全力すら出すこともできないまま……。
 ふふっ、やはり情けないですね。……すみません、せっかくの厚意をダメにしてしまって」
 レースの前に、マリンが親身になって話を聞いてくれたのに対し、それを無下にしたように思えた。
 それも彼には、申し訳がなかったのだろう。
 


 ……だが、対するマリンは、少し呆れつつも微笑ましいように、笑いかける。
〈何かと思ったら、そんな事。……くすっ! やっぱりシロノは優しいのね!〉
「むぅ、そう言われると私も、恥ずかしいです」
 シロノは恥ずかしがるように、顔を赤くする。
〈でもシロノが気にすること、ないわ! だって私がシロノの事が大好きだから、何度だって力になりたいの。だから――〉
 そしてマリンは、こう続ける。
〈私も今回のG3レース……諦めることにするわ!〉



 相変わらず、横に並んで飛ぶ、二機。
 仲睦まじい様子にも見えるも、それシロノはもちろん、マリンもレースを諦めていることを示していた。
〈うーん! こうしていると、レースじゃなくて、クルージングみたいな感じね〉
 通信画面に映る、マリンの表情も、声も、完全にリラックスしてくつろいでいる様子だった。
 コックピットシートにもたれかかり、軽く伸びをする彼女。
「あの……マリン?」
 一応これでも、レースのさ中。思い悩む自分とはまた別に、レースを忘れて勝手をしているマリンに、シロノも困惑しているようだ。
〈本当にG3レース様々ね! 親善試合でも、そして本番でも、シロノとこうして並んで飛べるなんて。
 ……ほら見て。日食に照らされて、砂漠の砂がキラキラ輝いて綺麗ね〉
 マリンに促され、シロノが外の景色に視線を向けると……



 
 空は幾分、薄暗い。
 惑星ルビーを照らすトライジュエル星系の恒星を、第一惑星であるサファイアが覆っているためによる日食により、光が遮られているからだ。 
 しかし、恒星を覆い隠しているサファイアの周囲からこぼれるいくらかの輝きが、地上に広がる赤い砂の砂漠を、照らし出していた。
「……そう言えば、三惑星が惑星直列している状態で、レースをしているのでしたね」
 シロノも、つい景色を眺めていると、マリンはクスリと笑う。
〈親善試合の惑星ツインブルーでも空が綺麗だったけど、日食が照らす砂漠の景色、って言うのも神秘的でいいわね。
 レースばかりじゃなくて、こうして余裕がある時には、星の景色を楽しむって言うのもオツなものよ。
 シロノってば、少し真面目過ぎるから、もう少し余裕を持たないと〉
「むぅ……」
 確かに、シロノもまた星の様子を見たりもするが、マリンのように景色を楽しむと言うのは少なく、あくまでレースでどう地形を利用するか……と言うのが、殆どだった。
 


「……ですが、マリンの言う通り、ついレースばかりで、外の景色など殆ど意識していませんでしたね」
 だが、今のシロノはどこか落ち着いたような、そんな様子を見せる。
「たしかに綺麗――ですね。
 そうです、今まで私は……こうした場所をずっと飛んで
いたのだと、改めて思いました」
〈ほらね? 言われないとなかなか気づかないものでしょ〉
 ふふん、と、マリンは得意げに威張る。
 こんないつもの様子に、シロノはため息をつくも……何だか安心もした。
「……やっぱり、マリンと一緒にいると、私は……」



 そんな事を呟く彼に、マリンは優しく微笑むと……
〈なら決まりね! ここからはレースなんて忘れて、私とシロノ、二人でゆっくりしましょう!〉
 だが、そんな事を冗談なく言える彼女に、シロノは不思議に思った。
「……でも、本当にいいのですか? せっかくの大きなレースを、私のせいでそんなに簡単に。
 それに、今の私だったら、楽にレースで……」
 彼は半分、申し訳ないようにそう言ったつもりだった。
 が……マリンは、それに心底おかしそうな様子になる。
〈ぷぷっ! シロノってば、おかしな事を言うわね。だって――〉
 すると彼女は、こんな言葉を続けた。
〈――だって、これが私ですもの! 
 レースもだけど、恋愛だって全力じゃないと。だから……いくら大きいレースだったとしても、こんな風なシロノを置いて勝つなんて、私はイヤなの!〉


「マリン……あなたは」
 シロノはマリンの言葉に、はっとなる。
 ――これが私……ですか。なら自分は――
〈ん? 私ってば、何か変なことを言ったかしら〉
 どうやらマリンは気づいていない様子だったが、シロノはその言葉でようやく、頭のもやもやが晴れた気がした。
「ふふっ……何でもありませんよ」
 そして操縦桿を握り、こう言った。
「やはり私は……白の貴公子と評されるレーサー、シロノ・ルーナです。
 今は分からないことだらけでも、せめて自分がそうである事は信じて、私は進まなければ。
 だから――レースで情けない真似は、出来ません!」
 


 ――――
 
 そう自分に言い聞かせるように言うと、彼のホワイトムーンはフルスピードで飛び立った。
 これには、一気においていかれるクリムゾンフレイム。
 ――あーあ、行っちゃった。ようやくいい顔になったわね、さすがシロノ――
 まるで自分のことみたいに、マリンは嬉しそうにほほ笑む。


 ……が。
 ――って、いけない! だったら私もしっかりやらないと――
 つい彼女がレースを忘れてしまい、慌てて再スタートを切る。
 ――これでシロノと二人で、ゆっくりクルージングはお預けね。
 ……でも、やっぱりこれで良かったのかも――
 ちょっと名残惜しい気持ちはあるものの、マリンもマリンで、また頑張りを見せる。
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